ひと~マイライフ-自分にできる身体表現の追求

「新ノーマライゼーション」2024年11月号

横尾友美(よこおともみ) 撮影者:栗田一歩

アーティスト(写真・映像・身体表現)。ろう者。長崎県出身、京都市在住。映画『LISTEN リッスン』に出演したことがきっかけで身体表現に目覚める。映像、写真、舞台などでろう者としての感性、アイデンティティと結ぶ身体表現の活動を行う。扱うテーマは愛、ろう高齢者、オンガク、境界線、感情、解放、身体の線、女性。

自分について

私は、生まれつきろう者で、家族みんなもろう者()です。幼稚部から高等部まで聾学校育ちです。今回、育児や仕事の合間に、ろう女性の生きづらさを描いた芸術的映画『わたしたちに祝福を』を製作しました。

映画『わたしたちに祝福を』の製作について

この映画には、高齢女性、女児、若い女性それぞれにかかる3つの物語が詰まっています。強制不妊手術、ろう学校で手話が禁止され、障害者であるために受ける理不尽な差別。ろう者女性の内面を繊細かつ強烈に、芸術的に描いた映画です。何より、出演者も制作者もほぼろう者で、ろう女性当事者が生きづらさを制作し、発信しています。上映時間60分です。

牧原依里と雫境(DAKEI)共同監督映画『LISTEN リッスン』(2016年)への出演以来、自分にできる身体表現を追究してきました。2023年10月の個展で、約11分の短編映像『わたしたちについて』を発表しました。地方手話方言による母から娘への継承、手話が禁止された時代、高齢者の手話表現、非言語、女性のみの身体表現などのメッセージを詰めたもので、第20回さがの映像祭で大賞を受賞しました。

自分自身、妊活や流産の苦しみを経験しました。子どもを諦めようと決心した矢先に、妊娠。出産、育児などを通して、母としての歓びや大変さを味わうことができました。強制不妊手術で母親になれなかった方々……今になってその重さを実感しました。もし違う時代に生きていたら自分も強制不妊手術を受けさせられたかもしれないと、恐ろしく感じました。障害者であるがために賠償金の減少、手話が禁止された時代の苦しみなど、これらを当たり前と思ってはいけないと思うようになりました。ろう者として、女性として、母親として、私たちろう者女性の痛みを取り入れた物語を作りたいと思ったのが、本作制作のきっかけです。

制作期間は女性の象徴である椿の時期に合わせて撮影する他、育児や仕事の合間に出演者の都合を調整しながら撮影したため、1年かかりました。時代に合った服装を用意し、脚本、ロケ、交渉、撮影、編集、制作、宣伝はすべて独学で自ら捻出して進めてきました。

上映会やその宣伝に、また出費が必要になります。それでも多くの方々に見ていただきたいと思い、クラウドファンディングで支援を募ることにしました。多くの支援により目標達成し、全国各地での上映会を計画できる運びになりました。今秋より各地で上映されます。最初は一人で制作していましたが、最終的には多くの方々の支援により映画が仕上がり、感謝でいっぱいです。世代を超えた私たちの痛み、愛を詰めた映画をぜひ皆さんに見ていただきたいです。

今後について

映画だけではなく、短編映像や舞台、写真など自分にできる身体表現を制作していきたいです。自分自身のろう者としての感性、アイデンティティと結ぶ身体表現とは何かを追求しながら作品を作っていきたいです。表現したいリストがたくさんあり、それを実現していくのが挑戦であり、楽しみでもあります。


ろう者とは医学的に耳が聞こえない人を指すが、実際には、日常の会話の手段として主に手話を使っている、「ろう(聾)」というアイデンティティを強く持っている人たちのことをいう。

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