ひと~マイライフ-ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために

「新ノーマライゼーション」2024年12月号

中曽根鈴音(なかそねすずね)

重度の感音性難聴をもつ。通常学校でインテグレーションを経て、介護福祉士の資格取得をするために専門学校へ。その後は、東京都江戸川区にある、自立生活センターSTEPえどがわで、重度の障害のある人の地域生活を支える「介助者」と、権利擁護を行う「障害当事者スタッフ」として仕事をしている。

「もっと聞こえる人に近づかなければ」。私はずっとそう思ってやってきました。

補聴器の装用と言語聴覚訓練による口話法の習得により、一対一の会話であればある程度内容をつかむことはできますし、それに対して音声言語で反応することも可能ですが、人数が多くなるとそうはいきません。聞こえる人が当たり前に行う軽いコミュニケーションもまた然り、立ち話や雑談には比較的重要な情報が含まれていると知ったのも大人になってからです。それらを当たり前に経験することはなかったのです。

そのような環境の中で生きてきたこともあり、受け取った情報を元に自分で情報を見極めて、選び取り、その事柄に対して自分で責任を持つ、これらの過程を経験する機会が極端に少なかった私に、ことの基本となる「情報を得る権利」が私にもあることを教えてくれたのは、紛れもなく今、一緒に障害者の当事者運動をしている車椅子ユーザーなどの仲間たちでした。

私が働いている自立生活センターとは、障害をもつ当事者自身が運営の主体となって、障害のある人が地域で自分らしく暮らせるように必要な支援をしていく事業を行っているところです。ここで、当事者運動、すなわち障害者自身が中心となって地域で生活するために必要な制度や社会をつくりかえることも私たちの役割の一つとしています。

自立生活センターのスタッフたちに出会った最初の頃は「あなたにはどんなサポートが必要ですか?」と聞かれても「あなたに合わせます。手話でも音声でも。音声なら口話を読むので」としか答えられず、周りの人を困らせていたほどです。人の手を借りることは良くないことだと思っていました。すべて自分でできるのが正しいとさえ思っていました。

そんな時に、社会を良くするため、誰もが安心して暮らせる社会を目指しながら、地域のお店にスロープをつけてほしいと交渉したり、介助の時間数が足りないと必死に交渉したりと権利擁護活動をしている車椅子ユーザーの仲間たちを見て、私も自分の権利やサポートしてほしいことを相手に伝えるのはダメなことじゃないんだ、徐々にそう思えるようになってきました。

自分にとって、相手の口話を読み続けることは少なからず負担があること、コミュニケーションのズレによるリスクもあること、そのため情報保障の支援が必要なこと、情報保障が整うことにより、たくさんの情報が得られ、その中から自分がより良いものを選択できること。新しい発見がたくさんありました。社会ではまだまだ情報保障は浸透していません。手話通訳や文字通訳がついている講演会やイベントはほんの一部で、主催者に依頼しても理解が得られず断られることもあります。

聞こえない人も、聞こえる人と平等に情報が得られるようになること。とても時間がかかりそうですが、微々たる力ではありますが、私が活動をできている限りはどんな障害があっても一人ひとりに権利があること、その権利を最大限尊重されるべきであることを考え続けていきたいです。これからも、障害の有無や障害種別にかかわらず、たくさんの仲間たちと一緒に生きていきたいと思います。

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