オリィ研究所
三好史子(みよしふみこ)
私は生まれつきSMA2型という難病です。物心ついた時から車いすに乗って生活しています。全身の筋力が低下する病気で、自分で体を動かすことがほとんどできません。トイレ、入浴、着替え、寝返り等、日常的に介助が必要で夜間は呼吸器をつけています。今は重度訪問介護という制度を利用して24時間ヘルパーの支援を受けながら一人暮らしをしています。
6歳の時に障害者施設に入所し、小中高と特別支援学校に通いました。高等部卒業後は就労や進学がしたいと考えましたが、私が通っていた学校では施設から通っている生徒は卒業後一生死ぬまで施設生活するということが普通で、卒業後に就労や進学をした人はほとんどいませんでした。
施設では生活の制約がとても大きく、生活のスケジュールや食べるものはすべて決められていますし、外出したいと思っても自分でボランティアを集めるしか方法はありませんでした。施設で一緒に生活している人が入所したまま生涯を閉じていくのをたくさん見て、自分も一生施設で過ごして何もできずに死んでいくのかなと不安や焦りも感じていました。
20歳になって障害者年金をもらえるようになったことがきっかけで、施設を出て生活できるかもと思い始めました。施設を出て一人暮らしをしている人に一人暮らしをするまでの流れや使える制度などを教えてもらいました。家を見つけるのが一番大変でしたが、1年後に偶然バリアフリーの公営住宅の空きが出て21歳の時に一人暮らしを始めました。
生活はとても自由になりましたが、仕事についてはなかなかうまくいきませんでした。重度訪問介護を利用している間は仕事をしてはいけないという制度上の決まりがとても大きな壁となりました。私は日常的に介助が必要なため、仕事中介助が受けられないとトイレや水分補給、姿勢の変更などもできません。
就労継続支援を利用することも考え見学もしましたが、袋詰めなどの軽作業しか選択肢がなかったり、介助者の人手不足で利用を断られたりしました。
とても悩んでいた時に偶然参加したシンポジウムでOriHime開発者のオリィさんと出会いました。仕事中ヘルパーも使えなくてできる仕事がなくて困っていると相談したら「一緒に働きましょう!」と言ってくださり、その言葉は涙が出るほど嬉しかったです。
OriHimeで働くなんて想像できなかったですが、パイロット(OriHimeを操作する人)に応募して面接に受かり分身ロボットカフェで働くことになりました。OriHimeは病気や障害、育児や介護などさまざまな理由で外出困難な方の分身となるロボットです。カフェではパイロットがOriHimeを操作して注文を取ったり、飲み物を席まで運んだりします。
現地のスタッフやパイロット仲間も一度も生身では会ったことがないですが、不思議とすごく一体感があって、健常者と障害者というような違いも全く感じず、関係性がとてもフラットで、まるで障害という言葉がなくなったかのように居心地のよい職場でした。
何より自分に接客ができたことが驚きで、生身の体は動かせないので接客をするなんて一度も考えたことがありませんでした。OriHimeはその場に分身の体があるのでテレビ電話などと違い、本当にその場で働いているような気分になります。
カフェでスキルを身につけることができ、今はカフェを卒業してオリィ研究所のパート社員として働いています。制度の改正があり、自分の住んでいる自治体でも就労中にヘルパーを利用できるようになりました。
カスタマーサポートやシフトの管理、営業補助や講演等さまざまな業務をしています。自宅からスマホやパソコンを使って業務をしています。営業補助や講演の仕事では社員が持ち歩いているOriHimeにログインして働くので、自宅からいろいろな都道府県にワープしながら働いています。OriHimeは現在日本のさまざまな場所に置いてあり、オリィ研究所の公認パイロットがログインして接客の仕事をしている場所も複数あります。私はパイロットのシフト作成や研修の実施、クライアントさんとのやりとりもしています。OriHime以外にもビデオ通話やチャットなどのツールを使いながら、たくさんの人と仕事をしています。仕事を通して人と関わり、少しでも社会の役に立っているという実感を持てることが一番嬉しいです。
健康で問題なく体が動いているうちは病気や障害が自分から遠いものだと思うかもしれませんが、誰もが事故や病気で体が不自由になる可能性があります。私たちが生きている社会は体を自由に動かすことができる前提でデザインされているので、体を動かせなくなると途端にいろんなことができなくなり選択肢もかなり狭まります。体が動かなくなったら死にたいと思っている人も多いと思います。
体が動かなくなって一番つらいのは人の役に立てなくなること、社会の荷物になっているように感じてしまうことだと思います。でも私にとってのOriHimeのように自分に合ったツールがあればどんな障害があっても社会で活躍することができると思います。どんな障害があっても働いて社会貢献ができることが普通の世の中に変えていき、体が動かなくても絶望しなくていい社会にしたいと思っています。