一般社団法人Kukuru 代表理事
鈴木恵(すずきめぐみ)
一般社団法人Kukuruは、2010年1月に沖縄で設立した非営利型法人で、バリアフリー旅行支援と在宅障がい児者支援事業の2本の柱で活動をしています。私自身、障がい児を育ててきた中で、関係者による無理解や理不尽な経験をたくさんしました。その経験の中で感じた「こんな支援があったらなぁ~」「こんな場所がほしいなぁ~」を具現化するために、大好きな沖縄へ移住し法人を設立しました。
設立当初は、障がい児者や家族の「沖縄へ行きたい!」という願いを叶えるバリアフリー旅行支援と、自費の在宅レスパイトサービス、喀痰吸引等研修からスタートしました。その後、沖縄で重度障がい児の状況(支援の希薄さ)を知り、保護者が孤立し疲弊している姿が昔の自分と重なりました。そして在宅生活の支援をしたい!という思いが強くなり、2015年に小児専門の訪問看護、居宅介護をスタートさせました。
沖縄では近年、人工呼吸器等を使用している重度障がい児の児童発達支援や放課後等デイサービスでの受け入れはできていますが、短期入所は受け入れ場所が大変少ない状態です。そして、病院でのレスパイト入院がないこと、入院中も付き添いが必要なことなど、訪問系サービスでの支援だけではどうにもならないことを感じていました。そんな時に、日本財団さんよりお声掛けいただき、約3年間の歳月を経て沖縄小児在宅地域連携ハブ拠点Kukuru+(くくるプラス)を2019年9月にオープンすることができました。
家族に障がい児者がいる場合、旅行に行きたいという気持ちがありながら、あきらめている人もいれば、いざ行ってみたら「もう遠出はしたくない」と思った経験があるのは私だけではないと思います。在宅では、公的支援により入浴や外出等を介護職が支援をしてくれる場面がありますが、旅行先では公的支援を利用することは難しく、このような状況では、家族の介護負担は普段より大きくなると言わざるを得ません。
私は一人で沖縄を訪れた時、たくさんの自然とゆっくり流れる時間にとても癒され、魅了されました。介護に頑張っている保護者にもこの気持ちよさを経験してほしいと思いました。実際に、東京で訪問看護の仕事をしている時にも、「沖縄へ行ってみたい」という相談が多く、これもきっかけの一つでもあります。自分が沖縄へ移住することで、「沖縄へ行きたい!」を実現できるのではないか、そんな思いから旅行支援を始めようと決めました。
旅行支援の希望者は0歳から90歳と多岐にわたり、医療的ケアが必要な方は半分以上です。支援内容は、旅行者のお困りごとを解決することをスタンスとしており決まったことはありませんが、海水浴・入浴介助、ホテルなどでのレスパイト、医療機器や入浴補助具の貸出などが多いです。年間30~40組程度のご依頼がありますが、コロナ禍が明け、今年度は今まで以上のご依頼が殺到しています。
法人名でもあるKukuruは、沖縄の方言で心という意味です。Kukuru+の名前は、Kukuruの既存のサービスにクリニックなど新しい事業が加わったという+(プラス)と、病院とおうち・おうちと地域をつなぐための+(プラス)を意味しています。
ここで解決したい課題は、主に人工呼吸器等を使用している重度障がい児とその家族の1.病院からおうちへ帰るための不安の解消2.在宅で過ごすことでの大きな負担の軽減3.医療的ケア児をどうやって地域に知ってもらうか、です。そのために、「安心しておうちへ帰れるための支援場所」「おうちと地域の接点となる、行って楽しい場所」「みんなで使って、みんなが集う場所(建物)」をコンセプトに、病院らしくしない設計を心がけました。また障がいの有無にかかわらず、子育て支援を基本にしており、どんなに重い障がい児でも、できるだけ健常児と同じ経験をしてほしいと思っています。
Kukuru+では、主に人工呼吸器を利用しているお子さんの医療型短期入所を行っています。療育センターでの医療型短期入所と役割を分け、レスパイトとして日常的にかつ多くの方に利用していただけるよう、日帰りと宿泊で行っており、宿泊の場合は一泊二日を基本にしています。広い屋上にはプールもあり、人工呼吸器を装着しているお子さんも、楽しくプールで泳ぐことができます。
Kukuruきっずクリニックでは、一般診療はしていませんが、医療的ケア児及び障がいやさまざまな先天性疾患を診察する小児専門のクリニックで、外来の障害児リハビリも行っています。また、通院が難しいお子さんのために訪問診療も行っています。予防接種や乳児検診は一般の方も利用することが可能なため、地域の多くの親子が利用しており、短期入所利用児との交流も生まれています。
また訪問看護と居宅介護を行っているので、医療と福祉が連携しやすく、複合的な支援ができるのも特徴です。
1階にはカフェを併設し、地域の皆さんの交流場所として設計しましたが、開設4か月後に新型コロナ感染症が発生したため、現在も閉鎖中です。しかしせっかくのカフェを活用するため、入院付き添い中の保護者の支援として、週1回お弁当を受注販売する「くくるデリプロジェクト」を行っています。県内2か所の病院とファミリーハウスへ「体も心も元気になるお弁当」をお届けしています。
他にも、保護者同士の交流を目的とした「パパ会」「ママ会」、きょうだい児同士の交流を目的とした「やんちゃDAY」、在宅で使用する医療福祉機器や防災用の蓄電池などを展示する「療養生活うるおいマルシェ」など、公的支援にはないサービスや他の事業所がやっている、できることはあえてやらず、事業化していないサービスを積極的に行っています。
しかしながら運営は非常に厳しく、建設・設備費用の返済、建物の維持管理費・有床診療所ゆえの診療報酬の低さ、個別性が非常に高く濃厚なケアが求められるために人件費割合の高さ等々で逼迫しています。コロナ禍による感染対策のための利用人数制限の影響も大きく、さらに厳しさが増しました。それでも、子どもたちが安心して楽しく過ごせるように、私たちも安定的に事業が進められるよう、試行錯誤しながら、みんながハッピーになるモデルケースになれたらと思っています。
多くの皆さんに支えられて出来上がった「Kukuru+」。コロナ禍で人との交流が制限される中ですが、プールの貸し出しや、今後、屋上でビアガーデン開催を計画するなどしており、地域の方をはじめ、いろいろな方を巻き込む、沖縄らしい“ちゃんぷるー”(ごちゃまぜ)な場所を目指していきます。
これからの夢は、海の前でKukuru+パート2をつくることです。ユニバーサルヴィレッジとして、海水浴場、公園のユニバーサル化、生まれてから亡くなるまで、同じ地域で暮らしていける……そんなヴィレッジ(地域社会)をつくれるように、尽力したいと思っています。