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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

エンパワメントの概念から見る地域力の構成要素
当日資料

華頂短期大学
武田康晴

Ⅰ.地域力の分析枠組みと分析の留意点

①再現可能性

「別の障害者が同じような行動を起こそうとしたときにも、その社会資源を地域の中で活用することは可能か」

②安定性

「地域の社会資源やそれへのアクセスが制度やシステムとして制度化されていたり、システム化されているか」

③普遍性

「地域の力が、障害者(もしくは特定の種別の障害者)にのみ機能する力なのか、普遍的に社会的弱者に対して発揮される力なのか」

地域力を構成する地域社会の資源(自分らしい生活をするための基盤) 分析上留意する点
再現可能性 安定性 普遍性
①近隣社会とのつながり、安心して住める地域社会、排除されない地域社会
②外出や余暇のために確保できる資源や時間
③生活を成り立たせるために必要な知識や技能を確保できる機会や場
④生活を成り立たせるために必要な情報を得ることができる機会や場
⑤社会的な組織・ネットワークの存在とアクセス可能性
⑥就労や生活するための資金の確保

Ⅱ.地域力の分析により見えてきた論点の整理

(1)普遍化していない地域力

高齢者を対象とした「地域力」は充実している地域であっても、それが必ずしも障害者を対象としたものになっていない場合がある。

(2)自然環境による地域特性

気候や地形といった自然環境は「地域力」に少なからず影響を与え、また、その自然環境によって作られた風土もまた「地域力」に大きな影響を与える。

(3)キーパーソン・キー組織の存在

地域によって状況は異なるものの「地域力」の形成や維持・発展には、キーになる個人や団体・組織が存在する場合が多い。

(4)地域内地区間格差の存在

調査地域間に格差が見られると同時に、同一地域においても例えば「中心部」と「住宅地」の間に地区間格差が見られる場合がある。

(5)必要性対応型の潜在的な地域力

主として(利用者の少ない)小規模地域においては、例えばサービスが「常時」は存在していなくても、何らかの必要が生じれば対応するという潜在的な「地域力」が存在する場合がある。

(6)配慮の普遍化と組織化

分析枠組みにおける「就労」について、地域によっては「配慮」として存在しているところもあるが、本項の拡大を思考するのであれば、ある程度の普遍化や組織化が必要となる。

(7)当事者参画による地域力の充実

量的な充実もさることながら「地域力」の質的な充実には、障害当事者の参画が非常に有効であると考えられる場合がある。

(8)自助・互助・共助・公助の相関関係

自助・互助・共助・公助にはそれぞれに特性があり、また相関関係があり、その相互作用によってそれぞれが増加することもあれば減少することもある。

(9)互助・共助による外出や余暇の拡大

各地域によって格差はあるものの、どの地域においても概ね「外出や余暇」については充分とは言えず「地域力」のうち「互助」「共助」の果たすべき役割は大きいと考えられる。

Ⅲ.エンパワメントの概念から見る「地域力」(エンパワメントの3類型と「地域力」の相関関係)

これまで示してきた調査研究の成果に基づき、障害をもつ人たちの自立生活を考える上で欠くことの出来ないキー概念の1つであるエンパワメントについて、本研究のテーマである「地域力」とどのような相関関係にあるのかを考察していく。まず第1節では、ICFに位置づけられた環境因子という視点を充分に意識しながら、エンパワメントの概念から見る「地域力」の構成要素について考察していきたい。ただし、先の調査における各地域の状況ないし個別事例を拾うことは次節に譲り、本節では、概念としてのエンパワメントと地域力の関係を中心に整理していく。尚、エンパワメントの定義およびその類型等については、先に我々が実施した「障害者のエンパワメントの視点と生活モデルに基づく具体的な地域生活支援技術に関する研究」(平成16年度「厚生労働科学研究」)の成果を使用する。

◇エンパワメントの定義

「エンパワメント」とは、同様の生活環境にある一般的状況と比較してパワレス状況にある者が、政治・経済・社会的場面等における一般水準の獲得を試みた時に、本人の意向にそって、個々が有する能力の向上・社会環境の改善・個人と社会環境の調整という方法を用いて、そのパワレス状況を改善していく諸過程である。

「障害者のエンパワメントの視点と生活モデルに基づく具体的な地域生活支援技術に関する研究」報告書
(平成16年度「厚生労働科学研究」)

本節では、主として、エンパワメントの3類型すなわち①個人因子強化モデル、②環境因子強化モデル、③相互関係強化モデルと「地域力」の接点、つまり、エンパワメントの3類型がそれぞれ強化される際に必要ないしポイントとなる地域資源の様相について整理していきたい。ここでは3類型の内容について詳述しないが、3類型ともICFの概念を基本としており、概ね①は、環境は変わらずに「その人」個人が力を付け個人因子が強化されることで環境との接点が増大するモデル、②は、個人は変わらずに物理的環境や人的環境・社会資源などの環境因子が強化されることで個人との接点が増大するモデル、③は、個人・環境ともに強化はされないが主として「調整」によって個人と環境との接点が増大、またその進化した形として個人・環境ともに強化されながら並行して調整が進むことによって接点がより増大するモデルである。

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