障害が重くても地域で当たり前に生きる~久留米市での取り組み~

「新ノーマライゼーション」2024年9月号

一般社団法人バンビーノ福祉会 代表理事
中原京子(なかはらきょうこ)

はじめに

一般社団法人バンビーノ福祉会(以下、当福祉会)は、福岡県久留米市に拠点を置き、重度の障害をもつ子どもたちやその家族を支援するためにさまざまな取り組みを行っています(相談支援、生活介護、放課後等デイサービス、児童発達支援、短期入所、保育所等訪問支援)。課題解決のためには、地域で関係する人たちとの連携した取り組みが重要で、地域の資源をつなげる活動に力を入れてきました。

地域の資源を繋げる

40年以上前、小児ICUで家族に育てられることもなく、病院で短い命を多く看取ってきた経験から、重い障害があっても地域で家族と共に生きていける社会をつくれたらいいなと常々考えていました。そのような思いの中、平成19年にNASVA病棟(※1)から退院支援の相談があった際、私は介護保険のケアマネージャー業務を担っていました。その時、小児の分野であまりにも社会資源が不足している現状を目の当たりにし、愕然としました。しかし、何とか制度活用と資源を組み合わせて、家族の希望である小学校の卒業式に参加するという目標を達成できました。この経験が、同じような地域で暮らす障害児の環境を整えたいという思いにつながり、障害児支援の分野へ転換するきっかけとなりました。

(1)平成21年度のモデル事業(暮らしの場や暮らしの支援の在り方についての検討)への取り組み

介護保険の小規模多機能居宅介護を利用し、重症心身障害児者の短期入所支援を週に1回、一泊二日で4か月間モデル事業に取り組みました。

当時、久留米市の中心部近辺には、医療依存度の高い障害児者が気軽に通い、宿泊ができる施設はありませんでした。「きよさん」もその一人で、母親はきよさんが生まれて17年間ほとんど傍から離れたことがありませんでした。

(モデル事業を利用したお母さんの声)
  • 利用開始直後は、空き時間に何をしていいか分からない……。
  • 預ける不安と安堵感が交差して、本当に預けていいのだろうかと罪悪感を感じていました。
  • 利用4か月後になると、大好きなSMAPのコンサートに行くことができました。
  • 自分の時間ができたことは、「子育て頑張ろう!」と思うエネルギーになりました。

ちょっと近所にお泊りに行ってくるね!の感覚で、利用できる短期入所、ロングステイできるところ等、家族の状況に応じて、本人が安心して利用できる居場所の確保は必要だと思います。

短期入所においては、医療機関との連携を強化し、医療的ケア児等コーディネーターを配置しました。サービスのモニタリング会議を行いながら、地域における暮らしの支援を検討しました。このモデル事業がきっかけとなり、久留米市が看護師配置に予算をつけ、現在も障害児者施設と小規模多機能施設の3か所でこの短期入所事業を実施しています。

(2)障害児者版地域包括ケアシステムの構想(久留米市での取り組み)

平成24年度重症心身障害児者地域生活モデル事業に参加し、当初から2名のコーディネーターを配置し、地域課題に取り組んできました。

医療機関を退院してからの在宅支援の未整備、相談窓口の不足、15歳以上の重症児を受け入れる医療機関・施設の不足、社会資源の情報不足等があげられ、地域における課題解決を目的として、協議の場を設置し、地域包括ケアシステムの構築に取り組み、現在も継続しています。

〇地域活動の展開(過去10年間の歩み)

連携会議:年に3回、医療、福祉、教育はもとより地域との連携を深め、課題解決に向けた活動を継続中。連携会議においては、医療的ケア児者を取り巻く課題に対し、各機関から活発な意見交換が行われるようになりました。また、研修会を通じて市民にもこの課題を知ってもらい、理解を促進しています。

退院支援:NICUや小児ICUからのスムーズな退院支援ができるように医療機関と連携して、役割分担しながら、入院中から支援を行い、地域移行を行っています。

研修事業:当事者研修、専門職研修(看護・福祉職・医療的ケア児等コーディネータースキルアップ研修)、きょうだい児支援に取り組んでいます。

(3)災害対応支援

平成28年度以降、自立支援協議会の中に重心分科会を設立し、基幹センターと連携して災害時支援に取り組み、避難訓練を通じて自助や共助の強化や地域とのさらなる連携強化を図っています。行政機関は、障害福祉課のみならず、地域福祉課や社会福祉協議会(ボランティアセンター)を中心に地域コミュニティーを繋ぐことで、顔の見える関係ができ、避難訓練を通して、繋がることの重要性を学びました。

(4)バンビーノ福祉会の取り組み

短期入所も兼ねたバンビーノの森を開所するきっかけになったのは、平成24年度のモデル事業で出会った難病の児童が、あとどのくらい生きられるかわからない、それでも「お家に帰り思い出づくりがしたい!」という母親の声を聴いたことでした。最初は、当事者の自宅横の民家をお借りして始まった事業ですが、その後移転し、クラウドファンディングや国の助成金を活用し、スプリンクラーを設置した施設をつくり、短期入所もできる施設をつくりました。

当福祉会の施設をご利用される方々の特徴としては、動ける医療的ケア児者が多いことです。また、呼吸器を装着していて動ける児童もいます。他に行くところがない、行き場のない子どもたちがたくさん利用しています。子どもたちの笑顔を守っていきたい!その意気込みは、どのスタッフも同じです。また、家族支援として親の会も実施し、ママたちの情報交換の場に繋がっています。

相談支援事業は、現在8名の相談員で地域を回っています。医療的ケア児はもとより、発達障害の児童もたくさん担当しています(看護師6名、社会福祉士2名、精神保健福祉士1名、介護福祉士2名、医療的ケア児等コーディネーター6名 ※延べ人数)。毎週水曜日に、事例検討、スーパービジョン、研修等、地域の基幹センターや事業所もお呼びして、さまざまな課題解決に向けて取り組んでいます。

直面する課題

私たちの活動には、依然として多くの課題が残っています。今、この地域の一番大きな課題は、成人移行期の問題です。特に医療機関に関しては、てんかんを診ていただける成人の医療機関が圧倒的に少ないこと、また、緊急時、どこに搬送するのか? 本人の情報は、どのように管理していけばいいかなど、久留米医師会(※2 KICS)の協力を得て、現在、基幹病院、小児科医、在宅医、精神科医、医療的ケア児等コーディネーター等が集まって定期的に協議が行われるようになり、活発な意見交換が繰り広げられています。

今後の展望

私たちが17年間取り組んできたこの道のりは、確実に地域や制度を動かす力となっています。障害があってもなくても地域で当たり前に支えあっていける社会を目指して、私たちにできる社会貢献を継続し、次の世代にも引き継いでいけるような地域づくりを行います。この原稿を通じて、私たちの活動に対する理解が深まることを願っています。


※1)自動車事故対策機構(NASVA)の委託により運営する病床。自動車事故による脳損傷で重度の後遺障害が残り、治療と常時介護を要する患者を対象とした専門病床。

※2)KICS:久留米医師会が中心となって行っている地域包括ケアシステム

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