DPI日本会議 事務局長補佐
笠柳大輔(かさやなぎだいすけ)
私は第40期ダスキン研修の個人研修生として「障害者運動におけるファンドレイジング(資金獲得)」というテーマでアメリカで2023年5月から11か月間、障害者団体のファンドレイジングの取り組み、財務状況の調査を行い、その後カナダで開催されたAFPICON2024というファンドレイジングの国際大会に参加をしてきました。
私はDPI日本会議という障害者の権利擁護と政策提言を中心に行っている障害者団体に勤めているのですが、活動を継続していくための活動資金獲得が大きな課題で、アメリカの障害者団体がどのように活動資金を獲得しているのか大変興味がありました。
それは2017年にNCIL(National Council on Independent Living)というアメリカの障害者自立生活センターが集まった運動団体の年次総会に参加した時に、たくさんの企業がブースを出展し、スポンサーシップを提供し、この団体の活動を支援していました。日本とのあまりの違いに大きな衝撃を受けたこの体験がきっかけとなり、アメリカの障害者団体のファンドレイジングの取り組みや財政状況を知りたいと思うようになりました。
アメリカでは、ニューヨークのロチェスターにある障害者自立生活センターCDR(Center for Disability Rights)で受け入れていただき、そこを拠点にさまざまな障害者団体の調査を行いました。
今回の滞在を通じて、大きく分けて3つのカテゴリーの障害者団体(1.民間の障害者団体、2.公的な障害者の権利保護機関、3.障害者自立生活センター)、あわせて20団体を調査することができました。コロナ渦によってホームページやウェビナーで情報発信を始める団体が多くなり、遠隔でも情報収集が行いやすくなり、Zoomでオンラインインタビューも積極的に行いました。また多くの方にご協力いただき、滞在中はニューヨーク以外に、ボストン、ワシントンD.C.、カリフォルニア、シカゴの障害者団体を訪問することができました。
民間の障害者団体については、その団体のアニュアルレポートや財務報告書、インタビューを通じて活動資金の流れを調査したのですが、その財政規模の大きさにとても驚きました。DPI日本会議は5,000万円程度の年間の予算規模ですが、アメリカで私が調べた団体は数億から数十億年間収入がある障害者団体がほとんどで、その収入の内訳も、連邦政府や各州からの助成金、個人からの大口の寄付、企業財団による助成金、企業からのスポンサーシップ収入など、1つ1つの金額が大きく、種類も多様でした。
また、アメリカはNPO法人が発達しているといわれていますが、“501(c)(3)”と呼ばれる寄付者が寄付金控除を受けられるNPO法人は148万件(2022年時点)1)あるといわれています。アメリカの障害者団体の多くはこの法人格を持っています。一方で日本で寄付金控除が受けられる501(c)(3)の団体に近いのは、認定NPO法人だと思いますが、その件数はわずか1,266件(2022年時点)2)です。加えて、寄付金控除の範囲もアメリカと日本は大きく異なり、アメリカでは集会や懇親会の参加費も寄付金控除の対象になると聞いた時はとても驚きました。日本の認定NPO法人ではそういった費用は寄付金控除扱いにすることができません。なぜ懇親会の参加費も寄付金控除になるのかを質問したら「その懇親会に参加をして、参加者がどれぐらい食べたかどうかっていうのはわからないだろう? 半分食べて半分残したらそれは半分寄付になる。それをいちいち行政の人がチェックしているわけではないから全額寄付金控除にしているんだよ」と言われました。アメリカでは、寄付金控除を受けられる範囲を制限するのではなく、できるだけ寛容にすることで人々がNPOの活動に参加するモチベーションになり、アメリカの方が日本よりも活動資金を集めやすいと思いました。
また、障害者に関する法律も全く違います。アメリカにはADA法やリハビリテーション法、IDEA法(障害のある個人教育法)など法的拘束力が強い法律がありますが、法律の内容だけではなく、それを実行に移すための財政措置も決められています。障害者団体はこの助成金を上手に使い、多くの活動資金を得ていました。例えばIDEA法については、インクルーシブ教育のトレーニングプログラム提供に関する助成金があり、障害者団体がこの助成金を通じてインクルーシブ教育の研修を行うと、その収入を政府から得ることができます。今年3月にカリフォルニアのサンフランシスコにあるDREDF(Disability Rights Education & Defense Fund)という障害者問題に関する政策提言や法律改正を主に取り組んでいる団体を訪問し、事務局長とファンドレイザーの方々にインタビューをすることができました。この団体はDPI日本会議と活動内容が似ていて、どのように活動資金を獲得しているのか知りたかった団体の1つでした。DREDFはこの助成金を利用し、インクルーシブ教育に関するトレーニングを提供することで約1億円の収入を得ていました。またこの助成金以外にも、カリフォルニア州の弁護士協会の助成金があり、そこでもまた約数千万から1億円以上の収入を得るなど、さまざまなリソースがこの団体の活動を支えていました。
障害者の権利活動、政策提言の活動というのはまだまだ社会ではマイナーな分野で、広く社会から共感を得ること、寄付金だけで十分な活動資金を得ることは難しいのが現実です。アメリカでは公的な資金だけではなく、上記で述べたように民間の助成金や企業スポンサーシップ、個人からの障害者権利擁護活動への大口寄付などもあり日本よりも社会全体で障害者の権利擁護や政策提言活動をサポートしている印象を受けました。
今回の調査を通じて、アメリカと日本の障害者運動団体が置かれている環境について、1つのイメージが思い浮かびました。アメリカでは、豊かな作物がたくさん取れる土地でどれを取って食べるのか選択できるのに対して、日本は砂漠の荒野で自分たちが食べ物を探しているが、常に食べ物は少なく、時には周りに助けてもらいながら何とか食べていっているイメージです。財務諸表上の数字で見ることで、日本の障害者運動団体が置かれている厳しい環境を感じました。今後、アメリカの事例を参考に寄付や企業スポンサーシップ獲得、助成金の活用といった自団体のファンドレイジングだけではなく、民間の障害者団体の活動を支える公的な財政措置をより充実させるような提言活動も行っていく必要があると感じました。
また、今回は紙面の関係で調査したことすべてはとても書ききれませんでしたが、アメリカでは日本で現実になっていない施策(重度訪問介護における職場への介助者の同行、家族を介助者として雇用すること、政府から独立した公的な障害者権利擁護機関など。※州によって制度の内容は異なる)が実現されていて、「日本ではできないのではなく、ただやっていないだけ」なのだとわかりました。また、たくさんの障害者運動のリーダーたちとの出会いが、自分の世界を大きく広げてくれました。言葉にできないほど、多くのことを学び感じたアメリカ研修でした。
今回の渡米では史上空前の円安の中、ダスキン愛の輪基金をはじめ、大変多くの方にご支援いただき、無事に調査を終えられたことに心から御礼申し上げます。
1) https://usafacts.org/articles/how-many-nonprofits-are-there-in-the-us/#:~:text=Home%20%2F%20Economy%20%2F%20Articles%20%2F%20How,organizations%2C%20according%20to%20the%20IRS.
2) https://www.npo-homepage.go.jp/about/toukei-info/ninshou-seni