カメラを使って広がる生活

「新ノーマライゼーション」2024年10月号

自立生活夢宙センター
岸本慶子(きしもとけいこ)

私は先天性の全盲です。8年ほど前、20~30代の初対面の人が集まった会議で「これからの連絡はLINEで」という話になりました。ガラケーを使っていてLINEをやっていないのは私だけで、結局その時はメールで連絡してもらうことにしました。このことがきっかけとなり、LINEを使っていないことを言い続けるよりも一歩踏み出してみようと思い、当時はしかたなくiPhoneを利用し始めました。電話、LINE、天気の確認ぐらいでいいと思っていたiPhoneは、今では生活に欠かせないものになっています。

iPhoneに入っているボイスオーバーをオンにすると画面の内容や入力した文字が読み上げられます。そしてカメラを使うと視覚障害者の移動や情報アクセスの幅が広がります。

私が使っていて便利なアプリは、「Be My Eyes(ビーマイアイズ)」です。視覚障害者はたくさんの時間は必要としないけどちょっと見てほしいということがあります。落とし物、賞味期限などいろいろあります。そんな時に役立つのがBe My Eyesです。このアプリは登録した視覚障害者とボランティアが音声と映像でつながって、リアルタイムの支援が受けられます。アプリをインストールして視覚支援が必要なことと言語を設定します。必要な時にボランティアに通話するボタンを押すと、同じ言語で登録している目の見えるボランティアに通知が送信され、最初に応答した人とつながり、背面カメラに映ったものを説明してもらうことができます。自分にカメラを向けない限り、お互いに名前も顔も出ないのでプライバシーが保たれます。私は麦茶と緑茶のペットボトルがあり麦茶を飲みたかった時や、歩いていて近くにあるお店の入り口を探す時などに利用しました。見てもらえる人が来るまで待ったり知り合いに連絡するほどではないけどちょっと見てほしい、そんな時に使えます。

ボランティアにとってもスマホ1つで、自分の時間が空いていればでき、手が離せなければ誰かが対応してくれる、気軽な活動だと思います。私がお願いした時は、駅のアナウンスが聞こえていたので、電車の待ち時間に見てくれたのではないかと思いました。

このアプリにはAI機能もついているので、私はLINEやメールで届いた写真をアプリに転送して、映っているものを確認しています。印象としては文字を読みたい時は別のアプリがいいかもしれませんが、間違いがあることは前提として、風景や人の様子はある程度説明してくれます。写っている人の名前はわからないのでBe My Eyesの説明から、この人かなと想像して、見える人と答え合わせするのも楽しいかもしれませんね。

私は勇気を出して小さなことでも新しいことができた時、達成感を感じます。これからもデジタルとアナログを組み合わせながら、楽しく生活していけたらと思っています。

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