有栖川(ありすがわ)
NPO法人脳損傷友の会高知青い空/中土佐町高次脳機能障害ミーティング
脳出血で倒れて10年です。右半身麻痺と感覚低下、右下1/4視野障害があります。とにかく頑張るしかないと身体の回復を中心にずっと取り組んできました。
それがある時、地域のお祭りの手伝いをしていて、トラブル勃発。もともとの自分は、どちらかというと気持ちを抑えて、相手に誤解されることがないように考えて話をする方でした。言葉の行き違いとわかっても修正できず、どうしてこんなことになったかわかりませんでした。支援者に相談する中で、高次脳機能障害(注意障害、社会的行動障害)によると気づきました。そういえば入院中に言動を注意されたことがありましたが、自分としては何も変わっていないと思っていたので、何のことかわかりませんでした。高次脳機能障害はいろいろありますが、自分のテーマは、疲れやすいこと、抑制が効きにくいことです。
その後、就労支援を利用すると新たな人や作業との出会いの中で、たまらなく腹が立つことがありました。しかし簡単に爆発するわけにはいきません(何度か爆発しただろうと思いますが)。ふと目に入ったのが、自宅にあった息子の眼鏡、度のない伊達眼鏡でした。かけてみると、レンズ1枚でも外の世界との間に区切りができたようでした。「自分が、自分が」と前に出しゃばりたくなっても、レンズ越しになると「出られん、出られん」と止める自分が出てきました。すぐに腹を立ててしまう不安があっても、レンズ越しだと距離を取って状況が見えることに気が付きました。イラっとしても「待て、待て」と言えるようになりました。我を出さずに過ごせることが増えてきたところで、レンズが外れたのでフレームだけの眼鏡をかけるようになりました。レンズがなくても同じように過ごせていることに気づけた時、自分自身への信頼感を少し回復できたように思います。前に行こうとする自分もいるのですが、まあ落ち着けやと止める自分もいる、なんとかやっていけていると認める自分も存在するようになりました。自分の部屋以外でも眼鏡をかけずに過ごせるようになってきました。
自分の目標は、野球の審判への復帰でした。ようやく叶い、今は、小学生から一般まで大小の試合で審判をやっています。忙しい日々ですが、大好きな野球に関われることの喜びをかみしめ、体力と審判技術の向上に取り組み、充実の一言です。
※高次脳機能障害の中でも、他者との関わりの中で問題となる行動を社会的行動障害といいます。易疲労(脳疲労)、脱抑制、固執や退行などがあります。今回は、「わかってほしい」「こうしたい」と自我が出やすいのを、眼鏡をかけることで自己制御スイッチオンの状態を作り出せました。気づきにくい場合は、信頼できる人に合図を出してもらうという手もあります。行動を変えたい時に、気づかせてくれるアイテムを探してみましょう。(支援者)