日本障害フォーラム政策委員会 委員長
(社会福祉法人日本視覚障害者団体連合)
田中伸明(たなかのぶあき)
日本障害フォーラム(JDF)政策委員会は、2023年7月から新たなスタートを切ることとなりました。
これまで、JDFの活動の柱の一つとなっていたのは、2022年8月に開催された国連障害者権利委員会における第1回日本審査に向けての活動でした。JDFでは、障害者権利条約パラレルレポート特別委員会を設置して、3つのパラレルレポートを作成し、日本における障害者の置かれた実情を障害者権利委員会に対して説明し、必要な勧告を引き出す努力をしてきました。そして、障害者権利委員会から日本に対する総括所見が出された今、この総括所見で指摘された問題点を改善するための法整備や、制度改革を政府に働きかけ、実現していくことが必要です。そこでJDFでは、障害者権利条約パラレルレポート特別委員会における活動を、すでに設置されていた政策委員会に引き継ぐこととした上で、総括所見の内容の国内実施に向けての活動を目的として、新たなスタートを切ることとなったのです。
JDF政策委員会で現在力を入れて取り組んでいるテーマの一つに、JDFとしての障害者基本法改正案の取りまとめがあります。
障害者基本法は、直近では2011年に改正が行われていますが、これは、日本が障害者権利条約を批准するための国内法整備の一環として行われたものです。そして、この2011年の障害者基本法の改正においては、附則第2条で「国は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律による改正後の障害者基本法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と定められていますが、2011年の改正から13年以上が経過した現在においても、障害者基本法の施行の状況に関する検討は加えられておらず、したがって、「必要な措置」の具体的内容も検討が未了の状態となっています。しかし、2011年の改正当時から現在に至るまでの間に、障害者を取り巻く状況は、社会におけるIT化の急激な進展を見ても分かるように、大きく変化しています。そして、障害者権利委員会から総括所見が出された現在、この総括所見を踏まえて、指摘された問題点を改善するための法整備や制度改革を実現するためにも、障害者施策の基本を示す障害者基本法が、現行法のままでよいのかどうかをあらためて検証する必要性は高いということができます。このような事情を踏まえれば、附則第2条が定める「必要な措置」の一つとして、障害者基本法の改正が検討される必要があると考えています。
そして、この障害者基本法の改正を政府に求めていくためには、JDFとしての障害者基本法改正案を検討し、その結果を示していく必要があります。そこでJDF政策委員会では、2024年4月から現在の障害者基本法において改正が必要と考えられる事項の洗い出しを開始し、2024年11月時点では、総則(第1章)の検討を終えたところです。今後、加盟13団体の協力をいただきながらさらに検討を進め、JDFとしての改正試案をまとめた上で、政府、国会に対して、障害者基本法の改正を働きかけていきたいと考えています。
また、今後のJDF政策委員会の活動として力点を置く必要があると感じている活動には、国際協調に向けての取り組みがあります。日本は、総括所見において国内のさまざまな分野に対して懸念事項と勧告事項による指摘を受けましたが、これらは国際的な視点からの指摘であることは言うまでもありません。この総括所見における指摘を国内で実現するためには、総括所見により不十分であるとの指摘を受けた分野において、国際的にはどのような法制度が整備され、どのような考え方で運用されているのかを知ることは重要です。このためには、すでに公表されている国際指標を参照することや、国際会議に出席して他国の専門家がどのような視点を持ち、意見を持っているのかを積極的に知ろうとすることが必要です。国際的な視点や考え方を広く知ることで、日本における法整備や制度改革の視座を得ることができると思います。
他方、日本国内において大きな成果を得ている事項については、世界に向けて積極的に発信していくことも重要だと思います。日本では、2024年7月3日、最高裁判所大法廷において、旧優生保護法に基づく強制不妊手術を受けた被害者が提起した国家賠償請求訴訟において、旧優生保護法の複数の規定が違憲であるとして被害者の請求が認容されました。これを受けて、内閣府には「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」が設置され、政府一体となっての取り組みが始まっています。この取り組みは、2024年10月14日から16日にG7の議長国であるイタリアで開催された「インクルージョンと障害」閣僚級会合においても、日本の担当大臣として出席した三原じゅん子大臣が強調されるとともに、出席したJDFメンバーからも優生思想との戦いが優先事項に組み入れられるべき課題である旨を発言した結果、この会議の最終日に採択されたソルファニャーノ憲章において「ableism」という文言が挿入される等、大きな成果を得たということができます。
このように、国際的な情報共有と意見交換の機会に積極的に参加することが、今後のJDFの取り組みとして、重要性を増していく活動であると考えています。
JDF政策委員会では、以上のような取り組みの他に、障害者権利条約や総括所見の内容を日本各地に根付かせるための普及・啓発活動を、活動の大きな柱としています。具体的には、地域フォーラムを全国各地で継続的に行い、2023年度は愛知、熊本で開催し、2024年度は福島、富山で開催した他、奈良での開催が予定されています。各地域フォーラムで取り上げるテーマは、開催地の障害者団体とも協議を行い、教育、防災、選挙等、その時々で最もふさわしいと考えられるテーマを選んでいます。また、できる限り開催地の障害当事者、関係者の方々にパネリストとして登壇していただき、現在の課題や総括所見を踏まえての改善提言等を、開催地から社会に発信する機会となるような企画を立て、実践しています。
また、2024年度は、総括所見の内容をより分かりやすく解説する冊子として「総括所見のポイント解説」わかりやすい版の編集に取り組みました。このような冊子の作成は、誰もが総括所見の内容を理解するために有用なものであり、障害者権利条約の普及・啓発活動として重要な取り組みであると考えています。
日本は、障害者権利委員会による第1回審査を終えて、第2回審査に向けて動き出しています。第2回日本審査の具体的日程は、まだ先になりそうですが、総括所見の内容をどれだけ国内で実現できたのかが大きなポイントになります。JDF政策委員会としては、総括所見の内容を国内で一つでも多く実現できるよう、加盟13団体と協力しながら、着実に進んでいきたいと考えています。