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当事者も参加する「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施に向けて

野村 美佐子(日本障害者リハビリテーション協会情報センター)

 2015年9月25日~27日にかけて、ニューヨークの国連本部では、国連持続可能な開発サミットが150以上の加盟国からの首脳の出席のもとに開催されました。25日には、持続可能な開発のための2030アジェンダが採択されました。このアジェンダは、ミレニアム開発目標(MDG)が2015年で終わることから、その後の目標設定に向けて2年間の交渉のプロセスがありました。MDGと今回の持続可能な開発のための2030アジェンダとの大きな違いは、前者は開発途上国、とりわけ最貧困国を対象に専門家が作成しましたが、後者は、貧しい国とともに豊かな国も含めた世界全体で多様な課題を取り組もうとしていることです。その結果として193の国連加盟国や市民社会や他のステークホルダーといった前例のない参加者が関わって17の目標と169のターゲットを含んだ成果文書(注1)ができ上がりました。
 詳細は、それぞれのターゲットがイラストを使って説明されている次のウェブサイトを参照してください。http://www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals/

 この成果文書へのプロセスにおいて、MDGには、含まれていなかった障害者についても言及をしてほしいという障害者グループの積極的な活動もありました。2015年の3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議においては、障害者はメジャーグループに含まれていなかったのですが、障害者グループの提言により、オーガナイジング・パートナーとしてそのプロセスに参加しました。その結果、仙台で開催された防災世界会議(注2)においては、障害者の参加も非常に多く、障害者に言及した内容が成果文書の中にもきちんと反映されました。また、その後の障害者グループの行動により2030年の開発アジェンダの目標等にも障害者が含まれています。
 上記のような障害の観点から、STGを実施する上でサミットに関連して行われたサイトイベント(注3)に参加をしたので報告します。

 サミットが開始する前日である24日、国連本部において国際連合日本政府代表部、国際連合経済社会局、そして日本財団の主催によるサイドイベント「2030年持続可能な開発目標とグローバルガバナンスプロセスへの障害のある人の完全なインクルージョンに向けて」が開催されました。共催として国際連合エクアドル政府代表部、世界銀行、国際連合教育科学文化機関、障害と公共政策サイバー大学院、国際障害同盟(IDA)が加わっておりました。
 参加者には聴覚障害者がアメリカから参加しており、ほとんどASLで分かるということでASLの手話が付けられ、要約筆記も予定の時間は提供されていました。インターネットを通したフィリピンからの参加者もいました。この参加者は、会場にいる参加者のパソコンを通して質問を行っていました。

写真1

写真1:リモートの参加者に流した画面、左下は要約筆記

写真2

写真2:手話通訳

 なお、手話通訳者を字幕のスクリーンの横にできなかったので、字幕の表示と手話通訳が向い合せになってしまい、聴覚障害の参加者は、必要に応じて字幕を見るか、手話を見るかについて選択をしていました。同じようなイベントを行う際にこういったことも配慮しなければならないと思いました。

 本イベントは、日本財団の渋谷氏の司会により始まりました。最初に歓迎の言葉が国連日本政府代表部の斉藤純公使、エクアドル政府代表部のサンチアゴ・サントス・レペット氏、国連経済社会局の障害者権利条約事務局チーフである伊東亜紀子氏により述べられました。伊東氏は、障害者の観点がとても重要であり、来年の3月にはSDGsの指標が示され、そこに、障害者も対象となること、また2015年10月28日から30日にかけてケニヤ・ナイロビで、DESAとUN-Habitatが共催、アフリカ障害フォーラムの後援により専門家を集めて障害者のためにアクセシブルでインクルーシブな会議(注4)が開催されるという情報を提供していただきました。

写真3

写真3:左からレベット氏、斉藤氏、伊東氏

 次に国際連合教育科学文化機関(UNESCO)事務局次長であるゲタチュー・エンギダ(Getachew Engida)が基調講演を行ったが、障害のメインストリーム化について述べ、加盟国のメンバー、公共機関、専門家集団、そして市民社会組織に対してこの目標への達成に貢献することを要請した。またそのためにユネスコのインクルーシブで、オープンで、参加型の知識社会を推進しており、その構築は人権への尊重により支えていかなければならないとしました。ユネスコが最近焦点を当てているのが技術的な開発により、社会のすべての人のアクセスを保障することだと述べていました。そのための情報のアクセシビリティやユニバーサルデザインにも言及しました。

写真4

写真4:会場の様子

 次に世界銀行グループの社会・都市・農村・レジリアンス・グローバル・プラクティスにおけるシニアディレクターのイジャスバスケス氏による発表があり、彼は、2030年に向けた持続的な開発アジェンダの実施に向けて「誰も取り残さない。」というスローガンを踏まえて障害者のソーシャルインクルージョンに向けたコミットメントが述べられました。障害者が取り残された事例としてハイチ、パキスタン、そして日本での大震災における現存する震災の際のマネージメントプログラムの限界について語られ、それらを変えたいと述べました。
 次に基調講演を予定していたマルガレータ・ワルストロム氏が飛行機の遅延のために間に合わず、国際連合国際防災戦略事務局のエリナ・パーム(Elina Parm)氏が彼女のメッセージを代読しました。ワルストロム氏は、今年の3月に仙台で開催された防災会議の成果について200人の障害者が参加したこと、会議における新しいアクセシビリティ基準が確立したことを高く評価しました。またその基準に沿って国連が行っていくことを期待していることも述べました。2030年持続可能な開発アジェンダの実施において、仙台会議の成果を生かし、UNシステムとグローバルガバナンスプロセスにおいて更に障害者の参加を期待するメッセージでした。
 特別報告は、情報技術に長らく関わってきたASEAN地域障害と公共政策サイバー大学院の専務理事であり、アメリカ大学国際関係学部准教授であるデリック・コグバーン博士によって行われました。コグバーン博士は、今までの研究をベースにアクセシブルなグローバルガバナンスに関するプレゼンをおこないました。UNの会議における国の代表以外の人々や多様なマルチステークホルダーの参加について歴史的な背景を述べ、メジャーグループによるアプローチも彼らの参加の方法の一つであるとして説明しました。しかしそのメジャーグループには、障害者が含まれていなかったことをあげて、今後、持続的な開発ゴールを達成するために、そのプロセスに障害者が参加しなければならないと述べました。障害者権利条約の締約国会議には障害者の参加が目立っています。しかし今年の3月の防災世界会議では、インクルージョンと障害者の参加のモデルとなる会議ではありましたが、国際会議の成果に反映する障害者の参加が課題と考えていました。そのため、どのようにすればといいのかという観点から調査研究を行い、参加のバリアについて言及しました。障害者の参加を推進するためには、経済的な事情、現在の参加登録システム、物理的、そして情報のアクセシビリティなどの多くの課題が示されました。とても興味深いプレゼンでした。
 ここまでのプレゼンをベースに、パネルディスカッションが、現在は、ICTのためのグル―バルイニシャチブ代表で、以前国連障害者の権利条約特別委員会議長を5回まで勤めたルイス・ガレゴス大使のモデレータにより行われました。

写真5

写真5:左からンラポ氏、コールバン氏、コック氏

 パネリストの世界銀行のシャルロット・マクレイン=ンラポ氏は、戦略として「指標の開発」、「障害に関わる詳細なデータの集積」、「障害のメインストリーム化」や「説明責任の確保」などに言及し、パートナーシップの重要性について述べました。IDAのウラジミール・コック氏はUNの主流の会議で障害者の声が届けられたことは、すばらしい成果であったこと、今後はIDAだけではなくたくさんの障害者団体の声が届けられるようにコーディネートをしていきたいと発言をしておりました。
 それに対してコールバン氏は、情報とテクノロジーの進歩により、物理的に参加しなくとも、今回のように、インターネットを通してリモートから参加できることを述べました。彼は1998年からこう言ったことを行っているそうです。しかし、このような方法で会議を行うことには、その前に確認しなければならないこと、考慮しなければならないことなど課題もまだまだあると述べました。
 最後にガレゴズ氏の挨拶で終わったが、障害者を含むインクルーブシブな社会を構築していくには、今後長い道のりがあるというコメントをしていました。
 このイベントは、国連の中で開催されたため、特別なパスを受取り、いくつかのチェックポイントを通ってお部屋に行くという厳しさでした。他のサイドイベントにおいても、2時間前から待ち、実際入る時には、関連団体のエスコートが必要となり、当事者の参加は結構辛いものがあるのではないかと思いました。そういった観点からUNシステムの中で障害者が参加する上において物理的、および情報のアクセシビリティを保障するために、さらに当事者のニーズを聞いていくと同時に可能なテクノロジーを積極的に活用していく必要があると感じました。また単に参加するだけでなく、議題に対する積極的な参加を促進するために、必要な情報をアクセシブルな形で提供することも重要だと思いました。

注1:成果文書
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/transforming_our_world_jp.html

注2:仙台会議については以下のウェブサイトを参照
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/world/2015dp/2015dp.html

注3:上記イベントのビデオは、以下のウェブサイトで見ることができる。
http://webtv.un.org/meetings-events/watch/participation-of-disabled-persons-in-the-post-2015-development-and-global-governance-processes/4508899522001

注4:UN to promote more accessible and inclusive cities for persons with disabilities
http://unhabitat.org/un-to-promote-more-accessible-and-inclusive-cities-for-persons-with-disabilities/