用語の解説 AAC(Augmentative and Alternative Communication) PIC(Pictogram Ideogram Communication)

用語の解説

AAC(Augmentative and Alternative Communication)

 コミュニケーション能力に障害がある人が,本人の能力(音声,表情,サイン,身振りなど),ローテク(文字盤,絵カード,シンボル,写真など),ハイテク(電子機器など)その他,様々な手段の活用によって,自分の意思を相手に伝えることを支援する臨床活動の領域ことである。言語障害,知的障害,視覚障害,聴覚障害,発達障害,身体運動機能障害その他,コミュニケーション障害を伴う広範な障害が対象となる。乳幼児から成人,高齢者までのあらゆる年齢層が適用対象になる。1980年代,米国を中心に障害者の自立生活運動が拡がりを見せる中で,従来のADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の回復・獲得を中心にした「自立観」が,QOL(Quality Of Life:生活の質)や自己決定権の保障等を重視する「自立観」へと変化していった。同時に,そのような新しい「自立観」を支える前提として「コミュニケーション環境の保障」や「意思表明権(乳幼児の場合であれば快-不快表明,自己効力感経験なども含む)の保障」という概念が焦点化していく。「話せるようになること」よりも「今,コミュニケーションできること」を重視する(従来のセラピーも否定するものではない)「AACの概念」は,このような障害者の権利保障の拡がりと共に発展してきた。“Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めるな)という標語をその策定の過程で世界に広めた,国連障害者権利条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities:わが国は2014年批准)の中にもコミュニケーションの定義についてはAAC的な視点も含むことが明記されている。従ってAACは今後ますます,「自立」を支える重要な概念と技法として,その位置を確立していくと思われる。国際学会としてISAAC(International Society for Augmentative and Alternative Communication)があり,全世界へのAACの普及をめざしている。

木村 秀生(大阪河﨑リハビリテーション大学言語聴覚学専攻教授)

PIC(Pictogram Ideogram Communication)

 PIC は,Pictogram Ideogram Communicationの頭文字をとった名称である。具体的な事物や対象物を表すPictogram,抽象的な概念や動きを表すIdeogramで,コミュニケーションをもつという意味である。話しことばの代わりに,PICシンボルを指さしてコミュニケーションをもつ補助代替コミュニケーション手段の1つである。
 1980年に,カナダの言語聴覚士であるサバハス・マハラジ氏によって開発され,現在は,スウェーデンや日本で約3000個のPICシンボルが新たにデザインされて,日本,北欧,カナダを中心に普及している。日本では,2005年4月に経済産業省によりPICシンボルが「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則」としてJIS規格に採用され,313個のJIS絵記号と呼ばれるシンボルが無料で使用できるようになっている(共用品推進機構のHPより)。使用対象は,知的障害,自閉症,脳性まひ,失語症等によって話しことばに障害がある人たちである。母語が異なる人とのコミュニケーションにも利用できる。
 PICシンボルの特徴は,ユニバーサルデザインであり,文化,言語,国籍,年齢,性別,障害の有無などにかかわらず使用できる。主に障害者用に開発されてきたが,街や空港などで使用されている標識や一般案内用図記号などに似て,一般社会でさまざまな人にわかりやすさを提供してきたデザインである。また,子どもから高齢者まで生涯を通して使用できるため,大人になってからの中途障害の人にも受け入れられやすい。さらに黒地に白のコントラストとシルエット像は,視覚障害のある人や高齢者にも白抜き部分が何を表しているのかが見やすく,遠くからでも視認性が高い。
 PICシンボルで表した文章の例である。文字が読めない人でも文章の意味が理解できるため,知的障害者等の人のためにわかりやすく書かれたLLブック(やさしく読める本)にも使われている。

pic画像
   わたしは お弁当を 食べる。いただきます。

(日本PIC研究会URL http://j-pic.net/

藤澤 和子(大和大学保健医療学部教授)


主題・副題:リハビリテーション研究 第166号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第166号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第45巻第4号(通巻166号) 48頁

発行月日:2016年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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