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海外自立生活新事情

カリフォルニア州における発達障害者の地域生活支援システム(その2)

定藤丈弘

カリフォルニア州における発達障害者の地域生活支援システム(その1)

はじめに

 発達障害者のノーマルな地域生活の営みを可能とするために、地域を基盤とした総合的なサービスシステムの確立を目指して設立された地域センターは、発達障害児者の生涯における地域生活支援のための調整計画の場、権利擁護の基地的役割を担っている。前回では、このような地域センターの全体的内容や、個人プログラムプラン(IPP)の策定と実施に代表されるその具体的機能、および地域センターが提供する地域支援サービスの内容と財政状況などについて紹介した。今回は地域センターのスタッフの専門的役割や発達障害者に保障される権利の内容について報告するとともに、障害者の地域生活への統合化を一層促進させるために、地域センターがかかえている最近の課題に関して言及しておきたいと思う。

地域センターの専門家の役割と権利擁護

(1)地域センターのスタッフの役割

 地域センターはその目的を達成するために、さまざまな専門家を雇用している。医師はもちろんのこと、発達障害児者に心理テストを行って、障害児者の就学相談や家族への助言・相談などを行う心理担当者や、幼児の発達診断を行い、両親に幼児の発達促進プログラムを提供したり、専門的な機器に関するニーズを査定したり、その調整などを行う養護相談員に加えて、ソーシャルワーカーや権利擁護の担当者もスタッフとして働いている。
 ソーシャルワーカーはクライエント・サービス・コーディネーターともよばれ、ケースマネージメントを主に担っている。彼らはソーシャルワーカーの修士号をもち、準コーディネーターは学士号を保有し、発達障害者分野で2年間の活動経験が要求される。基本的役割は、ケースのニーズを明らかにしたり、個別サービスの調整、発達障害児をもつことに関連して生起する諸問題について両親の相談に応じたり、家族や個人の他のニーズを充足するために他機関に照会したり、発達障害をもつ成人のための権利の代弁者として役立つことである。ケースマネージャーとしてサービス・コーディネーターは、小児科医、看護婦、心理担当者、その他必要に応じて他の専門家との調整の任務を負っている。また、現行サービスへの責任、例えばIPPの中で略述された購入サービスを調整する責任もある。
 家から離れた居住を希望する発達障害者とその家族の支援を専門の任務とするサービス・コーディネーターもいる。例えば適当な居住施設を探したり、財政的調整としてSSI(補足的補償給付=米国の生活保護制度)を申請したり、そのために必要な事務手続きを支援する。コミュニティケア施設(グループホーム)のすべての利用者をスーパーバイズすることを専門の任務とするサービス・コーディネーターもいる。ここでは発達障害者が発達センターへ入所することをすべて管理したり、地域に復帰するための計画づくりを支援している。
 クライエントの権利擁護の担当者はクライエントの諸権利をモニターしたり、権利を保障するために必要なすべての行動をとる責任がある。彼らはクライエントへの無視、虐待、搾取にかかわる状況に関してさまざまな情報源から報告を受ける。諸権利の制限や侵害状況のすべては、その苦情についての完全な調査を指揮することを任務とする権利擁護の担当者に報告される。これらの諸権利を地域の人々に深く理解させるために地域教育を行うことも、この権利擁護担当者の重要な役割の1つである。

(2)発達障害児者の保障されるべき権利の内容

・発達障害児者の基本的権利

 ランテルマン法に規定されている地域センターシステムもかかわる発達障害児者の諸権利としては、例えば次のようなものがある。治療や療育を受ける権利、人間の尊厳、プライバシー、ヒューマンなケアを保障される権利、障害の程度にかかわりなく、公的教育プログラムに参加する権利、迅速に医療ケアや治療を受ける権利、宗教的自由を保障される権利、社会的な相互作用やコミュニティ活動に参加する権利、レクリエーション的活動を享受する権利、迫害を受けない権利、厳格過ぎる手続きから解放される権利。

・居住サービスの利用者の権利

 発達センター入所者やコミュニティケア施設利用者の権利には例えば次のようなものがある。自分の衣類を着たり、個人的な所有物をもつ権利、個人的なプライバシースペースを利用する権利、毎日訪問者に会う権利、個人的な電話を必要に応じて利用できる権利、電気ショック的な療法を拒否する権利、苦痛の原因となる行動変容技法を拒否する権利。

・福祉サービス受給資格手続き上の権利

 手続き的権利と不服申し立ての権利も厳密に規定されている。障害者とその家族が援助を申請すれば、15日以内にインテークがなされ、地域センターは諸サービスに関する情報提供や助言を行うことを義務づけられている。申請後120日以内(必要ならば60日以内)に障害の種別やニーズ、最近の能力の程度などの評価がなされなければならない。受給資格があると判定されれば、60日以内にその人のIPPを策定することが義務づけられ、受給資格がないと判定された場合、申請者に不服があれば30日以内に公聴会開催の要求をする権利が定められている。

・不服申し立ての権利

 不服申し立てとその手続き上の権利は一層厳密である。地域センターの決定が不法であったり、差別的であったり、不利益をもたらすと判断した場合は、不服申し立てをおこす権利が認められている。具体的には、例えば地域センターのサービスの受給資格を拒否する決定や、個別のサービスを廃止する決定、当事者が必要と思うサービスを拒否する決定がなされた場合、不服申し立ての権利がある。
 これに対応して、地域センターは当事者の許可なしに、IPPで計画されているサービスを変更、中止、減少しようとする時や、その人がもはや受給資格がないか、あるいは個別的諸サービスの受給資格がないことを決定する時には、それらを事前に通知する義務を負っている。その通知の内容には、不利な決定を行う内容、理由、その決定が効力を発揮する期日、決定の根拠となる法令、規則、計画、不服申し立てを行える期間やその方法、法的支援を得られる場所、などが含まれなければならないのである。

・公聴会開催の手続き上の権利

 公聴会開催に関する手続き上の権利も明確に定められている。地域センターによる不利な決定の通知を受けてから、30日以内に公聴会開催の要求を提出すれば、その要求が受理された日から10日以内に地域センターのディレクターとの非公式の会合がもたれ、その会合後5日以内に書面での決定が送付される。その決定に不同意であれば、10日以内に公聴会開催を要求し、要求受理後20日以内に公聴会が開催され、開催後10日以内に書面での決定通知が行われる。その決定にも不同意であった場合は90日以内に上級の裁判所への訴訟を行う権利が保障されているのである。

・公聴会における権利

 公聴会上での障害をもつ不服申し立て者の諸権利も次のように規定されている。①公聴会の手続きや手続き過程でなされるすべての決定に関して、発達障害者が理解しうる言語で書かれた通知を得る権利、②障害者が英語で話をする必要のある場合、地域センターの費用で通訳者を得る権利、③すべての公聴会の手続きに出席したり、参加する権利、④公聴会を求めた本人や権限を委ねられた代理人が要求したり、個人的な問題が話し合われる場合を除いて、公開による公聴会が開催される権利、⑤自らの費用で自らが選んだ人を代理人とする権利、⑥証拠書類を紹介したり、反対証人を尋問したり、また承認された適切な証拠を得るために証人を呼んで調べる権利、⑦地域センターの記録を利用する権利。
 以上のような福祉サービスの受給手続き上の諸権利や不服申し立ての権利は、障害者の権利擁護にとって日常的で最も基礎的なレベルのものであり、わが国においてもこれらの権利の保障は重要な課題の1つといえよう。

最近の動向

 前述したように、1993年の改正ランテルマン法により、サービス利用者である障害者のエンパワーメントと選択の権利や地域生活への統合化の促進などが重視され、地域センターはそのための中核的役割を期待されている。特に入所施設である発達センターの利用を減少させていくことが、ほとんどの地域センターの目標の1つとして位置づけられた。
 このような動きに拍車をかけたのが、1994年1月のコッフェルト訴訟をめぐる訴訟グループと州の発達障害局の和解である。同訴訟は発達障害局といくつかの地域センターが地域を基盤としたサービス展開の責任を十分に果たさなかったために、発達センターの入所者たちが地域に居住する機会が失われたとして、同局とそれらの地域センターを州法違反として訴えていたものである。
 和解協定は1988年までに発達センターの2000人の入所者の退所を可能にするという目標を達成すべきことを確認し、そのために、①これまで住んでいた場所とは異なったタイプの地域居住を必要とする300人の人たちのために選択可能な居住場所を探し出すこと、②新しいアセスメントおよび個人のサービス計画手続きを確立させること、③生活の質を保障するシステムを創造すること、④選択可能なサービスモデルを制定すること、などを州と地域センターに求めたのである。
 こうして発達センターからの通所者の受け皿としての地域居住サービスや地域居住を可能にするための地域生活支援サービスの一層の充実が、地域センターシステムに強く要請されている。脱施設化の推移は発達障害局発行の「発達センターの将来における戦略プラン」(1996年1月)によれば、1974年には地域の居住サービス利用者数は約3000人であったのに対して、今日では約3万8000人に達している。そして現在6か所の発達センターの入所者数(1996年3月末で4660人)は、2000年までには約2200人となることが推定されている。
 今後、発達センターに残留する障害者は、①刑事的事件により、裁判所から委託された主として若い年齢の人たち、②生命の危機にかかわるような常時の医療的ニーズをもつ重度の幼児や成人、あるいは極めて重い行動障害をもつ成人、③家族が地域居住に強く反対して、長年発達センターに入所させられている人たち、という3つのグループに限られる、との推定もなされている。
 最近の動きの1つとして、発達障害者の生活の質や、提供されるサービスの質の点検を専門家だけに任せるのではなく、障害をもつ当事者サイドからも生活の質を評価して、その質的向上を図っていくことが目指されている。改正ランテルマン法では人間主体の計画づくりの推進が規定され、専門家主導のこれまでのIPPの策定やその評価システムへの反省がなされ、地域センターに当事者参加、当事者主導の計画づくりの推進も新たに求められているのである(注)。
 最近では州政府からの公的助成が頭打ちのために、地域センターの諸事業も制約されているとはいえ、わが国において知的障害者の地域生活支援システムを本当に確立させていくためには、このような地域センター的システムを作り出すことが大きな課題となるように思われる。

カリフォルニア州における発達障害者の居住形態の推移
(1988~1997年)
  1988年 1993年 1997年
家族同居 43.6% 47.3% 46.3%
自立生活 7.0% 9.2% 14.6%
発達センター(州立入所施設) 11.5% 9.3% 5.4%
中間的ケア施設 7.3% 7.5% 8.5%
コミュニティケア施設 大規模グループホーム 11.8% 8.1% 6.0%
小規模グループホーム 18.0% 18.5% 18.9%
その他 0.8% 0.1% 0.3%

総括

 前述したように、地域センターの主要な目的は、発達障害児者の生涯における地域生活支援システムを確立・運営し、彼らの権利擁護を図っていくことである。わが国では知的障害児者家族の生活支援のための相談、助言やサービスの供給、調整などの機能は、幼児童の場合は児童相談所の障害児相談、措置部門が、成人の場合は精神薄弱者更生相談所、福祉事務所の障害者福祉サービス部門が主に担っており、地域センターのように障害者の生涯における生活支援の調整機能を果たしえていない。
 それは日本の諸機関が年齢区分や行政の縦割り機構によって分断され、生涯を視野に入れた生活支援システムとはなっていないことに加えて、毎年、障害児者一人ひとりの生活ニーズやその充足度を来談や訪問などを通して査定、評価し、ニーズ充足のための計画策定とその修正を行うIPP方式を導入していないからである。わが国でも相談、判定、サービス調整機関が中心となり、障害者が利用している諸施設が協力して、この種のIPPを導入し、実施していくことが重要な課題として指摘される。
 また、IPPが効果を発揮しうるためにはIPP策定に中心的役割を担い、管理するケースマネージャーであるソーシャルワーカーが適正配置され、適量のケースを担当するようなマンパワーシステムが確立される必要がある。前号で紹介したように、イーストベイ地域センターでは、9000人の発達障害者に対して、200人前後の専門スタッフがいて、ワーカー1人当たりの担当ケースは80ケースとなっている。私と同じ時期にカナダに留学されていた北野誠一氏(桃山学院大学教授)によれば、カナダ・バンクーバーのソーシャルワーカーの担当ケースは平均50ケース(重度障害者の場合25ケース)となっている。わが国では関西のある児童相談所の障害児相談部門のソーシャルワーカー1人当たりの担当ケースが400~500ケース、精神薄弱者更生相談所のワーカーの1人当たり担当ケースは800ケース位となっており、これではIPP実施は夢物語しかならない。わが国の障害者福祉マンパワー政策の貧困は極めて深刻である。
 福祉二流国アメリカのカリフォルニア州イーストベイ地域センターの1996~97財政年度のサービス購入経費は6120万ドル(日本円で1ドル115円の計算で約70億3800万円)で、州全体の発達障害児者は13万5000人だから、障害者数で単純計算すれば州全体の総サービス購入経費は約9億1800万ドル(約1056億円)となる。全人口約1000万人の同州で地域センターシステムの総サービス購入経費だけでこれだけの金額がつぎ込まれているのである。わが国における同人口規模の自治体で発達障害者の福祉に費やされる総経費がどれくらいかは把握できていないので確かなことはいえないが、わが国のほうがかなり低財政であることが推測される。
 わが国でも知的障害者の地域生活支援システムを構想していく上で、同州の地域センターの支援システムから学ぶことは多いように思われる。

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)

(注) 詳しいことは、寺本晃久「知的障害をもつ人の自己決定・自立生活を支える仕組み」 (ノーマライゼーション第17巻、第5号、76~78頁、1997)を参照。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)45頁~49頁