地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-インクルシネマの取り組み

「新ノーマライゼーション」2024年10月号

NPO法人Lino 代表理事
後藤ゆかり(ごとう)

皆さんが「映画館」と聞いて思い浮かべることは何ですか? 薄暗い中、ポップコーンの匂いとともにワクワクしながら映画が始まるのを待つ。家族や友人と、誰もが一度は行ったことがある場所。気軽なお出かけの場の一つですが、意外にも映画館は医療的ケアを必要とする方や障害をおもちの方にとっては行きづらい場所の一つです。

シアター内は基本的に車いす席が限られており、暗く周囲が見にくい環境下であること。大きな音に敏感な方、同じ姿勢でいるのが難しい方にとってはさらにハードルが上がります。医療機器から発する音や光も周囲の目を気にする要因として考えてしまう方も少なくありません。

特定非営利活動法人Lino(以下、Lino)は、障害の有無にかかわらず、インクルーシブな環境下で映画を鑑賞できる場をつくりたいと考え、映画館や配給会社の協力を得て、2019年から東京都にあるイオンシネマという映画館で月に一回、その時話題の映画を貸し切り上映する「インクルシネマ」を始めました。

障害をおもちの方とそのご家族、関係者など関わるすべての人の生活がより豊かなものになることを目的としているインクルシネマでは、多数のボランティアやサポートキッズが参加しています。サポーターは事前に介助のレクチャーを受けており、シアター内の移動や移乗も安心して行えます。

座席での鑑賞が難しい方は、車いすや座位保持装置を取り付けた座席に座っての鑑賞、また、車いすから降りてマットに横になっての鑑賞も可能です。音や光などの環境に敏感な方のためにインクルーシブ遊具を製作している日都産業株式会社様の協力を得て、カームダウンスペースの配置をし、人工呼吸器など医療機器を使用の方には、必要時電源の提供を行っています。また、医療従事者の常駐により、緊急時の対応も可能です。シアター内は顔色や様子を確認しやすく、医療的ケアも行いやすいように、照明は通常よりも明るめ、音も小さめに設定し、医療機器のモニター音や吸引などのケアの音に気兼ねすることなく鑑賞できることとしました。

映画館での定番ポップコーンも、車いすを押しながら購入して移動するのは大変なため、協賛企業である株式会社ケイアイ様が、参加された方全員にフード・ドリンクを提供してくださっています。また、サポートキッズが一緒に座席まで運ぶお手伝いをしてくれることで、参加者同士の交流を育むきっかけとなっています。

このように、参加する皆でインクルーシブな環境をつくり上げるインクルシネマですが、2019年の開催当初から数年はLinoのみが実施していました。コロナ禍で一時開催が危ぶまれた時期もありましたが、コロナをきっかけに感染対策を盛り込んだインクルシネマのマニュアルを医療従事者と共に整備し、開催を望む個人、団体、行政のサポートを開始したところ、現在では全国各地でさまざまな団体がインクルーシブな映画上映会を開催できるようになりました。さらに、今年8月には単発開催ではなく、Linoと同じようにイオンシネマでの毎月定期開催の実施が愛知県で始まりました。

Linoは今後も全国にこのようなインクルーシブな環境下で映画を観ることができる場が増えることを願い、人と人、人と地域を繋ぎながら、引き続き開催サポートを実施して参ります。

皆様もぜひインクルーシブな環境を皆でつくり上げる体験をしにインクルシネマに遊びに来てください。

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