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最新ニュース

EPUB3 最終推奨仕様として承認
マーカス・ギリング(Markus Gylling)とのインタビュー
2011年11月

出典: DAISY Consortium http://www.daisy.org/
The DAISY Consortium's Monthly Newsletter - October 2011
EPUB 3 Approved / Interview with Markus Gylling
http://www.daisy.org/planet-2011-10#a2

EPUB3.0はEPUB規格の最新版で、2010年5月に国際デジタル出版フォーラム(IDPF)の会員によって承認された趣意書に従い開発された。改訂版は、2011年10月11日にIDPFの会員により最終推奨仕様として承認され、一連の個別仕様書で細かい規定がなされている。EPUB3の概要はIDPFのウェブサイトで入手できる。
URL:http://idpf.org/epub/30/spec/epub30-overview.html(英語)

電子書籍のフォーマットは多数あるが、EPUB3では(DAISYと同様)、コンテンツの構造と意味とが本質的に結びつけられる。EPUB3はHTML5と連携しており、音声や動画などのリッチメディアのサポート、双方向性、グローバル言語サポート(縦書きを含む)、スタイリング及びレイアウト機能の強化、SVGやMathMLのサポート及び音声とテキストの同期などが特徴としてあげられる。さらに、EPUB3には最初の段階からアクセシビリティ機能が内蔵された。

DAISYコンソーシアムのジョージ・カーシャ(George Kerscher)事務局長は、IDPF(当時のオープンeブックフォーラム(OeBF))初代理事に選出され、2009年にはIDPF会長に選出された。 「EPUB3の活動は、急速に変化しつつあるデジタル出版業界の状況に対応する仕様の提供に取り組むことであると認められました。このように知名度の高い仕様が、これほど短期間で国際規格になるとは驚きです。世界中がEPUB3に関心を持っています。この完全にアクセシブルなデジタル出版規格は、世界をすっかり変えてしまうでしょう。」(ジョージ・カーシャ談)

IDPFのビル・マッコイ(Bill McCoy)専務理事は、こう語る。 「デジタル出版物は、デジタル化されたテキストから、機能が強化された電子書籍や新たな表現形態へと進化しており、EPUB3は機器の違いを超え、ブラウザやアプリケーションを通じて著作者と出版社がさらに豊かな経験を読者に提供する能力を、劇的に高めるでしょう。」

DAISYコンソーシアムの河村宏会長は、次のように述べた。 「皆さんは、知識社会の底上げをする新たな地平線を創造しているのです。DAISYとEPUB3の提携の結果、インクルーシブな知識社会の発展に向けて、私達は情報へのアクセスと言語サポートのさらなる強化を達成しつつあります。」

オライリーメディア(O’Reilly Media)社はIDPFと共同で、マット・ガリッシュ(Matt Garrish)による『EPUB3とは何か? マルチメディア出版のためのEPUB仕様入門(What is EPUB 3? An Introduction to the EPUB Specification for Multimedia Publishing)』というホワイトペーパーを発表した。これはオライリーメディア社のウェブサイトから無料で(要登録)ダウンロードできる。
URL:http://shop.oreilly.com/product/0636920022442.do(英語)
また近い将来、IDPFのサイトからもダウンロードできるようになる予定である。

マーカス・ギリングとのインタビュー

はじめに

初めてマーカス・ギリングと出会ったのは、ニュージャージー州プリンストンで開かれたDAISY技術会議のときで、もう10年以上も前になる。彼は若く、DAISYの世界では新顔だったが、DAISY規格とアクセシブルな出版物に大変興味を持っていた。そしてDAISY3標準規格の開発を先頭に立って進め、今ではDAISY Pipeline とTobiの責任者を務めている。

DAISYコンソーシアムとIDPFとの間には長年の関係がある。規格開発分野におけるマーカスの専門知識を考えれば、彼がEPUB3規格の開発で主導的な役割を担うのは、当然としか思えないことであった。彼はDAISYコンソーシアムの技術主任(CTO)だが、昨年9月にはIDPFのCTOに任命され、両職務に並行して取り組んでいる。

マーカスはEPUB3について、それが私達のコミュニティにとって、そして世界各地でDAISYの出版物を読んでいる数百万人もの人々にとって、さらには、完全にアクセシブルでナビゲーション可能な出版物を借りたり買ったりできる場合、その利益を得るであろう数百万人の人々にとって、どのような意味を持つのかを尋ねる私のインタビューに応じてくれた。

マーカス・ギリングとの一問一答

Q: DAISY図書と比較した場合、エンドユーザーの視点から見たEPUB3の長所は何ですか?

A:多くの人にとって、これは信じがたいことのように思われるかもしれませんが、EPUB3は、アクセシビリティ機能と使いやすさの点で、DAISY標準規格のすべてのバージョン(2.02及び3)を超えているのです。「伝統的な」DAISYの機能(テキストと音声の同期、役に立つインテリジェントなナビゲーションなど)をすべて備えている一方で、EPUB3にはさらに多くの新機能も加わり、読書体験を新たな次元へと導いていく可能性を秘めています。

専用のアクセシビリティ機能としては、より複雑なコンテンツを、音声合成装置を使って正確に読み上げられるように、TTS(音声合成)の発音インストラクションと語彙の組み込みに対するサポートが追加されました。EPUB3は、双方向コンテンツをサポートしています。このダイナミックなコンテンツのアクセシビリティを改善するために、W3C ARIAマークアップに対するサポートが統合されました。さらにEPUB3には、MathMLやSVGなどの新型コンテンツに対するネイティブサポートが追加されていますし、非常に重要なことなのですが、W3C ルビ注釈 (注1) と縦書きのサポート (注2) 等を統合することにより、多くの新型スクリプト(アラビア語、中国語及び日本語など)の正確な表記のサポートも追加されています。(これらは新機能の一部の例にすぎず、完全版の仕様書で、そのすべてが明らかにされています。)

次に、EPUBは多くの大手出版社と配信者によって支持され、採用されているフォーマットですから、エンドユーザーは完全にアクセシブルなコンテンツを多数の新たな提供先から、これまでよりはるかに大量に入手できるものと考えてよいでしょう。また、あらゆる最新のプラットホームで利用できる、さらに多くの読み上げシステムが選べるようになると期待されています。

しかし、以前DAISYプラネットに掲載されたEPUB3に関する記事でも指摘されたように、EPUB3による書籍や配信サイト、読み上げシステムが、皆同じように作られるわけではないため、アクセシビリティの点で、すべての期待に応えることができない可能性があります。ここに、DAISYコミュニティが果たすべき非常に重要な役割があるわけです。つまり、コンテンツとツールの開発者及び提供者に対し、情報とアドバイスを提供すること、そして、エンドユーザーが総合的な情報へアクセスし、この新たに登場した世界を容易にナビゲートし、EPUB3がもたらす利益を最大限活用できるようにすることです。

Q: 完全にアクセシブルなコンテンツを「多数の新たな提供先から、これまでよりはるかに大量に入手できる」ということの意味を詳しく説明していただけますか? 現在、自国の専門図書館のサービスに依存している人々が、完全にアクセシブルな本を、アマゾンなどのオンラインショップを含む書店で買えるようになるのでしょうか? 利用資格の有無にかかわらず、地元の公共図書館で借りられるようになるのでしょうか? 今は、資格がなければ、ほとんどの場合借りられませんが。

A: 電子書籍に対する大手出版社の関心は、着実に高まっています。それは確かなのですが、そのペースは、国によって大きく異なります。小売店や公共図書館で電子書籍を手に入れるのは、ますます普通のことになって来ています。ですから質問への答えは、「おそらくそうなるでしょう」です。

専門図書館のサービスを利用している人にとっては、先ほどお話しした理由から、これはチャンスであると同時に、当然妨げにもなるでしょう。ですから、総合的な情報の提供が、専門図書館共通の新たな機能になるといえるのです。それを「ポータル」サービスだと考えてください。コンテンツソースをまとめてフィルタリングし、分類し、その結果を適切な方法で利用者に示すわけです。

Q: DAISYコンソーシアムによるEPUBの支持は、DAISY会員機関にどのような影響を与えるでしょうか? DAISY会員はEPUB3規格の支持を歓迎していますが、多くの疑問もあります(ここでは余すところなく回答していただくことはできませんが)。EPUBベースの配信モデルへの移行を検討しているおもな理由は何ですか? 現在のDAISYコンテンツとインフラストラクチャーはどうなるのでしょうか? 移行費をかけるだけの価値は本当にあるのでしょうか? 商業出版社のコンテンツをユーザーのニーズに合わせるためには、どのように連携していくことが一番良いのでしょうか?

A: 現在のDAISYベースのサービスの多くは今後も続けられ、数年間はうまくいくと信じています。移行の速さは、おそらく機関によって異なるでしょう。製作される書籍の種類(音声のみvs.テキスト、娯楽用vs.学術用など)にもよりますし、サービスを利用するエンドユーザーが期待する内容によっても変わります。

今後数年間で、まず各機関がDAISY(2.02と3)とEPUB3のコンテンツの両方を並行してユーザーに提供し始めるのではないかと思います。(DAISYとEPUBの変換ツールが、Pipeline2プロジェクトなどを通じて利用できるようになり、2012年の春には、音声とテキストを同期させたEPUBをTobiで製作できるようになるでしょう。)

しかし私は、最終的にはほとんどの機関に、全部又は一部の移行を検討してほしいと強く期待しています。これにはいくつかの理由があります。第一に、前にもお話ししましたが、EPUB3とその将来版では、多くの製作者とエンドユーザーがともに、それなしでは生きられない最新の読書体験機能が追加されているからです。第二に、製作ツールと配信・読み上げシステムの両方の利便性が高まったことで、ゆくゆくはEPUBベースの展開が、より効果的かつ経済的になっていくからです。

この第二の点は、EPUBを出版社と公共図書館が共有するプラットホームとしていく例が多くなれば、当然強化されます。配信するコンテンツを特別なフォーマットで製作することは、ますます非経済的かつ非実用的になっていくでしょう。主流派によるEPUBの採用は、多くのDAISY機関が大手出版社との連携を築く取り組みを強化し、あるいは再活性化するようになることを意味するでしょう。今回、本当に価値のあるものが出されたわけです。大手出版社が完全に利用しやすくアクセシブルなEPUBを「デフォルトで」製作するためには、DAISYコミュニティから主流派への知識の委譲が必要です。教育と支援活動がかつてないほどに重要となるでしょう。

もう一つの新たな活動の可能性として「強化」があげられます。商業出版社によって提供されたEPUBコンテンツが十分アクセシブルではない場合、DAISY機関が媒介機関としてコンテンツのアクセシビリティ機能を強化してから、主流のルートに戻して配信したり、利用者に提供したりすることができます。

Q: EPUBの進化という点では、次は何が起こるでしょうか?

A: EPUBコミュニティでは、EPUB3のリリース後も、慌ただしい動きが見られます。辞書や索引、新しい最先端の詳細なレイアウト機能のサポートなど、さらに多くの機能をフォーマットに追加する、複数の規格化プロジェクトが新たに始まりつつあります。

またIDPFはオライリーメディア社と共同で、「ショート(Short)」(短いオンラインブック)を連載しており、次回の「ショート」は、EPUB3のアクセシビリティに関する内容となっています。このオンラインブックは2012年の第1四半期に連載を終了し、オライリーメディア社から無料で入手できるようになる予定です(もちろん、EPUBフォーマットで出版されます)。

最後に、ISO(国際標準化機構)内でEPUB標準化へのさまざまな道が検討されています。EpubCheckというEPUBコンテンツ検証ソフトの仕上げ作業も進行中です。EPUB3をサポートするツールが、世界各地の多くの企業によって開発されています。DAISYプロジェクトでは、既にお話ししたように、TobiとDAISY Pipeline2にEPUB3のサポートが追加されています。

マーカス・ギリングは、妻と娘達とともに、スウェーデンのストックホルムに住んでいる。

DAISYコンソーシアムは、EPUB3の開発において欠かせない役割を果たしてきたが、今後も、出版物を完全にアクセシブルにするために必要な特性と機能を備えたEPUB3のコンテンツを支持していく。私達は、今後のDAISYプラネットの記事で、マーカスがアクセシブルなコンテンツのオーサリングと製作について、DTBookとDAISY AI XML(ZedAI XMLとしても知られている)の今後を含め、さらに詳しく語ってくれることを楽しみにしている。


注釈:

1.W3C ルビ注釈
Ruby Annotation
http://www.w3.org/TR/ruby/

2.EPUB3.0の縦書きのサポート
Support for vertical writing
http://idpf.org/epub/30/spec/epub30-overview-20111011.html#sec-gls-css