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海外自立生活新事情

カリフォルニア州における発達障害者の地域生活支援システム(その1)

―地域センター(リージョナルセンター)の機能と課題―

定藤丈弘

地域センター(リージョナルセンター)とは何か

 前回はカリフォルニア州における発達障害者の居住形態の多様化について報告した。発達障害者はその生まれ育った地域社会の中で同じ年齢の非障害者とできる限り同等な日常生活を営むために、これらの居住サービスに加えて、乳幼児や学齢児の発達援助サービス、自立生活技術訓練、職業訓練事業、およびデイプログラムなど多様なサービスを利用している。これらの諸サービスを計画し、総合的に調整している機構が地域センターである。
 同センターは州の発達障害局と契約している民間の非営利機関であり、州全体で21か所設置されている。1969年に制定されたランテルマン発達障害者援助法は地域を基盤とした総合的なサービスシステムの確立を目指して、その中核的な機能を担う機構として地域センターが誕生した。今日、州全体では13万5000人の発達障害者が地域センターを利用しており、単純計算では1センター当たり平均約6400人の利用がなされている。1993年に改正されたランテルマン法では家庭支援サービスや地域社会への諸個人の統合化、および利用者のエンパワーメントと選択の権利、具体的には発達障害をもつ人たちが自分たちの生活に影響を受けるあらゆる決定過程に実質的に参加する権利を促進することが一層重視されており、地域センターはそれらの目的を達成するための中心的な機構として期待されている。
 地域センターで最も重視されているのが個人プログラムプラン(IPP)の策定とその実施、展開である。センターでは障害者(家族)と面接し、ニーズ判定を行い、その判定をもとに、障害者個人のためにセンターのソーシャルワーカー、本人、家族、および関係機関のスタッフによるチームが形成され、本人のニーズをベースに、本人の成長と発達を支援するために必要な1年間の目標やサービスを明記したIPPがたてられる。その計画の達成度などをみるためソーシャルワーカーは年数回は障害者本人へ訪問面接を行い、毎年IPPの再検討、必要に応じた修正もなされている。
 前回も登場したイーストベイ地域センターのロドリゲス部長によれば、同センターは約9000人の障害をもつ利用者が登録されており、200人前後の専門スタッフをかかえている。そして同センターは0歳から5歳までの乳幼児期、5歳から16歳までの児童期、16歳から25歳までの成人移行期、25歳以上の成人期という4段階に区分し、各段階ごとにケース担当のソーシャルワーカーが配属されて、個別に1人ずつ策定されたIPPに基づいて、担当全ケースを年数回は訪問面接して、その生活状況を点検し、障害児者の権利が守られているかどうかを査定するのである。同センターのワーカー1人当たりの平均担当ケース数は80ケースになっており、どこまでまともなIPPの策定や個別の評価がなされうるのか危惧される面もあるとはいえ、このような地域センターシステムは発達障害児者の生涯における地域生活支援のための調整計画の場、権利擁護の基地的役割を担っているのである。
 わが国では児童相談所の障害児相談や措置部門、精神薄弱者更生相談所部門、福祉事務所の障害者サービス部門をあわせても、カリフォルニア州の地域センターシステムには遠く及ばないように思われる。権利侵害を絶えず受ける恐れのある発達障害者の問題を考えるにあたっては、権利擁護の基地的機能をもつ地域センターシステムから学ぶことが多いのである。

地域センターの具体的機能と地域生活支援サービス

(1) 地域センターの機能的展開

 発達障害者の生涯における地域生活支援を任務とする地域センターの第1の機能は、来談者との面談などを通して、地域センターサービスの受給対象となる発達障害児者かどうかを判定し、受給資格の有無とサービスニーズを判定する「インテークとアセスメント」の機能である。ここでの発達障害者とは脳性マヒなどを含む、主に知的障害児者であり、単に精神障害だけか学習障害のみあるいは身体障害(脳性マヒを除く)だけの人は受給対象から除かれている。まず、インテークカウンセラーによる来談者とのインテーク面接を通して必要な情報が収集され、それらは医師、心理担当者、ソーシャルワーカーからなる専門家チームに提供される。その後、同チームにより詳しい検討と査定がなされ、受給資格の有無が判定される。そして受給資格取得者はソーシャルワーカーであるケースマネージャーに割り当てられ、ケースマネージャーは本人や家族の協力を得て、サービスニーズのアセスメントを行うのである。
 第2の機能は前述したように、IPPの策定作業である。この発達障害児者個人の年間サービス、処遇計画はもちろん年齢などによって異なってくる。0歳から3歳までの乳幼児期では個別家族サービスプラン(IFSP)が策定される。障害児の体力とニーズを査定し、家族のニーズや好みを考慮しつつ、必要となる発達サービスと家族援助の年間計画がつくられる。学齢期では地区の特殊教育サービスを受ける障害児に対して、その健康度や教育ニーズに基づき、必要な個別教育プラン(IEP)が策定される。本来のIPPでは、発達障害者の体力、健康度や援助を必要とするニーズを明らかにし、学んだり、生活したりあるいはより独立して働くために必要となる諸サービスやそれらのサービスの目標値などが策定され、サービスを供給する機関や供給者の所在が明記される。
 第3はIPPなどで示された必要な諸サービスを購入したり、調整する機能である。地域センターは自ら直接的サービスを障害者に提供する場合もあるが、それはわずかであり、その大半は地域にあるベンダーと呼ばれるサービス供給主体とサービス購入契約を結ぶ。こうして、地域センターにより購入されたサービスを基に、障害者は必要な量のサービスの無料提供を受ける(それらのサービス内容は後述する)。
 第4はサービスを利用している障害者に訪問面接を行い、その生活状況を把握し、1年ごとにサービスの質を点検し、IPPの効果を検証して、必要に応じてその修正を行う機能である。
 第5は利用者の権利擁護の機能である。地域センターは、特に障害者の受給手続き過程にかかわる権利や、地域センターの判定や提供されるサービスなどに異議を感じた場合、その修正を求めて訴える不服申し立ての権利を保障していくことを社会的に要請されているのである。

(2) 地域生活支援サービスの内容

 地域センターが直接的あるいは間接的に供給するサービスは、発達障害者の生涯における地域生活ニーズを充足するために、多様に存在している。まず、予防的対応から早期対応のための乳幼児発達促進サービス、家族の休息、リフレッシュのためのレスパイトケア、在宅独立生活形成を目指す自立生活技術訓練、職業訓練プログラム、社会参加の拠点の1つとなるデイサービス、社会参加を容易にするための移動サービス、および医療サービスなどが供給される(図1)。

図1 カリフォルニアの地域サービスシステム

図1 カリフォルニアの地域サービスシステム

北野誠一「カリフォルニアのグループホーム」(定藤丈弘・谷口政隆編『障害者のホームライフ―グループホーム―』朝日新聞厚生文化事業団、1991年6月、67頁)を一部修正、加筆した。

 居住サービスも重要なサービスである。前号で紹介したように、多様な居住サービスが存在している。州政府直営の大規模人所施設である発達センターを除けば、さまざまな生活支援サービスの利用により在宅独立生活を目指す生活支援サービス(SLS)、小規模および大規模グループホームからなるコミュニティケア施設、成人用ファミリーホーム、児童用里親同居、自立生活技術プログラムの活用により在宅独立生活を目指す自立生活居住、介助に加え保健医療ニーズをもつ障害者が利用する中間的なケア施設(ICF)といった居住サービスは、いずれも民間の居住サービス供給機関から、地域センターが購入している。親・家族との同居者の多くには生活保護制度であるSSIや介助手当て制度であるIHSSが利用されている。
 諸サービスの購入経費は例えばイーストベイ地域センターでは、図2のような内訳となっている。1996~97年の財政年度では、同センターの財政総経費のうち、サービス購入総経費は6120万ドル、センターの直営サービスおよび管理経費は1230万ドルとなっている(図3)。州都サクラメントのあるアルタ地域センターでは、1993~94年の財政年度で、サービス購入総経費は3380万ドル、センター直接サービス総経費は840万ドルとなっている。
 なお、地域センターのこれらの諸サービスは、18歳以下の児童が自分の家族以外の居住サービスを利用する場合に利用料が徴収される場合などを除いて、ほとんどが無料となっており、これらの諸経費は連邦政府の一部補助金を含めて大半が州政府からの公的助成によってまかなわれていることは特筆に値する。このことは諸サービスが障害児者の権利として保障されていることと深く連動しているのである。

図2 イーストベイ地域センター サービス購入経費(1996-97財政年度)

図2 イーストベイ地域センター サービス購入経費

図3 イーストベイ地域センター 総財政支出(1996-97財政年度)

図3 イーストベイ地域センター 総財政支出

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)

カリフォルニア州における発達障害者の地域生活支援システム(その2)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年7月号(第17巻 通巻192号)39頁~43頁