音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

国連人権センター・人権研究シリーズ 第6集『人権と障害者』の刊行

1.差別防止・少数者保護小委員会特別調査報告担当官 Leandro Despouy :
Human Rights and Disabled Persons. United Nations, 1993.の翻訳

中野善達 編
エンパワメント研究所


国連人権センター・人権研究シリーズ 第6集『人権と障害者』の刊行

1.差別防止・少数者保護小委員会特別調査報告担当官  Leandro Despouy : Human Rights and Disabled Persons. United Nations, 1993.の翻訳

目 次 項目
前書き
A.研究の発端
B.背景
C.特別調査報告担当官の権限
D.受領した資料と情報
E.作業プラン  
1-23
8-9
10-14
15-19
20-22
23
232-238
234
234-236
236-237
237-238
238
第I章 基本的な法概念
A.問題の提起
B.国際的な人権基準
C.世界的視野に立つ他の条約
D.地域文書
E.国際的人道法の基準
F.条約ではない、宣言などの諸規定
G.要約とアセスメント
H.用語、定義および統計
24-108
24-26
27-44
45-53
54-60
61-64
65-82
83-85
86-108
239-267
239-240
240-244
244-247
248-249
249-250
250-256
256-257
257-267
第II章 障害をもたらす諸要因
A.多様な原因
B.障害を引き起こす要因としての人権や人道的法の侵害
C.武力紛争や内乱事態で非戦闘員がこうむった被害
D.子どもや女性に対する不十分なケアや残酷な行為
E.他のいくつかの傷つきやすいグループに特有な問題
F.人権侵害と見なされる低開発とそのさまざまな現われ
G.アパルトヘイト
H.意図的に科せられた刑罰や他の処遇の形成に関連する問題
I.科学的実験
109-180
109-118
119-126
127-129
130-145
146-157
158-169
170-173
174-178
179-180
267-293
267-271
271-273
273-274
274-279
280-283
284-288
288-289
289-290
290-293
第III章 障害者に対する偏見と差別:分野、形態および範囲
A.はじめに
B.差別の分野と範囲
C.文化的障壁
D.とりわけ傷つきやすい精神疾患者の状況
E.施設収容
F.虐待および差別行為の撤廃
181-203
181-183
184
185-192
193-194
195-199
200-203
293-304
293-295
295
296-299
299-300
300-302
302-304
第IV章 差別を根絶し、障害者が人権を完全に享受するのを保障するための国内的および国際的方針ならびに手段
A.予備的考察
B.施設入所か地域社会でのリハビリテーションか
C.施設収容を制限するため、ならびに、虐待を防ぐためにとられる手段
D.障害者団体の設立と活動を促進する手段
E.教育、訓練・研修および職業ガイダンス面における障害者の権利
F.雇用および労働条件面における障害者の権利
G.他の障害者の権利
H.障害者の権利行使と、彼らに利用可能な救済を保障する手段
204-263
204-206
207-213
214-220
221-228
229-239
240-245
246-254
255-263
304-329
304-305
305-308
308-310
310-314
314-318
318-321
321-324
324-330
第V章 広報と教育 264-270 330-332
勧告および提言
A.一般的勧告
B.特定の提言
271-285
272-278
279-285
332-336
332-333
334-336
補遺 受領した回答 337-338

前書き

国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -

中野 善達 編
エンパワメント研究所

前書き

1.前書きとして、過去にたちかえり、フランクリン・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)、ゴヤ(Goya)、フリダ・カーロ(Frida Kahlo)、ベートーベン(Beethoven)、ヘレン・ケラー(Helen Keller)や他の多くの著名な男性や女性の名前をあげることが有用であるかもしれない。これらの人びとは、彼らが達成したものに加え、苦痛、逆境もしくはとりわけ身体的あるいは精神的障害に対処しなければならなかったわけだが、この人びとでさえ、彼らの芸術、科学や天性を通して人類を感動させることができたということの生き生きした証拠を、われわれに伝えてくれている。この記述を支持し、今日でもいまだ妥当であることを示すためには、ベストセラー「宇宙を語る(A Brief History of Time{*})訳注:林 一訳、早川書房、1989年」の有名な著者であり、世界一流の理論物理学者の一人とみなされ、25年以上にわたって進行性で不治の運動神経疾患をわずらってきたにもかかわらず、2世紀前にアイザック・ニュートン(Isaac Newton)が占めていたのと同じ講座で、ケンブリッジ大学で教授としていまも活躍しているスティーブン・ホーキング(Stephen W.Hawking)の名をあげるので十分であろう。

2.しかしながら、歴史上の人物や卓越した人物の名をただ挙げるだけでは、恒久的にもしくは長期にわたって、なんらかのタイプの障害を体験している無数の人びとが直面している広大な諸問題を十全に理解するには十分ではない。実際、例証する価値があることに加え、上記の言及は、障害に対する従来からのアプローチ-伝統的に、障害の問題を障害を受けている人だけに限定してしまい、われわれ全員に関係する問題だとはみなさない-にとらわれず、地域社会全体が関わる問題として扱うというわれわれの意図を明らかにするために企図された。

3.5億人以上の人{1)}-世界総人口の10%-がなんらかのタイプの障害を負っている。多数の国々において、少なくとも10人に1人が身体的・精神的もしくは感覚的障害をもち、少なくとも総人口の25%が障害があることによってマイナスの影響を受けている。こうした数字は、問題のとてつもない大きさをかなりの説得力で示してはいるが、その世界的な広がりに加え、この現象が全体として、どのような社会にもよく知られた衝撃をきわだたせていることも示している。しかし、この数字だけでは、問題の実際の重大さを評価するのに十分な基礎とはならない。というのも、これらの人びとはしばしば、地域社会への統合や完全参加を妨げる物理的・社会的障壁の存在によって、嘆かわしい状況の中で生活しているからである。その結果、世界の数百万人の子どもや成人が隔離され、実質的にあらゆる権利を剥奪され、ひどい周辺的な生活に追いやられている。

4.そこでわれわれは、関与している社会的問題や人権に固有な問題を直ちに強調することで、この研究を始めることがあまりに大胆であるなどとは考えない。

5.研究に着手する手始めの戒心として、この問題を正しく扱うには、あわれみの感情やふびんに思う感情にとらわれないことが不可欠である、ということを指摘しなければならない。われわれは厳密に人道的な問題を扱っているのではないし、いわんや、慈善を要求するような状況を扱うのでもない。そうしたこととは関係なく、障害者に与えられる処遇は、その社会の最奥にひそむ特徴であることを明らかにし、また、それを持続させる文化的価値をきわだたせることを目的とする。

6.障害をもつ人びとも人間である-他の人びとと同じ人間であり、通常、他の人びとよりもずっと人間的でありさえする人たちである、ということを指摘することが基本であるといえよう。彼らが障害を克服し、通常しょっちゅう遭遇する差別的扱いを克服するための日々の努力は、誠実さ、持続力、奥深い理解力、理解の欠如や不寛容に直面したさいの忍耐力、といった最も明確で共通している特有のパーソナリティ特徴を彼らに与えている。しかし、この最後にあげた特徴があるからといって、法の支配下にあるものとして、彼らが人間に固有な法的属性すべてを享受し、さらに特有な権利を有しているという事実を看過するようなことがあってはならない。

7.一言で言えば、われわれと同じ人としての障害をもつ人びとは、われわれと共に生活し、われわれと同じように生活する権利をもっている。法律的観点からすると、この記述には以下の三つの次元が存在する。(a)障害をもつ人びとが特有の権利をもつということの認識。(b)これらまた、すべての彼らの権利の尊重。(c)障害をもつ人びとが、他の人びとと同じ立脚点に立ち、彼らの人権すべての効果的行使を享受するのを可能にするのに必要なことをおこなう義務。

A.研究の発端

8.1984年3月12日、「人権委員会(Commission on Human Rights)」は「経済社会理事会 (Economic and Social Council)」に対し、人権および基本的自由の重篤な侵害と障害との間の因果関係ならびに、それら諸問題を軽減させるためになされた進歩に関し、徹底的な研究に着手するため、「社会開発・人道問題センター(Centre for Social Development and Humanitarian Affairs)」と協議の上で、「特別調査報告担当官(Special Rapporteur)」を指名し、その見解や勧告を人権委員会および社会開発委員会を通じ、経済社会理事会に提供することを小委員会(訳注:差別防止・少数者保護小委員会)に要請するよう勧告する決議1984/31を採択した。理事会は1984年5月24日、その決議1984/26によって委員会の要請を支持した。
9.1984年8月29日、経済社会理事会による要請に応じ、人権委員会と小委員会は、人権と障害との間の関係についての包括的研究をおこなう特別調査報告担当官としてレアンドロ・デスポイ(Leandro Despouy)を指名することを決定した決議1984/20を採択した。

B.背景

10.1970年代後半に始まり最近になって、広範な飢餓、生態系の破壊、戦争などによって引き起こされた膨大な被害によって駆り立てられた国際社会は、障害をもつ人びとを苦しめている諸問題にしだいに気づくようになった。障害に関する新しい多面的な関心の始まりは、1971年12月20日に「国連総会(General Assembly)」で採択された決議「精神遅滞者の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons)」に続き、1975年12月9日に同じく国連総会で採択された決議「障害者の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of Disabled Persons)」とみなすことができる{2)}。
11.想起されるように、1976年12月16日、国連総会は1981年を、後に「完全参加と平等(full participation and equality)」というテーマで知られる「国際障害者年(International Year of Disabled Persons)」{3)}と宣言した。そして、とりわけ国際社会に、障害をもつ人びとの状況やニーズに注意を引くことを目的とする活動に資金を供給する、「国連信託基金(United Nations Trust Fund)」を設定した。障害者年の慶祝行事の前や期間中に着手された活動の主要な結果は、国連総会が1982年12月3日、満場一致で採択した決議37/52「障害者に関する世界行動計画(World Programme of Action concerning Disabled Persons)」{4)}を練り上げることであった。この計画は、障害の予防、リハビリテーション、社会生活と開発への障害者の「平等」と「完全な参加」のための効果的手段を促進する世界方略の指針を設定した。
12.世界行動計画は実際、人権概念を幅広くすることを意味する、すべての人にとって機会が均等であるべき権利ということを認識していること、を指摘しておくのが重要である。このことは、国連総会が世界行動計画の採択に続いて同じ年に、なぜ決議37/53「障害者に関する世界行動計画の実施」を採択したのかを説明している。ほとんどの障害者が生活している好ましくない状態を、国連の人権機関が考慮すべきであり、こうした事態を正すための諸手段をとるべく強調すべきことを規定したのである。
13.しかしながら、関連する国連人権機関の作業の出発点は、本質的に小委員会の決議1982/1であり、そこでは小委員会が各国政府に対し、全世界的に宣言された人権を享受するさい障害者が遭遇している諸困難に思いをいたすことと同じく、当局に付属する有能な組織に彼らの人権の侵害について申し立てをするさいの手続きを強化する必要性と、かかる訴えに行動をおこすこと、あるいはそのことに各国政府の関心を向けるようにすること、を勧告した。
14.特別調査報告担当官の指名の1年前、小委員会はその第36会期に決議1983/15で、人権と障害間の関係、とりわけ人権侵害と障害間の関係をはっきりときわ立たせた。

C.特別調査報告担当官の権限

15.前述のように、特別調査報告担当官の元来の権限は、人権委員会の決議1984/31、経済社会理事会決議1984/26、小委員会の決議1984/20に由来するものである。これらの決議は、進歩に焦点をあてながら、人権と基本的自由の重篤な侵害と障害との間の因果的関係についての徹底的研究に着手することを要求している。権限にはまた、アパルトヘイトのシステムと障害との間の現存するもしくはありうる関係と同じく、障害者に対するあらゆる形態の差別についての徹底的分析をおこなうよう、という要請も含まれている。
16.障害者に対する機会の均等、完全参加、自立生活という原則に導かれ、小委員会は特別調査報告担当官に、公的もしくは私的な施設における障害者に対する処遇や施設における虐待の事例、障害に関連する経済的・社会的・文化的権利の状況を綿密に検討することを要請した。最後に、小委員会の決議は、障害に関連する科学的実験の被験者に関する予備的アウトラインの研究も含めることを要請した。
17.特別調査報告担当官の権限はしだいに拡大され、洗練されたが、これに関してはそれぞれ、特別調査報告担当官の1985年の予備的報告(E/CN.4/Sub.2/1985/32)の検討の機会であった小委員会の第38会期、1988年の経過報告(E/CN.4/Sub.2/1988/11)の検討の機会であった小委員会の第40会期になされた討議の間に、小委員会メンバー、オブザーバーの各国政府、非政府組織などからのガイダンスと情報提供に感謝したい。これに関連しとりわけ注目すべきことは、障害の原因としてのさまざまなタイプの闘争、戦争や他の形の暴力・侵害、障害を故意にもたらそうとする肢体の切断などの刑罰や処罰の否認、障害者数に関する適切な法的定義やより正確な統計的データの提供が望ましいこと、についての徹底的研究の必要性に関する発言であった。
18.討議では女性{5)}、先住民{6)}、移民労働者や難民{7)}といった特定のグループ内の障害に関して起こる、とりわけ複雑で重篤な問題や、開発途上国の障害者が体験している厳しい問題もまた研究の中に含めるのが望ましいことを明確にした。この報告はまた、極端な貧困、低開発{8)}、社会的不平等、緊急事態と、障害の重度化さらにまた、障害者による人権の享受間の関係に関し、さまざまな参加者によって表明された関心も反映している。
19.最後に、経済社会理事会が、1992年6月29日から7月31日にかけニューヨークで開催された会期中に、人権委員会が1992年3月3日の決議1992/48で、事務総長に対し、人権と障害者に関する特別調査報告担当官の最終報告を、国連によってすべての公用語で公刊することを要請し、その検討結果を「社会開発委員会(Commission of Social Development)」に伝えるよう要請したことを承認したことを指摘しておきたい。

D.受領した資料と情報

20.前期の諸決議によって与えられた権限に応じ、特別調査報告担当官は1984年以来、各国政府、さまざまな国連機関とりわけウィーンの社会開発・人道問題センター、専門諸機関、地域組織、関連のある非政府組織とりわけ障害者団体からの情報や示唆に対し、最初は暫定的な質問リストに基づき、次いで質問紙に基づいた要望書を配布した。受領した大多数の応答は、特別調査報告担当官の指名に先行し、国連によって受領され、報告書「E/CN.4/Sub.2/1983/36 and Add. 1-4」および「E/CN.4/Sub.2/1984/9 and Add. 1」として公刊された情報を補うものであった。特別調査報告担当官はまた、障害の予防、障害者の統合や参加の増大を保障する目的の政府間活動、国の政策、非政府組織の活動も綿密にフォローした。緊密な接触が、とりわけ-直接もしくは人権センターを通じ-障害者に関する世界行動計画の実施において、社会開発・人道問題センターの後援の下で着手された諸活動との間に維持されてきた。
21.この報告をまとめるさいに使用された主要な資料は、基本的に関連する文書、とりわけ全世界的視野に立つ文書や、質問紙に対し各国政府や政府間組織、非政府組織から送られてきた返答、それらについてなされた数多くの追加要望書への返答であった。また、障害に関する専門家や専門家会議によって準備された報告にも考慮がなされた。純粋に方法論的理由から、受領した 返答や広範な参照資料すべてを補遺にまとめるのが望ましいとみなされた。
22.最後に、特別調査報告担当官は小委員会のメンバーに感謝の念を表明したい。彼らによって提供された情報、とりわけ技術的問題や実質的問題に関する示唆や価値ある助言に対して感謝する。特別調査報告担当官はまた、オブザーバーであった各国政府の代表、さまざまな国連機関とりわけ社会開発・人道問題センター、ILOやWHOといった専門機関によってなされた貢献を、またとりわけ、障害者が代表となっている非政府組織から受けた支援を強調しておきたい。これらの明確な支援なしには、この報告は執筆されえなかったであろうし、そのことからも、彼らにこの報告が捧げられるのが、彼らにとっての権利であるといえよう。

E.作業プラン

23.前述のことに照らして、この研究は、五つの章で構成することとし、小委員会がその第40会期で討議した1988年の経過報告に含まれていた作業プランに従って準備がなされた。第I章は、とりわけ障害者に関する法的問題および適切な障害の定義を形成する問題を扱っている。第II章は、障害を引き起こす要因、とりわけこうした要因としての人権や人道法の侵害について討議する。第III章は、障害者がこうむっている偏見、差別その他の人権侵害について記述する。第IV章は、差別的慣習を根絶し、障害者が人権を完全に享受することを保障するよう企画された国家的・国際的政策や手段について詳述する。第V章は、公報と教育をもっぱら扱うこととする。最後に、この研究に基づく特別調査報告担当官の結論と勧告に注意が向けられる。


* Bantam Books, 1988.
1) Source: World Health Organization (WHO).
2) Human Rights・・A Compilation of International Instruments (United Nations publication, Sales No.E.88.XIV.1).
3) See resolutions 31/123 and 34/154.
4) World Programme of Action concerning Disabled Persons, published by the Di vision of Economic and Social Information and the Centre for SocialDevelopment and Humanitarian Affairs (November 1983, DESI. S97).
5) E/CN.4/Sub.2/1985/SR.23, para.69; see also the background paper by the Branch for Equality of Men and Women for the fifth interagency meeting held in Vienna in February 1987.
6) E/CN.4/Sub.2/1985/SR.23, para.63.
7) Ibid., paras.63 and 72.
8) See E/CN.4/Sub.2/1985/SR.23, paras.31,37 and 40. See also note 50.・・・


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所

第I章 基本的な法概念

国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -

中野 善達 編
エンパワメント研究所

第I章 基本的な法概念
A.問題の提起

24.本章は、この報告の主題に関連する多くの諸問題について予備的討議をおこなうつもりである。そこで、例えば、次のような質問に答えようとする。障害者は他の人びとと同じ権利を享受するのであろうか。彼らは特有の権利をもっているのであろうか。もし も彼らがそうした権利をもっているとするならば、それらの権利はどこで確立されるのであろうか。それらはほとんど、法的な保護を求められない宣言的な認定にしかすぎないのではあるまいか。障害者のような、法的に確かに「認定できる」グループの場合、法の前に平等ということを単に認識するだけで十分なのか、それとも、障害者が認識された人権のすべてを効果的に、平等を基盤として行使できるようにするには、なんらかの要件が付加されるべきなのであろうか。最後になるが、平等な機会という権利は実質 的なものか、それとも、単に願望であるにすぎないものなのであろうか。

25.これが世界的視野の下での研究であることに留意して、主としてさまざまな関連する国際的文書を検討することに集中しなければならない。これらのうち、幅広い指針(例 えば諸宣言)ならびに、あらゆる個人に拘束力をもち、一般的に適用できる(国際規約のような)基準の両者をレビューすることとする。当然のことだが、また、障害に関して特有の基準を示している文書や、(子どもの権利に関する条約のような)障害者の特定のカテゴリーに言及している文書に関する論議をおこなうことにする。

26.最後に、これら文書の諸規定のあるものは、あらゆる場合に共通する要素は保護的機能をもっているのであるが、妨害的なものであったり、代償的なものであるということを強調することが重要である。さらに、いくつかの基準は、障害を引き起こす諸要因を攻撃することを企図したものであり、一方、他のものは、すでにある形の障害をこうむってしまっている人びとを保護することを目指している。さらに他の場合には、両者の目的が組み合わさっている。これら諸規定の全体に目を通すことによってのみ-また、 解釈の基準としての人権の特性である原則を使用することで-この主題の核心的概念やその真の法的次元を完全に理解できるであろう。

B.国際的な人権基準{*}

27.「国際連合憲章(Charter of the United Nations)」および「国際人権章典(International Bill of Human Rights)」の目的や原則に従い、これらや他の文書に示された、あらゆる市民的・政治的・経済的・社会的・文化的権利の行使を認められているなんらかの形の障害をこうむっている人びとがいるというだけでなく、他の人びとと平等 な基礎の上に、この人びとがそれらを行使する権利を認められた人びととして認識され るということである。

28.こうした二つの記述は国連憲章の第55条と第56条のような一般的規定-それは、すべ ての締約国は、「いっそう高い生活水準、完全雇用ならびに経済的および社会進歩と開 発の条件」を促進することに着手する、ということに言及している-ならびに、「世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)」第25条のような特有の規定、すなわち、すべての人が「自己および家族の健康ならびに福祉に十分な生活水準を保持する権利」と同じく、「失業、疾病、障害、配偶者の死亡、高齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利」を有することを認めている規定、の両規定に基礎づけられている。

29.平等の権利という原則についてみると、世界人権宣言の各条は命令的な形式になっているが、きわめて啓発的な性格のものといえる。第1条は、「すべての人は、生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利について平等である」と規定し、第2条は、「 すべての人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、いかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に示されたあらゆる権利と自由を有する」と述べている。第3条と第6条は「すべての人は…権利を有する」とし、第7条は「すべての人は法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受 ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する」と述べている。

30.引用された世界人権宣言の諸規定のうち、障害に特に言及しているのは唯一の部分だけであるが、この文書は、障害者の人権を促進し保護する上で真に重要なものである。 というのも、これらの人びととは、他のすべての人びとと同じ尊厳と権利を有しているからである。さらに宣言は、この主題に関する他の多くの後続の文書や採択された決議の基盤として、また、準拠枠として役立っている。

31.「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)」ならびに「市民的および政治的権利に関 する国際規約(International Covenant on Civil and Political Rights)」は1976年に効力が発生した。両者は人権分野における拘束力のある法的規定の最も包括的な国際法典を形成している。この二つの規約は、世界人権宣言の諸規定を発展させ、補足するものであり、これら三つの文書は共に、国際人権章典として知られているものを作り上 げている。障害ということはおそらく、両規約が示しているように、人権と基本的自由 の不可分性と相互依存性を認識することの重要分野なのである。このことは、市民的、政治的権利の、他方、経済的、社会的ならびに文化的権利の適用、促進、保護に同様な関心と考慮をおこなう緊急な必要性を認識することを意味している。

(a)経済的、社会的および文化的権利に関する国際的規約

32.前文に始まるこの規約は、人権のあらゆる範囲を「すべての人が享受できる」以下の条件が作り出される必要性に言及している。第1条は自己決定権を設定し、第2条は規 約に示された権利がいかなる差別もなしに行使されることを約束している。第6条は、「労働の権利、この権利にはすべての者が自由に選択し、または承諾する労働によって生計を立てる機会を得る権利を含む」ことを示している。このように、例えば、労働によって生計を立てることが可能な障害者が、他人と比べて不公平な立場におかれたならば、これは労働の権利の侵害を示すものとされるわけである。

33.第7条は、すべての人が、ふさわしい報酬を保障する公正かつ良好な労働条件を享受する権利をあげている。「いかなる差別もない同一価値労働についての同一報酬」の原 則が設定されている。障害が、障害をもたない人と同じ労働をおこなう妨げにならない事実にもかかわらず、障害を理由にして低い報酬しか支払わないのが慣習であるのに対し、障害者にも明白に、差別が受け入れられないことを示している。

34.第10条(2)は、「産前産後の合理的な期間においては、母親に特別な保護が与えられるべきである」としている。この問題は、障害の多くの事例が妊娠中もしくは出産が困難なために生じるので、障害というテーマに密接な関連をもっている。

35.第11条は、すべての人が、自己および家族のために相当な食糧、衣類および住居を含む、相当な生活水準を得る権利を認めている。本研究は、障害者であれば大多数の場合、この権利がおよそ尊重されていないことを示す情報を提供する。

36.第12条は、すべての人が到達可能な最高水準の身体的および精神的健康を享受する権 利を認めている。この権利は、この栄養不良や栄養失調を防止するのに必要な手段がとられない場合、適切な医療ケアが提供されない場合、障害者がリハビリテーションサービスを与えられない場合、全般的な生活条件が精神保健に逆行するような場合、完全に回避できる障害を引き起こすある種の疾病を防ぐ免疫キャンペーンが遂行されない場合、人びとが不潔で人を詰め込みすぎる施設などで生活している場合などに、明らかに侵害されている。

37.第13条は、教育を受けるすべての者の権利を認めている。障害者の場合、このことは、市町村の学校での教育に効果的なアクセスができなければならないこと、ならびに、必要な場合には特殊教育が準備されなければならないことを意味している。

38.最後に第15条は、すべての者が文化的活動がおこなわれる施設(映画館、劇場、図書館、スポーツスタジアム、美術館など)へのアクセスが可能でない場合、障害者の参加を可能にする代替のものが準備されない場合、もしくは、参加能力に関する偏見のため障害者が除外される場合に侵害されることになる。

(b)市民的および政治的権利に関する国際規約

39.この文書は、この規約で確立されたあらゆる権利を、人種、皮膚の色、性といったいかなる事由による差別なしに、すべての人に保障している。第2条はすべての者に、権利を侵害された者が、効果的な救済措置を受けることが保障されることを規定している。後にみるように、この規定は、障害者にとって基本的に重要なものである。というのも、各国政府は、障害者の権利の法的保護を必ずしも認識してはいないし、また、ほとんどの国がこうした権利の侵害に対して行動をおこすさい、障害者を支援する特別な手段を準備していないからである。

40.世界人権宣言(第5条)および「拷問、その他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つけるような処遇あるいは刑罰に反対する国連条約(United Nations Convention against Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment)」のタイトルに類似した表現を使用しているこの条約は、その第7条で次のことを認めている。「何人も、拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱い、もしくは刑罰を受けない。」さらに、次のように規定している。「何人もその自由な意思による同意なしに医学的または科学的実験を受けさせられない。」どちらも今日、さまざまな種類の障害の主要な原因の一つになっていることは常識になっている。

41.第9条は、護身の権利ならびに逮捕されるさいにその理由を告げられる権利といった司法手続きの全分野に触れている。本条は、保護が問題となっているさい、とりわけなんらかの精神的障害をこうむっている人びとにとって、任意のまた不必要な抑留、もしくはなんらかの施設内虐待が相当な重要性をもっている。

42.第17条では、以下のように述べられている。「何人も、その私生活、家族、居住もしくは通信に対して恣意的にもしくは不法に干渉され、または名誉および信用を不法に攻撃されない。」本条は、施設に収容されている人びとまた、最も基本的な権利、例えば私生活(プライバシー)の権利が常習的に侵されている人びとの状況に直接関連するものである。第23条は、婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をし、かつ家族を形成 する権利を認めている。精神疾患の人の場合、真に障害とはなっていないのに、すべて の人がもっている結婚し、家族を形成する権利を、家族や施設当局が侵害している。この権利はまた、強制断種の場合にも侵害される。

43.第25条は、すべての人が直接に、または自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与すること、選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において、投票したり 選挙されること、一般的な平等の条件の下で自国の公務に携わることの権利を認めている。この権利は例えば、精神障害者がたとえそうすべき立場にあったにもかかわらず、選挙権の行使を認められない場合、あるいは、秘密が保持されないことを口実にして盲人の投票が否認される場合、もしくは運動障害をもつ人にとって投票場へのアクセスができない場合、あるいは、公務につきたいという志願者が、彼が特定の障害をもっているため、その仕事をおこなうのを差別されたり、その資格がないといった偏見のために、機会を奪われてしまう場合に侵害される。

44.最後に、また、本章のはじめに示したように、両文書をきちんと検討することによってのみ、市民的・政治的権利と経済的・社会的ならびに文化的権利との間の相互依存性 を評価できるし、またとりわけ、障害をもつ人びとに関連するあらゆる問題にその相互依存性が重要なことを評価できる。いくつかの政府は、障害者のために最適の生活水準 を保障するが、投票するといったような政治的権利の行使を制限するといったことをしようとしているし、また、実際にそうした国々もある。

C.世界的視野に立つ他の条約

45.上記の文書に加えて、「アパルトヘイト犯罪の抑止と処遇に関する国際条約(International Convention on the Suppression and Punishment of the Crime of Apartheid)」はその第II条で、「アパルトヘイトの犯罪」という表現は、「自由や尊厳を侵害することによって、あるいは拷問や残虐な、非人道的な、もしくは品位を傷つける処遇や刑罰によってある人種グループの人びとや重い身体的もしくは精神的損傷を受けているグループに加えられる処罰」に適用する、と規定している。

46.1984年に採択された「拷問ならびに他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける処遇や刑罰に反対する条約 (Convention againt Torture and Other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment of Punishment)」は、障害を予防するのにきわめて重要な、世界的に適用可能な基準を含んでいる。第2条で各国が、その管轄しているいかなる領土にあっても、拷問という行為を予防するために効果的な立法・行政・司法手段や他の手段をとる責任を負うことを示している。上官の命令であれ、戦争状態とか戦争の脅威がある状態、国内の政治的不安定、あるいはなんらかの公的非常事態といった特別な状況であれ、いかなる場合でも、そのことが拷問を正当化する理由にはなりえない。条約の第14条は、純粋に予防的な側面を乗り越え、各国政府が拷問という行為の犠牲者に償いをし、また、その犠牲者に可能な限り十分なリハビリテーションを提供することを含め、公正で十分な補償を得る権利をもつことを保障するための、拘束力のある補償規定を含んでいる。

47.国連の人権諸機関は、子どもの傷害を予防する必要性ならびに、障害児に適切な保護を提供することに特別な関心を向けてきた。この関心が、「子どもの権利に関する条約 (Convention on the Rights of the Child)」に特別な規定を含めたことに大きく寄 与した。例えば、第19条は、あらゆる形態の身体的もしくは精神的暴力、傷害もしくは性的虐待を含む虐待から子どもたちを保護することを規定している。

48.第23条は、次のように規定している。

1.締約国は、精神的または身体的な障害を有する子どもが、その尊厳を確保し、自立を促進し、ならびに社会への積極的な参加を容易にする条件の下で十分かつ相応な生活を享受すべきであることを認める。

2.締約国は、障害をもつ子どもが特別の養護についての権利を有することを認めるものとし、利用可能な手段の下で、申込みに応じた、かつ、当該の子どもの状況および父母または当該の子どもを養護している他の者の事情に適した援助を、これを受ける  資格を有する子どもおよびこのような子どもの養護について責任を有する者に与えることを奨励し、かつ、確保する。

3.障害をもつ子どもの特別なニーズを認めて、2の規定に従って与えられる援助は、父母または当該の子どもを養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償で与えられるものとし、かつ、障害をもつ子どもが可能な限り社会への統合および個人の発達(文化的および精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法で当該の子どもが教育、訓練、保健サービス、リハビリテーションサービス、雇用のための準備およびレクリエーションの機会を実質的に利用しおよび享受することができるようにおこなわれるものとする。

4.締約国は、国際協力の精神により、予防的な保健ならびに障害をもつ子どもの医学的、心理学的および機能的治療の分野における適当な情報の交換(リハビリテーション、教育および職業サービスの方法に関する情報の普及および利用を含む。)であって、これらの分野における自国の能力および技術を向上させ、ならびに自国の経験を広げることができるようにすることを目的とするものを促進する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。

49.「あらゆる移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約 (International Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of Their Families)」は、このグループの人びとを障害から保護することに関連する ものとみなすことができる。とりわけ第16条(2)は、移住労働者とその家族が、公務担 当者からであれ、私人からであれ、グループや施設からであれ、暴力、身体的傷害、強迫や威嚇から、国によって効果的保護が与えられることを規定している。条約の第28条 では、移住労働者とその家族は、生存を続けるのに緊急に必要ななんらかの医療ケアを 受ける権利と、関連する国と取り扱いの平等性ということを基にして、健康にとって取り返しのつかない有害なものを回避する医療ケアを受ける権利をもつとしている。

50.70年以上も前に設置されて以来、ILOは障害の原因や性質がどうであれ、障害者は職業ガイダンス、訓練や再適応のための機会や、一般参加なり保護条件下でなりの雇用の機会が与えられるべきことを唱え続けてきている。

51.「1995年の障害者の職業リハビリテーションに関するILO勧告第99号(ILO Recommendation No.99 of 1955 concerning Vocational Rehabilitation of the Disabled)」は、障害者が訓練や雇用の機会に完全に参加する権利の促進に関する画期的な文書である。さらにこの文書は、多くの国々が職業リハビリテーション法を制定したり、実行するのに幅広く大きなインパクトを与えてきた。同じ勧告が、この分野におけるILOの技術協力活動に推進力を与えている。

52.1983年6月20日、国際労働会議総会は障害者の職業リハビリテーションに関する条約(第159号)と勧告(第168号)を採択した。両文書とも、障害者が訓練や雇用に平等なアクセスを保障されるためのいっそうの努力を訴えている。また、雇用主の組織や労働者の組織、ならびに地域社会自身のこの目標達成への重要な役割が強調された。これらの組織の直接的働きかけが、残念ながら労働市場に障害労働者がアクセスすることをいまだに妨げている、差別的慣行を終息させるのに大きな影響をもつはずである。条約や勧告はまた、地方における障害者の訓練や雇用、仕事を創造する新しい基準の概要作り、積極的な労働生活への彼らの統合や再統合に影響を及ぼす立案や政策・計画の策定のさい、障害者自身に相談する必要性の指摘にもっと注意を向ける必要のあることを強調している。

53.前述したように、これらILOの基準は、加盟各国や障害者の職業リハビリテーションに関するすべての国々に向けられ、その実践のステップは「国連障害者の10年(United Nations Decade of Disabled Persons)」の枠組み内で進行してきた。同時に、これら諸規定の実施は、障害者のとりわけ彼らの社会的・経済的権利に関する人権の享受に助力する上で、大きな力となるであろう。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所