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話題提供1「共働学舎の今まで35 年、これからのイメージ」

宮嶋 望
農事組合法人共働学舎新得農場代表
NPO 共働学舎副理事長

講演要旨

1.共働学舎の35 年

1974 年の春から長野県で信州共働学舎が「自労自活」をモットーにはじまる。
1978 年に北海道・十勝の新得町で4 番目の新得農場を開設。新得町の誘致を受け、町有地を30ha 無償で借り受け、6 人ではじめる。
2009 年には全国で5 箇所、130 人余りが共働学舎のメンバーとしている。新得農場は半数以上の68 名は新得のメンバーで、88ha を使用し、酪農、チーズ製産、有 機野菜生産、工芸などを行いながら1億8千万円の売り上げに達し、ほぼ、必要な経費は自ら賄えるようになってきた。
「さくら」チーズは世界のナチュラルチーズの品質に手が届いた。

集まってきた人は
自閉症、癲癇、弱視、統合失調症、躁鬱、引きこもり、LD,アスペルガー症、ホルモン異常症、サリドマイド症候、舞踏病、ホームレス、弱視、DVなど社会適応の難しかった様々な困難を背負った人たち。

彼等は社会が解決できない問題を伝えに来てくれた「メッセンジャー」。
そのほかにチーズ、有機農業、共同生活、などを体験したい人などゆっくりした生活をしつつ、生産を挙げ自立を目指すことに興味のある人たち。

共働学舎の法的枠組みは
1974 年から2006 年までは任意団体として寄付を集めながら維持してきた。
2007 年にNPO 法人格を取得。

新得農場
1981 年から農事組合法人を取得、生産法人として活動。
2006 年NPO 法人取得時に、生産力が大きく寄付の金額と収益事業の収入が大きくNPO 法人に組み入れてしまうとバランスを崩すとの指摘を受ける。
そこで、生産法人とNPO 法人が並立させ、両法人間で労働委託契約を結び、事業を行っている。

2.ゆっくりな人たちの隠された能力、可能性を引き出す

自主性を全面的に認める

朝食のあとのミーティングで「今日・・をやります」と自己宣言する。
片方では動物の餌やり、搾乳、畑の管理等、仕事は毎日あることは皆判っているので、自分のできることを自分で探し、皆、「・・をやります」と宣言し、主体的に「仕事」を捉えるようにしている。
この仕組みで本人たちにはストレスは最小限となり、自己決定力がつく。
可能性を引き出す環境要素、「生きている場」は人も微生物も同じ。

エネルギー(気)が流れる場を作ることで人も微生物も活かすことが出来る。

  • 自然素材を使った住宅、牛舎、生産施設、チーズ工房、熟成庫
  • 炭を埋める技術で室内空気の清浄化、畑の治水、生産向上
  • 自然の仕組みを活かしたBiodynamic、微生物農法、野菜、粗飼料生産
  • 炭、セラミックを使った浄水器で飲用水、加工水を改善、微生物コントロール
  • 微生物、炭の効果で畜舎の消臭、ハエの駆除、微生物コントロール

*鬱傾向の人の気分を、陽を当てることで改善 建物の構造

3.‘70 年代に起こったこと

  • イタリア、トリエステでのバザーリア医師が精神病棟を開放
  • 米国、ウイスコンシン州マディソン市の市民がボランティアでPTSDの若者をケア ーするオープンな仕組みを作り、マディソンモデルとなる。

*注目されているオープンケアーの社会システムは‘70 年代に芽が出てきている。

4.共働学舎が進むべき方向は?

  • 共働学舎を必要としている人々と共に自立した生活を可能にするビシネスモデルを包含した仕組み。
  • 自立心を持つことで、ケアー・介護の必要性は最小限に。
  • 共同生活をすることでおたがいの状態は認識しやすい。
  • しかし、いつかは必要になるケアーの仕組みを地域社会と協力して(有料)ボランティアなどを活用し作る必要がある。

ソーシャル・ファームの枠組みに、現在の新得共働学舎の仕組みはしっくり収まるのではないだろうか!?


講演

こんにちは。北海道で共働学舎新得農場というちょっと変わった牧場をやっております宮 嶋望といいます。

1.共働学舎の35 年

スライド1
(スライド1の内容)

共働学舎というのは僕の親父の宮嶋真一郎が35 年前に始めました。1974 年の春に「自労 自活」をモットーに、長野の信州の共働学舎が始められました。それから4年後の1978 年に 僕がアメリカから帰ってきまして、北海道の新得町に入植しました。それは町有地を30ha 分 無償で貸してあげようということでした。そして4番目の農場として新得農場を開設しまし た。
最初、6人のメンバーで始めました。この写真のように長野も北海道も非常に冬寒いところ ですが、三十数年前に始まった共働学舎が、今どうなっているかと言いますと、全国で5ヶ所 に増えまして、130 人あまりの人たちが共働学舎のメンバーとして在籍しています。そのう ちの半分の68 名が新得のメンバーで、新得農場が一番大きくなってしまいました。半分以上 を占めているということになります。

牧場のサイズはどのくらいかと言いますと、88ha、恐らく来年は96ha になると思います が、その土地を使いながら酪農、チーズ製造、有機野菜の栽培、それから工芸、その他を生産し ておりまして、総売上は1億8,000 万円ぐらいになってきました。これはどれくらいの規模 かと言いますと、68 名プラス実習生がいますが、70 名以上の人たちが毎年使う生活費はほ とんど自分たちで賄えるようになったということです。
どうしてそうなったかと言いますと、自分たちが生産しているチーズが、非常に質の高いも のと評価されて、ヨーロッパの世界の山のチーズオリンピックというので金賞をいただいた り、グランプリをいただき、品質が世界レベルに達したということで非常に売れるようになり ました。

スライド2
(スライド2の内容)

さて、共働学舎は5ヶ所ありますと言いましたが、長野の方に2ヶ所あります。これは立屋 と呼ばれるところでお米を作っています。これは真木部落と言いまして、歩いて4km も山を 登らないといけないというところですが、古い古民家があり、非常に景色のきれいなところで す。そこでもお米、野菜を作っています。それから北海道の留萌郡小平町寧楽というところで は、豚を飼ってソーセージや卵などを生産しています。東京にもありまして、小さなワークシ ョップですけれども、クッキーを焼いています。ここでは年をとった方たちもボランティアと して来てくださり、それから女性たちが通ってクッキーを焼いているというワークショップ を持っています。新得の方は4番目でして、牛を飼い、そして主にチーズを作っている。こうい った北海道と長野県、東京に散らばっていますけれども、連携を持ちながら活動をしていると いうことになります。

スライド3
(スライド3の内容)

集まってきている人たちはどういった人たちがいるかと言いますと、いろいろな困難を抱 えている人たちがいます。自閉症、てんかん、弱視、統合失調症、躁うつ、引きこもり、LD =学 習障害、アスペルガー症、ホルモン異常症、サリドマイド…いとまがないくらいあるんですが。 それから舞踏病、これも難しいですね。それからホームレスをやっていた人たち、それからド メスティック・バイオレンスなどの問題に巻き込まれてしまった人たち。こういった社会の中 にうまく適応できなかった、そして困難を背負った人たちが集まってきます。

スライド4
(スライド4の内容)

困難を持ってくるから大変だと思うのは当然なんですが、僕は逆に、この人たちは社会が解 決できなかった問題を伝えにきてくれた「メッセンジャー」だととらえることにしています。 ということは、もしかして僕たちが彼らと一緒に生活して問題を解決できたら、これはものす ごく社会に対して、逆にお返しするものがあるだろうと考えるわけです。 そうすると、そういうことに興味がある人たち、それから共同生活、有機農業、チーズ作りな どをゆっくりなタイプの生活をしてみたいという人たちも集まってきます。みんなで一生懸 命仕事をして、充実した生活を目指そうというふうに集まってきた人たちが、たくさん数十人 いるということになります。
本当にいろんな人たちがいろんな仕事をしています。でもこういった人たちが、どうやって まとまった牧場の生活、生産を上げているかというと、結構意外なことがあります。

スライド5
(スライド5の内容)

その前に、法的な枠組みはどうなっているかということをご説明しておきたいと思います。 1978 年からいろんな障害を持っている人たちを受け入れているということは、社会福祉法 の枠に入らないものですから、ずっと任意団体として寄付を集めながらやってきました。た だ、国税庁からの指摘があり、税金の問題があるじゃないかということで、NPO 法人にせざ るを得ないということで、2006 年にNPO 法人格を取得しました。ただ新得農場だけは町有 地を使うということから、1981 年ですから3~4 年目からですか、農事組合法人格を取って、 生産法人として活動してきています。
そして2006 年に共働学舎全体がNPO 法人になった時点で問題が起きました。既に新得 の方で生産法人として生産していた収益事業が、全体として大きすぎると。寄付と収益事業が 半分半分くらいがNPO として適切ですよというお話から、バランスを崩すという指摘を受け まして、生産法人を外してくださいということになりました。そうすると新得町の一つの牧場 の中に二つの法人があることになります。片方は生産法人として農事組合法人があり、もう片 方はNPO 法人としての共働学舎の役目を担っている。組織として二つに分かれてしまう。で はこれをどうやってつなげようかということで、労働委託契約というのをし、労働提供をして 業務委託費という形でお金を入れているという、こういう面倒くさい仕組みを考え出しまし た。今はこれで成り立っています。ただし、一生懸命みんなが働いた生産法人の収益は、プライ ベートのカンパニーと同じように税金がかかってきます。そうすると働いている本人たちは、 何とも釈然としないという形で、一生懸命やっても自分たちの生活がよくならないじゃない かというふうに思えてしまう仕組みなんです。これをどうにかして解決したいなと思ってい ます。

2.ゆっくりな人たちの隠された能力、可能性を引き出す
自主性を全面的に認める

スライド6
(スライド6の内容)

さて、そのゆっくりな人たちと一緒に生活して、何でそんなにうまくいけるようになった の?というところに、いろいろな仕組みがあります。
まず、いろんな悩みを持ってきている人。それに、「あなたは今日何をやるんですか?」とい うふうに聞きます。戸惑います。朝食のミーティングの後に、全部自分で今日は仕事を何をす る、もしくは休む、病院に行くということを自己申告します。そうすると、片方ではやらなきゃ いけないことがたくさんあるわけですね。だけど全部自己申告でいくということは、自分たち で仕事をどうやろうかと自主的に考えなきゃいけないというチャンスを作ります。そうして いくことによって、自分は言ったことはやる、というふうにすると、当人たちのストレスとい うのは最小限になるんですね。そうすると言ったことはやるようになります。それをきちっと 評価をして、組み合わせて、牧場全体が動いているという形になります。
これで訓練されるのは、自分でものを考えて決定していく力、自己決定力がついていきま す。そうするといかに自分の人生を生きていこうかと考えるようになります。これがその風景 です。毎朝、朝食の後に何をやりますというふうに聞いています。そうすると「仕事をやりま す」と、いろんなことを言います。

スライド7
(スライド7の内容)

これは僕のトレードマークで、これはそばを刈ってるところですね。豚を飼っている人もい ます。それから搾乳をしている人もいます。建築をやるグループもあります。

スライド8
(スライド8の内容)

そして、働くことだけではなくて、ワークショップと言っていますけれども、音楽で治療効 果があるのではないかといって、うちの娘がやっています。それからこれはシュタイナーのに じみ絵と言いますけど、色を使った表現をすることで、心の中に秘められている感情が色で出 てきます。そうすることによって自分自身で気がつかなかったいろんな悩みが外に出てくる。 これが日常の生活の中にあって、自分がこれをやりたいと、全部選べるようになっています。
しかし、第一次的な活動だけではなくて、それを何に結びつけるか。生産品を加工して商品 までもっていきたい。例えば豚というのは、チーズを作ったときのホエーで育てているんです が、自分たちの食事に出てきます。それからミルクを搾ったら、チーズという商品にまで仕上 げます。

スライド9
(スライド9の内容)

それからこれは家。自分たちが必要な、障害者年金をもらっている人たちが出資してつくっ た共同住宅なんですが、彼らのケア、それから介護まで含めたことを考えた寮、共同住宅とし てつくっていきます。そして治療で始まったもの、これはフェルトボードを作っているんです が、これは統合失調症の方ですが、それを訓練だけではなくて、最終的な携帯のストラップと 言うんですか、商品にまで仕上げます。そして自分たちのお店で売っていくということをしま す。

スライド10
(スライド10の内容)

それからこれはサリドマイドの手のないI 君ですが、足でカードをかけたもの。それを引き こもりだったK 君が糸を紡いで織物に仕上げます。そしてそれがこのようなバッグに仕上が っていって、デザイナーの方がすばらしいデザインに仕上げてくださいます。これ、3万円ち ょっとで売れるっていうんですね。びっくりしますよね。ここまで仕上げていくと、収入は倍 増するということになります。

スライド11
(スライド11の内容)

このそばは、製麺だけは頼んでいるんですが、自分たちで製品にまでもっていきます。また、 小麦も作ってパンまで焼いている。そういう工夫をしています。

スライド12
(スライド12の内容)

またはこういったニンジンですとかジャガイモですとか、収穫物があります。これはニンニ クですね。トマトにカラシかな、それからチーズ。こういったものを、協力してくださる方たち に四季のあじわい便として送ります。こういうサービスを作ることで、収入が直に入ってくる という工夫をしています。ミンタルというカフェを作りまして、直に売ること、カフェで出す ということもしています。

スライド13
(スライド13の内容)

そういった人たちが仕事をするのですが、僕ら独特の方法として、一つは自然素材で住宅、 牛舎、いろんな施設をつくっていくということ。熟成庫なんかも自然の石を持ってきて。建築 法ではなかなか許可されないんですが、地下に熟成庫をつくってチーズの管理をしやすいも のを自分たちでつくる。それから、自然素材で作っていると牛たちも非常にリラックスしてい て、ストレスをかけないようにしている。そのためには下に炭を埋めています。これがだんだ ん怪しい世界になってくるんですが、後で関心があれば、ちゃんと物理的に説明いたします。
それから農業の方では、有機農業をやろうということで、僕らは家畜を持っているんで、その糞尿をきちっとした土に戻していく仕組みを持っているバイオダイナミックの方法を取り 入れて、これはドニ・ピリオさんと言いますが、九州から教えにきてくださいます。
そういったものを組み合わせて、そして自分たちの生活の環境が非常に住みやすいような、 みんなが力を出しやすいような環境を作っていくということを考えています。

3.‘70 年代に起こったこと

スライド14
(スライド14の内容)

これは地球がグルグル回っていますが、何を言いたいかと言うと、共働学舎が始まったのは 70 年代でした。同じ頃にイタリアのトリエステではバザーリア医師が精神病棟を開放し、そ れがひいてはソーシャル・ファームの仕組みにいくという、社会的な影響を持っていました。 僕はちょうど1970 年代にアメリカに4年間行っていたんですが、ウィスコンシン州にいま した。そうしたらベトナム戦争を終わった若者たちがPTSD、戦争後遺症になって、社会に復 帰できない。病院にも入れない。街にあふれてしまっていた。それをボランティアの方たちが ケアをするシステムを作っていった。それがマディソンモデルと呼ばれて、非常に今、高く評 価されています。こういった種は70 年代にあったんですね。
共働学舎も、70 年代に始まっているんだけれども、日本の社会の中のシステムとしてきち っと作用しているかというと、そうはなっていないんですね。そこでやっぱり、いいシステム だと思えば思うほど、この日本の社会の中にきちっとはまる枠組みが欲しいなというふうに 考えています。

4.共働学舎が進むべき方向は?

スライド15
(スライド15の内容)

僕ら共働学舎がどうやったらいいのだろう、どういう方向にいけばいいんだと。共働学舎を 必要としている人たちはどんどん増えています。引きこもりの人も増えていますし、いろんな 方々がどんどん入ってくる。でもそういう人たちに、今お話ししたようにビジネスのモデルを 用いた生活の仕組み、生産の仕組みをぜひ作っていこうと。そして自立心を養っていきたい。 自立心を持てると、だんだん体が動かなくなってきても、介護やケアの必要性は最小限に抑え られるだろうと思っています。
そして共同生活をすることで、お互いにいつもケアできますから、何が必要かということは わかってくる。認識しやすいということがあります。しかし、いつかはケアが必要になる。障害 を持っていれば老化が早いので、ケアを必要としてくる時間は来ると思います。もう既に来て いるかなと思います。そのときに、自分たちだけで背負うのだとなったら、とてもじゃないけ ど背負いきれないこともわかっています。ですから地域の有料のボランティア、何かわかりま せんが、協力をして、地域としてその人たちが安心して生活していけるシステムを作れないか なと模索をしているところです。

ぜひ必要なのは何かというと、先ほど出した、生産法人とNPO とが分断されていて、契約 でお金をやりとりしている。この仕組みを、ドイツのモデルから引用させていただいたんで すが、ソーシャル・ファームでくくると、一つの組織になると、その収益事業でやった収益が、 我々の生活に使えるという仕組みになります。イギリスもすばらしいなと思ったんですね。ノ ンプロフィットは税金がかからない。うらやましいなと。それから消費税が半分以下。これは うらやましい。ぜひそういうふうになれば、僕らももう少しいい生活ができるかなと思います が、ぜひそういうふうな仕組みが日本の社会でも可能になるようになったらいいなと思って います。
そういうふうに見ると、今僕たちが手さぐりで作ってきた共働学舎のシステムは、もしかし たらソーシャル・ファームにはまってくるかなと考えています。
本当はこの後にやりたかったものがあります。ソーシャル・ファームで作ったものがわかる ようにロゴマークを作ろうという話があったんですが、今日はちょっと入れられなかったん ですが、何か協働してこの考え方を社会に広げていって、自分たちが作ったものが買っていた だける、その買うという行為そのものが社会の、負担を抱えている人たちのサポートになると いうシステムを作っていけたらなというふうに考えています。

スライド16
(スライド16の内容)

これは僕のチーズの熟成庫に行くところなんですが、暗い過去を持っていた人間は多いん ですが、協力をしてものづくりをすることで道が見えてきて、光が見えてきた。これは振り向 いてふっと撮った写真なんですが、非常にいい構図なのでずっと使っています。光が見えてき たなという感じがするので、ぜひこれが、なお照らす大きな光になっていったらいいなと思っ ています。ご清聴ありがとうございます。