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平成19年度パソコンボランティア指導者養成事業

セミナー
障害者IT支援とパソコンボランティアの展望
報告書

基調講演「障害者のIT支援ボランティアとは」

司会●

それでは最初に基調講演としまして、浦和大学総合福祉学部の学部長で教授でおられる寺島彰様に「障害者のIT支援ボランティアとは」というテーマで、これからパネルディスカッションにつながるお話をしていただきたいと思っております。少し設定に時間がかかりますので、お待ちいただければと思います。携帯電話などはお切りくださいますよう、お願い申し上げます。それから今日の情報保障としまして磁気ループ、手話通訳、要約筆記が用意されております。皆様のお手元には、今回の講師の方々の資料が入っております。講師の方に応じたものをお探しいただいて見ていただければ、講演自体が分かりやすいかと思います。それではご準備よろしいでしょうか。お願いいたします。

寺島●

講演する寺島氏

皆様、おはようございます。ご紹介いただきました、浦和大学総合福祉学部、寺島と申します。最初にお詫びしなければならないのは、最近、学部長になりまして異常に忙しくなったために、事前にパワーポイントの資料を視覚障害者の方にお送りしていないのです。非常に申し訳なく思っております。ついさっきと言いますか、3時間ぐらい前にこの原稿もできましたので、もしご希望がありましたら私にご連絡いただければ、パワーポイントの資料をお送りします。それからこのリハビリテーション協会の「DINF」というホームページがありますが、そこで、セミナーの資料はいつもすぐにアップしていただいていますので、そこをご覧いただければありがたいと考えております。画面上にあることは口頭で話しますので、ご容赦いただければありがたいと思っております。

本題に入らせていただきます。私は研究テーマが二つあります。一つは、以前ソーシャルワーカーとして16年間働いていたということがありまして、福祉機器を活用したソーシャルワークというのを一つのテーマにしております。それからもう一つは、以前厚生省で働いていたことがあって、障害者施策をもう一つのテーマにしております。

本日は障害者施策の観点から、パソコンボランティアもそろそろ次の段階に入っていくべきではないかと考えておりまして、今後のICT支援のパソコンボランティアのあり方について考えるところを述べさせていただきたいと考えております。

なぜ次の段階に入っていくべきと考えるかということですけれども、一つは、現在、日本が新保守主義、いわゆるネオコン、ネオコンサバティズムという流れに乗っているわけですけれども、この流れはどうも止まりそうにないということであります。ネオコンは市場原理主義を標榜しておりますので、ほとんどの産業はお客様を相手にするということになります。世の中を見ていただけば分かりますように、病院では今「患者様」になっていますし、福祉でも「利用者様」になっていますし、それから今後ひょっとしたら学校でも「生徒様」とか「学生様」になるのではないかと、ちょっと恐れておるのですけれども、そういう形がどんどん進んでいくのだろうと思います。そうすると、私たち、例えば市場に乗らないような方たちに対する支援というのは、なくなっていく、市場では難しいということになってしまうということになりますので、そういった人たちに対する支援というのは、ある意味ボランティアの方に頼らざるをえないのではないかと思います。これはもう必然というような流れになっているのではないかと考えております。

さらに、私たちはお金のためだけに働いておりませんので、例えば、生活するには収入が必要ですけれども、それだけではなくて、「ありがとう」と感謝されるとか、あるいは未熟な学生や子どもが成長することで社会のために貢献できるのではないかとか、障害のある人もない人も一緒に住みやすい世の中を作っていこうとか、そういった目的も持って働いているはずなのですけれども、そういったところを発揮できるとところ、そういう自分たちの心を発揮できる、感情の発露であるとか、そういうところが、どんどんなくなってくるという、もう一つの要素もあると思います。

先ほども申しましたように、一つは市場原理主義が浸透してきているということと、もう一つはそういった、いわゆる「福祉の心」と言いますか、そういう感情をどこかで発揮するような、そういう場面がどんどんなくなってくるのだろうという意味で、今後は、ボランティアが活躍する分野がかなり広くなっていくのだろうと考えます。

日本はあまりボランティア文化が根付いておりませんけれども、例えば、新保守主義の権化とも言うべきアメリカでは、実際はボランティア活動は、ものすごくやられているわけです。それはやはり人間の心の中にある、そういった優しい心と言いますか、福祉の心というものを、どこかで発揮したいという気持ちが自分たちの中にあるのだろうと考えます。

ちなみに私が考えている「福祉の心」といいますのは、「権利哲学に基づき社会に対する貢献をしたいという気持ち」のことです。例えば、ただただかわいそうだから障害のある方を助けるとか、そういう意味ではありません。まず基本は障害のある方、それからいろんなすべての人たちの人権を守るという前提に基づいて、できないところは支援する、支援することで、その人たちにも役に立ちたいし、社会にも役に立ちたいし、逆にまた、いろいろ教えていただくことで自分たちもよくなりたいと考えます。あまり、「やる側」「やられる側」とか「提供する側」「受ける側」という区別はしたくないとは思っております。それが「福祉の心」です。

少し前置きが長くなりました。現状の障害者のITに対する状況はどうなっているのかということで、最初に現在の障害者のICTに対する政府の支援についてまとめたのが1枚目のパワーポイントです。以前はたくさん政府の支援がありました。例えばもうご存じだと思いますけれども「障害者情報バリアフリー化支援事業」と言って、パソコンの周辺機器やソフトなどの購入費を助成したことがありました。平成13年からあったのですが、市町村で残っているところもありますけれども、国の施策としてはもうなくなっているわけです。それから「パソコンリサイクル事業」も平成14年からありましたし、「パソコンボランティア養成・派遣事業」が同じく平成14年からありました。「障害者ITサポートセンター」が平成15年から始まっていて、現在、18年4月の統計によれば、23の自治体で、ITサポートセンターが普及しています。現状では、障害者自立支援法に基づくICTに対する政府の支援が行われています。市町村の地域生活支援事業では、いわゆる「バーチャル工房支援事業」というのがあります。あまりこれは十分機能していないと思いますけれども、都道府県の地域生活支援事業の中には、同じように「バーチャル工房支援事業」や「障害者IT総合推進事業」があって、この中に「ITサポートセンター」が含まれるわけです。

国のレベルの政府の支援としましては、この日本障害者リハビリテーション協会が委託を受けております「パソコンボランティア指導者養成事業」や国立身体障害者リハビリテーションセンターでの福祉機器開発、福祉用具法に基づく指定法人であるテクノエイド協会によるデータベースの作成や支援があるということになっております。

今、都道府県のレベルでは、「障害者IT総合推進事業」が、メインの事業になっており、その中の「ITサポートセンター運営事業」、「パソコンボランティア養成・派遣事業」、「その他障害者のIT利活用を支援する事業」が実施されています。たぶん、ここに来ていただいている皆様方は、「ITサポートセンター」や「パソコンボランティア養成・派遣事業」に関わっておられる方々が多いのではないかと思われます。これは先ほど申し上げましたように、障害者自立支援法の中にある事業です。ITサポートセンターは、23自治体で、パソコン等の利用相談でありますとか、教室の開催でありますとか、パソコンボランティアの活動支援などを行っています。

次に、現在の障害者のICT支援の環境と状況について、次に考えてみます。まずICTの有効性ということについては、ここにおられる皆様には、言わずもがなと思われますけれども、ICTが障害のある方にとっても役に立つというのは明らかです。私も、かなり前ですけれども、盲人かなタイプを教えていました。その頃は、視覚障害の重度の方は、かなタイプしか打つことができず、普通の文字は打てないという状態でした。それがパソコンの普及に伴い、現在では、訓練・練習が必要ですけれども、音声化をすることで、あるいは点字ディスプレイを使うことで、重度の視覚障害の方が自由にパソコンを使いこなすことができるようになっているわけです。それを使って職業を行っている方もおられますし、日常生活を豊かにしているという方もたくさんおらます。そういったことは、たぶん、皆様方に言う必要はないと思いますが、そういったICTの有効性というのは、現実にいろいろなところで理解されてきているということがあります。

ただし、一方で支援者の不足の問題があります。一昨年にあった調査ですけれども、「平成17年度地域におけるインターネットパソコンを利用した障害者情報支援に関する調査」(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/it2005/index.html)では、こういったことが示されています。
(アンケート調査結果参照:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/it2005/anke.html

支援技術に対する情報が不足していると答えられたボランティアの団体の方々が22.7%でありますとか、支援者が技術を習得する時間がないとか、支援者が技術を習得する場所がない、支援者が足りない、十分な予算がないといったことが多く回答されております。パソコンボランティアに対する支援が十分ではないという状況が感じ取れます。

一方で活発なボランティア活動を行われているボランティア団体も、多くおられます。同じ調査で、88か所を調査をしに行ったのですが、非常に多様な活動をされておられる。去年、本セミナーに来ていただきました札幌チャレンジドの皆さんもそうでした。あるいは、対象となる障害も幅広く、身体障害に限らず精神障害、知的障害の皆さんを支援しておられるボランティアもある。非常に活発なボランティア活動が全国で行われているという状況もあります。

また、逆に、公的機関は不十分な支援体制でしかないという状況が一方であります。先ほど申し上げましたような行政機関の支援がありますが、以前あった事業がなくなっていたり、ITサポートセンターの職員はほとんどが委託職員であったりという実態があります。公的機関が財政赤字を抱える中で、障害者の方のICT支援を十分できていないという実態もあります。

市場形成の困難性ということで、先ほど申し上げましたけれども、市場原理主義に基づけば、重い障害の方への支援は市場では適さないわけです。私も以前盲ろうの方に支援したことがありますけれども、1年や2年かかってしまうくらいの訓練期間が必要になるわけです。それにかかる費用を市場で果たして賄えるのかということが問題です。時給1,200円ぐらいで毎日、週2回で2年かけるとか、そういうものが果たして市場として成り立つかというと、きっと成り立たないのだと思うのですね。特に障害者の方は、まずお金を持っていない方が多いですから、その費用は払えないでしょう。そうすると、そういった人たちは市場には乗らないということで、訓練を受けられないということになるわけです。

このような環境のもとで、ボランティアに対する大きな期待があるわけです。これは、いい悪いの問題ではなくて、行政の補完ということも考えられるわけですけれども、そのあたりは少し議論を抜きにさせていただきまして、困っている人たちにどういうふうに支援するかという観点から言ったときに、動かざるをえないと言いますか、先ほど言っていました「福祉の心」だとか、そういうところから発すると、行政の補完だって、そういうニーズのある人を放置するわけにはいかないという観点からお話しておりますので、そのあたりの理解をお願いいたします。そういうことで、今後パソコンボランティアに対する期待は大きいものがあります。

先ほど申し上げましたように、環境的にもITサポートセンターが全国に普及しているとか、あるいはパソコンボランティアの養成を行っていて、たぶん、今、全国に2,000人ぐらいのボランティアの方がおられるのだと思います。もっと多いかもしれませんが古い統計しかないので、平成16年ぐらいで1,200人ぐらい養成されているというのがありましたので2,000人、あるいは、もっと増えているのだと思いますが、そういった方たちを今後どんなふうに支援していくのかということについては、次の段階にはいってきたのではないかと思います。先ほど申し上げましたように、市場原理主義の流れ、それから環境が整備されてきたというようなことから、次のステップに行くべきなのではないかと私は考えております。

今後のパソボラへの期待として、まず、全国展開をしたいということがあります。現状では、大都市中心のボランティアですけれども、地方に行きますと、まだまだ障害のある方が外に出てこられないという状況もありますし、パソコンボランティアと言っても、とても技術が伴ってないというような方もたくさんおられるようです。私の母親は78歳で田舎でボランティアをやっているのですが、帰省したときにいろいろ質問されるのですが、むしろ本人が逆にどっか行って教えてもらったほうがいいんじゃないかというようなことを聞いてきます。しかし、ボランティア精神だけはあって、なんとか教えようとしているらしいのです。そういった一定レベルのボランティアの能力が全国的に必要だろうと思うのです。私の生まれた町は小さな町ですので、そういった人たちが勉強する機会は全然ないのですね。社会福祉協議会がありますけれども、ボランティアセンターはもちろんありませんし、社会福祉協議会で働いている人でさえパソコンがまったくできないということが結構あったりしますので、大都市中心から市町村への展開ということも期待されるのではないかと思います。

つぎに、一定の質の確保が求められるのではないかと思います。先ほど申しました「福祉の心」や人権哲学は最低限理解していただかないといけないと考えています。リハビリテーション協会が実施していますパソコンボランティア指導者養成講座では、最初にこのことを話させていただいております。人権を守るということを基本にするという理解をいただくことを行っています。それから、障害を理解していただく。いろいろな障害についての理解が必要です。また、ハードウェア、ソフトウェア、それから支援技術の獲得など、一定の質の確保がボランティアの方にも求められているのではないかと思います。

例えば、視覚障害の方にスクリーンリーダーを教えるときは、タッチタイピングは自分でできないといけないと思うのですね。そういったものを、ではどこで学習するか。それはまだ次の課題になると思いますが、資質としてはそういうものが求められるのではないかと思います。

それから、高度なボランティアに対するニーズの高いものがあります。必要に応じてハードやソフトを迅速に開発するとか、あるいは職業的な支援を可能にする技術や要員を提供できるだとか、信頼性の高い支援を提供できるだとか、そういったシステムを今後必要としているだろうと思います。実際にこれをやっておられるボランティアの方たちもおられるのですね。もちろん公的な補助を受けておられたりもしますけれども、例えば、去年来ていただいた札幌チャレンジド、あるいは仙台のボランティアグループでは自らがハードを貸し出すようなシステムを持っているということも聞いております。

もう一つは、継続的に支援できるシステムが必要だろうと考えます。ボランティアの大きな目的の1つは自己実現ですから、ボランティアを辞めたいときはいつでも辞めれば良いのですが、ただ、組織としては、そういう個人的な変化・変動を吸収できるようなシステムが要るのではないかと思います。ハードやソフトは、1回作っただけではダメです。それを継続してサポートできるようなシステム・制度がなければいけないということです。よくある話ですが、2億円も3億円も使って研究として何か作っても、1回作っただけで後は何もサポートがされないということがあります。そかしそれでは、意味がないわけで、継続的に支援できるようなシステムを、パソコンボランティアではあっても、今後整備していかなければならないと思います。ハード、ソフトを作り続けること、それから、ハードやソフトをサポートし続けること、さらに、ハードやソフトをバージョンアップしていくこと、ハードやソフトをニーズに応じてカスタマイズできること、利用者に継続的に情報提供できること、利用者の必要に応じて使用方法を指導できること、そういったシステムが必要だろうと思います。

それから、地域での連携が必要です。先ほど申し上げましたシステムを市町村レベルで作るということは、一つの小さな町では実現できないと思いますので、いくつかの市町村が連携して、多様なボランティアを受け入れる、そして、役割分担をきちんとするとか、あるいは連絡をうまくできるように連絡体制を整備する、あるいはボランティア自身を支援するシステムをつくる、そういった連携が地域にあるべきだろうと思います。先ほど申し上げましたように、現状では、都道府県レベルでしかITサポートセンターがありませんけれども、それでは不十分です。やはり直接、すぐに、困ったときに、自宅に行くかどうかはいろいろ議論があるところですが、相談に行ける体制みたいなものがあったほうが良いと思います。

多様なボランティアを受け入れるシステム作りとしては、地域の関連機関が連携して、ニーズに柔軟に応えられようにする。いろいろなボランティアがいても構わないということ実践していただく必要があります。私は、以前、カナダに住んでいたことがあるのですが、病院の受付のボランティアがいて「私はボランティアで病院の案内をしています」と言っていました。そういったボランティアもありますでしょうし、パソコンボランティアでいえば、パソコンボランティアをコーディネートするボランティアとか、そういうものもあり得る。気軽にボランティアができる募集のシステム作りをもっと普及していくべきだろうと思います。

また、有償・無償の整理も必要です。調査によれば、うちは全部無償ですということを言われるところもありますし、1,000円頂いていますというところもありますし、そういったところはそれぞれの組織にお任せするのもいいのですけれども、何らかのガイドラインみたいなものがあったほうがいいかという気がします。

それから、役割分担の明確化についていえば、、ボランティアですべてやれるわけではありません。社会的に採算の乗る部分は企業がやって良いと思います。例えば、市販の製品開発であるとか、集団教育である、あるいは採算が取れない部分だけれども社会的に意義があり信頼性を求められる部分については公的機関がやる。リハビリテーション訓練は公的機関でやったほうがいいです。危険があったりしますので、資格のある方がきちんとやったほうがいいと思います。ボランティアは、採算は取れないけれども社会的に意義がある、自由度の高い活動をする。そういったことを、ただ別々にやるのではなくて連携を取りながら、例えば、リハビリテーションの専門家と連携を取りながらボランティアをやる。そういったところは実際にやられている所もいくつかありますけれども、制度化するほどにはなっていません。

有償・無償のバリエーションをもったボランティアを養成する、福祉機器貸出、研修会開催、個人・グループのボランティアのネットワーク形成、そういうものを中心に市町村でやる。都道府県では、市町村ネットワークの形成を中心にしたシステム作り。国レベルでは、都道府県レベルのネットワーク化、それから権利関係の処理、例えば、著作権、工業権、意匠権の処理は国がやるべきです。また、海外の情報取得のようなものも国レベルのシステムとして今後整備していかなければならないのではないかと考えております。

30分という短い時間でしたので、あまり十分にお話しできなかったかもしれませんけれども、以上でお話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

司会●

寺島先生、どうもありがとうございました。IT支援と国のレベル、市町村レベル、そういった関わりをお話ししていただきました。