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国際連合と障害者問題- 重要関連決議・文書集 -

第III章 障害者に対する偏見と差別:分野、形態および範囲

中野善達 編
エンパワメント研究所


 注
 59) See the end of para.96.
 60) Bengt Lingqvist,“Handicapped rights”,Report of the International Experts Meeting on Legislation for Equalization of Opportunities for People with Disabilities, 2-6 June 1986, Vienna, p.69
 61) Canada, Chad, China, Ethiopia, Germany, Ghana, Jamaica.
 62) Rehabilitation International, No.3, 1985.
 63) E/CN. 4/Sub.2/1983/17/Rev.1
 64) See the Canadian Immigration Act, art.19.2, clause 2 (2).
 65) E/CN. 4/Sub.2/1983/17/Rev.1, paras. 145-147.

主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所

第IV章 差別を根絶し、障害者が人権を完全に享受するのを保障するための国内的および国際的方針ならびに手段

中野善達 編
エンパワメント研究所


第IV章 差別を根絶し、障害者が人権を完全に享受するのを保障するための国内的および国際的方針ならびに手段

A.予備的考察

204.本章の内容は、「障害者に関する世界行動計画」の目的や方略と本質的に合致していることを、冒頭で指摘しておくのが適切と思われる。国連システム内における行動計 画の実施は、社会開発・人道問題センターの責任であるが、センターが推奨に値する、注目すべき仕事をしたことをここで指摘しておきたい。そこで、この主題に関するセンターによる多くの活動や努力の包括的かつ詳細な説明をしている多数の報告や刊行物{66)}を参照することにしたい。これに関し、特別調査報告担当官は、世界行動計画の目的を達成するのに必須と思われる問題だけを強調しながら、受領した情報の要約についてだけに限定することにする。
205.おそらく最もきわだった側面の一つは、各国政府、地域社会および障害者自体が、これら目的の達成に共同責任を認めたことであろう。こうした文脈において、「国連障害者の10年」の最も注目に値する特徴の一つは、障害者が代表となっている非政府組織によって演じられた主導的役割と、彼ら自身の問題、専門家としての彼らの地位を承認したことであるのは疑いない。社会的レベルでも、地域社会への障害者の統合に重要性が認められるにつれ、きわめて積極的な進展がみられた。このことは、完全に医学的性質を失い、また、以前には欠けていた社会的次元を組み込んだ、リハビリテーションの概念的転換に適切に反映された。しかしながら、かなりの政府が、「経済的危機」を口実に、しばしば、一般的な経済的状況の結果が社会的役割を免除してくれると信じているような、「責任逃れ」的な国家像を示すような回答を送ってきている。
206.そこで、この導入部で、共同責任が「障害者に関する世界行動計画」の背後にある中心的概念ではあるが、障害者の統合および完全参加を邪魔したり、遅らせたりする妨害物を排除することの主たる責任は、政府にあることを指摘しておくことが重要である。これは、政府は単なる傍観者であってはならない、ということを意味している。政府は、とりわけ困難な状況において、障害者を周辺に追いやったりしないように、また、機会均等化が言葉の上のものだけでなく、現実の実効あるものであることを保障するため、行動しなければならないが、それはときには強力なものでなければならない。

B.施設入所か地域社会でのリハビリテーションか

207.経験によれば、障害者の孤立を伴うような治療は、社会的環境への障害者の完全参加を妨げるだけでなく、ほとんどの場合、現存する障害を悪化させたり、新しい障害を引き起こしたりすることがわかっている。これは、リハビリテーションというものが、純粋に医学的概念なのではなく、個々人の身体的、精神的、社会的ならびに職業的リハビリテーションを包含する包括的な過程だからである。このことは、多くの意味合いをもっている。それは、一方で、個々人の最大限の参加を達成するのを目指すリハビリテーションの過程は、地域社会の中でしか生じないということと、他方で、個々人が彼もしくは彼女自身のリハビリテーション過程の形成、選択ならびに評価に参加しなければならない、ということを意味している。この記述は、あまりにも初歩的なものであり、おそらく不必要なものと思われるかもしれない。しかし、数世紀にわたり、さらに現在でさえも、精神障害をもつ人びとには、この可能性がずっと否定され続けてきているこ とを想起するならば、当然とみなされるであろう。
208.「障害者に関する世界行動計画」は、リハビリテーションサービスを一般公共サービス内に統合する傾向が増大しつつあることを明確に指摘している。それは、このことが通常の環境でおこなわれなければならないこと、また、地域社会自体に根ざした機構ならびに専門施設に基盤を置いた機構で支援されなければならないことがはっきりと示されている。さらに、障害者の10年の中間点で、可能なさいはいつも、障害者に対するサービスは現存する社会の社会的、教育的、保健面、労働面の機構内で提供されるべきであり、決定過程に障害者の効果的参加を認める手続きが確立されなければならないことが再び強調された。
209.その後、国連障害者の10年に関する第6回年次機関間会議のさい、WHOの代表は、開 発途上国では地域社会レベルのサービスのあらゆる側面において、残念ながら専門家不足がみられたことを指摘した{67)}。障害者のうち25%しかリハビリテーション計画に積極的な関わりをもっておらず、また、ほとんどの開発途上国におけるリハビリテーションサービスに対する潜在的需要は、近い将来に整えられるであろうものよりはるかに大きなものである。また、リハビリテーション活動が、運動、視覚、聴覚の障害や精 神障害をもつ人びとを含む、あらゆる障害者のケアニーズを満たさなければならないことも指摘された。
210.同じ会議で、ILOの代表は、障害者を地域社会に統合することがさらに進められなければならないこと、また、彼らが生活している場で援助が提供されなければならないことを指摘した{68)}。実際、この代表によるコメントは、地域社会におけるリハビリ テーションのシステムを改善し、より望ましい結果を得る目的が達成されるまで、これまでにとられたさまざまなアプローチならびに獲得された結果について批判的な評価をおこなう必要性を強調していた。ILOによって提示された文書は、「地域社会に根ざしたリハビリテーション(community-based rehabilitation)」という用語は、リハビリテーション機関が、障害者の訓練や雇用面における機会均等ならびに社会-経済的統合 に焦点をあてたプログラムを設定したならば、「地域社会-統合計画(community-integration progamme)」に切り換えられるべきである、と勧告した。さらに、地方の状態はきわめて多様であるので、地域社会に根ざしたリハビリテーションを組織する単一のグローバルなアプローチなど存在しない、ということも強調している。
211.国連の「食糧農業機関(Food and Agriculture Organization: FAO)」は以下のように報告している{69)}。盲人もしくは弱視者を社会に再統合すること(セネガル、マリおよびギニアにおける「オンコセルカ症撲滅計画(Onchocerciasis Control Programme)」)に関しては、特別な働きかけをしてこなかったという。というのも、これらの人びとは、彼らを支援している社会から決して排除されることなどなく、ただ単に社会が担わなければならない荷物とみなされていたからであった。彼らの身体状態が改善されるにつれ、地域社会が以前からの場所に留まり続けるか、それとも、オンコセルカ症のみられない新しい場所に移住するにせよ、きわめて自然に「再統合」が生じていたという。
212.1989年8月14日から22日、エストニア・ソビエト社会主義共和国のタリン(Tallinn)で開催された「障害分野における人的資源に関する国際会議(International Meeting on Human Resources in the Field of Disability){70)}」で、次のことが指摘された。「障害者およびその家族の諸能力は、政府および非政府組織によって提 供される、地域社会に根ざした補助的サービスを通じて強化されるべきである。…これらのサービスは自己決定を促し、障害者を社会開発に参加させる筈である。」報告者たちの多くは、地域社会に根ざしたリハビリテーションは農村地方に最もぴったりとしたアプローチであるが、都市部の障害者たちが経験している重度のデプリベーションに対しても適切なアプローチである、とみなしていた。こうしたリハビリテーションにとって、家族や地域社会の関与こそ必須であることに合意がみられた。最後に、このアプローチの重要性は、障害者がこれまで彼らの潜在力や生産力、自立を発展させる機会が奪われ続けており、そのため、国の発展の主流から切り離され続けていたことから、とりわけ強調されるべきである。
213.1989年12月6日から8日までウィーンで開かれた第7回年次機関間会議{71)}で 、地域社会に根ざしたリハビリテーションの概念に対し過去10年間にわたりかなりの関心が向けられたこと、また、それが障害者自身、その家族ならびに彼らの地域社会における現存の資源を利用し、その上に築き上げられることがきわめて重要なことと認められた。「障害者に関する世界行動計画」が、この概念の進展にとっての指針とみなされ、また、参加者たちは、学際的で総合的なアプローチである地域社会に根ざしたリハビ リテーションの概念を、さらに明確にする必要性を認識した。さらに、「精神疾患をもつ人びとの保護と、精神保健ケアの改善のための原則(Principles for the Protection of Persons with Mental Illness and for the Improvement of Mental Health Care)」に関する予備的な作業がこのアプローチを採択した、ということが指摘された。これの原則3は、「精神疾患をもつすべての人びとは、可能なかぎり、地域社会の中で生活する権利をもつべきである。」{72)}と述べているし、原則7は、「すべての患者は、可能なかぎり、彼もしくは彼女が生活している地域社会の内で処遇され、ケアされる権利をもつべきである。」{73)}と述べている。

C.施設収容を制限するため、ならびに、虐待を防ぐためにとられる手段

214.統合主義者的な傾向は、少なくとも各国政府からの回答によって判断するかぎり、国家的なレベルでも認められる。ほとんどの政府は、これまでの、施設への収容を優先 させる方略から、明らかに方針を転換してきている。いまや強調点は、障害者の社会生活への最大限の統合を勧奨する観点からの、家族や地域社会への再統合に置かれている。しかしながら、施設収容は、例えば、重篤な精神疾患をもっている人物が犯罪行為によって有罪判決を受けた場合{74)}、もしくは、当該人の最低限の福祉さえ、施設外では保障されていない場合{75)}のように、法の下で規定された事態ではいまでも最後の拠りどころになっている。いくつかの回答には、断種や去勢といった施設収容によって生ずる虐待が、とりわけ精神障害をもつ人びとに関してみられていることを指摘しており、また、こうした虐待を除去する意図が示されている。
215.障害者とりわけ精神疾患をもつ人びとがしばしばこうむる施設内虐待を防ぐため、いくつかの国は管理委員会や他の関連組織を設置し、精神保健ケアサービスを受けるための入院や留置を規定する基準を設定している。例えば、カナダ、アルバータの精神保 健法は、入院の理由を報知されたり、拘置更新のさいに許可証が発行されるようになっており、患者がそれを知る権利が保護されている。入院許可や更新許可の取り消しを求め、再審委員会に申し立てをする権利も保障されている。この法はまた、患者の診断名や記録の秘密を保護し、さらに、患者の個人的利益、名声や私生活に望ましくない影響を与えるような情報の開示を禁止している{76)}。ここに提出する価値のある国内法の別の例は、英国の1959年精神保健法である。この法律は、精神障害患者の精神医学的病院への拘禁を禁じている。このような例はあるが、エリカ-イレーヌ・ディーズ女史の報告の補遺に含まれている各国の国内法の集録は、この問題に関しての各国の姿勢が十分よくわかる、包括的なものなので、読者はこれを参照されることをお勧めする。
216.いかなる場合にも不十分でしかない法的救済を相手にせず、非政府組織は、障害者を社会に統合させるまったく別の方法の必要性を強調している。地域社会に根ざしたサービスがないことは、しばしば、障害者を施設に閉じ込めることになってしまう。彼らは、彼らの自由を制限せず、統合するのを可能にする「これまでとは異なる寄宿生活の場を設けるという選択肢」の提供によって、彼らの生活をノーマライズする権利をもっている。これらの選択肢には、施設から最近出たばかりの人びとのリハビリテーションのための住居を割り当てたり、彼らのため特別に調整された共同住宅のアパートや、公共住宅を割り当てる可能性も含まれている。もしも、彼らが家族と一緒に、もしくは彼ら自身で生活することができるならば、彼らが自立して生活するのを可能にする地域社会サービスがなされるべきである。
217.ヨーロッパの相当数の政府が、在宅障害者に提供している支援サービスのいくつかは、この分野の今後の方向性を示している。これらには、例えば、料理、掃除、洗濯、アイロンかけ、身のまわりの衛生、職業的・文化的活動、身内の代理、心理的ケアなど を包含する家庭的・個人的ケアが含まれている。ある場合には、これらのサービスは地方自治体によって提供され、作業療法、ソーシャルワーカー、在宅支援、ときには家庭内でさらに自立できるよう設備を改造したり、電動式補助具を購入したりするための少額の補助金の提供などがある。
218.こうしたサービスのための経済的補助を増加させる必要性を否定することなく、非政府組織は、公的資金が不足していること、地域社会や障害者自身の資源を動員するのが特に重要なことを指摘している。とりわけ開発途上国では、プライマリー・ヘルスケアサービスが、予防、医学的リハビリテーション、地方への技術的支援の創出、統合校の設置のため、可能なかぎりたくさん活用されなければならない。さらに、障害者の協力が勧奨されるべきであり、自営業をいとなむ機会がつくり出されるべきである。
219.非政府組織は、施設内虐待を防ぐための法的拠り所が不十分であり、それが強化される必要性があることを示し、法的拠り所の有効性への懐疑を表明した。彼らはまた、施設内といった場所では、個々人に、親密な身内との関わりさえ放棄させてしまう多くの文化的要因が、いくつもの施設の破廉恥な管理・運営や、ずっと続いている虐待に影 響を与えてきた、という確信を明白に表明した。
220.最後になるが、諸機関間に、施設収容が望ましいとされる例外的な事例を記述する共通の表現法は存在していない。「唯一の最後の手段」とか、「真に妥当な他の手段がない場合にのみ」といった表現が使われたりしている。また、いくつかの機関は、「他 の処遇方法が明らかにうまくいかなかった場合だけ」といった規準を適用したりしている{77)}。しかしながら、収容が認められる少数例においても、それがあくまでも限定的な性格をもっていること、また、明確な表現が使用される場合でも、「社会がそれを避けるため、権限内のあらゆる手段を尽くした」後にそうされたのだということを常に考慮すべきであることには、論議の余地がない。障害者のニーズにあわせることは、道徳的義務であるだけでなく、法的義務でもあり、社会の義務なのだということを明確にすることがきわめて重要である。障害者が、その障害によって生じる外的な障壁を克服するだけでなく、社会の愚かしい仕組みに自己を合わせさせられることよりも、社会が障害者の基本的ニーズに合わせていくべきであることの方が、より理にかなっているし、正しいことなのである。

D.障害者団体の設立と活動を促進する手段

221.「国際障害者年行動プラン(Plan of Action for the International Year of Disabled Persons)、1981年」は、加盟各国に、障害者年の活動を立案、調整、実行する国内委員会の設置を要請した。いくつかの政府はすでに1960年代や1970年代に類似の委員会を発足させていたが、大部分の政府は、この要請に応えてやっと委員会を設置した。このことは、国際障害者年の間に、141の国や属領に国内委員会が存在していると報告されたことからも明らかである。障害者年が終わると、国内委員会のほとんどは解散されてしまったと思われる{78)}。
222.「障害者に関する世界行動計画」は、さまざまな省庁や他の政府諸機関、非政府組織の活動を調べたり、追跡することを焦点とすることへの政府の義務を指摘したのち、「決定過程への障害者の参加」という見出しの下で、加盟各国は、障害者の諸組織の支援を増大させるとともに、障害者の利益と関心の主張を組織立て、調整することについて助力すべきである、と述べている。またさらに、加盟各国は、可能なあらゆる方法で、障害者で構成されている、あるいは障害者を代表する組織の発展に-財政支援を通じてということを含め-積極的に努め、かつ、奨励しなければならない、と記している。さらに行動計画は、こうした組織が、障害者に関するあらゆる分野での政府の政策や決定に影響をもつべきであることを認識している。これは、行動計画が、障害者で構成される、もしくは彼らの利益を代表する非政府組織が、「国際障害者年行動プラン」の実施や、「国連障害者の10年」の諸目的を達成するのに最も重要な役割を演ずることを認めている、ということを意味している。
223.これら組織によって成し遂げられた主導的役割は、おそらく障害者の10年の最も顕著な特徴の一つであり、その活動の積極的なインパクトは、まだ十分に評価されてはいない。現時点で問題とされているのは、これら諸組織の連合の活動の、論議の余地のない正当性ではなくて、むしろ、政策や計画の立案、実施、監視および評価に関するあらゆるレベルでの決定過程に、障害者が完全な権利をもつ市民として参加することを可能 にする法的基盤の拡大化である。これは、タリン会議の主要関心事の一つであり、そこでまとめられたガイドラインのいくつかは、草の根の団体の率先性の強化を狙っていた。例えば、第14項から第16項は次のように規定している。
 14.地域社会の率先性が特別に促進される必要がある。障害者とその家族は、草の根の団体を形成するよう奨励されるべきである。そのさい、政府がその重要性を認識し、財政面と訓練面で支援する必要がある。
 15.政府および障害者問題に関係する非政府組織は、障害者が対等のパートナーとして参加することを認めるべきである。
 16.政府および障害者問題に関係する非政府組織の効果的機能化には、組織としての、また、管理・運営の技能の訓練が必要である。
224.1987年8月、ストックホルムで開催されたグローバルな専門家会議で、参加者たちは非政府組織を、とりわけ非政府組織が自己開発の媒介者として作用したり、また同時に、政府や社会の他のセクターによってなされたある種の決定に効果的な影響を及ぼしうるよう、勧奨することの重要性について合意した。より最近、「開発途上国における障害に関する国内調整委員会の役割と機能に関する国際会議(International Meeting on the Roles and Func-tions of National Coordinating Committees on Disability in Developing Countries)」(1990年11月5~11日、中国、北京)は、「障害に関する国内調整委員会の設置と開発のための指針(Guidelines for the Establishment and Development of National Coordinating Committees on Disability)」を採択した。 委員会の目標のなかには、障害や関連する問題に関する国家としての政策や立法を作り上げること、ならびに、障害の予防、リハビリテーション、社会生活や開発に障害をもつ人びとの「完全参加」という目的実現のための効果的手段を鼓舞すること、という狙いがある。さらに、1991年2月20日、経済社会理事会の社会委員会は、障害に関する国内調整委員会や類似機関の設置および強化を要請する決議草案を採択した。こうしたことから、事務総長は、北京で採択された指針を、点訳化を含め、可能なかぎり広範囲に配布するよう要請された。
225.もしも障害者が他の人びとと同等な権利を有するのであるならば、障害者はまた同等の義務を有するという考え方がしだいに具体化してきた。すなわち、社会の形成における彼らの関与は、「権利」と「義務」の両面に関するというわけである。この概念は、関連する諸団体の活動に新しい刺激と方向性とを与えた。これら諸団体は、単に権利を守る活動だけにその役割を限定せず、なんらかのサービス、例えば、リーダーシップ 訓練・研修、職業訓練、職務創出制度の奨励などによって、機会均等化の促進を図るような、他の諸活動に着手するようになった。アルゼンチンでは、障害者が作り上げた団 体である「PAR」が、雇用を見出すための価値ある多くの活動をおこなってきた。障害者インターナショナルは、地域セミナー、会議、組織発行の新聞を通じて、自助運動のスポンサーとなっている。世界盲人連合は、盲人に関する諸集会のスポンサーであるだ けでなく、盲人の各国内組織結成を援助している。赤十字ならびに赤い新月協会の連盟は、障害者に関し障害者と相談するようになった。実際、責任の担い方の変化およびその結果といったものが、とりわけ基本的ニー ズがまだ満たされていず、社会保障が実質的にほとんどみられていない開発途上国においては、これが奨励されてきている。
226.各国政府から受領した情報から、ほとんどすべての国において、障害者は団体、協会、連盟といった形で結びつく権利をもっていることが明らかである{79)}。多くの回答が、障害者は決定過程に影響を与える権利や手段を有している、と明記している{ 80)}。他方、他の国々においては、決定をおこなう権限は政府の手中にあるとしており{81)}、障害者団体に政府の代表を指名したりしている{82)}。全体的に、各国政府は、こうした団体の活動を率先的に勧奨する役割を演じており、とりわけ相談や助言をおこなっている。いくつかの国々では、障害者に対する政策の適用にあたり、任意 諸団体に権限を委任している{83)}。さらに諸回答は、障害者のリハビリテーションおよび職業的統合や、機会や処遇の平等へのアクセスに関する労働組合の重要な役割を強調している。
227.国際的なレベルでは、社会開発・人道問題センターが世界行動計画実施の責任を担う国連機関であり、障害者部門を通じて、世界中の非政府組織と密接な関係を維持していることはすでに指摘してきた。ウィーンの国連事務局によって組織された、障害者の10年に関する年次機関間会議は、国連システムと関連する主要な非政府組織との協力を築き上げる重要な役割を果たすことに大いに貢献してきた。1985年12月、ウィーン事務局と多数の非政府組織とが、「障害者に関する世界行動計画」の実施について、国連への支援を強化する目的で、障害者に関する非政府組織委員会を形成するために結集した。
228.ここで強調しておかなければならないことは、こうしたことは主として、人権という面から障害の問題をみつめることができた障害者インターナショナルといったような、国としての枠を超えた性格の団体によって遂行されてきた情報活動による、ということである。さらに、明らかに今日は10年前とはずっと違うということであり、障害者の人権の侵害に関する報告が、まったくこれら組織によっておこなわれてきたわけであり、さらに、断固とした戦いが記録されてきているのである。こうしたことへの感謝に加え、特別調査報告担当官は、非政府組織から受けてきた協力に再び深甚な謝意を表明したい。

E.教育、訓練・研修および職業ガイダンス面における障害者の権利

1.教育および訓練・研修

229.この分野において、平等な教育機会をもつという障害者の権利を認識する政策を促進することは、「障害者に関する世界行動計画」の基本的理念である。行動計画は、障害者のうち少なくとも10%は教育を受ける権利をもつ子どもたちであり、この子たちには特殊教育サービスが必要であるかもしれないことを指摘しながらも、障害者の教育は可能なかぎり、一般教育制度内でおこなうべきであることを明記している。タリン行動 ガイドラインには、特別なプログラム、訓練・研修材料、通常教育の教師の相談の助言役としての特殊教育教師の準備、専門家や教材を備えたリソースルームの設置、通常学校内での特別コースの運営などに関する勧告が含まれている。
230.受領した回答から、教育および訓練・研修に関して、ほとんどの国でおおむね以下の三つの目的でかなりの努力が払われてきたことが明らかである。すなわち、通常の学校制度に障害者を可能なかぎり十分に統合することを保障するため、専門教師や相談・助言者を養成・研修するため、さらに、障害者が他の人びとと同じレベルの教育を受けることを保障し、それによって、障害者を社会保障制度の対象者とするよりも自足的・自活的になることを可能にするため、という目的である。特殊教育施設の設置は、例えば、当該人の障害の性質なり程度なりが、通常学級へ通うことを妨げる場合に必要とな る{84)}。スウェーデン政府は、その回答の中で、障害をもつ人びとの教育を支援する有資格の専門スタッフや教職員が利用可能であり、また、聾者が手話で教えられるのと同じように、特殊教育のための諸条件が精神遅滞者のためにも準備されていることを指摘している。
231.学校教育が12年間の義務となっているベルギーでは、障害児に義務教育を免除する権限を少年審判所がもっている。また、特殊教育教師の養成・研修のための諸課題や大学での学習が利用可能である。カナダの場合、現在の政策は、障害者は分離して教育されるべきだという原則を放棄する方向に向かいつつあると指摘している。ベネズエラでは、文部省が特別なサービスをしているが、障害児にはきわめて早期からの教育を、また、青年や成人には職業に関連した訓練を提供している。国として、特殊教育の個々の側面における教師や専門職の訓練・研修をおこなう大学レベルの施設が公私立で16存在している。キプロスでは特殊教育に関する法律が成立し、それによると、政府が5歳から18歳までの軽度精神遅滞児、身体もしくは感覚に障害をもつ子たちの教育責任をもつ ことになっている。一般政策は、こうした子どもたちを他の子どもたちから分離すべきではないということであるが、これが可能でない場合にだけ、特殊学校が利用可能になるという。フィリピンでは、盲児、聾児、整形外科的障害をもつ子どもならびに精神遅滞の子どもたちに特殊教育が提供されているが 、いくつかの学校では、彼らは一般教育制度の中に統合されている。カタールからの報告によると、同国では障害をもつ子どもたちに特殊教育サービスを提供しているが、男女は別々の学校で教えられているという。カタール国内では教育できない子がいると、それらの子は外国に送られたりし、国がその経費を負担する。さらに、受領した回答によると、アフリカ諸国には分離した特殊 教育施設をもっていない国が多いが、ほとんどの国には、視覚障害、聴覚障害もしくは精神遅滞をもつ子どもたちのための専門的な寄宿制学校や通学制学校がある。
232.ユネスコが策定した、教育分野における中期プラン(1990-1995年)に示した行動はきわめて重要である。そこでは、障害をもつ児童・青年の教育的ニーズは、統合教育アプローチと地域社会に根ざしたプログラムという手段によって満たすことが指向されている。この枠組みの内で、ユネスコの目的は、加盟各国が、教育セクター内で通常利用可能な諸施設と、運営諸活動との連結を確立することである。最初の2年間に、以下の3主要分野に努力が傾注されることになる。
 (a) 特殊教育設備の立案、組織ならびに管理・運営
 (b) 教室内での特別なニーズに合致するための教員養成・研修
 (c) 障害の早期認定、すみやかな医療活動や両親への教育
   これに関連し、ユネスコは、特殊教育に関する手引を作成することに加え、多くの著作物を刊行してきたが、さらに現在、障害児童・青年の教育に関する出版や、点字の使用に関する出版を準備中である。

2.職業訓練とリハビリテーション

233.本章のはじまり(第207-第213項)で、われわれは、広い意味でのリハビリテーションの問題をかなり詳しく扱った。そこで、ここでは受領した情報、とりわけ各国政府からの情報を要約することだけに限定することにする。というのも、非政府組織は一般に、リハビリテーションは全体的に考えられなければならず、一方でさまざまな訓練、他方で雇用や保健のための諸サービスや責任をもつ諸機関が別々になっていたりすべきではない、ということに合意しているからである。そこで、各国政府がその政策にこう した考え方をいかに取り入れているのか、さらにまた、一方で各国政府間で、他方で非政府組織や国連の専門諸機関との間で、どのように協力機構を練り上げていっているかに関心がある。
234.いくつかの国では、自立した日常生活のための訓練が焦点となっている。他の国では、再統合や職業リハビリテーション計画が公教育と同じく非公式の教育の一部として実施されてきている。多くの国々が、地域社会に根ざしたリハビリテーション計画の実施について報告している。このアプローチによって、リハビリテーションサービスの拡大と、障害者の統合の促進という二重の効果的結果がもたらされている。この場合、地域社会がサービスの立案、開始や提供に一定の役割を演じている。例えば、タイのある地域では精神障害者に対し、インドでは盲人に対し、こうしたサービスが提供されている。ネパールでは最近、視覚障害をもつ人びとに対する地域社会に根ざしたリハビリテーション計画の実施に積極的に関与している、多数のインストラクターを訓練してきている。
235.いくつかの政府は、農村部で庇護雇用所を設定していると報告し{85)}、また、障害をもつ人びとを農業従事者や職人として訓練することの重要性を強調している{86)}。ソビエトは、在宅訓練で得られた望ましい結果について報告し、スウェーデンは、職場訓練によって得られた結果を強調している。職人のための徒弟修行もまた、社会への再統合の有用な手段であると、いくつものところから指摘されている。重度もしくは重複した障害をもつ人びとの場合、他の形態の予備的訓練が必要とみなされているし、また、医療的アセスメントや必要な治療が並行して遂行されなければならないことも、しばしば強調されていた。他の回答では、地域社会が訓練計画で活用するため、障害者が獲得している技能を含め、獲得された技能の利用の重要性が強調されていた。ほとんどすべての回答が、障害者の訓練や再統合の尊重と信頼が、自尊感情の勧奨と同じく重要なことを強く主張していた。
236.専門家や補助スタッフの養成・研修に関し、地域社会に根ざした計画でも施設中心型の計画でも、リハビリテーション、カウンセリングならびに技能訓練のための養成・研修施設や養成・研修計画を拡大するための努力が、政府によってなされつつあることが回答に示されている。パキスタンの場合、養成・研修とサービス提供のために使用できるよう、医療施設とパラメディカル施設を拡張したという。タイでは、例えば、農村部の保健ワーカー、両親および、精神障害をもつ人びとにケアを提供する人たちは、特別な養成・研修を受けつつあるという。インドの場合、通常の学校システムで働く教師たちが障害児を教育したり訓練したりできるよう、短期養成・研修課程が準備されたという。コンゴでは、きちんと養成された専門スタッフや補助スタッフ不足に対応するた め、2つの機関が共同して地域社会ワーカーのための課程を運営している。いくつかの国々は、身体障害や精神障害をもつ人びとに対するリハビリテーション専門家、理学療法士および教育専門家の絶対的不足を報告してきている。ナイジェリアは、病院やリハ ビリテーションセンターで働く人材の養成を強調し、一方、作業 療法士や言語治療士の人数を増加させる方法を調査中だという。一般に、障害者が彼らの技能を使用し、収入を生み出す、より現実的な機会を提供する自営業を営むように向けられた障害者訓練・研修の傾向が認められる。
237.すでに指摘したように、政府間組織としてのILOは、職業訓練やガイダンスにきわめて積極的に従事してきた。その方針の恒久的目的の一つは、積極的な職業リハビリテーション計画の手段によって、子どもたちの参加する権利を保障することであった。職業リハビリテーションに関するILO基準の採択は、障害者のあらゆるカテゴリーに対する職業リハビリテーションと雇用サービスを促進し、開発する世界的行動を大いに刺激してきた。「障害者に対するサービス提供の新しい概念に関する経験と反省」と題された ILOの小冊子によれば、サービス提供の経験は、地方の拠り所と密接な接触を維持するため、障害者にこれらサービスに関する十分な情報を提供するため、訓練の各レベルでフォローアップを準備するため、さらに、達成されたものの一般的な評価に着手するために欠かせないものであることがはっきりした。
238.国連難民高等弁務官事務所および社会開発・人道問題センターの訓練・研修活動に関して前に述べたことに加え、-とりわけ、この分野に積極的に従事しているさまざまな組織の方針や計画を調整するその役割-現在も国連のあらゆる公用語で利用可能な有用な手引「障害をもつ人びとに対する地域社会での訓練・研修(Traning in the community for people with disabilities)(1989)」を公刊したWHOの仕事を強調す ることも重要である。
239.アフリカ・リハビリテーション研究所もまた、さまざまなアフリカの国々の間の手段や計画の調整をおこない、また、種々の国際的寄金提供団体の貢献に取り組み、アフリカ大陸全体の障害者の訓練ニーズに対応するさいの中心的役割を演じている。また、 赤十字および赤い新月の国際委員会は、障害者(主として戦争による犠牲者)のリハビ リテーションに対する特別な基金を設定したし、また、そのプログラムは、地方の資源の完全活用をおこなうことや、自国では製造されない補装具や類似の物の生産をする職人および障害者自身を訓練することに重点を置いている。

F.雇用および労働条件面における障害者の権利

240.「障害者に関する世界行動計画」は、加盟各国に対し、障害者が自由な労働市場で、生産的で有給の雇用を得る平等な機会をもつことを保障する政策の採用を要求している。労働市場における障害者の統合を支援する手段には、障害労働者の安定雇用をうるための、対応する奨励金つきの雇用割り当て、留保されたもしくは別扱いの雇用、中小企業や協同組合への貸付金や補助金、独占的契約や優先製造権、非課税措置、優遇購入や他の形態の技術的もしくは財政的支援がある。
241.障害者に仕事を提供するための手段は、こうした手段すべてが二つの別個な、しばしば相補的な目的をもっているにもかかわらず、明らかに主として個々人の状態に依存 している。それらは、一方で、障害者にとって不可避的な不利な点や、しばしばかなり な苦痛を緩和し、同時に、労働市場における彼らの統合を促進し、そうして彼らが経済的に自立し、税金が納入でき、サービス要求を軽減する立場になり、社会の生産的メンバーになれるようにされるべきである{87)}。産業事故によって引き起こされる障害 を防ぐための重要な手段としての、労働力にふさわしい訓練を与える必要性に、特別な 強調がなされてきた。この側面は、その職業保健と安全計画に反映されているように、ILOの主要な関心事である。もしもILOの職業リハビリテーションと雇用条件が採択され、適用されるならば、障害者は仕事面で差別されないことが保証されるだろう。現存するILO基準の以下の規定が例示される。(a)ILOの障害者の職業リハビリテーションと雇 用に関する条約(第159条)(1983年)は、障害者の職業リハビリテーションと雇用に 関する国の政策が、障害をもつ男性お よび女性の労働者の平等な機会と処遇の原則に基づかなければならないことを強調している。(b)ILO職業リハビリテーションと雇用に関する勧告(第168号)(1983年)は、次のように述べている。「障害者は、可能なさいはいつでも、彼ら自身の選択に対応する雇用にアクセスし、それを継続したり、昇進といった面で機会と処遇の平等を享受すべきであり、また、こうした雇用に対する彼らの個人的適切性を考慮されるべきである。」
242.タリン・ガイドラインは、雇用の促進に関して以下の規定を含んでいる。
  障害者は通常の労働の場で、同等に訓練され、働く権利をもっている。地域社会に根ざしたリハビリテーション計画は、開発途上国でのより望ましい職業機会の提供を奨励 する必要がある。
  雇用機会は、一次的に、あらゆる労働者に適用する雇用・報酬基準に関連する手段によって、二次的に、特別な支援と刺激を与える手段によって促進可能である。正式な雇用に加え、自営業、協力的・他グループ所得招来計画といったさまざまな機会が拡大される必要がある。青年や未雇用者のために特別な国家雇用計画が展望されるさいには、そこに障害者も含められるべきであり、障害者は積極的に新規採用されるべきであり、障害をもつ応募者と障害をもたない応募者が同じように適任であるさいは、障害をもつ応募者が選ばれるべきである。
  使用者団体と労働者団体とは、障害者団体と協力し、障害をもつ女性を含め、障害者と障害をもたない者が平等の基盤で訓練と雇用を促進する方針を採用することが必要である。
  障害をもつ女性の雇用を増加させるための積極的行動をとる方針が立てられ、実施されるべきである。政府および政府組織は、障害をもつ女性を含む所得招来プロジェクトの創出を支援する必要がある。
243.情報によると、多くの国々が、障害をもつ人びとに職をつくり上げるための計画、障害をもつ人びとに対する優遇扱いを開発し、導入してきている{88)}。計画はまた、労働力の数パーセントの枠を障害をもつ人びとに割り振ることを奨励したり、要求したりしている。いくつかの国では、障害者のためにポストの最低限割り当て制をとっており、さらに、障害をもつ人びとのための特別なワークショップやセクションを設置してきている{89)}。雇用主に利用可能な経済的奨励金が、障害者に優遇扱いをすることの保障となる別の手段となっている。多くの国がこの点に関する情報を提供しているが{90)}、他の国々は、要件に従う雇用主に与えられる助成金や税法上の特権付与をあげている{91)}。いくつかの国は、障害をもつ人びとの有給雇用を進めるため、奨 励システムを設定している。インドの場合、小規模企業が障害者雇用に乗り出すのを奨 励するため、きわめて有利な条件での信用貸しをおこなっている。他の国々の場合、障害者にふさわしい空席についての社会福祉サービスを公示するよう、経営者に要請して いる。また別の2か国では、仕事を見出すのに障害者を援助す る公的サービスに関する義務がある、という{92)}。
244.ある国々では、当局と労働組合とが、障害者のための訓練センター、政府の諸サービス、障害者の雇用に対する最大限の機会を保障する見解をもっている会社との間の緊 密な協力を請け合っている。開発途上国の場合、協力しての仕事は、慈善的動機による他の支援形態よりも、ずっと効果的なことが見出されている。例えば、障害者に対する助力組織は、自営業を促進するのが望ましいとみなされている。こうした組織はまた、大きな国際的協力運動の支援を受けている。
245.ILOが労働条件や労働の安全性や、とりわけILOによって出された、現在のところ妥当な基準に関して演じてきた重要な役割については、すでに言及してきたところである。非政府組織もまた、労働条件を非常に重視してきたし、とりわけ、働くさいの保健や安全を支配する規則に従うことがうまくいかなったケースに関心を向けてきた。働く場で障害が生じたさい、当該の人物は、リハビリテーション過程が許すかぎりすみやかに、再統合されるべきであるとみなされる{93)}。もしも、障害の結果が以前の仕事に就くのを妨げるならば、その障害者は、彼の能力に適した雇用を提供されるべきである。また、報酬が得られないことを補償する、一時的な賃金補助が提供されるべきであり、また、障害者が休職期間中にこうむった不利益についても配慮がなされるべきである。すべての国が、国家レベルでの人的資源の開発活動の重要な部分である、雇用に優先 的な関心を向けるべきである、と指摘している。多くの国々が、この点に関し、ILOの支援を受けてきている。

G.その他の障害者の権利

246.前述のように、建造物やビルディングの物理的障壁は、障害者の社会的、経済的ならびに文化的生活への完全統合の主要な妨害物である。しかしながら、これは、少なくとも障害者の10年の間に、最も大きな成果があげられた分野の一つである。利用可能な情報によると、建物や輸送サービス、とりわけ公共セクターへの障害者のアクセスを促進するため、政府がとる手段について、めざましい進展がみられてきている。
247.いくつかの国は、歩道を平らにすること、舗装すること、駐車地帯に印をつけること、自動ドアを設置すること、車椅子利用者のためにリフトの幅を広げることや、トイレを設置すること{94)}などを含む、建物への十分なアクセスを促進するための諸手段を採用してきている。
  他の国々では、スタジアム、商業センターや商店のような公共の場へのアクセスを促進する手段の採用を報告している{95)}。適切な住居という問題に関して、ある国々は住居の改良や、障害者が家の中をたやすく動きまわれるようにすることに優先順位を与えている{96)}。住居の新築や修繕のため、無利子貸付金を提供するという手段もとられている{97)}。
248.障害者がアクセス可能な輸送サービスに関して、さまざまな手段がとられており、 また、多くの国々で実施されている規定は、かなりの改善の証拠を示している。いくつかの政府はまた、都会地や農村地帯で、無料もしくは低額の交通券を支給している{98)}。その他、特製の自動車(手動コントロール付きの自動車{99)})が提供されたり、さらに、もしも地域でそうしたものが生産されていないならば、その輸入が促進される{100)}。
249.国連総会の要請により、社会開発・人道問題センターは1981年、「感覚障害をもつ人びとによる国連の建造物、報告、情報諸施設へのアクセス」と題する調査・研究をお こなった。これは、ニューヨーク、ジュネーブおよびウィーンの国連建造物が対象とさ れたが、障害者自身による専門家たちの手による調査・研究であった。3か所とも、十分かつ平等なアクセスを促進するためには、かなりの出費が必要とされた。最近になり、「国連工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization: UNIDO)」、「西アジア経済社会委員会(Economic and Social Commission for Western Asia: ESCWA)」、「ユネスコ(UNESCO)」、「国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)」、国連食糧農業機関(FAO)ならびに「ユニセフ(UNICEF)」で多数の改善がもたらされた。
250.「障害者に関する世界行動計画」は、障害者のためのレジャー、スポーツならびに他のレクリエーション活動がきわめて重要であることを強調している。さらに、加盟各 国は、障害者は彼ら自身の利益のためだけでなく、地域社会を豊かにするためにも、最 大限まで彼らの創造的、芸術的ならびに知識能力を活用する機会をもつことを保障する義務をもっていることも言われている。こうしたことの例として、イギリス連合王国において、多くの演劇集団、とりわけ英国聾劇団 Graece and Strathcona に芸術協議会から補助金が出されていることがあげられる。芸術協議会はまた、障害者の雇用を含む、義務規定を準備している。カーネギー財団は、なんらかの障害をこうむっている人びとに、芸術へといざなう実際的手引「すべての人のための芸術」製作のスポンサーとなっている。中国では、障害者芸術家協会が設立された。
251.利用可能な情報によれば、各国政府や地域社会が博物館、美術館、図書館などへの障害者のアクセスを促進するため、かなりの努力が払われてきている。多くの国々が、点字による雑誌や図書の刊行や、カセットへの録音のための基金を設定している{101)}。レクリエーション活動に関し、カナダ政府の観光省は、視覚障害や聴覚障害をもつ旅行者、とりわけ運動障害をもつ旅行者にとってアクセス可能なホテルや宿泊所を認定する、調査プロジェクトのスポンサーとなっている。カナダの公園は、こうした人たちが巡回できるようにする計画を導入してきた。
252.「障害者に関する世界行動計画」は、スポーツ活動というものが、障害者が身体的にまた精神的に自己実現するのを可能にする最も効果的手段の一つであることから、障害者に対してスポーツがきわだって重要なことを強調している。こうした活動はまた、障害者のパーソナリティ発達を支援することに積極的な効果をもっているし、また、社会的接触を奨励することにもなるので、家族面や職業面での統合を促進するのに積極的な効果をもっている。スポーツのもつ他の非常に重要な側面は、治療の一手段としてのものである。スポーツを通してのリハビリテーションは、障害者の場合、二重の利益をもたらす拠り所である。
253.数多くの政府が、スポーツを発展させ、障害者がそれにアクセスできるようにするために採られた、さまざまな手段について報告している。例えばパラグアイの場合、政府が国のさまざまな地方にスポーツ施設を準備し、社会的機能だけでなく、障害者が触 れ合うというきわめて重要な役割を遂行しつつある。まず第1に、それら施設は障害者 にとってアクセス可能であり、第2に、それら施設は障害者にスポーツ活動を提供し、第3に、それらは会合、触れ合い、社会的統合のセンターとして役立っており、第4に、それらはリハビリテーションもおこなっている{102)}。パラグアイは、この種の活動に特別な基金を提供しており、また、ゲームや富くじからの全収入をこの目的に役 立てている、開発途上国の一員であることを特記しておきたい。これは、模倣する価値 のある例といえよう。
254.別の注目すべき例が、障害児の統合に向けての国際ボーイスカウト運動 (International Boy Scout Movement)の活動に認められる。その、障害者と共にスカウトをおこなう計画は、障害をもつ子どもたちと障害をもたない子どもたちを一緒にするきわめて効果的な手段であることがわかってきた。連帯感を刺激し、発展させ、同時に、ふつう子ども時代にその根をもっている偏見や他の文化的障壁を除去するための、こうした性質の実践の重要さは誰にとっても明白である。

H.障害者の権利行使と、彼らに利用可能な救済を保障する手段

255.これは、並ぶもののない重要な問題であり、時事性からいっても、この報告の中心点の一つであるが、非政府組織にとって得意な主題の一つといえよう。これを適切に扱うため、そのさまざまな構成要素が明確に限界を定められなければならない。すなわち、以下の通りである。(a)障害者に対する差別を罰する法律の問題。(b)障害者特有の権利ならびに、その権利擁護のための法的救済の効果性。(c)精神疾患をこうむっている人びとの施設収容のさいの法定後見人問題。(d)障害者の人権および基本的自由に関する国際的監視もしくは監督の問題。
256.障害者に対する差別行為の法的扱いは、従来と完全に形を変えるものとなるよう進行中の過程といえる。本報告の第200~203項の内容を要約すると、次のように言えるで あろう。国内法は当初、社会生活の特定分野における差別を禁止するだけであった。例えば、教育法は教育における差別を禁止したし、労働協約は労働における差別を禁止した。このようにして逐次、全専門分野、社会保障などを対象としてきた。最近になってようやく、とりわけここ数十年間に、各国政府は、一般的性格の反差別法を公布しはじ めた。しかしながら、障害者は、これら一般法を彼らの特定の事例に適用するよう、政府や裁判所に促すさい、数多くの困難に遭遇してきた。あらゆるタイプの差別を禁止するだけでなく、差別行為を罰しもする特定の法律を採択するようになった現在の傾向が、強力に勧奨されてきている。
257.障害者の特有な権利の法的保護は、さまざまな国内法のシステム内にみられる、障害者に対する処遇の相違に関連する一連の問題を提起する。一般的に言って、実体法が障害者の存在を認識する(民事法、訴訟法など)のは例外的な場合だけであり、また、そうであるときも、その施行規則はふつうあいまいであったり不十分であったりし、このことが、裁判所や行政審判所が障害者を、人権侵害の特別な犠牲者になりやすい「特定化できる階層」と認めたがらないことにつながりをもっている{103)}。そうでない場合、裁判所は、法的利益があまりに不明確であるとみなしてきて、経済的利益に優先性を与えてきた。こうしたことの例として、オーストラリア、ビクトリア州、平等機会委員会の1984年の決定、Blair and Ors 対 Venture Stores Retailers Pty. Ltd. の ケースがあげられる。1983年5月、Venture Stores は以前からの建物を引き継ぎ、これまで顧客が2階売り場にアクセスできたリフトを閉鎖してしまった。車椅子使用の3人の女性が1977年の平等機会法の第27条H(2)項の下で差別されたという理由をかかげ、Venture Stores を裁判所に訴えた。委員会は、閉鎖の決定は収益を高めたいという動機によるものであり、Venture Stores にとって、要請されるサービスを準備するのは無理であり、負担になりすぎるし、リフトへのアクセスができなくなることは、車椅子の人が2階へアクセスすることを妨げはしない、と判断した{104)}。
258.障害者に特有な権利の認識は、本章に記述された基本的要素である、さまざまな法 的文書に明確に組み込まれたり、裁判所における判例法で認識されている諸権利をリス トするといったことで結論づけられる問題ではないということを、再び繰り返すのがたいへん重要である。法的観点からすると、障害者の特有な権利はまさしく彼らのニーズに対応し、その充足は、社会の他の人びととの平等な基礎に基づき、人権の享受にとって不可欠な条件であるので、この問題はかなり複雑なものである。要するに、障害者の「ニーズ」ならびに彼らの「特有の権利」は、単に同じ貨幣の両面であるにすぎないのである{105)}。
259.公共建造物、学校、投票場などに障害者のための傾斜路を設置することは、彼らに特有な権利の認識と解釈されるべきでなく、単に政府による、すべての人への教育を保 障する政府の法的義務の遵守や、平等な基礎に基づくすべての人に対する政治的権利の行使を保障する政府の法的義務の遵守とみなされる。換言すると、われわれは、障害者 自身の中に、権利があり、その権利が同時に、他の権利を実施する手段でもある、という要件に直面するのである。われわれはすでに、被告人が聾唖者である刑事裁判において、通訳者がいないということは、特有な権利の否定や手続き規準の違反であるだけでなく、純粋にまた単に、抗弁権の剥奪であることを意味していると指摘した。
260.実際のニーズとしての、これら障害者特有の権利の明確化、他の人びととの平等な基礎の下で人権を享受することを可能にする不可欠の条件であるニーズの充足は、すでにみてきたように、各国政府の義務であるだけでなく、社会にとっての義務でもある。ところでわれわれは、強制的な施設入所といった特定のケースにおいて、個人の利益に加えて、社会が施設収容を避けられるさいは常にそうしなければならない、と指摘してきた。このことは、とりわけ地域社会に、障害者の基本的ニーズに合わせるという第一次的義務を生じさせる。このこととは別に、施設収容ならびに特別な施設への収容中の虐待という特定の問題が存在する。このことは各国の国内法が、恣意的なもしくは不必要な施設収容を妨げることができるもしくは終わらせることができる、効果的救済のた めの明確な規定を設けることを要求することになる。さらに、この分野で最も積極的な非政府組織は、特別な施設の中においてさえ、障害者がケアを受ける権利という中には、施設収容に反対する権利も含まれていることを提言している。
261.特別調査報告担当官は、施設収容は慎重に対応する必要のある、複雑な性質の問題なので、行政機関の決定が常に法的機関によって再審査され、また、アセスメントされるのが有用であることを指摘したい。人身保護令状に関してみると、いまだ国内法にこ れが含まれていない大多数の国において、これが取り入れられるのが望ましいことは、 世界的な経験からみても十分に納得できることである。さらに特別調査報告担当官は、このことが、法的機関が施設収容の恣意性を検討する場合だけでなく、施設入所の必要 性がなくなったとして収容を終わりにさせるさい、もしくは、施設の諸条件が低下したり、悪化したり、あるいは望ましくない扱いの証拠が存在するさいにも適切な救済になりうるに相違ないことを指摘しておきたい。いずれにせよこのことが、いまだ頻繁に生じている虐待をチェックし、終息させるための決定的要因であるといえる。
262.障害者の権利の国際的保護は、今日も最も時事的な問題の一つである。というのも 、国連障害者の10年は間もなく終結を迎えるであろうし、また、このタイプのなんらかの監視機構に関する準備はおよそないからである。この問題に関する国際条約を起草す ることについての経済社会理事会での討議は、その内容よりもむしろ世界の状況からし て、近い将来、この活動に着手するのは時期尚早である、といった結論となった。もっとも、他の傷つきやすいグループ-女性、難民、移民など-のために採択されたような 特定の条約が存在しないことは、障害者を保護する国際的基準が存在しない、ということを意味するものではない。第I章でわれわれは、かなり拡散的ではあったが、現存する国際的諸基準を広範かつ詳細に扱う機会をもった。しかしながら、まだ、とりわけ障 害者の人権保護のためのさまざまな規定の遵守をスーパーバイズする、国際的監視組織 が欠けたままであるという問題が残されている。適切な監視機構の提案は、おそらく、特別調査報告担当官に委託された権限にとって最も微妙な側面といえるであろうし、ま たこれは、非政府組織間に最も大きな期待を寄せるものであろう。
263.本報告の最終的部分ともいえるここにおいて、特別調査報告担当官は、これまでおこなってきた多くの協議を要約し、以下の選択肢を提出する。(a)障害者に対する国際的オンブズマンの設定-この解決法は、非政府組織の支持を得ておこなうというもので ある。(b)経済社会理事会がその権限を拡大してくれるならば、「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」に監視という課題を委託する。この報告の最終項において示す、特別調査報告担当官が望ましいとみなす解決法は、後者の(b)もしくは、(c)両選択肢を組み合わせたものである。

 注
 66) See, for example. Manual on equalization of opportunity for disabled persons (ST/ESA/177). The Centre for Social Development and Humanitarian Affairs has an occasional publication Disabled Persons Bulletin. Document ST /ESA/176, Study on disability: situation, strategies and policies, was published in 1986.
 67) Rehabilitation in the Community: the Basis for a National Delivery System for Rehabilitation and Related Materials. Sixth inter-agency meeting on the United Nations Decade of Disabled Persons, Vienna, 5-7 December 1988, agenda item 3, Summary paper No.2, prepared by WHO.
 68) Vocational Rehabilitation of Disabled Persons: Current Programme and Future Plans (progress report as of July 1989). Seventh inter-agency meeting on the United Nations Decade of Disabled Persons, Vienna, 6-8 December 1989, agenda item 1, Summary paper No.7, prepared by ILO (English only).
 69) Ibid. Progress report No.14, prepared by FAO, p.2.
 70) See General Assembly resolution 44/70 of 8 December 1989.
 71) See ACC/1988/PG/15, pp.6, 7.
 72) E/CN.4/1991/39.
 73) Ibid.
 74) Denmark.
 75) Bulgaria, Canada, China, Cuba, Czech and Slovak Federal Republic, Ghana, Kenya, Norway, Turkey, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 76) See the Mental Health Act of Alberta, art.37, para.4, andart.24, paras.1, 2, 3.
 77) Statement by Disabled Peoples' International. See E/CN.4/Sub.2/1984/SR.24.
 78) See ACC/1988/PG/15, para.19.
 79) Canada, Cuba, China, Dominican Republic, Ghana, Mali, Norway, Philippines, Senegal, Sweden, Trinidad and Tobago, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 80) Bahrain, Canada, Finland, Norway, Senegal, Sweden, USSR.
 81) Canada, Cuba, Ghana, Philippines, Saudi Arabia.
 82) Philippines, Trinidad and Tobago.
 83) Singapore, United Kingdom.
 84) Bahrain, Bangladesh, China, Finland, India, Nepal, Pakistan, Swaziland, Thailand, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 85) Canada, China, Jamaica, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 86) Jamaica, Poland.
 87) United Nations Development Programme.
 88) Bahrain, Belgium, Canada, Ghana, India, Jamaica, Japan, Mexico, Philippines, Poland, Switzerland, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 89) Germany, Ghana, Jamaica, Japan, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 90) Germany, Urubuay.
 91) Australia, China, Finland, Malta, Pakistan, Philippines, Sweden, USSR.
 92) Australia, Jordan.
 93) Rehabilitation International.
 94) Canada, China, Ecuador, Germany, Greece, Jamaica, Malta, Norway, Portugal, Sweden.
 95) China, Ecuador, Germany, New Zealand.
 96) Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 97) Bahrain, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 98) China, Germany, Greece, Sweden, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 99) Bulgaria, Ukrainian Soviet Socialist Republic, USSR.
 100) Argentina.
 101) Canada, China, Finland, Sweden, United Kingdom.
 102) Work programmes of the Paraguayan Directorate of Public Welfare and Social Assistance (DIBEN), which is doing important work on disability prevention, rehabilitation of the disabled and equalization of opportunities.
 103) E/CN.4/Sub.2/1985/SR.23, para.43.
 104) See Quentin E. Angus. “Is there a need for special ‘Disabled Legislation’?”, Report of the International Expert Meeting on Legislation for Equalization of Opportunities for People with Disabilities, Vienna, 2-6 June 1986, pp.70,71.
 105) The idea of need as a source of law is relatively new and has gradually been supplementing and in some areas replacing the idea of interest. (It will be recalled that Iering recently defined a right as “a legally protected interest".) Nevertheless, the concept of need, in its social content, is currently gaining ground and it is undoubtely the case that human rights have been a decisive factor in this gradual change of direction .


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所



第V章 広報と教育

主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行所 エンパワメント研究

第V章 広報と教育

264.障害者にしばしば向けられる差別や偏見の問題は、純然たる法的問題であるとか、適切な立法によって解決できるものとみなすことは正しくないであろう。法的問題というものは、こうした人びとに向けられる個々人や社会の行動に決定的な影響を及ぼす社会学的・文化的要因に由来する、はるかに複雑な問題の一側面にしかすぎない、ということは明らかである。したがって、心からの態度変化を生み出すであろう、意識を真に高めることを目ざした、地域社会全体に対する活動に着手し、発展させることがきわめて重要である。
265.障害者に関する世界行動計画では、加盟各国に次のように要請しているが、これが行動計画の背景となっている基本的考え方なのである。「公衆を含め、すべての関係者 にいきわたるよう、障害者の権利、貢献および満たされていないニーズについての包括 的な広報計画を奨励すべきである。これに関しては、態度を変化させることにとりわけ重点が置かれるべきである。」
266.換言すると、普及させるべき情報の内容や対象は、以下のようなものでなければならない。
 (a) 障害をもつ人びとにとって利用可能な手段やサービスに関する適切・十分な情報や、権利行使が十分にできるよう障害をもつ人びとの特有な権利に関する適切・十分な情報。関係する人びとの中には、例えば、家族を含めることが理解されなければならない。
 (b) 公衆に対する情報では、人としてのニーズとりわけ、いまだ満たされていないニーズおよび障害をもつ人びとが特有な権利をもっていることが認識され、それらを尊重する必要性があることに関する情報が強調されるべきである。
 (c) 対象となる公衆および障害者自身に対し、地域社会への障害者の客観的貢献および、社会生活への障害者の統合と完全参加が、精神的にも物質的にも、地域社会にもたらすであろう利益に関する情報が強調されなければならない。
267.特別調査報告担当官に利用可能な情報によれば、国連障害者の10年の間にこの分野でなされた活動は、十分に満足できる結果が得られたわけではないが、公衆の態度にある程度の変化を生み出すことを支援したことである。さまざまな政府によって着手され た広報計画やキャンペーンはきわめて多様であったが、いくつかのたいへんすぐれた着想のものもあった。とりわけ、関係する諸組織と共同し、望ましいとみなされるモデル へと態度を変化させていったものもあった。
268.障害者に関する情報について国際データバンクを設定した社会開発・人道問題セン ターの例にならって、いくつかの国々は国内バンクを確立してきている。同じく、国連広報局は、情報提供を通じて、国連障害者の10年ならびに障害者に関する世界行動計画の諸目的を広報しつづけてきている。また、世界行動計画それ自身は、国連のすべての公用語に翻訳され、60か国以上に配布されてきている。
269.刊行物という点では、障害者インターナショナルによって公刊されている Vox Nostra のような、諸組織自体によって配布されているものについて言及がなされなけ ればならない。その中には、国際的諸文書のテキストや、国際的人権諸機関の作業の説 明文書なども含まれる。障害者の職業的統合のためのスイス協会(Swiss Fondation pour l'Inte gration Professionnelle des Personnes Handicape ss)もまた、雇用を求める障害者が仕事にアクセスできるようにするという目的を促進するため 、会報を発行している。
270.最後になるが、受領した情報に基づき特別調査報告担当官は、各国政府によって着 手された情報キャンペーンは基本的に、障害をもつ人びとのニーズに焦点を当てること を狙っていたが、そのこと自体は正しいことではあっても、不十分なものであったとみ なされた。なによりも、障害をもつ人びとの権利および社会への彼らの貢献に、より大 きな強調がなされるべきなのである。特別調査報告担当官は、次のことが真に認識され るようになるべき時期が到来した、と信じている。すなわち、障害者は彼らの進路に重 大な妨害物がなかったならば、貢献することが可能であるだけでなく、実際、彼らは労働、科学、芸術の世界で貢献しつつあり、持続する偏見によっても妨げられない、われ われの精神生活の奥深いところで、日々、貢献しつつあるのである。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所

勧告および提言

中野善達 編
エンパワメント研究所


勧告および提言

271.これまでみてきたように、特別調査報告担当官は、各章の終わりのところで、重要 なトピックの結論づけをおこなうときでさえ、それぞれの場合における最も適切な手段 の簡潔な要約をおこなうという方法を採ってきた。このため、特別調査報告担当官は一 般的な結論を表明することはせず、単に、前に述べたように、各章を通じて論議してき た最も重要な勧告だけを示すことにする。むしろ、この最後の数ページにおいて、特別 調査報告担当官は、二つもしくは三つの特定の提言に注意を集中するつもりである。 

 A.一般的勧告

272.国内法そのものが、障害者の処遇に関する国際的規準や指針に合致するように調整されるべきである。国内法の基準が、障害者の適切な処遇の要件をずっと下まわることがないよう、それが定期的にレビューされ、絶えず改善がなされなければならない。
273.後述する特定の提言にとらわれることなく言えることは、このことは、障害をもつ人びとに関連をもつ市民的および政治的権利に関する国際条約や米州条約の実施を監督する、人権委員会といった現存する国際的監視機構や、南北アメリカ諸国内間の人権委 員会といった現存する地域監視機構にとってきわめて重要である。この勧告は、さまざ まなとりわけ傷つきやすいグループやセクターの保護を企図した国際的文書の実施を監督する、「女性に対する差別に関する委員会」ならびに、これから設置される「あらゆる移住労働者およびその家族の権利保護に関する委員会」のような監視機構に関し、二重に妥当なものといえる。というのも、二重もしくは三重の差別が頻繁に発生しているからである{106)}。
274.障害者の10年が終結した後は、人権と障害の問題は、不断の関心を前向きの注目を注ぐべき項目として、国連総会、経済社会理事会、人権委員会とその小委員会の議題で あり続けなければならない。
275.ウィーンにある社会開発・人道問題センターに対する支持と奨励が、他の国連諸機 構との困難な作業への、より大きな財政的寄与とより望ましい統合に反映されるべきで ある。
276.障害分野で活躍するさまざまな国連機関や各国政府ならびに国内組織間には、協力 および諮問支援計画が拡大されるべきである、と勧告できる。これに関し、ウィーンの社会開発・人道問題センターによっておこなわれている活動は、きわめて活発なものであり、また、ジュネーブの人権センターも、その諮問支援計画の下でかなり有用な活動をおこなっている。ILO、WHO、ユニセフ、食糧農業機関などのような他の専門諸機関のこの分野における活動も、拡大・強化されるべきである。
277.「障害者に関する世界行動計画」に示されている指針は、とりわけ、この計画の調 整と実施のための国内委員会の強化もしくは設置によって実行に移されるべきである。
278.障害者による、もしくは障害者の利益を擁護する人びとによる非政府組織の設立が勧奨されるべきであり、その活動が促進されるべきである。この勧告は、以前に述べたように決定、政策選択、彼らの人権の擁護におけるこれら組織によって演じられた主導 的役割が、障害者の10年の最も顕著な特徴の一つであることから、きわめて重要なものである。障害者を、彼ら自身の問題における専門家だと認識することは、比較的最近のことであり、これは偶然によるものではなく、国際社会によってこの問題に払われてきている、増大しつつある関心と合致するものである。言うまでもないことだが、障害者による諸組織への真の参加がなかったならば、障害と人権との連結は、特別調査報告担当官の任命を正当化するほど十分に強調されはしなかったであろう。そうでなかったならば、特別調査報告担当官は、彼の任務を果たす上で、諸組織や彼が会ったすばらしい専門家たちの貢献や協力を受けることはなかったであろうし、こうした貢献や協力に心から感謝したい。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所