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「DAISYによる教科書づくりを考える」 -欧米から学ぶ-

セッション1:各国のDAISY版教科書提供の現状

イギリスにおけるアクセシブルな教材

リチャード・オーム
イギリス王立盲人援護協会(RNIB) アクセシビリティ部長

皆さん、こんにちは。今回、大変重要なシンポジウムにお招きいただきまして深く感謝申し上げたいと思います。私はリチャード・オームと申します。イギリス王立盲人援護協会のアクセシビリティ部長を務めております。私どもはDAISYコンソーシアムの創立パートナーであることに誇りを持っています。

スライド1

(スライド1の内容)

今日、午後のこの時間をいただきまして、イギリスにおける、アクセシブル教科書を学校において子どもたちに提供している現状についてお話ししたいと思います。先ほど河村さんのほうから、学校において、優れた教科書を子どもたちに提供するすばらしい例が世界にはたくさんあるということをおっしゃっていましたけれども、イギリスにおいても、そういうような制度があるということを申し上げたいと思いますし、いかにそれに到達したかということをお話ししたいと思います。

まずイギリスですが、私どもの人口は6千万人相当であります。そういった中で2万人を超える全盲そして弱視の子どもたちがいるというふうに考えられております。そしてほとんどの子どもたちは特別支援学校ではなく、普通の学校に通っていると言われております。これはここ10年間の傾向と言えると思いますし、そしてそれに伴う課題もあります。では現在、このような教科書を作るため、どのような制度があるかということですけれども、印刷物を読む上で困難な子どもたちに、まず基本的なローテクな解決方法があります。これは皆さん当然のことと考えると思います。

スライド2

(スライド2の内容)

例えば今、イギリスの学校に行かれた場合、そして弱視の子どもがそこにいたとします。昼休みのとき、学校の教室のアシスタントが、その子が午後に使う教科書を渡され、そのテキストをコンピュータに打ち込むということになるでしょう。例えば大きな活字にする、ないしは点訳をするということもあるでしょうし、また拡大コピーをしてA 3版の大きな紙を用意するということもあるでしょう。このような形で非常にローテクな方法でサービス提供をしております。例えば同じ郡(カウンティ)の中で別の学校に行きますと、数キロ離れた所には、また別の人がまったく同じことを、同じような教科書、同じようなフォーマットを必要としている子どもたちにやっているということもあるでしょう。

これは決していい方法ではありません。非常に古めかしいやり方でありますし、この子どもたちをサポートしているスタッフの人たちは、非常に非効率的な方法を使って懸命に働いているということになります。こういったスタッフの人たちは、もっと複雑な内容のものを提供する、例えば地図・図・表などを提供することもできるかもしれませんし、もっと複雑なニーズを必要とする子供たちの仕事を本来できていたと思います。そして申し上げた通り、このような地区内のコーディネーションはほとんどありませんでした。学校同士のコーディネーションもありませんでした。英国においてはそのためのEメールリストがあります。そこでは、例えば先生が毎日のように、この点字訳はないのかとか、別の本のオーディオ版はないのかということを呼びかけております。これは、とても非効率的ですし、子どもたちのためにはなりません。

では子どもたちは、この結果どうなるか。教科書を手にするのが遅くなりますし、そしてフォーマットが適していないということがあります。ないしは、こういった教材をまったく手にしない、別のものを渡されてしまうということもあるでしょう。例えば点字で何かをもらう、しかし他の同級生が使っているものとは違うということもあり得ます。

私たちはそこで政府や教育省を相手にいろいろと話をしてまいりました。何年にもわたってこういったことをしてきましたし、他の国も同じことをしていると思います。大臣または政府高官を相手に話をしました。しかし彼らは問題そのものを否定し、問題であったならばもっと早く聞いていたはずだという答えが返ってきました。したがって私たちRNIBで、独立した組織による調査を行ってもらうことにしました。そういったことをする中で多くの教育担当の人たちと話しました。4つのそれぞれ地域における状況について知ることができました。教育担当の高官、教師、保護者、学生・生徒からもいろいろなフィードバックが来ました。「私の本はどこか?」という調査であります。「Where is my book?」というものです。

スライド3

(スライド3の内容)

学校の教室には、例えば生徒たち、いろいろな教科書、教材が配布されている。しかし弱視ないしは全盲の子どもたちは、それは手渡されないという、そういった実態がありました。そしてこの調査の結果分かったことは、例えば数学・理科ということを考えた場合、これは「キーステージ・スリー(key stage 3)」と書いてありますけれども、11歳から14歳の段階を指しています。そういった中では、数学ないしは理科の本、1冊ないしはそれ以下のものしか提供されていないということが分かりました。これは本来であれば40冊あるものであります。そしてまた「ステージ・フォア(stage 4)」、これは14歳から16歳になりましたら、まったくそのような教科書がないというのが現状でありました。これは本来であれば、その後、卒業試験を受ける、そういった年齢です。したがって個々のページごと、ないしは章だけが用意され、しかもそれは必要なときに場当たり式に用意されるというのが実態でした。

スライド4

(スライド4の内容)

私たちはこの報告書を受けて、まず最初に、ロンドンのウェストミンスターにある国会議事堂に行きロビー活動をしました。250人を超える子どもたち、また保護者、教職員、そして支援者が議会に直接くり出しました。これは非常に面白い経験であったと思います。例えば、バスで国会議事堂の前に来て、そこから誰かが出てくるといった場合です。例えば、議員の人たちというのは、有権者に対し困っていることなどの話をするという場面があると思いますけれども、ここに子どもたちがプラカードを持って、国会議事堂、ビッグベンの前でデモをしたわけです。そしてこのプラカードには「Where is my book? I want the right to read」、つまり「私の本はどこにあるのか、読む権利が欲しい」ということを言いました。このことををきっけかに大臣や貴族院、下院の議員と話をしました。そして教育省にも随分圧力をかけ、何とか実現してくれと働きかけました。しかし時間はかかりました。

スライド5

(スライド5の内容)

2007年5月1日、私たちは、この教科書のアクセスの開発についての特別なブリーフィングを行いました。英国において教育は、いわゆる分権化が進んでいます。イギリスにおいては4つの国があると言ってもいいからです。イングランド、ここが一番大きいのですが。そしてスコットランド、そしてウェールズです。ウェールズには第2の言語としてウェールズ語というのがあります。これは英語と同じ地位を与えられています。そして北アイルランドがあります。それぞれの国において別の制度があります。そのため、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから講演者を呼びました。そして今日のような感じでしたけれども、例えばアイルランドでは何が起きているか。そしてまたアメリカで何が起きているかという海外の話も聞きました。ここには、RNIBですとか、その他アドボカシー団体が集まりました。これらの団体は、成人、子ども、全盲、弱視の人たちを代表しております。教育者、保護者、教職員そして出版社も出席をしました。

スライド6

(スライド6の内容)

私たちは、そういった中で、先ほどの方がおっしゃっていたようなことが随分認識されました。もちろん私たちの組織の中でこの問題は明確でありましたが、いわゆる全盲・弱視ではなく、他の理由から読み書き、読むのが困難な人たちもいるのだということが、そこで指摘されました。したがってこのイベントにおいては、様々なこういったニーズを持った、特にディスレクシアの団体の代表も加わることになりました。

私たちは依然として圧力をかけ続けました。こういった議論を公の場で展開しました。そして、教育研究所という、ロンドン大学にあります非常に権威ある研究所をもとに、国際的なモデルを作ってもらいました。アクセシブルなカリキュラムの教材をどのように提供しているかの国際モデルを出してもらいました。それから何回も議員を相手に会議を開き、その点に関しては、私たちのロード卿、貴族院の議員でありますけれども、彼が政府の大臣等に圧力をかけてくださいましたし、議員にも圧力をかけてくださいましたことに深く感謝申し上げております。

スライド7

(スライド7の内容)

それと同時にまた保護者からも、数多くの議員に手紙が送られました。そして最後、ようやく昨年の5月6日に、アドネス卿という教育大臣が次のように言っております。

「視覚障害やディスレクシアにより、印刷物を読むのが困難な子どもたちに教科書を提供する現行の制度に我々は満足していません。RNIBはRight to Read(読む権利)というキャンペーンを行いました。そしてこのキャンペーンを通じ、電子図書の不足が大きな障壁になっていることが明らかになりました。我々は、学校が、電子フォーマットの学習教材にアクセスできる、持続性のあるモデルを開発したいと考えています」。

スライド8

(スライド8の内容)

これはあたかも彼らが思いついた言い方のように書いてありますけれども、そういった細かいことにはこだわらないつもりであります。いずれにしても我々の懸命な努力の結果、ようやく政府はこれを問題として取り上げ、利害関係者を集め、何とか解決策を見いだそうという、そういった動きに出ました。

ということで、教育省は今パイロットプロジェクトを監視するための運営グループを作りました。この中にはアドボカシー団体の代表、例えばRNIBも含まれておりますし、またディスレクシアの組織の代表もおります。また教育者、その中には、今現在補助的な教科書を作っているような人たちも含まれますし、出版社の人たち、また学校に様々な教材を提供しているような人たち、政府高官が含まれています。

スライド9

(スライド9の内容)

ジョージ・カーシャさんが先ほど規制へのアプローチについてお話をされました。これは出版社の関与が少なかったかもしれないと指摘されていましたけれども、私たちは何とか全員が一緒になってコンセンサス作りをしようとしております。この問題に関する我々の答えです。

政府はパイロットプロジェクトを発表しました。これは初めてで、2009年から2011年にかけて実施されます。そのもとで学校に対し電子フォーマットの教科書が提供され、学校側でそれにもとづいて、例えば大きな活字、またはオーディオ、点字、デジタルコピーを作ることができるでしょう。そういった中でDAISYが非常に大きな役割を担うことは確かであると思います。

私たちは何年にもわたって出版に関して政府に働きかけてきました。このようにお金を出してくれたことは初めてのことであります。これは快挙であると思っております。そしてこれはまさに出版社、技術を提供する側、そして学校の連携によって実現したものと感じております。

ですからこの画面にはシャンパンがはいった2つのグラスが乾杯しているという、これこそが進歩であると思います。前進です。しかし毎週過ぎていく中で、その間に教育を受けられない子どもたちが出てきます。したがって私たちとしては、引き続きRNIB、そして保護者、アドボカシー活動を続けなくてはいけないと思っております。圧力をかけ続けるべきでしょう。出版社、そして教育省に対し、できるだけ早く解決策を見いだすよう働きかけるつもりであります。

スライド10

(スライド10の内容)

したがって私たちは、今も政治・メディア活動を続けております。私が来る1週間前の話ですけれども、私はテレビのインタビューを受けました。そしてまたラジオのインタビューを2本受けました。これは今の問題です。マスコミ・メディアも、今大変関心を示してくれている問題でもあります。

スライド11

(スライド11の内容)

ではここで結論を申し上げたいと思います。イギリスにおける教訓です。まず調査で証拠をつくり出すということ、これが大変重要でありました。私たちはこれまで、例えば子どもたちが必要な教材を手にしていない、ないしは教育者が非常にストレスを感じていて、懸命に何とかいい方法がないのかを考えているという、そういった実態はありましたけれども、それをもっと確固たる証拠で示すことができたことは大きかったと思います。

スライド12

(スライド12の内容)

また保護者が政治家に対し、そして出版社に対し苦情申立をしたこと、これも重要でありました。それを通じ、いかにこの問題が大きいかということが認識されたと思います。

スライド13

(スライド13の内容)

それからまたアドボカシーグループ同士の連携が重要でありました。RNIBにおいては、当初、これは全盲そして弱視の子どもたちだけの問題であると考えましたけれども、そうではありませんでした。したがって同僚の人たちと一緒になって、ディスレクシアに取り組んでいる人たちと一緒になって、もっと強力なメッセージを発信することができました。英国においては、これはおそらく市場を中心とした解決策になるでしょう。出版社に対し対価が支払えることになれば、これはもっと強力なモデルになると思います。そして、このような利害関係者と一緒になって、出版社、学校側、すべて含めた同盟を作っております。もちろん今現在、電子出版そしてまた電子版の教材を作ろうとしているでしょう。私たちは印刷物の重要性も、もちろん重要であると思っております。そしてそれをデジタル化しようとしていることも重要だと思いますけれども、しかしようやくここにおいて、デジタル化カリキュラムに基づいて、すべての人たちがアクセスできるものを作ろうとしているこの動きに歓迎したいと思います。

このパイロットプロジェクトが2011年に終わる予定であります。そしてそこで出てきたものは、必ずや持続可能性を持ったものでなければならないと思います。したがってもっともっとキャンペーンが必要でしょう。必ずや必要な予算を獲得するためには働きかけが必要です。スウェーデンと同じです。

そして私は単一の技術の解決策に頼ってはいけないと思います。出版社の技術はどんどん変わっております。そして子どもたちが学ぶツール、道具も変わってくるでしょう。したがって我々が開発するものは、こういった技術の変化に対応できるものでなくてはなりません。そしてDAISY技術のように、それをもっと発展させなくてはいけないと思っております。

我々が直面している課題の1つ、これは私たちが小規模な学校におけるパイロットプロジェクトをやるにあたって経験したことでありますけれども、学校にあるITのためのリソース、そしてまた教職員の技術的なスキルは、まちまちです。したがって、こういった電子媒体を使う人たちは、必ず子どもたちのために、きちんとした研修を受けるということも必要であり、そのためのサポートが必要です。申し上げたとおり4つの教育制度があり、2つの言葉があります。したがってそれだけに英国においては問題が非常に複雑になっております。

スウェーデンにおける制度の話を伺いました。これは大学生を対象にしたものでありますけれども、例えば高校までは何とかうまくいった、しかし大学に行ってからはうまくいかなくなったといった事態もあり得ると思いますので、この点も今後考えていかなくてはいけないと思います。新しい時代において教科書へのアクセスが大きく改善されるという時代を期待したいと思います。適切なファーマットで、電子的なファイルが用意され、それを通じて教科書に対するアクセスがそれぞれのニーズに対応する形で実現できればと思いますし、DAISYがその中核をなすと考えます。ご清聴ありがとうございました。

スライド14

(スライド14の内容)