ひと~マイライフ-立体的に膨らむ私の仕事

「新ノーマライゼーション」2024年7月号

南谷和範(みなたにかずのり)

国立障害者リハビリテーションセンター研究所流動研究員等を経て、現在、独立行政法人大学入試センター研究開発部教授。「視覚障害者が使用可能な3Dデータ製作手法の探索」にて2017年度ヒューマンインタフェース学会コミュニケーション支援研究賞、「パラメトリック・ピサの斜塔―視覚障害者のCAD手法の実例として―」にて日本図学会第12回デジタルモデリングコンテスト最優秀賞を受賞。

私は、視力0、いわゆる全盲の視覚障害者です。物心ついたころにはすでに視力はなく、小中高は盲学校で勉強してきました。その後、都内の私立大学に進学、現在は独立行政法人大学入試センターという組織で働いています。

大学入試センターをご存じの方も少なくないと思います。毎年1月に大学進学を希望する人たちのための全国規模のテストである大学入学共通テスト―数年前までセンター試験と呼ばれていました―を実施している組織です。

私はこのセンターの研究開発部という部門に所属しています。具体的には大学入学共通テストをはじめとする試験を障害のある受験者の皆さんが受けやすくするための環境整備をするのが私の仕事となります。

環境整備と言いましたが、実際に毎年行われている試験の実施方法や出題に使われる試験問題冊子―この冊子、さまざまな障害のある人のために、点字や拡大文字、近年ではパソコンやタブレットを用いたPDF表示も実現されています―をレビューして問題点がないか確認するのが、私の一つの役割です。また、今年・来年の出題には直接反映できなくとも将来の試験実施を大きく充実させるような配慮を考案し研究するのがもう一つの役割となります。

さて、このようなミッションの仕事をする中で、私が近年のめり込んでいる活動の一つに3Dプリンタを活用した模型の製作があります。

ここからはこの話題について少し踏み込んで書いてみたいと思います。私の仕事の一つの柱として、毎年出題される試験問題のレビューがあると申し上げました。私がレビューを行う冊子は、点字使用の重度視覚障害受験生のために準備される点字冊子問題がメインとなります。

この点字冊子問題、一般の受験生向けの試験問題と同じものを点字で作ることを大原則に作成されています。しかしながら、点字で全く同じように表現することはできない内容はやはりあるわけで、その場合には種々の変更が創意工夫の下に加えられて問題が作られています。その最たる例が試験問題中で使われる図や写真です。地歴科目の試験では地図、数学では図形や立体、生物では細胞や体内の器官などなど、出題に図が用いられる問題は枚挙にいとまがありません。

点字冊子問題では点字に用いる点を並べて図を描く点図という方法で図を表現していますが、一般の試験問題に印刷される図に比べれば表現力には厳しい制約があります。そのため、制約の下で点図を描き出題するか、場合によっては図を使わない別の問題を準備して代わりに出題するという難しい選択がしばしば求められています。

この仕事をする中で、いっそのこと図ではなくて立体模型で出題すればよいのではないかというアイデアに行き当たりました―数学の立体や生物の細胞・器官はもともと立体なのだから図よりも模型の方が分かりやすいに違いないという発想です―。

さらに考えてみると試験・入試で模型は使われていませんが、そもそもその前の勉強、学校教育の場で模型が用いられることも少ない。もっと話を広げるのなら、学校に限らず社会全体でもっと模型を活用した方がいいのではないか。ちょうど3Dプリンタの普及が始まったという追い風もあり、こんな壮大な目標の下、研究に着手しました。幸い、科学技術振興機構のご支援をいただけたこともあり、最近は、参加者の皆さんに3Dプリンタで作った模型を事前に郵送し開催するオンラインシンポジウムや自分で模型を作りたい人のための「さわれる模型製作研修会」も開催しています。

ささやかですが、ホームページ(https://3d4sdgs.net/)もありますので、興味のある皆様には注目いただけるとうれしいです。

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