全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会 子どもきょうだい支援担当
増田京子(ますだきょうこ)
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会は、2023年に60周年を迎えました。『ひとりだけで苦しむのはよそう。ひとりだけでボソボソ言うのはよそう。なぜならそれは皆の苦しみだから。“生きていて本当によかった”ときょうだいと障害者がともにいえる社会を創ろう』というスローガンを掲げ、東京で数名のきょうだいが集まり、新聞で呼びかけたことをきっかけとして1963年に発足しました。まだまだ障害者の人権や家族のサポートなど、社会的な法整備も整えられず、「きょうだい」という存在すら知られていない時代です。その活動が60年も続いているということは、一会員としてもすごいことだと感じます。そして、きょうだい会がなくならないということは、時代が変わっても、きょうだいの抱える思いは変わらないことでもあると思います。
全国きょうだいの会の活動についてご紹介します。現在、全国に約200名の正会員と賛助会員、機関誌購読者がいます。それぞれの地域で、定期的な例会が開かれ、会員同士の交流が行われています。コロナ禍で一時活動が中断せざるを得ない状況もありましたが、オンラインを活用して、より身近に交流を行えるようになったことは新しい取り組みでした。“家族”といっても家族構成や居住地、年齢などそれぞれ異なります。10人集まれば、10通りの家族の形があります。同じように、一言で“きょうだい”といっても、その一人ひとりの経験してきたことや思いは異なるのです。しかし、「同じ境遇の仲間がいる」そう思えるだけで心が救われることがあるのも事実です。
例会では、自分の思いや体験、今の困り事や将来の不安について自由に語り合います。話したいことは話せばいいし、話したくないことは話さなくてよいというルールがあります。初めて自分の思いをことばにできたというきょうだいもいます。「そうそう」と共感できる仲間の存在に気づきます。一回の例会で気持ちがすっと晴れていくのを感じることもあれば、何も変わらなかったということもあります。それでも「ひとりだけではない」と感じられることが、これまでの自分とこれからの自分に大きな影響を与えてくれると思います。
きょうだい会の活動の目的の一つに社会への啓蒙的な活動があります。当会では、2019年にきょうだいについて会員・関係者を対象にアンケート調査を行いました(回答数165)。子どもの頃から現在までどのような課題に直面し、将来への不安を抱えているのかを明確にすること、そして、親の会、障害者関係団体や行政を含めた社会に対して、現実を提示して改善策を考えるための要望をしていくことを目的に行いました。その結果の一部をきょうだいの思いとしてご紹介します。
○つらかったこと:他の家族やきょうだいと違う、親があまりかまってくれない、きょうだいのことを友達に話せない、親の期待が大きすぎた、周囲の理解されない視線
○よかったこと:障害が理解できた、優しくなれた、社会問題に関心が持てた、よい人たちと知り合えた
○結婚にあたっての心配:相手の家族の理解、相手の理解、きょうだいの世話、遺伝
○親の望むこと:障害のある兄弟についての相談、障害のあるきょうだいの自立
○子どもの頃にあるとよかったこと:相談相手、子ども活動、障害についての学習
きょうだいの抱える問題は、大きく分けて3つあると思います。
一つ目は、カミングアウト。自分のことや家族のことを親しい人に伝えられない、相談することができないといいます。障害のあるきょうだいのことを伝えると、「かわいそう」「世話をしてえらい」と言われることがあります。きょうだいの立場からすると、かわいそうでもえらいことでもなく、日常なのです。周りからどう思われるかと考えると、「きょうだいがいないことにする」こともよく聞きます。
二つ目に進路・結婚・出産などの人生の選択です。子どもの頃は、家族と一緒にいることしか選択肢がない場合があります。しかし、進学、就職など自分で選択できる時期を迎えたきょうだいは、また悩むのです。一刻も早くこの家族から離れたいと思うきょうだい、自分が離れてしまったら両親やきょうだいはどうなってしまうのだろうと不安を抱えるきょうだい、両親の期待を一身に受けて期待に応えるために苦しむきょうだい。自由に選んでよい権利を与えられていても、常に家族やきょうだいのことが頭に残っているのかがきょうだいなのです。
三つ目は、親亡き後です。アンケートの回答の中に、親と障害のあるきょうだいが「共依存」関係にあり、周りからの意見を受け入れられないケースや障害のある子どもを受け入れられないケースなどの課題があげられました。親は、将来のことは心配いらない、自分の人生を生きなさいときょうだいに言います。しかし、いつ、親が障害のある我が子を見られなくなる日がくるか考えられない親も多いのです。その時は急にやってきます。慌てないように、両親や家族、障害のあるきょうだいを支援している関係機関と繋がっていくことが大事になります。
ヤングケアラーということばが、よく知られるようになりました。制度的な枠組みがつくられ始めていますが、現状ではなかなか運用されにくい状況もあるようです。なぜ、ヤングケアラーの支援が必要なのでしょう。それは、大人と違って、自分の人生の選択の多くをする時期に、誰からの縛りをも感じずに、自由に選択して、自己決定ができるように、そうしていいことを本人も周りも理解することが必要であるからだと考えます。
きょうだいは、子どもの頃からその生活が当たり前として受け止めています。だから故に、自分の思いは自分だけの問題と思って誰かに相談することはできなかったり、誰かに相談することで親や障害のあるきょうだいが困るのではないか、言ってはいけないのではないかと思ったりするのです。親や家族、周りが自由にしてよいと言っても、自分で制限したり、知らないうちにそれしかないと思ったりする子どもがいるのです。障害のある子どもも、きょうだいも子どもです。一人ひとり、かけがえのないその子の人生を「自分で選んで、自分で決めていい」そんなメッセージを小さい頃から伝えていくことが必要になると考えます。その願いを込めて子どもきょうだい支援を始めました。
当会では、東京都足立区にある児童発達支援センターの後援を受けて、2016年より子どもきょうだい支援を行っています。アンケートの結果にもありましたが、安心して自分の思いを話せる仲間の必要性、自分だけではないという体験を通じて互いに力づけ合うことは子どもの頃から必要です。
子どもきょうだい支援「ふうせんクラブ」は、春、夏、秋、クリスマス、冬の年5回開催しています。対象は、児童発達支援センターに通園または卒園した利用児のきょうだい(小・中学生)です。毎回10名前後の参加があります。子どもたち自身が所属意識を持ち、自己選択、自己決定のもとに参加してもらうために会員制です。お小遣いでまかなえる程度の会費を子どもたちから受け取っています。「自分で決めて参加する」という経験を子どもの時から行うことはとても大事なことです。
毎回、ゲームをしたり、制作をしたり、みんなで囲んで茶話会をします。茶話会では、「きょうだいのことすき?きらい?」「きょうだいとケンカしたことある?」「お休みの日は何をしているの?その時きょうだいはどうしているの?」など、いくつかのテーマを決めて話をしていきます。初めはなかなか馴染めない子どもも回を重ねるうちに素直にことばにすることができるようになっていきます。
また、学習会では、『きょうだいが「どうなってしまうのだろう」と心配になったことがあるか?』という問いかけに対し、仕事につけるだろうか、お母さんがいなくなったら一人で暮らせない、私が面倒を見なくちゃいけない? 見放すわけにもいかない、結婚したり、先に死んでしまったら一人になってしまう、社会に出た時に、人を叩いたりしないか、周りの人の助けがなくなったらどうなるのだろう、嫌がらせされたりしないのか、普通の人になれるのか、などの意見が出てきました。小・中学生でも、大人のきょうだいと同じ思いを漠然と持っているのです。
小学4年生:私はとても心の支えになりました。大きいおねえさんと友だちになれたし、うんどうもできてさいこうです。ふうせんクラブにもっと前から行きたかったです。こんなに笑える場所があってよかったです。安心できると感じます。これからもずっと行きたいです。
小学6年生:ふうせんクラブで遊ぶのは、たくさん友だちがいて話しかけてくれるのが嬉しいです。きょうだいのことも話せて、みんなのきょうだいのこともわかるので楽しいです。きょうだいは、心配なこともあるけれど、話せてとても嬉しいです。
中学3年生:同じ悩みを持っている人が多くて、自分だけではないんだと思えて安心できた。気分転換になってとても楽しい。
大切なことは、自分を大切にすること
それぞれの思いに寄り添っていくこと
互いに自立して、自分の人生を楽しむこと
障害があるきょうだいも、きょうだいも、それぞれが自立することが最も重要です。ライフステージによって、多少なりとそのバランスが崩れることもあります。その時に一人で抱え込むのではなく、信頼できる仲間や支援者と寄り添って、その時の最善を考えていくことが大切なのだと感じます。
【参考文献】
手をつなぐ 2023年3月No.805 全国手をつなぐ育成会連合会
きょうだいの進路・結婚・親亡きあと:50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます 藤木和子著 中央法規
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(略称:全国きょうだいの会)
事務局(〒136-0073)東京都江東区北砂1-15-8
地域生活支援センター内
電話/FAX 03-5634-8790 E-mail:jimu@kyoudaikai.com