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未来の学習教材 読み書きの障害/ ディスレクシアがある人々のために
要求事項及び潜在的なニーズに関する調査報告

DAISY

録音図書や点字図書の制作及び図書館サービスの運営の他に、TPBには、読みの障害がある人々のための新たなメディアの研究開発に積極的に貢献するという仕事もある。この件で、TPBは、特に1990年代に大きな成功を収めた。録音図書は以前はカセットテープに録音されていたが、今ではDAISYフォーマットのCD-ROMで制作されている。DAISYは国際的な標準規格で、TPBの要請で、ラビリンテン AB社という会社によってスウェーデンで開発された。もはや録音図書はカセットテープでは制作されておらず、以前制作された録音図書はDAISYフォーマットへと変換される予定である。

DAISY図書のディスクを聞くには特殊なDAISY再生機器が必要で、その再生機器には、慎重に考慮された検索機能やその他の役に立つ機能が数多く備わっている。この再生機器は、主として視覚障害者のニーズを重視しており、そのために読みの障害がある目の見える人々にとっては、役に立つ点よりも不便な点の方が多い。その上、大変費用がかかるので、読み書きの障害/ディスレクシアがある生徒のうち、ほんのひとにぎりしか、学校でこれを使う機会にめぐまれていない。

DAISY再生機器を利用できない人々は、コンピューターでCDを聞くことができる。Playback 2000というリーダーのプログラムが、TPBのウェブサイトから無料でダウンロードでき、これによってDAISY再生機器の優れた機能が多数使えるようになる。目次や章番号のリストが画面に表示され、ユーザーは、旧来のカセットテープ版の図書よりも、より速くかつより正確に頭出しすることができる。しかし、録音図書の制作は著作権法によって制約を受けるため、ユーザーは文書中のテキストを検索することはできない。

結論

PISAの調査は、スウェーデンの学校の多くの生徒が科学や数学(おそらく他の教科も)の教科指導から利益を得ることができずにいること、そしてそれが主に読解力の不足によることを示していた。移民や、スウェーデン語が第二言語である生徒と、社会的・文化的な刺激が少ない生徒は、主に単語の解読に問題があることが原因で読解力が低い生徒とともに、弱者のグループであるといえる。

これまでは、主として本書で問題にしているグループを対象とした教材に関するニーズのリストは何もなかった。そこで、今このような要求事項の作成に関連した要素を採り上げることは、当然の流れといえよう。ここで検討することは、これまで実施されてきた活動への批判としては考えられるべきではない。これまでの活動が、周知のニーズに関連したものであったことは間違いないのだから。しかし、これまでの活動を批判的な視点で検討することで、現実とニーズとの間の埋めなければならないギャップが明らかにできるのである。

このコンピューター画面は、Playback2000のプログラムのウィンドウで、読者が今どの章を読んでいるのかを示している。音声が読み上げ、カーソルが文章を辿り、ユーザーはどのページが再生されているのかが分かる。また章番号をクリックすると、音声がすぐにそこを読み上げ始める。

要求事項における結論の多くは、FMLSやスプロ‐カロス(印刷された言葉へのアクセス)を含む様々なプロジェクトを通して得られた知識を基にしている。この知識は、www.fmls.nu/sprakaloss
に掲載されている記事の形で、或いはこの分野で研究や活動をしている人々によるディスカッションを通じて、プロジェクトの編集チーム内外から生まれた。更に結論は、FMLSがメンバーを通じて持っている知識や、FMLSが運営するスクリーブ・クヌーテンといわれる情報・助言サービス機関を通じて持つ知識も基にしている。このサービス機関は、文字通り直訳すれば、「書く集団」を意味するスウェーデン語であるが、1986年以来、教育的・技術的な革新をとりまとめ、普及する活動を行っている。

障害者のニーズに合わせた指導を担当するスウェーデンの政府当局は、SIH(スウェーデン国立障害児教育研究所)であったが、現在は、スウェーデン特殊教育学会(SIT)が行っている。しかし、SITの仕事には、この特別なグループのために教材を開発することは含まれていなかった。とはいっても、この要求事項に取り組む間、SITの専門知識がTPB図書館の知識とともに、レファレンスグループにおいて、関連機関から派遣された職員とのディスカッションを進める際に活用された。

読みやすい図書センターと、LL財団は、読みの能力の基準に基づいた読みやすいスタイルのガイドと作業形式を、開発した。そして今日では、幅広い範囲の図書を出版しており、8 SIDOR(8ページ)という雑誌も発行している。更に、文章を書く人達に、読みやすい文章の書き方の研修も行っている。1990年代には、センターはその対象をディスレクシアの人々へも拡大するよう命を受けた。この拡大が正確にはどのような形を取るかは、逆に対象となるグループをどうとらえるかにかかっており、また、FMLSを通じて得られた知識をどう活用するかにもかかっている。読みやすい図書センターは、それ故、スプロ‐カロスプロジェクトの編集チームとレファレンスグループにも参加している。センターは、教材の制作はしていないが、センターで制作しているものの一部は、学校で副読本として利用されている。

スウェーデン教育局による録音教材の試用と、エヴァ・スヴァールデモ・オーベルによるコンピューターを利用した指導の調査研究は、問題のグループにとって主要な目的は、文章の知的レベルを下げることではないと言う考え方を支持している。前述のヨーナスの例では、深刻な読み書きの障害がある中学生でも、高校生用の社会の教材を聞く機会がありさえすれば、それに取り組むことができることを示していた。この例を初め、数多くの似たような事例が、問題の解決策は、情報を取り入れる様々な方法を提供することであると示している。調査ではまた、「生徒の自主活動」を促す指導が学校でますます行われるようになればなるほど、一般の生徒とは別の読む機会を与えることが、より重要になってくることが分かる。

言語自体について言うならば、この特別なグループのニーズは、全般的な学習障害がある人のニーズとはいくつかの重要な点で異なっていることが、多数指摘されている。抽象的な概念、あまり使われない言葉、同義語や従節のある文を避けることが必然的な結論なのではなく、むしろ生徒が意味を理解できるようなやり方で、これら全ての事柄を扱う方法を見つけるのが望ましい結論だといえる。

それには、文脈の特性や、いろいろな言葉を利用する一方、情報の密度や推論・因果関係及び叙述スタイルに関して注意を払い続けることが必要である。

以上のことに加えて、レイアウトの問題も無視してはならない。LL財団はこの分野における多くの専門知識を一つにまとめたが、それは私たちが対象としているグループにも適用できる内容である。しかし、ここでもまたユーザーのニーズは多様である。ビョーン・ウィマン氏は「読みやすく書く」の中でこう記している。「言葉に関してのみいえることだが、私たちが対象とする読者は、背景となる情報と重要な情報とを分け、大事な部分とそうでない部分を区別するのが難しいと感じている。」スヴァールデモ・オーベルによる調査では、深刻な読み書きの障害を抱えていたエレーンは、代わりに絵や写真、映像を見ることによって学んでいた。「エレーンは絵や写真や映像で見たことを記憶して結びつけることは簡単であると感じていた。だから、詳しい絵や写真がたくさん載っている教材が彼女にとって役に立つであろう。」

文章とレイアウトについては、全ての読者に適切なことが、読みの障害はあるが、目は見えて知的能力も普通の人々にとっても、同じ様に当てはまる。つまり、上手に書かれた文章とよいレイアウトが基本となる。読みの経験が豊富な読者は、文章やレイアウトがいい加減でも、それが下手であるとわかるので、我慢することができる。しかし、経験不足の読者は、自信がないことが多く、稚拙な文章やレイアウトを、自分が理解できないのが悪いと考えてしまうのだ。そこで、解決策は、「簡単な」文章を書くのではなく、第一に、「理解できる」文章を書くということだといえるであろう。

最後に、TPBがもともと対象にしていたグループである視覚障害者についてだが、視覚障害者は、特に1990年代に、読み書きの障害/ディスレクシアがある人々と図書館を共有しなければならなくなった。しかし、ディスレクシアの人々のニーズは視覚障害者のニーズと一部しか共通していなかった。このためTPBの仕事に新たな局面が加わった。それが、DAISYフォーマットで、TPBはこの開発に参加した。DAISYは、TPBやSITが開発している方法よりも遙かに大きな可能性を秘めている。著作権侵害に関するスウェーデンの法律URL §17 セクション2により、TPBやSITは、特定の対象グループにとって偉大な進歩となるであろう本格的な図書制作に、既存の文章を使うことができないからだ。その上、TPBは図書をメディアとし、図書館を施設として組織されている。しかし、DAISYフォーマットは、CD-ROMやインターネットなどあらゆるタイプのテキストに使うことができ、貸し出しもできれば、市場で販売することもできるからである。

1993/94年の予算案決議で、読み書きの障害/ディスレクシアがある生徒のために代わりとなる教材が関連出版社によって制作されることが決定された。これにより、SITとTPBが読み書きの障害があるユーザーのニーズを満たす機会は制限されることになった。しかし、TPBが高等教育のための文献に取り組むことで得た知識と経験、特に担当者のネットワークや流通ルートは、義務教育、中等教育及び成人教育の分野では匹敵するものはない。

新たな技術の可能性

読み書きの障害/ディスレクシアがある生徒のための技術開発に関して、1990年代にある程度全体論的な見方を採用するようになったのは、スウェーデン・ハンディキャップ・インスティチュートであった。FMLS(スウェーデン・ディスレクシア協会)と緊密に協力しながら、同インスティチュートは様々なプロジェクトを支援し、関心を持つ団体の協力を得ることができた。1990年代初期には、同インスティチュートは「コンピューターとディスレクシア」というタイトルの報告書を出版した。その後、スウェーデン・ハンディキャップ・インスティチュートは、FMLSがスウェーデン相続基金財団による3年間のプロジェクトをFMLSの主催で企画するのを支援した。このプロジェクトは、ディスレクシアの人々のために職場でコンピューター化を進めた結果をまとめ、広めることを目的とし、FMLS内部でもITの利用についての知識を普及しようと意図していた。後に更に別のプロジェクトによって、FMLS内でIT実用化の実現が進められた。国際的なアクセシビリティーの規定に従ったウェブサイトが設けられ、ノーモスという会社が、ラボでの調査とインタビューとの両方の方法でこれを評価した。そしてFMLSの中心的な機能がコンピューター化された。これは、FMLSが、ディスレクシアの人々のニーズに基づいて得た知識を、その他の人々の関心が高まるにつれて、広く提供できるようになったことを意味している。

スウェーデン・ハンディキャップ・インスティチュートとFMLS(スウェーデン・ディスレクシア協会)は、今後のDAISYフォーマットの可能性を理解し、FMLSはロセルヴォ 社に協会の設立条項をDAISY図書で制作させ、それにはテキストも使われた。制作には、DAISY標準規格を設定したラビリンテン社のLp-studioが使われ、読みとりをする機器(スクリーンリーダー)は、Lp-playerと呼ばれた。Lp-playerはPlayback 2000よりも更に進歩しているが、これも主に視覚障害者が利用しやすいよう、デザインされている。

読み手/聞き手は、音声とテキストを使って、DAISY図書を読み進める。この時、カーソルがテキストを辿っていく。全ての使われている言葉について、簡単に検索することができ、ブックマークをつけ、自分自身のコメントを書いたり、口頭で録音したりすることもできる。ただし、これらの機能は、利用者のニーズに比べると、明らかに不足している。

DAISYフォーマットによるFMLSの設立条項。左マージンでは、定款の内容を3つの大きな見出しで示している。その一つをクリックすると、各章の小見出しが提示される。カーソルがテキストを辿り、どの文または従節が読まれているのかを示す。TPBの録音図書や読みとりソフトのPlayback 2000とは異なり、ここでは全てのテキストの検索ができる。

FMLSはまた、メディアクベーン社とともに更に進んだ製品を製作した。それは、「団体業務におけるIT」というタイトルのトレーニング用CD-ROMである。この教材は、絵や写真、映像を使っており、文字で書かれたテキストと口頭によるナレーションの間には、結局の所違いがあるという事実に基づいて製作されている。この教材では、いろいろな人がテキストの内容について自分自身の言葉で語るフィルムクリップを使っており、これによっておそらく読解の問題を更に補うことができるであろう。各フィルムクリップのアイコンごとに、テキストを停止できるよう、読みとり機器が設定されており、視聴者はこれによって積極的な選択をしなければならなくなった。つまり、映像を見るか、あるいはテキストを更に読み進めるかである。このように視聴者を刺激することは、集中力の問題を解決するのに役立つ可能性がある。

このような製品が市場に出回るようになれば、現象や出来事を描写するために映像をもっと積極的に使うことも当然考えられる。

市場の出現

読者が今手にしている、「未来の教材」という冊子のスウェーデン語による原本は、制作及び印刷費として約145,000スウェーデンクローネかかった。これに更に40,000スウェーデンクローネほどを加え、前述の音声・テキスト・絵や写真を含むDAISYフォーマットによるCD-ROMをつけることができた。追加費用が、制作費全体に割り振られるのなら、これは手頃な価格であり、明確な需要がありかつ経済的な実行可能性が保証されるなら、全ての教材をこの方法で制作することは十分可能であるといえる。

コンピューターに付属のCDを入れて試してみるといい。そして、もし自分に深刻な読みの障害があったらこれがどんなに役に立つかを自問してほしい。CDには本書で言及した記事へのリンクが全てはいっているので、全ての資料にアクセスする最も簡単な方法は、このCD-ROMを使うことである。

これと並行して、ラビリンテン AB社はまたDAISY図書制作機器の開発も進めている。Lp-studioの後続としてAudio Publisherが開発されたが、これを使うと、テキストを直接プログラムに書き込んだり、Wordの文書のようなテキストファイルやHTML文書から移し替えたりすることができる。材料となるテキストは、指定されたとおりに自動的にマーキングされ、ユーザーはこれを自由にレイアウトし、また自動マーキングを調整することもできる。音声は、画面に表示されたテキストを読み上げることによって直接録音できるし、ダビングも可能である。その他、音声合成装置によりテキストから迅速かつ簡単に合成することもできる。

FMLSのIT トレーニング用CD-ROMで、ユーザーはテキストを聞いたり、読み上げられている文や節に印をつけたり、映像を映しながら内容を朗読させたりできる。

同時に、テキストはDAISY標準規格にのっとって自動的に変更される。その後、音声もいろいろと編集され、製品が完成すると、今度はMP3フォーマットに圧縮され、標準的なコンピューターで全ての作業が行えるようになる。この結果、2002年秋にこの機器が売り出されれば、学校の教師や生徒に利用されるようになるであろう。

1950年代にDBF(視覚障害者協会)が行った様に、FMLSは今後の望ましい方法を示すために、独自の製品の製作を始めた。FMLSは製品の評価と開発のための資金を受け取り、更に、ラビリンテンAB社と共同で読みとり用機器の開発を行うために、スウェーデン相続基金財団に資金援助を申し込んだ。これによって、対象となるグループのニーズを完全に満たし、また製品を大変安く、できれば無料で配布することさえもできるようにすることを目的としていた。

しかし、前述のように、DAISYは単なる図書やCD-ROMのフォーマットではない。それは、既にインターネットで使われている、国際的な標準規格なのである。それ故、未来の教材は様々な方法で配布され、また読まれるようになるであろう。例えば、DAISY図書を聞くためにコンピューターを使わなければならないということはない。これまでVictorのような特殊なDAISY再生機器が利用されてきたが、その価格は約8,000スウェーデンクローネなので、読み書きの障害がある生徒はほとんど使う機会がなかった。フィリップス、サムスン、パナソニック、ソニーそしてその他のメーカーが、現在一般の音声CDに加え、CD-ROMも読める個人用ステレオを販売しているが、それらはMP3のファイルを再生できる点で特殊である。一般のCDで10枚か11枚のディスクが必要な図書でも、DAISYフォーマットを使えば、一枚のディスクにまとめられる。

これらの個人用ステレオの価格は、同等な標準規格による他のモデルと変わらず、およそ2,000スウェーデンクローネである。このようなステレオには、DAISY専用の再生機器に見られる機能全てが備わっているわけではないが、ユーザーは簡単なボタン操作によって章から章へと前後に移動することができ、またブックマークをつけることができる。2002年秋に、アメリカのテレックス社が同程度の価格の再生機器を売り出したが、これは一般の個人用CDプレーヤーよりも少し大きく、2倍の厚みがあった。しかしこれにはビクターについている全ての機能が備わっており、ユーザーは特定の頁番号へと直接移動することもできる。

従来のビクターDAISY再生機(左)と一般のCDとDAISYのCDの両方が再生できるサムスン社の個人用ステレオ

以上全ての製品は、読みの障害がある生徒や、読むのが遅い生徒にとって新しい世界への扉を開くものである。このような生徒達は、音楽を聴くのと同じ機械で学校の課題を聞くことができる。もしその後本を使って勉強し、絵や写真、その他の図式的な資料を使って勉強しなければならないなら、または、あるパラグラフについて単語を説明してもらったり、検索したりする必要があるなら、生徒はコンピューターにCD-ROMを差し込めばいい。このためには、教材をDAISYフォーマットで、国際的な標準規格に従って制作しなければならない。しかし、このように再生できるからと言っても、文章が改良されるわけではなく、文章の書き方が下手であれば、それがそのまま再生されてしまう。このため、教材は、企画の段階から既に読者のニーズを考慮して作られなければならない。読み書きの障害がある読者のニーズは、更に経験が豊富な読者のための文章をも、よりよくすることとなるであろう。本書の序文、すなわち要求事項に関する部分で、教材や指導におけるこのようなニーズについて説明しているので参考にされたい。