一歩を踏み出して出会えたもの

「新ノーマライゼーション」2024年5月号

筑波技術大学保健科学部理学療法学専攻4年
廣田成美(ひろたなるみ)

中学2年生の時、私は急激な視力低下に直面しながら、地元の中学校に通っていました。できないことが増えることへのもどかしさ、「それでも甘えず努力すればできるようになるのだから」という自分への鞭、いろんな感情や考えが頭と心の中を巡っていました。幼少期から私はタフで鈍感な部分があり、どちらかというと打たれ強い方でしたが、視覚障害を抱えた当初は、内向的になっていたように思います。所属していた陸上部をやめ、放課後や土日に友達と遊びに行くことも少なくなりました。

そんな私が高校から盲学校に入学し、学校生活を送っていたある日、授業の終わり際に、体の大きい体育の先生が「なあ、フロアバレーボール部の見学に来ないか」と話しかけてきました。その時の私はフロアバレーを知らず、頭の中で「目悪いのにバレーとかできるのかな」「いや、でもそもそも球技は小さいころから苦手だしなあ」と考えていました。あまり気が進まないまま見学に向かうと、体育館からは飛び交う声とボールの音が聞こえてきました。想像していたものとは違い、「こんな迫力あるスポーツあるんだ」という衝撃を受けました。一目見た瞬間、このスポーツを本気でやってみたいという思いが生まれました。しかし案の定、球技が苦手な私は最初ボールを打つこともレシーブをとることもままならず、練習試合へ行ってもベンチに座ることがほとんどでした。レギュラー入りはできないまま挑んだ関東盲学校フロアバレーボール大会でチームは準決勝まで進んだものの、相手チームに1点の差で負けました。コートに倒れ悔やむ同級生や思いをこらえながら相手チームに握手と声援を送る先輩をみて「次こそは」という思いが生まれました。その悔しさがスイッチとなり守備の強化を目標に練習に没頭するようになりました。キャプテンに任命されてからは、チームスポーツの楽しさだけでなく、難しさにも直面しました。

コロナ渦に入り、そんな悔しさと喜びの詰まった日々にもやがて終わりが来ました。

コロナ渦の日常で感じたことは、人とつながることの大切さです。日々、友達と話をしたり、笑いあったり、時には言い合いをしたり、一緒に何かに没頭したり、そんなかけがえのない時間を過ごせなくなったことで、人と関わることの大切さに気づかされました。

フロアバレーボールは全盲、弱視、視覚障害をもっていない人など、見え方を問わずトライできるスポーツです。社会人チームの中には、いろんな見え方の人が集まってプレイするチームもいます。私は、フロアバレーに限らずそういったインクルーシブな環境は障害をもった人にとっての世界を広げ、多くの可能性を与えてくれるものだと感じています。あの時、殻に閉じこもっていた私を救ってくれたフロアバレーと仲間たちのように多くの人々にとって、1つの生きがいになる趣味、生活に彩りを与えてくれる何かが見つかる、見つけやすい社会になればいいなと感じます。

卒業後、私は小児を対象とした理学療法士として働きたいと考えています。肢体不自由や発達障害をもつ子どもの中には、勉強や運動、コミュニケーションなどさまざまな場面でやりづらさを感じたり、視覚障害を抱えた当初の私のように、自信をなくしたり、可能性や選択肢を自分の中で減らしてしまう子どももいるかもしれません。私は、一大人、理学療法士として、子どもたちの挑戦や経験のサポートを行い、子どもたちが今、将来にわたって、楽しいと思える経験をたくさんできるような社会づくりの一員になりたいと考えます。

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