「地域共生社会開発プログラム」説明:鈴木 直也 氏

皆さん、こんにちは。NPO法人 起業支援ネットの鈴木と申します。よろしくお願いいたします。先ほど輪島と東近江の事例を聞いていただきまして、本当に、なんていうのか、こんな地域に暮らせたらいいなとか、引っ越ししたいなとか、もしかしたら、もっと年を取って看取っていただくなら、こういう地域で最後を看取って欲しいなみたいな、そんなことを感じながら、私もちょっと老後に思いをはせていました。でも、こんな素晴らしい地域って、自分たちが今住んでいる地域にないとしたら、どうやったら、自分たちの地域がこんな地域に変わっていくのだろうと思った人、結構いると思います。すごい時間と年月をかけて、人々の交流を重ねて、重ねてできた、これらの素晴らしい地域。でも、自分たちの地域を振り返ったときに、こんな理想的な地域になるまでにあと何年かかるのだろう。あと何十年かかるのだろう。しかも、どうやってやったらいいのだろう。事例を聞きながらたぶん皆さん、自分の地域にも思いをはせたのではないかと思います。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド1(図の内容)

そういった方たちが、どうやったら自分たちの地域でも、何かきっかけをつくって、活動を始めて、そして、それを大きく膨らませていきながら、先ほどおっしゃっていた交流人口を増やしながら、関係者を増やしながら、仲間を増やしながら。どうすれば、この素晴らしい事例のような地域に近づけるのか、向かっていけるのか。そんなことを考えたプログラムがございまして、それについて少し紹介させていただきたいと思っております。

パワーポイントにも書かせていただいていますが、先ほどの事例にも出てきましたように、地域には取り残されてしまいそうな人たちがたくさんいらっしゃいます。そして、その悩みも様々です。先ほど引きこもりという話もありましたし、もちろん障害の方もいらっしゃいます。様々な方がいらっしゃる。でも、それがどうも理想とする地域ではそういった方たちがつながりを取り戻して、皆さん笑顔で元気に暮らしていっている。こんな未来があるのではないかなというふうに思っています。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド2(図の内容)

ただ、自分たちの地域にもう一度視点を戻しますと、どうも、ありとあらゆるものが足りないとか、弱いとか、届かないとか、至らないとか、そういった状況になってしまっている。未来を見ると、先ほどの事例のように、いろいろなものが充実、充足をしている。そうしたときに、この今至らない、足りない地域から、未来の目指す地域に行くために何か有効なプログラムはないのだろうかと考えてみました。考えてみただけではなく、様々な実験を繰り返しながらこのプログラムを見つけ出そうということをずっとやってきました。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド3(図の内容)

そうすると、なぜ地域が変わっていかないのか、地域を変えるのが難しいのかということを大学の先生の理論から、少し簡単に振り返りをさせていただきますと、これは奥田道大先生という方がつくられたコミュィの類型論というものなのですが、どうも地域には困っている人がいても知らんふりをする方が結構いらっしゃると。これは自分には関係ないと思われているということなのかなと。あと他に、右上ですけれども、身内を守る方もいらっしゃる。なぜか、とにかく身内だけを守る。他の人のことを身内か身内じゃないかということで分けてしまって、自分事とは思えない。困っている人が身内じゃなければもう放っておくということになってしまう。左下は、これもよくある。困っている方も多いと思うのですが、行政を叱る方が結構いらっしゃると。つまり、必要だと思っているけれども、自分のやることじゃなくて行政がやればいいんじゃないかと、行政はけしからんと。こういうふうになってしまう。この身内を守る、知らんふりをする、行政を叱るという方たちがいっぱいいらっしゃるのですが、できれば、左上のコミュニティで自分事として考えていくという人、そういった人にどうやって変わっていただけないかというか、そういった視点をもっていただけないかと。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド4(図の内容)

そんなことを少し考えに入れてワークショップを開発してみました。それが「できることもちよりワークショップ」というワークショップです。このワークショップに参加していただくことで、なんとか困っている人とか、地域とかに関心をもっていただいて、傍観、見ている側から動く側に変わっていただくということを考えてみたわけです。この「できることもちよりワークショップ」というものがうまく地域で開催されれば、少しずつではありますが、地域は目指す方向に向かっていく。こんなことを意識したわけです。それはどのようなワークショップかということを少し説明させていただきます。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド5(図の内容)

写真などもいろいろ掲載させていただきましたが、こんな雰囲気で人が集まってワイワイがやがややるワークショップです。基本的な組み立ては、一人の困った人の事例を用いて、地域の人たちが集まってなんとかできないかということを考えます。大きなポイントは、困った人が抱えている課題を解決するというワークショップではないのです。課題の解決は目指さずに、逆に、参加者に何ができるかということをいっぱい出すワークショップなのです。つまり、課題の解決を目指そうと思っても、目指せるものではなく、実は、それは専門家にお願いしなきゃいけないみたいな思考になってしまいます。どんな小さなことでもいい。何でもいいから自分たちにできることは何かないのかと。本当に何でもいい、小さなことでもいいから自分たちにできることはないのかを考えるワークショップにしてみました。問題そのものを解決できなくても、問題を抱えながらでも地域で幸せに孤立せず生きていける方法はないのか。そのために地域の人たちの力が必要じゃないかと。こんなことを考えるワークショップということを考えてみたわけです。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド6(図の内容)

このワークショップの手順としては、3つのステップがあって、事前準備では、地域の資源を発掘するということで、地域にどんな人がいて、どんな場所があるか、そういったことをとりあえず洗い出すことから始まります。そして、その人たちに招待状を出して来ていただくというように、招待させていただいたり、声かけをさせていただいたりして、ワークショップをするのですが、当日にできること、その人たちでできることを持ち寄ってもちよってみようということを考えます。そして、その後のフォローアップのチーム化ということで、出会った人たちができることをもちよって考えた結果、何かやってみたくなったという意識に変わっていただければ、そこでチームを立ち上げて、具体的な困りごとに対して寄り添うような実践をスタートするという、こんなことがこのワークショップの大きな流れとなっています。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド7(図の内容)

一番下にも細かな流れは書いてありますが、細かい手順でいきますと、地域にはリーダーという人がいっぱいいらっしゃいますが、職種に偏ってみると、その職種からしか見えない地域のリーダーがいる。ある企業に聞いたら他のリーダーがいる。自治会に行ったら別のリーダーがいる。実は、リーダーという人は地域に多様にいらっしゃいます。こうした人たちをどうやって発掘するか。そして、丁寧に声かけをしていく。その人を通じて、また声かけをしていく。このようにして、360度方向から、いろいろな人に集まっていただいてワークショップを開催して、その人たちとつながり続けることによってお互いに助ける地域に向かっていくことを意識したワークショップになっています。ここまでがワークショップの概要についてお話させていただきましたが、ここから少しワークショップの一つの事例を紹介しながら、中身をもう少し理解していただこうと思っております。

愛知県の大府市という所に共和病院さんという病院があります。ここは精神障害の人たちが治療、通院、入院されている病院で、ここでワークショップを開催していただきました。大府市というのは名古屋市から電車で10分から15分ぐらいの所にある中都市といいますか、大きくもなく、小さくもないような町です。そこで精神疾患の方を支えてらっしゃる真ん中にある病院という位置づけの所でワークショップを実践させていただきました。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド8(図の内容)

どのようにワークショップをスタートしたかといいますと、まずは参加者を集めるところに非常に工夫がありました。患者さんは、せっかく退院されても、退院された後に地域の生活になじめなくて、また入院に戻ってきてしまうということでした。患者さんの実際の生活を事例にして、患者さんが退院した後に行くであろう、使うであろう、いろいろな地域の社会資源、場所、そこに声かけに行って、ワークショップに参加してくださいというふうにお願いして回りました。つまり、退院後の困りごとは、医療者がキーマンになることは少なくて、地域の生活の場面で出会う人がキーマンになる、キーパーソンになるというように考えたわけです。少し参加者のことを書いていますが、様々な方に、行政の方から企業、新聞社、ビジネスホテル、タクシー会社、デパート、清掃器具、スクールカウンセラー、薬剤師、弁護士、シンガーソングライター、市会議員、あと宅配便の人にも来ていただいたりしながら、実際、地域で出会う人たちにワークショップに参加していただいたということがあります。多様な方が集まってワークショップをしていますが、一人ひとりがリラックスした雰囲気で参加していただきました。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド9(図の内容)

ワークショップが終わったときの参加者の声をご紹介させていただきます。全ては読めませんが、2つほど紹介させていただきます。「本当に幅広い分野の方が参加され、地域での視点が点から面になっていくなと思いました。こういった地道な活動が大切になると思いました。」「人が集まることで大きな力が生まれることを改めて実感できました。意見をしっかり出す。それに多くの人が心を寄せてくださる。できることがたくさんあると気づける仕組みで多くを学べました。」このような感想をいただきました。参加された方のうち、21名の方が今後も取り組みに協力したいということで連絡先を記載いただき、チームが結成されて支援が続いているということを伺っています。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド10(図の内容)

まとめということになってしまいますが、先ほどは、奥田先生の理論から、身内を守る、知らんふりをする、行政を叱るというようなことから、なかなか地域が抜け出せないということを紹介させていただきました。このワークショップをすることで、どんな効果があるかということを、何度もワークショップを重ねた上で検証しましたが、ワークショップをすると、知らんふりをする、自分とは関係ないと思っている方が他人ごとから自分事へ変わるというような変化を起こしていることが、いろいろなアンケートから読み取れました。そして、身内を守るというところで自分事とは思えないとおっしゃっていた方が、放っておいてはいけないと、まさに、自分事になっているというような変化を起こす。そして、行政を叱っている方、必要だと思っているが、自分がすべきだとは思っていないという方が、自分にもできることがたくさんあることに気づかれたと。このように、何かしら参加者の方の心に小さな変化を起こしていることがわかってきたのです。その結果、事例に出されている人たちに対して、私でも何かできるのではないか、なんとかしたいという気持ちが湧いてきた。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド11(図の内容)

見渡せば参加者がいっぱいいるわけで、これだけの仲間がいれば、なんとかできるのではないのかという気持ちになって終わることが、ワークショップの結果からも考察できるわけです。これは我が事として丸ごと受け止め解決すると書いてありますが、こんなことが、地域が向かって行くためのきっかけになっているのではないかということがわかりました。もちろん、このワークショップ以外の手法でも、有効な手法はあると思いますが、何から始めていいかわからない、最初の一歩が踏み出せない、そういった方がいらっしゃるのであれば、ぜひ、皆さんの地域でもこのワークショップの開催を検討していただければ、もしかしたら、地域の一歩を動かす力になるのではないかと思っています。11月21日に体験会を東京の日本障害者リハビリテーション協会で、コロナ対策をした上で実際に集まって対面で行う予定です。このワークショップを体験できる会になっていますので、ぜひ体験していただいた上で、ご自身の地域に展開できないかを検討していただければと思っています。

「地域共生社会開発プログラム」説明:スライド12

最後の写真は、先ほどの共和病院さんのワークショップに関わったメンバーの方たちが最後に写真を撮っている様子です。これぐらいのメンバーで開催できますし、なんといってもほとんど費用はかからないワークショップになっています。お金が無くても、人さえ集まれば、地域というのは小さな変化なら起こせるということを実感していただければと思っています。少し早いですが、私の説明を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。

松崎 良美 氏:

ありがとうございました。今、鈴木様にお話いただいた地域共生社会開発プログラムを紹介する映像がありますので、ぜひ皆様にもご覧いただきたいと思っております。これから2本上映させていただきますので、しばしお待ちください。1本目は、このプログラムの概要、流れ、ねらいおよびワークショップ風景をご紹介したものです。2本目は、松本新村地区での実施から、いくつかの地区に広がりが出ている様子をご紹介させていただいた内容となっております。

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