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国際シンポジウム「国際協力と障害の問題に人権の枠組みを」

ESCAPの障害に関する活動

国連ESCAP障害プロジェクト専門官  高嶺豊

I.ESCAPの紹介

 ESCAP(アジア太平経済社会委員会)は国連事務局の地域ブロック機関です。ESCAPの本部はバンコクにあります。ESCAPはアジア太平洋地域の政府の常設の討議の場です。全部で60の正規加盟メンバー、準加盟メンバーからなり、世界の人口の6割を含んでいます。ESCAPの主要な任務は地域内の政府の経済・社会開発分野での政策・計画形成を支援することです。ESCAPは資金提供を行う機関ではありません。

II.ESCAPの障害分野の計画

 アジア太平洋障害者の十年(1993ー2002年)は1992年にESCAP地域の政府によって宣言されました。ESCAP事務局はESCAP地域の政府が「十年の行動の課題」を実施するのを支援する活動を行います。行動の課題は12の分野、すなわち、国内調整、立法、啓発広報、情報、アクセス・コミュニケーション、教育、訓練・雇用、障害の原因の予防、リハビリテーションサービス、福祉機器、自助組織、地域協力の勧告、からなっています。
 協会が全国的な規模で創設されたのは1958年で、支部の設立は知的障害者の親によって1940年代後半に始まりました。子供達を地元の学校に受け入れてもらえず、唯一受けられるサービスが施設への入所だったため、親達が集まったのです。知的障害をもつ子供達の家族がその子供達のために教会の地下や仲間の家に最初の学校を作りました。
 ESCAPの活動には国別の行動計画策定への支援、低コストかつ高品質の福祉機器の製造、普及への支援 均等化立法の促進、障害のある人の自助組織の育成・強化、障害者・高齢者に不利をもたらさない環境整備促進が含まれています。こうした活動は通常、他の国連機関によっては行われていません。

III.障害者分野での政府、非政府組織(NGO)との協力

 ESCAPの障害プログラムは地域会議、トレーニングワークショップを開催します。ESCAPの会議の多くに、政府代表とNGO代表は対等なパートナーとして参加しています。ESCAPは十年の成果を評価するための地域会議を2年に一度、開きます。障害プログラムは前述したプロジェクトに関連する国などでトレーニングワークショップを頻繁に開催しています。
 それまでのサービスは障害者を家族やコミュニティから切り離すと考えられていただけでなく、必要とする人すべてにサービスを提供することが財政的に可能なのか疑問視されていました。そこで、他の方ESCAPは アジア太平洋機関間委員会(RICAP)障害部門小委員会の事務局を務めています。この小委員会は、10の国連機関、18の障害分野の地域・国際NGO、この地域での活動に参加を希望するESCAP正規加盟メンバー・準加盟メンバーからなっています。小委員会は12の分野での活動の調整、アジア太平洋障害者の十年の実施の進捗状況のモニタリングにおいて重要な役割を果たしています。小委員会は2年に一度集まります。

IV.障害分野での国際協力の活動、問題

(a)最近のESCAPのプロジェクト活動

 ESCAPの最近の活動は、障害のある人・高齢者に不利をもたらさない環境整備促進に関係しています。ESCAP地域の多くの巨大都市で、公共交通機関がまさに建設中、もしくは計画中です。しかしながら、障害のある人・高齢者が持つニーズへの配慮はほとんどありません。同様に、高層ビルもアクセスが欠けたまま建築されています。
 この深刻な問題に取り組むために、ESCAPは1993年に障害者と高齢者に優しいまちづくりの推進に関するプロジェクトを発足させました。障害者と高齢者に優しいまちづくり促進に関するガイドラインは専門家会議に出席した世界各地からの専門家による議論を通じて準備され、地域会議で採択されました。ガイドラインには主要3分野、すなわち意識向上、アクセス立法、技術的勧告が含まれています。

 このプロジェクトのフォローアップとして、ガイドラインを普及させ、実施するためのプロジェクト第2フェイズが策定されました。今回は、地域内のバンコク、北京、ニューデリーの3都市が関係しています。この3都市それぞれで1平方キロメートルの地区がパイロットプロジェクト地区として設定され、この地区はできる限り障害者の利用が可能にされたのです。バンコックは商業・ショッピング地区を選び、北京は中流の住宅地区、ニューデリーでは官庁街が選ばれました。

本プロジェクトの特徴は次の4点です。

  1. 注目度の高さ
  2. 多様な分野からの参加がある(マルチセクトラル)アプローチ
  3. 障害のある人の関与
  4. 政策的含み

以上の各ポイントを順番に説明しましょう。

(1)プロジェクトの注目度の高さ
 このプロジェクトはスロープ設置、歩道改善、アクセシブルなトイレ設置、点字・点字ブロック設置など物理的構造の改善が中心であるため、プロジェクトの成果は文字通り目に見えます。新聞記事となった他、プロジェクト地区はテレビニュースでも取り上げられました。プロジェクトが国内の地域レベルで好評を博したことで、資金を供与した政府はプロジェクトに満足しました。多くの資金提供国・組織はプロジェクトに対する自らの支援を熱心に広報しています。

(2)多様な分野からの参加がある(マルチセクトラル)アプローチ
 都市計画機関、地方自治体、公共事業部局、障害のある人の組織、民間企業を含む、多様な分野からの参加が本プロジェクトにはありました。バンコクでのパイロットプロジェクトでは民間企業の参加が重要でした。セメント会社は点字ブロックを当初、社会貢献として設置したが、点字ブロック設置が急速に広まっているため、点字ブロックから利益を見込めることが分かりました。北京では、住宅開発企業が新規の住宅開発地区で、玄関へのスロープなどのアクセスを整備する決定を行いました。

(3)障害のある人の組織
 障害のある人の組織はパイロットプロジェクトに参加しましたが、参加の度合いはプロジェクトによって異なっていました。北京ではパイロットプロジェクト全期間を通して、中国障害者連合会が積極的に関与しました。同会はこのプロジェクトでのESCAPとの連絡窓口を務めました。ニューデリーでは国政選挙、政権交代などの困難でパイロットプロジェクトが停滞していた際に、障害者の自助グループが推進の声をあげる役割を果たしました。バンコクの障害者はESCAPが期待した程は、パイロットプロジェクトに参加しませんでした。しかしながら、当初の段階で、盲人組織が点字ブロックのデザインについて協議に与りました(この問題は他の組織とも協議して、後日、話し合います)。

(4)政策的含み
 パイロットプロジェクトの目的は、一つの地区でアクセスを確保することではありませんでした。プロジェクトの大目標は国、地方自治体のバリアフリー環境に関する政策で変化を起こすことでした。同時に、バリアフリーのモデルを他の市町村に提供することでした。中国政府はアクセシビリティ基準の大幅な見直しを行う予定で、アクセス要件は法律で定められる予定です。インドでは、州政府が行動に移るよう、都市開発省がバリアフリー要件に関する付則を設定する予定です。タイでは、バンコク市がアクセス基準を採択しました。タイ政府は1992年の障害者リハビリテーションに関するリハビリテーションアクションによって義務づけられているアクセス基準を準備中です。

 このプロジェクトへのフォローとして、ESCAPは障害者と高齢者に優しいまちづくり促進のためのトレーナーに関するプロジェクトを実施しました。このプロジェクトでは、ESCAP地域3都市(バンコク、バンガロール、ペナン)のそれぞれ10名から15名の障害者からなるグループが集められ、この障害者グループは7カ月のトレーニングを受けました。このグループは、バンガロールを例外として、障害種別の異なる人からなり、盲人、ろう者、肢体不自由者などから構成されています。バンガロールグループは盲人と肢体不自由者で構成されています。
 グループは社会啓発活動、セミナー、地域社会での有力者との会見を通じてバリアフリー環境の促進活動を推し進め、このプロジェクトは成功しました。グループはバリアフリー環境促進のため、他の障害者にもトレーニングを行いました。ESCAPは障害者を優しいまちづくりの促進役とするためのトレーニングを行うためのガイドラインをまもなく仕上げる予定です。

 (b)ESCAP地域での障害のある人に関する、全体としての開発の課題

 ESCAP地域で、過半数の障害のある人は途上国の農村に住んでいて、障害のある人の多くは必要なサービスを得ておらず、地域社会の活動に参加するための機会がありません。ESCAP地域で障害分野の緊急の課題は途上国の農村に住む、貧しい障害者という大多数の人のニーズにどのように対処、応えるかにあります。

 *農村の貧しい障害者のエンパワーメント
障害のある人の組織の多くは都市部に本拠があり、その指導者は農村の貧しい障害者の問題に関心がない、もしくは意欲がある場合でも、支援するための知識、専門性を持っていません。
 村での障害者の自助組織の育成はこの緊急課題への対応策の一つであるかもしれません。しかし、育成の過程は長く厳しいものです。時間がかかり、フィールドワーカー、トレーナーの深い関与、バックアップをする機関も必要です。南インドで始まったSangham運動はバングラデシュ、カンボジアはじめ他の地域にも広がりを見せています。

*障害者の自助組織への経済的支援
自助組織へ資金を多く回すためには、障害の問題へのアプローチを慈善型から開発型への転換が必要です。慈善型アプローチでは「お手当」、バラマキに重点がありますが、障害のある人の開発のための体系だった支援を提供することはありません。
 しかし、他方、開発アプローチはトレーニング、技能開発、相互支援、相互協議を通じて、障害のある人のエンパワーメントを大事にします。このアプローチでは自己決定が鍵です。このアプローチには多くの時間、たくさんのリソース、本気になっている人材が必要です。前述の要素を必要とする、過程を大事にするのです

V.結論

 21世紀に向けて、農村の貧しい障害者の開発が優先事項とされなければなりません。アジア太平洋地域の農村の障害者は、トレーニング・相互支援アプローチに基づくエンパワーメントを必要としてます。多くの時間、エネルギー、人的・経済的リソースが必要です。課題を投げかけられているのは、都市部のエリート層に基盤を持つ障害者組織、また障害のある人を依存させてしまうだけの支援計画ではなく、障害のある人の開発をこそ支援しようとしている資金提供国・機関なのです。