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CBR ジョイントポジションペーパー 2004

ILO ( 国際労働機関)
UNESCO(国連教育科学文化機関)
WHO(世界保健機関)

項目 内容
翻訳 CBR研究会訳
概要 ILO ( 国際労働機関)、UNESCO(国連教育科学文化機関、WHO(世界保健機関) により2004年に発表された改訂版CBR(地域に根ざしたリハビリテーション) ジョイント・ポジション・ペーパーの日本語版を作成しました。改訂版では、人 権と貧困削減への対応を強調しており、より包括的な内容になってます。またCBR に関する最近の文献の翻訳もまとめましたのでご高覧ください。(2006年1月発行 )

目次

1.はじめに

地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)は、障害を持つ全ての人に平等な機会を提供するために、地域社会のリーダー、障害者とその家族、その他関心のある市民の間の協力を促進します。25年前に開始されたCBR戦略は、世界中の国々で障害者の権利及び参加を推進させたり、彼らの組織(DPO=障害者団体)の役割を強化しつづけています。

1994年、国際労働機関(ILO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、世界保健機関(WHO)は、CBRプログラムの発展に対する共通のアプローチを進展させるため、「CBRにおけるジョイントポジションペーパー(合同政策方針)」を作成しました。しかし、それ以降の進歩にもかかわらず、多くの障害者は未だに基本的なリハビリテーションサービスを受けておらず、地域社会や、より広域な社会において教育、訓練、仕事、レクレーションやその他の活動に平等に参加できずにいます。最もアクセスが少ない人々には、女性の障害者や、重度・重複障害者、精神障害者、HIVキャリアの人々、貧困下にある障害者と家族が含まれます。CBR戦略の結果として、年齢、性別、障害種別や社会経済的地位にかかわらず、全ての障害者が他の市民と同じ権利と機会を行使することを保証する努力が継続されなければなりません - 「全ての人のための社会」。

これらの問題を解決するための新たな努力の必要性は、2003年にフィンランド、ヘルシンキで開催された「CBR再考のための国際会議」にて強調されました。本会議は、国連組織やNGO、DPOの協力を得てWHOが開催したものであり、本会議にて合意された提言は、この本文にも盛り込まれています。

2004年版ジョイントポジションペーパーの目的は、人権や、多くの障害者に影響を及ぼす貧困に対する行動を求めることを強調しながら、現在も発展しているCBRの概念を説明し、支持することにあります。

WHO、ILO、UNESCOは、CBRを全ての国々の地域社会における障害者のニーズを扱うことができる戦略と見なしています。この戦略は、地域社会のリーダーシップ、障害者と彼らの団体の完全参加を促しつづけます。また、地域社会のニーズや活動を支えるための多くの部門の協力と、目標達成に貢献できる全てのグループ間における協力を促進します。

2.地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)

2.1 CBRの概念

CBRは、障害を持つ全ての人々のリハビリテーション、機会均等、ソーシャル・インクルージョン(社会的統合)のための総合的な地域開発の中の一つの戦略です。

CBRは、障害者自身とその家族、組織や地域社会、そして関連する政府/非政府の保健、教育、職業教育、社会的、その他のサービスの複合された努力を通して実行されます。

2.2 主要な目的

CBRの主要な目的は、以下の通りです。

  1. 障害者が身体的、精神的能力を最大限発揮でき、通常のサービスと機会を利用でき、地域や社会において積極的な貢献者となるよう促進すること。
  2. 参加の障壁を取り除くといった、地域社会での変化を通して障害者の人権を促進、保護するよう地域社会を活性化すること。

2.3 CBRにおける概念の発展

CBRの定義と主要な目的は変わっていませんが、CBR概念や関係者の関与について発展がありました。発展したところは、障害とリハビリテーションの概念、人権の重視、不平等と貧困緩和のための行動、DPOの役割拡大の重要性に関連しています。

2.3.1 障害とリハビリテーション

障害は、もはや機能障害の結果とは捉えられていません。障害の社会モデルは、参加に対する環境的障壁が障害の主要な原因であるという認識を増加させました。

「国際生活機能分類」(ICF)には身体構造と機能が含まれますが、個人的、社会的両方の観点から「活動」と「参加」にも焦点を当てています。また、ICFには、活動を制限したり参加を規制したりする5つの環境要因が含まれます。生産品と用具、自然環境と人間がもたらした環境変化、支援と関係、態度、サービス・制度・政策です。いかなる国も、障害の原因となる全ての環境的障壁を排除できずにいます。

リハビリテーションサービスは、もはやサービスの利用者の同意と参加なしに強いられるべきではありません。リハビリテーションは、障害者や彼らの支持者が、参加を増やすためにどんなサービスが必要か決定するときのプロセスと考えられています。障害者が、何が彼らにとって適切であるかを詳細な情報を得た上で決断できるように、リハビリテーションを提供する専門職は、障害者に適切な情報を提供する責任があります。

2.3.2 人権

CBRは、障害者が地域で平等な市民として生きる権利、健康と幸せを享受できる権利、そして、教育、社会、文化、宗教、経済、政治的な活動に完全参加できる権利を促進します。また、CBRは、障害を持つ少女や少年が平等に学校教育を受ける権利を持っていること、そして、障害を持つ女性と男性が平等に就労や社会的な活動に参加できる機会を有していることを強調します。「障害者の機会均等化に関する国連基準規則」は、これらの権利を保障するために必要なステップを提唱しています。それ故に、規則は全てのCBRプログラムの指針となりました。

国連基準規則をさらに強化すべく、国連総会では「障害者の権利と尊厳の保護および促進に関する条約=障害者権利条約」を伸展させることが決議されました。CBRの戦略は、この条約の条項を実施するために理想的な枠組みを用意することができます。

2.3.3 貧困

障害と貧困には強い相互関係があります。貧困はより進行した障害を引き出し、同様に障害はより進んだ貧困へと導いていくのです。このように、障害者の大多数は貧困下で生活しています。先進工業国においてさえ、障害者は障害のない人々に比べて高い失業率であることが調査で示されています。開発途上国では障害者の多くがそこに住んでいますが、彼らの失業率と不完全雇用の割合は疑いもなく高いのです。保健医療、リハビリテーション、教育、技術訓練、雇用へのアクセスの欠如が、貧困と障害の悪循環の原因となっています。

2000年に、国連加盟国はミレニアム宣言を採択し、宣言を実施に導くために8つのミレニアム開発目標(MDGs)を定めました。全ての目標は障害に関係しており、うち3つは特に障害者とその家族に関連があります。

  1. 深刻な貧困と飢餓を撲滅する。
  2. 普遍的初等教育を達成する。
  3. ジェンダーの平等を促進し、女性をエンパワーする。

貧困削減に関して、各国は、各国のニーズや能力に適した戦略を開発することと、国際銀行やドナー、援助機関からの支援を要求するよう求められました。

MDGsに取り組むため、また貧困に立ち向かうための国家戦略に、障害者の参加を保証する方策が盛り込まれているのは最も重要なことです。CBRそのものは、地域開発における貧困削減の戦略として見なされるでしょう。障害児への教育、青年や成人の障害者の雇用、地域社会での活動に障害者が参加すること、これらを保証するための地域レベルでの努力は、開発のための国家戦略や政策のモデルとして役立ちます。

貧困削減のために働く機関や組織は、女性のための特定のプログラムの重要性を認識しています。女性は、子供たちの健康、教育、そして福祉に多大に貢献するからです。しかし、これらの特定のプログラムには、いつも決まって女性の障害者が含まれません。CBRプログラムは、女性全般の貧困削減をめざしたプログラムの中で、女性の障害者の統合を推進することに効果的なものとなるでしょう。

2.3.4 インクルーシブ・コミュニティ

今日、「インクルーシブ」という用語は、地域の普通学校や学習センターにおける完全参加のために、障害児を含む全ての子供を迎え入れる教育の提供に関連して、日常的に使われています。「インクルージョン」の原理はまた、保健、技術訓練、雇用の政策やサービスに、また地域生活全般に生かされています。

インクルーシブ・コミュニティの概念が意味するところは、障害者に既存の社会構造に合わせるような変化を求めることではなく、障害者の統合を容易にするために地域社会がその構造や手順を作りかえることです。この概念は、全ての市民と彼らが平等に扱われる権利に焦点が置かれていて、障害者を含む全ての人の権利は尊重されなければならないという事実をさらに強化しています。地域社会が自分自身を見つめ、政策、法律、そして習慣が全ての地域の人々にどのように影響を及ぼすか考えます。

地域社会には、障害を持つ少女、少年、女性、男性の参加を妨げる障壁に立ち向かう責任があります。例えば、地域社会の多くの人々は、障害者に開かれている機会の種類を限定するような信条あるいは態度を有しているかもしれません。政策あるいは法律には、障害者を締め出すように作用する規定が入っているかもしれません。傾斜路よりもむしろ階段であったりアクセシブルでない公共交通機関のような物質的な障壁があるかもしれません。このような障壁によっても、就労機会へのアクセスを減らしてしまうかもしれません。

CBRは、障害者だけではなく地域社会の全ての人々に利益をもたらします。例えば、地域社会が障害者のためのアクセス向上をもたらす改善を行うと、地域社会全ての人々の生活もまた楽になります。

2.3.5 障害者団体の役割

今日、DPOはCBRプログラムの開始、実施、評価における重要な役割を担う準備ができています。同時に、DPOは、より多くの障害者に影響を及ぼしたり、彼らの代表者としてもっと積極的になろうとする努力をしています。DPOは、CBRプログラムを強化する資源として認識される必要があります。

ほとんど全ての国で、DPOと障害児の親の会が設立され、強化されています。女性の障害者は、既存のDPOの中で彼女ら独自の支部を立ち上げたり、あるいは、別の組織を創設することを始めています。こうした取り組みによって、地域、国家、国際レベルで女性と男性の障害者双方の参加と影響力が飛躍的に増加しました。

多くの場合CBRプログラムにおいて、DPOの役割には、全ての障害者に彼らの権利について教育すること、これらの権利を保障する行動を主張すること、サービスや機会にアクセスする権利を行使するために仲間と協力することが含まれます。

CBRプログラムにおいて主要な二種類のDPOが、積極的な参加者となっています。機能障害の種類に関わらず障害者を代表するクロス・ディサビリティの組織と、視覚や聴覚といった特定の機能障害をもつ人々だけを代表するシングル・ディサビリティの組織です。

CBRにおいては、両方のタイプのDPOがそれぞれの役割を持っています。クロス・ディサビリティの組織には、国家レベルから地域レベルまで活動し、平等なアクセスを含む権利について指導者や政策立案者に影響力を持つ重要な役割があります。シングル・ディサビリティの組織もまた、特定の機能障害を持つ人々のニーズについて助言することで全てのレベルにおいて重要な貢献をしています。

CBRや他の障害関連のプログラムが障害者と彼らの代表によって計画され、実施されることは必要不可欠です。DPOには、障害者のニーズを知らしめるために全ての障害者のニーズを明らかにし、また、それらのニーズに対応するために適切な手段を講じるようにする権利と責任があります。DPOの力が弱いところでは、CBRプログラムは地域社会の開発において、個人の権利、サービスへのアクセス、彼らの完全参加を促進する能力を高めることでDPOに力を与えることができます。

CBRプログラムに完全に参加するために、障害者の中には手話通訳や点字の設備、ガイドや移送サービスを必要とする人もいます。移送サービスやアクセス可能な情報の欠如、困難なコミュニケーションの存在は、DPOの発展とDPOのCBRへの参加に対する重大な障壁になります。

3.誰がCBRを開始するか

CBRのための地域社会の行動は、省庁やNGOといった地域外の刺激にからしばしば始まります。地域外の代表者と最初に議論したあとに、CBRを現在行われている地域開発活動の一部とするかどうか決めるのはまさにその地域社会です。地域開発委員会、障害者団体、その他NGOのようないろいろな地域のパートナーが、プログラムに対してリーダーシップを発揮したり責任を負ったりします。一旦、地域社会がCBRプログラムを開始すると選択したなら、CBRプログラム管理者は、訓練、照会サービスへのアクセス、資源の動員など必要な支援を提供します。

4.CBRの基本的要素

CBRには地域社会とDPOの関与が必要です。しかし、地域社会やDPOは単独では障害者の平等な機会を保証するようには働きません。国家政策、管理構造、様々な省庁の支援、NGO、その他関係者(多部門協力)が必要です。

CBRを開始するための国のアプローチは、多くの方法があります。しかし、CBRプログラムを持続させるために役立つ共通な要素もあります。これらには、

  1. 政策、調整、資源配置を通した国レベルの支援
  2. 人権に根ざしたCBRプログラムの必要性の再認識
  3. 障害を持つ地域のメンバーのニーズに対する地域社会の支持
  4. やる気がある地域ワーカーの存在

CBRのこれら重要な要素に取りかかるためには国レベル、中間・郡レベル、地域レベルでの行動が必要です。

4.1 国レベル

中間レベルの管理や地域にある政府機関の関与に加えて、国家政策や支援はCBRプログラムの必要不可欠な要素です。地域社会と国レベルとのつながり方は、国の管理構造やCBRプログラムを促進し支援する特定の省庁によって変わります。しかし全ての状況において国家政策は、CBRプログラム全体の優先順位や計画の指標に必要です。

4.1.1 国家政策

政府はリハビリテーション、機会均等、障害者の社会的経済的統合のための政策や立法の責任があります。そのような政策には、一つの戦略としてCBRと関連する内容が含まれているかもしれません。

障害に関する国際的な法律文書や宣言は国家政策作成の指針になります。障害者の機会均等化に関する基準規則、国連児童の権利に関する条約(第2条、23条)、障害者の職業リハビリテーションと雇用に関するILO第159号条約と関連する第168号勧告、特別なニーズ教育に関するユネスコ・サラマンカ声明と「全ての人に教育を」行動の枠組み、プライマリー・ヘルス・ケアの一部としてリハビリテーション・ケアを確立したWHOアルマアタ宣言、女性の地位向上のための北京行動要領(第60、82、175、232節)

国家政策は、障害に関する地域的な宣言を考慮に入れるかもしれません。例えば、アジア太平洋障害者の10年宣言、アフリカ障害者の10年、アラブ障害者の10年、米州における障害者に対する差別撤廃条約などです。

4.1.2 国によるCBRの調整

多くの国では、効果的なCBRプログラムのために必要とされる多部門協力を保証するためには、全国的な調整機関が必要であると気づきました。調整方法は、政府のアプローチ方法によって変わるでしょう。例えば、CBR支援を協力する様々な省庁の代表者で構成された全国調整委員会であったり、一つの省庁がCBRプログラム支援を調整する責任を負うかもしれません。

4.1.3 CBRの管理構造

国のCBRプログラムでは、政府が率先して管理上の役割を果たします。通常、ある省庁が先導役となり、組織的な枠組みを提供します。どんな省庁でもCBRを開始することは可能ですが、多くは、保健、社会問題に責任がある省庁であったり、教育省、労働省によって行われます。

ある省庁がCBRプログラムを開始し調整するかもしれませんが、労働省、社会問題省、教育省、保健省の関与が成功のためには必須です。これらの省庁はお互いに協力するだけではなく、障害者の参加と関連がある問題に対処しようとする全ての省庁とも協力します。例えば、住宅、輸送、農村開発に関する省庁などです。財務省の関与はCBRの財政的な支援を保証するために大切です。

CBRを支援する全ての部門の協力は必須です。これは特に、地域社会支援として照会サービスが提供されている中間・郡レベルで重要です。

協力して仕事をすることは、NGOのみならず全ての省庁にとってとても大切なことです。ある省庁が組織的な構造を提供するとしても全ての部門は、CBRプログラムに参加している地域社会が支援サービスや資源にアクセスできるように保証することにおいて重要な役割を果たします。

4.1.4 資源の配分

国の資源は様々な方法でCBRに配分されるでしょう。CBRプログラムの様々な面を支援する基金の直接配分もあります。例えば、訓練や支援サービスの強化などです。他の方法として、特に貧困削減戦略プログラムを目的とする全ての開発的なプログラム開始時に障害の要素を含むことです。政府は、NGO、企業、メディアにCBRを支援するよう推奨できます。

4.1.5 国の支援がないCBRプログラム

政府機関と強いつながりがあるCBRプログラムは通常単独で行われているCBRプログラムよりも強い影響力があります。政府の支援がなければ、地域社会のグループやNGOが始めた小さなCBRプロジェクトを始めることができます。しかし、それらの影響力は限られたものになるでしょう。もし、小さいプロジェクトが政府のサービスと結びつくことができたなら、それらは持続可能なものになりそうです。

4.2 中間・郡レベル

各国は、様々なレベルでのCBRプログラムの管理方法について決定します。ある国では調整員がいて、場合によっては各管理レベルにおいて委員会があるでしょう。経験上、中間・郡レベルが地域社会の支援のための調整として鍵となります。そのため、CBR管理者を置いたりCBRに責任がある中間・郡レベルの委員会が特に重要です。

4.2.1 CBR管理者

CBRプログラム管理者は通常プログラムの組織的な枠組みを提供する省庁で働いています。例えば、社会問題省がCBRの担当ならば、社会福祉担当官がおそらく仕事の一つとしてCBRを担当するでしょう。保健省が担当ならば、プライマリー・ヘルス・ケアの人員がCBRの担当になるでしょう。理想的にはCBR管理者の中に障害を持つ男性や女性がいるべきです。CBRプログラム管理者の職務には、プログラムの実行やモニタリング、地域ワーカーの訓練に関する支援や教育、様々な地域委員会との結びつき、委員会と他の資源との連絡をつけることが含まれます。

4.3 地域レベル

CBRは地域社会に属するので、地域社会の代表者はCBRプログラムの計画や実行、評価に関与しなければなりません。

4.3.1 CBRの必要性の認識

CBRの必要性のための地域啓発はプログラム開始前に必須です。CBRプログラムが地域外から開始されたときは、地域社会はそんなプログラムが必要とは信じていないかもしれません。中間・郡レベルのプログラム管理者は、CBRの必要性や利点についての啓発を行うためそれぞれの地域社会で働きます。管理者は障害者自身、その家族が彼らのニーズを明らかにできるようにするでしょう。地域のミーティングを通して、必要性が議論され、地域社会はCBRプログラムを通して、調整された方法で必要性の表明をするかどうか決定することができます。

4.3.2 地域社会の関与

もし、地域社会が障害者のニーズを表明すると決定したなら、CBRプログラムを開始する過程を始めることができます。CBRを実行する一つの方法は、村長や町長を頭とする現存する地域開発委員会やその他の組織のリーダーシップを活用することです。この委員会は、地域の開発活動を管理します。このような委員会は、CBRを支援するための協力しなければならない多くの政府・民間部門の調整者として適しています。例えば、地域開発委員会は、教育部門と協力して統合教育を行うこともできるし、交通省と協力して障害者がアクセスしやすい交通システムを開発することもできるし、ボランティア組織と協力して障害児の世話をすすんでやるボランティア組織を作ることもできます。そのため、両親は家の外の用事を済ませることができます。

障害児や障害者の平等参加のための地域社会の行動は、国により、また一つの国の中でも大きく異なります。地域社会が、障害を持つ市民の統合に責任があると国の政策でうたわれているとしても、地域の中には優先順位が高くないところもあります。一方、地域開発委員会のメンバーは、CBRには特別な関心が必要であると決定して、別にCBR委員会を作るところもあるかもしれません。そのような委員会には、地域開発委員会の代表者や障害者、その家族、教師、保健ワーカー、その他関心のある人々が含まれるでしょう。

CBR委員会は、地域の障害者によって認識されたニーズに対応する責任があります。地域における彼らのニーズを掘り下げ、地域の外で得られる障害者のための支援サービスについての情報を集め、共有し、必要なサービスを作り、強化し、調整するために、支援サービスを提供する部門と一緒に働き、学校、訓練センター、職場、レジャー、社会活動の場面で障害者の統合を促進すように働きます。これらの仕事に加え、地域社会はその活動を支えるための基金を集めます。

CBR委員会のメンバーは地域における多くの問題の解決方法を知っているかもしれません。しかし時には教育、労働、保健、社会、その他の部門の専門家から追加的な情報が必要になるかもしれません。例えば、家族メンバーは、家での障害者の日常生活改善方法についての情報を求めているかもしれません。ボランティアや地域ワーカーは、障害者や家族を支援するための訓練が必要かもしれません。教師と職業指導員はクラスにいる障害児や障害を持つ青年の扱いについて訓練が必要かもしれません。経営者は職場を障害者用に改造する方法について助言が必要かもしれません。

従って、情報交換はCBRの重要な要素です。すべての部門は地域社会と情報を共有して、お互いに協力し、障害者に提供する特定なサービスを強化してCBRを支援すべきです。

4.3.3 地域ワーカー

地域ワーカーはCBRプログラムの中核を構成します。彼らは通常、障害者を支援する活動をするために毎週時間を使うボランティアです。障害者と家族は、CBRワーカーとして重要な貢献をすることができます。時には、教師、保健ワーカー、ソーシャルワーカーがその役割のために時間を提供します。関心がある地域住民も時間を提供ように奨励されます。

CBRワーカーは障害者や家族に情報を提供します。その中には、日常生活での簡単な仕事についてや手話を使った会話、白杖を使って動くことなど自立を改善する簡単な自助具の作り方などが含まれます。地域CBRワーカーは学校や訓練センター、職場、その他の団体と連絡を取り、利用しやすくしたり、統合を促すために障害者の代弁者として活動します。さらに、CBRワーカーは地域の外で手に入るサービスの情報についても提供します。障害者の家族とそのようなサービスの間の連絡係として活動します。

CBRワーカーの責務を基にすると、障害者やその家族がこの役割にピッタリだと分かります。障害者団体の参加がCBRプログラムで増すにつれて、障害を持つCBRワーカーの数は増えています。それにもかかわらず、もっと多くの障害者がCBRワーカーとして関与する必要性があります。

CBRワーカーの募集と訓練、彼らのやる気を維持し、転職を抑えることは地域リーダーやCBRマネージャーの大きな課題の一つです。定期的な現職教育や最も良いワーカーを年に1度表彰することや感謝状、制服の提供などの奨励策がCBRボランティアに提供されるかもしれません。これはその国やその地域社会の習慣によるでしょう。

5.CBRのための多部門支援

CBRでは、地域社会を支援したり、障害者のニーズを表明したり、障害者団体の役割を強化するために、多部門の協力が重要です。政府の省庁間の協力に加えて、省庁とNGO、民間部門の間の協力も必要です。地域社会と地域レベル、中間レベルの照会サービスとの協力も必要です。また、地域レベル、中間レベル、国レベルでの様々な照会サービスの間でも協力が必要です。ある一つの部門で、地域、中間、国レベルで協力することによって、適切な照会システムが開発され提供されるようになります。

5.1 社会部門からの支援

社会問題に関する責任の所在は国によって異なりますが、表明された共通の問題は、障害年金、技術的支援と適合技術、住居、職業訓練、雇用、他部門からのサービスが必要な人に対する照会の調整があります。もし、社会問題省がCBRを開始したなら社会福祉担当官がプログラムの管理者になるかもしれません。

社会問題省は地域レベルでは人材がいないかもしれません。しかし、郡・中間レベルに配置された人は郡・中間レベル以内の社会経済的状態や資源についての知識に詳しいのが普通です。これらには非政府部門の情報も含まれます。この情報はCBRにとって大変役に立ち、特に障害者の職業技術訓練や職場機会の発見について役立ちます。社会問題省からの人材は、他の省庁からの人材と同様に、地域資源について、障害を持つ女性、男性や家族に助言することができます。

5.2 保健部門からの支援

世界保健機関(WHO)は健康を身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であって、単に病気でないとか虚弱でないということではない、と定義しています。アルマアタ宣言(1978)では、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)はすべての人に健康をもたらす鍵であると述べています。さらに、PHCは健康増進、予防、治療、社会復帰のサービスを適宜提供しながら、地域社会の主要な健康問題を解決する必要があると述べています。

保健システムは通常、補助具も含めて、医療的ケアとリハビリテーションサービスを提供する責任があります。最も基本的なリハビリテーションサービスは、障害者がいる地域社会でそこにある資源を使って行われます。PHCはこの意味において提供者と支援者の両方として大きな役割を果たすことができます。多くの障害者は彼らの地域の外にある専門的なリハビリテーションサービスに照会される必要があります。PHCの人材は、障害者と理学、作業、言語療法士、義肢装具士、矯正外科など専門的なサービスとの結びつけを強化することができます。

PHCはCBRの活動も支援します。地域レベルでは通常は保健やリハビリテーションの専門的な人材は存在しません。そのため、PHCの人材は、機能障害の早期発見と障害者に基本的な介入を提供する責任があります。さらに、彼らはリハビリテーションの知識と技術を地域、特にCBRワーカーに伝えることができます。

保健部門は、リハビリテーションはPHCの一部であることを保証し、PHCの人材に障害やリハビリテーションに関する訓練を提供するための重大な努力が必要です。また、保健部門は、PHCの人材やCBRワーカーに対してよりよい支援となるような専門的なサービスを強化することができます。最も効果的になるように、リハビリテーションサービスは、保健システムのすべてのサービスと協力しなければなりません。また教育、労働、社会問題の各部門とも協力し障害者の平等な市民権を保証する必要があります。

5.3 教育部門からの支援

もし、すべての人に教育を、というゴールを達成するためには、地域社会と教育部門の協力が欠かせません。途上国では、90%以上の障害児が学校へ行っていないので、これらすべての子供たちが教育を受けられるよう保証する対策が取られなければならないのは明らかなことです。地域の学校はこの仕事に中心的な役割を果たします。

教育部門は普通学校システムの中にある地域の学校をもっと統合的にするような支援をして、CBRにとって重要な貢献を果たすことができます。例えば、子供たちがきっちりとしたカリキュラムに合わせるように期待するのではなく、全ての子供のニーズに合うようにカリキュラムの内容や指導方法を変えることも含みます。学校には、すべての子供に質の良い教育を提供するため指導方法を変えるような支援が必要かもしれません。学校システムの中には、地域の学校と共有できそうな知識や技能を持った人が多くいます。例えば、特別なニーズがある子供たちだけを教えている学校があります。そのような学校の先生は、地域の学校の先生にとって資源として役に立ちます。既に統合教育が行われている学校は、他の学校がすべての子供たちのニーズに答える方法やすべての子供たちに尊厳を持って扱う方法、どのようにしてモデルの学校になるかについて、助言することができます。

通常の学校システムは、学齢期のすべての子供たちの教育に責任を持たなければなりません。これには、障害のある少女に焦点を当てることを含みます。これは地域によってはしばしば見落とされてしまうことがあります。このために、地域社会は非常に重要なパートナーとなります。なぜなら、まさに地域にはすべての子供たちに開かれている統合学校が、正当な場所をもっているからです。広範囲で付加的な支援が必要な重複重度障害をもつ子供たちは、特別クラスで教えてもらうかもしれません。それは、外部からの支援がどのくらい得られるかによります。学校システムにおいて特殊学校は重要なパートナーであり、普通学校がより統合教育を推進するための資源として利用されるでしょう。

すべての人に教育を、を推進するため、教育部門は、統合学校における新しい役割に応じて、普通学校教師と特殊学校教師の両方に、開始時研修や現職研修を行うべきです。教室や設備、教育物品が使いやすいものになるようにもすべきです。教育部門は、教育の質や障害児の教育的評価に責任があります。ある国では、これは医療の責任となっているところもあります。障害児を病気の子供として扱ってはいけないことを強調しなければなりません。彼らのニーズと願望はすべても子どのたちのそれと同じものです。

5.4 雇用・労働部門からの支援

生産的できちんとした仕事は、障害を持つ女性と男性の社会的、経済的統合にとって必須のことです。生計を立てることは、その人に収入や自尊心、帰属意識、更に大きな地域社会で貢献する機会を提供します。CBRと雇用・労働部門の協力は地域レベルで障害をもつ青年と成人が訓練と仕事の機会にアクセスしやすいようにするためには欠かせないものです。雇用・労働部門は職業訓練、雇用、良い仕事環境を推進しています。社会サービス省と同様に、職業訓練、雇用、労働の担当省庁は、通常の訓練施設や専門的な訓練センターやプログラムを通して職業リハビリテーションや職業指導、技術指導を提供し、社会的経済的な統合を促進することができます。雇用・労働部門は、国家政策や法律によって平等な雇用機会を奨励します。この部門で組織された雇用サービスは、障害のある求職者が、開かれた労働市場で雇用機会を探すために役立ちます。さらに、官公庁は障害者を雇うことによって良い見本を示すことができます。

地域社会レベルでは、雇い主指導者や地元企業とのインフォーマルな見習い制度は、障害を持つ個人に仕事に就けるようになる技術を学び、実践経験を得る機会を提供することができます。産業界は職場内研修を提供したり障害者を雇用したり、障害を持つ企業家を指導したり、職業訓練センターに必要な最新で緊急的な技術について助言したりしてCBRに価値ある支援を提供することができます。小規模企業開発プログラムは、商業技術訓練や顧問サービスを提供することができます。それらは、障害者も含む女性や男性が、自分自身の事業を始め、自分を雇うように支援するために融資を利用できるようにします。そのようなプログラムはしばしば貿易や産業を担当する省庁や独立した政府機関、NGOが運営しています。そのようなプログラムにおいて障害を持つ青年や成人が統合されるように、CBRでは特別な努力が必要です。

5.5 NGOからの支援

多くの地域社会では、CBRに貢献できるような様々なNGOや団体があります。そのような団体には、救済と開発組織、信仰に根ざした団体、女性や青年団体などが含まれるかもしれません。これらの中には障害者にサービスを提供しているかもしれませんし、一方別の団体は活動の中に障害者を含めるよう特別な努力をすることができます。

政府の政策の枠組の中で、国内、国際NGOは、地域でプログラムを開始したり、規模を拡大したり、CBR担当者やその他の人材を訓練したり、CBRに役立つ様々な部門のサービスを強化して、CBRの発展に重要な貢献をすることができます。

5.6 メディアからの支援

新聞、ラジオ、テレビ、インターネットは障害問題に関する情報を提供し、学校、職場、社会的場面で障害者の良いイメージを報道することができます。すべてのCBR関係者は、優先項目を明らかにしたり、適切な情報を提供するためメディアと親密に働くべきです。

5.7 地域社会支援のための協力

CBRは上で述べた各部門がバラバラではうまくいきません。以下の例はうまくいく協力例の説明です。

CBRワーカーは学校へ行ったことがなく、移動と学習に困難がある年長の子供について社会福祉担当官と相談しました。担当官とCBRワーカーは協力して家族に、保健サービスと学校へ連絡するよう促しました。保健サービスは、子供の移動能力が改善できないかどうか、状況を評価しました。学校の教師は子供の学習ニーズを評価しました。例えば、もし子供に車いすが必要なら、そのためのお金がありません。社会福祉担当官は、NGOを含む他の部門からの支援を要請しました。

支援サービスが自身のサービスを中心にするのではなく、その人の全体的なニーズを考えた支援サービスは、他のサービスともっと協力できそうです。地域での他の資源団体との協力は、必要です。なぜなら政府のサービスのみでは、障害を持つ女性や男性に雇用や社会的統合を提供することができないからです。

6.CBRの今後の発展

CBRは今日では多くの政府によって、障害者、特に農村に住む障害者のニーズを満たす効果的な戦略であると認識されています。これらの国の農村地域ではCBRプログラムが確立しているところがあります。しかし、現存するCBRプログラムの活動を他の地域に広めるように奨励したり、ジェンダー平等に注意を払ったり、すべての年齢の障害者を対象とする必要性があります。プログラムの拡大には、サービスの運営や提供を行う人材の訓練が必要です。

6.1 CBRプログラムの規模の拡大

現存するCBRは支援サービスが利用しやすかったり、NGOがプログラムを推進してきた地域に見られる傾向があります。保健や社会部門で、郡・中間レベルの支援サービスが得られにくい地域にもCBRを広げる必要性があります。また、大都市のスラムにすんでいる障害者に届くようにCBRを広げる必要もあります。

新しい環境では、難民キャンプのような地域社会が発達していない場所でも対象にするかもしれません。これらの環境においてさえも、地域リーダーが明らかにされ、彼らのグループのニーズを知らせるよう促されるかもしれません。これらのグループには、リハビリテーションサービスが必要な障害者であるけれど、難民のために提供された技術訓練や定住プログラムのような他のプログラムでは共有できない障害者が含まれているかもしれません。

6.1.1 ジェンダー平等

多くのCBRでは、障害のある少女や女性は教育、仕事、社会的な機会が少年や男性と同じように必要であると認識しています。しかし、教育や訓練のための資源の配分は、男性を優遇しています。CBRワーカーは、障害のある少女は教育を受けるべきであると家族や地域の学校を説得するよう特別な努力をしなければならないかもしれません。障害のある女性は、他の女性から特別な訓練を必要としているかもしれません。女性のための小規模な事業にお金を貸してくれるプログラムでは、障害を持つ女性を無視しているかもしれません。障害者団体やCBR実施者は障害を持つ少女や女性の完全参加の促進について特別な役割を持っています。

CBRプログラムは障害を持つ女性を、地域の女性のグループや活動に統合するよう促すことができます。障害を持つ女性に、交流の機会や資源を提供することに加え、相互に影響して障害を持たない女性たちの障害者に対する態度や期待が変わるかもしれません。

6.1.2 すべての年齢層の統合

CBRプログラムでは教育を修了したり労働技術を身につけるために支援が必要な子供や若年者を対象としていて、心臓病や糖尿病、HIV感染者のような慢性の状態で障害のある中年・老年者に対するサービス提供はまれです。中年の障害者たちは、仕事を続けたいと思っているかもしれません。障害を持つ老年者は、家族や友人との交流を続けたいと思っているかもしれません。福祉用具や支援システムまたは訓練が、障害を持つ成人たちがQOLを維持するために必要かもしれません。CBRプログラムはそのようなニーズを満たすよう拡大されるべきです。

6.2 CBRのための訓練

CBRプログラムの経験では、効果的なプログラムの管理や障害者団体の意味のある参加、CBRワーカーや照会あるいは支援サービスを提供する専門家からの満足いくサービス提供を確実に行うためには、正式な訓練が必要です。

6.2.1 管理訓練

CBR管理は通常、中間または郡レベルで行います。CBRを担当する省庁は、CBRプログラムを管理する人材を訓練し、その人は支援が必要な人を発見し、サービスを提供する地域や部門と調整して、記録を残すような仕事を実行できるようになるでしょう。

6.2.2 障害者団体の訓練

障害者団体も地域社会と国・中間・郡レベルの橋渡し役としての機能のため訓練が必要になるでしょう。彼らは、例えば、代弁者、調整係、プログラムの計画と評価、資金調達などの技能が必要でしょう。

6.2.3 サービス提供者の訓練

サービス提供者には、二つのグループがあります。地域CBRワーカーと専門的なサービスを提供する専門家です。

CBRワーカーは障害者の訓練のための技術を学ぶ必要があります。そして彼らはこの訓練を十分に提供できるように学ぶ必要があります。さらに、一方では障害者と家族の交流を促進するような役割、他方では地域リーダーと特別なサービス提供者の交流が促進するような役割についても訓練が必要です。

CBRワーカーを訓練するためにお金を使うことはCBRプログラムの重要な一面です。そして、ワーカーの転職率を下げるために管理者ができることをするよう動機付けさせる一つの要因です。

保健、教育、社会、職業部門で専門的なサービスを提供する専門家にも、障害者と家族の権利に敏感になるように訓練が必要です。人々がどのサービスを希望し、どのサービスを希望しないか決定するのに必要な情報を提供することに熟練していないサービス提供者もあります。また、いろいろなタイプの障害、例えば、聞くこと、見ること、移動能力、理解、行動についての障害を持つ人とどのようにコミュニケーションを取るかについて訓練が必要になるでしょう。

訓練のこれらの側面は、専門家の基本的な訓練に含まれなければなりません。しかし、それが行われるまでは特別な訓練プログラムが提供されるべきです。

7.まとめ

CBRは、人権、貧困削減、統合に焦点を当てたプログラムに障害者を含めることにより、彼らの機会の平等化のための地域社会レベルの活動を増やす効果的な戦略です。

WHO、ILO、UNESCOは障害者がCBRプログラムの計画や実行に参加する重要性、障害者が利用するサービスを提供する部門間の協力を増加させる必要性、CBRに関する国家政策や政府の支援の必要性について強調します。

全ての国と各部門に以下を要請します。

  • 地域に根ざしたリハビリテーションを障害者の人権や貧困削減に関する政策や戦略として採用するように
  • 全国規模のCBRプログラムに対して支援を提供するように
  • 地域開発の中でCBRが発展するために、多部門間で協力できる条件が作られるように