一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会情報文化部員
渡部安世(わたべやすよ)
私は中学生ごろから難聴を発症し、感音性難聴と診断されました。以降も聴力が落ち続け、30歳ごろに失聴。会社員を続けながら難聴者団体に入会し、施設・交通のアクセシビリティを担当しています。補聴器なしではパトカーのサイレンが聞こえず、補聴器を装用しても、言葉の聞きとりが困難です。口の形から言葉を読み取る読話は苦手で、筆談やジェスチャーが主なコミュニケーション方法でしたが、音声と比べて、質量ともに限界を感じていました。音声認識アプリが手軽に使えるようになってからは、あらゆる場面で会話の広がりがあり、生活に欠かせません。
活用しているアプリを一日になぞらえて紹介します。朝、福祉機器の目覚まし時計のフラッシュと振動で目を覚まし、洗濯機に洗濯物を放り込み、かかる時間をApple Watchの「タイマーアプリ」にセットする。福祉機器のフラッシュで人が来たことを知り、スマートフォンで「YYProbe(音声認識アプリ)」を起動しながら玄関で荷物を受け取る。
午後からの出社に向けて、駅ホームの電光掲示板で遅延が発生していることを知り、同鉄道会社のアプリを開いて詳細を確認し、「LINEアプリ」で上長3名に遅れる旨を連絡する。会社のデスクにはiPadがあり、「UDトーク(音声認識アプリ)」を起動させたまま業務をします。周りの会話すべては拾えませんが、拾えた会話で自分に関する業務であれば、会話に入ることができるようになりました。
このように一日の中で、さまざまなアプリを活用することで生活が成り立っています。
「YY雰囲気カメラ」は、ぜひ皆さんに見ていただきたいアプリです。音声認識の感度も良い上に、物音や言葉に応じてアニメーションやオノマトペで表示され、音を視覚で楽しめます。「電車」と言うと電車のイラストがいくつも降ってきます。聴者からも面白いと興味を持たれ、聴覚障がいについて理解が始まる第一歩となっていると感じます。
多くのアプリで便利になりましたが、自転車、自動車、電動キックボードの走行音に気付けず、あわやあと少しで衝突!という経験が度々にあります。自衛できないものかと考えていたところに、「コデカケ(※)」というアプリ&デバイスの体験モニターに参加しました。後方から接近する自転車等を、その接近速度から強弱の振動で知らせる機能があり、安心して周囲の風景や友人との会話を楽しみながら道を歩くことができます。現在、商品化は決まっていないようですが、心待ちにしています。
音声認識アプリで大勢の会議に出席する際、全員が、発言を重ねずマイクの近くで話すなど、認識の好条件に協力がなければ、とたんに話が分からなくなります。便利なアプリを有効活用できるかどうかは、多数派である聴者側がボールを握っていると感じます。アプリは障がい者側が使うものと思われがちですが、お互いにこれらのアプリを活用して、豊かなコミュニケーションが繰り広げられることを願っています。
(※)コデカケについては以下URL参照。
https://makenew.panasonic.jp/colab/articles/post_4/