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国際シンポジウム「国際協力と障害の問題に人権の枠組みを」

障害分野におけるJICAの国際協力の現状と課題

JICA企画・評価部環境・女性課  平 知子

1.日本政府開発援助(ODA)による取り組み(図1)

  我が国の実施する国際協力事業は、政府開発援助(ODA)、その他、政府資金(OOF)、民間資金の流れ(PF)、NGOによる協力の4つに分類される。これらの内、政府開発援助(ODA)事業については、二国間貸し付け、二国間贈与、国際機関を通じた援助の3つに分けられる。国際協力事業団(JICA)は、二国間贈与の技術協力及び無償資金協力事業のうちの調査及び実施促進業務を実施している。本日は、障害者福祉分野に関連したJICAの技術協力事業、無償資金協力及び国際機関への出資・拠出の現状、及びJICAの調査研究の取り組みの概要を紹介する。

 (1)JICA技術協力事業

 障害者福祉分野に対する協力を行っているJICAの技術協力事業としては、研修員受入事業、専門家派遣事業、研修員受入/専門家派遣/機材供与を組み合わせたプロジェクト方式技術協力事業、青年海外協力隊派遣事業、及び平成9年度より開始した開発福祉支援事業等があげられる。

 【1】研修員受け入れ事業(表1)

 91年から98年までの障害福祉分野における研修員受け入れ実績は、集団研修コース及び個別研修を合わせ、計490名となっている。大部分は集団研修による受け入れであるが、98年度は補正予算によりタイの障害者教育研修やマレイシアの身障者療育技術支援研修等の国別研修も実施された。現在、11の集団研修(特設を含む)を実施しており、障害者リーダーコース、喉頭摘出者発声指導者養成コース、聾者のための指導者コースの3コースは、特に障害を有することが資格要件となっている。

 【2】個別専門家派遣事業

 1980年(昭和55年)以降、20年間に計68名の短期/長期専門家を派遣している。多くは短期であるが、その中には障害を有する専門家を派遣した実績もある。

 【3】プロジェクト方式技術協力(表2)

 昭和55年度以降、計5件の事業が実施された。現在、来年度新規プロジェクトとして、本国立障害者リハビリテーションセンターの協力によるチリ身体障害者リハビリテーションプロジェクトの準備を進めている。

 【4】青年海外協力隊派遣事業

 平成10年までに計380名の協力隊員が派遣されている。職種としては、障害者のための施設に派遣される作業療法士や理学療法士、または、障害児教育にあたる養護隊員等の派遣がほとんどであるが、近年では、義肢補装具製作の派遣例もある。

 【5】開発福祉支援事業(表3)

 開発福祉支援事業は平成9年度より新たに始まった事業で、「高齢者・障害者・児童等支援事業」は同事業の7つの対象分野のひとつであり、現在障害分野においては、平成10年に採択されたアジアの3プロジェクトを実施している。

 【6】開発パートナー事業

 9年度からの新規事業として、NGO・大学・地方自治体等がJICAとの委託契約に基づき、プロジェクトを実施する開発パートナー事業が始まった。障害分野においても活動実績のあるNGOが多いことから、今後の本事業における協力が期待されている。

 【7】基礎研究

 JICAでは、障害者に十分に配慮し、今後一層の参加を促進するための方策を検討することを目的として、95-96年に調査研究「障害者の国際協力事業への参加」フェーズ1及びフェーズ2を実施した。同研究では、途上国の障害者の現状、障害者施策にかかる実施体制及び援助ニーズ等を分析し、我が国の障害者が実際に国際協力事業に参加するための方策を提言としてとりまとめた。
 現在、同基礎調査で示された提言の方向に沿って障害者福祉に係る技術協力を拡充し、日本の障害者自身が技術協力事業に参画できるよう、内部の作業部会において指針及び行動計画策定について検討を進めている。

 (2)無償資金協力事業(図2)

 無償資金協力事業は、一般無償援助に5種類、一般無償以外に5種類の計10種類に分類される。その中で、特に障害分野と関連がある一般プロジェクト無償援助、草の根無償及び文化無償について概要を紹介する。

 【1】一般プロジェクト無償(表4)

 一般プロジェクト無償とは、一人当りGNP(国民総生産)が1,505ドル以下の国を対象に施設の建設や資機材の整備に必要な資金を供与するものである。障害分野において、これまでに7件の資金協力が行われた。これらは全て、障害者のための施設建設・機材整備案件であり、内5件はプロジェクト方式技術協力案件として、引き続き協力が行われた。

 【2】草の根無償(表5、6)

 草の根無償は比較的小規模なプロジェクトで、現地で活動しているNGO、地方公共団体、研究・医療機関などが実施する草の根レベルの案件に対し、資金を供与するものである。他のスキームと大きく異なる点として、個別案件の設定・実施を政府間取り決めではなく、現地日本大使館と被供与団体との間で結ばれる贈与契約に基づいて行われることから、多様なニーズに迅速に対応することが可能となっている。障害分野プロジェクトの多くは、障害者のための学校や職業訓練施設の建設のための資金供与であり、1件あたり平均400万円程度の規模となっている。

 【3】文化無償

 文化無償は文化財・文化遺跡の保存活用、文化関係の公演及び展示の開催、教育・研究の振興のために使用される資機材の購入、並びにそれらの輸送、据え付けのために必要とされる役務の遂行に必要な資金を供与するものである。今後、障害者教育に必要な機材等の供与が可能と思われる。

 (3)国際機関への出資・拠出(表7、8)

  日本は地域内における国際的地位にふさわしい貢献を行うために、国連アジア・太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、日・ESCAP協力基金を通じて資金的援助を行っている他、障害者施策の分野では「アジア・太平洋障害者の十年」決議を受け、ESCAPの実施する障害者関連プロジェクトに対して、1990年以降、合計185万ドルの支援を行ってきた。他にも、ユネスコのアジア太平洋地域教育開発計画(APEID)事業として実施している途上国への特殊教育普及・充実のための巡回講師派遣事業への協力、初等教育の完全普及に関するアジア太平洋地域事業計画における識字教育信託基金への拠出及び各種支援を実施している。

2.まとめ

 これまでに我が国のODAにおいて実施された途上国の障害者への協力は、どの事業形態においても、全案件に対しわずかな割合を占めているにすぎないが、草の根無償や青年海外協力隊の派遣等、まさに住民と密着してきめ細かく実施される事業においては、比較的案件数及び派遣人数が多い。
 また、障害者の指導者を養成するという協力から、障害者自身を協力の対象とする案件が増加しつつあることから、今後、障害者自身が自らの経験を活かし、協力の現場に参加していくことの意義は大きいものといえよう。
 NGOによる協力においては、国際障害者年以前の協力活動があまり活発でなかった時期と比較すると、各団体の活動が非常に多様化した。途上国の障害者のニーズに対応し、途上国の障害者と共に、より具体的なNGO活動や研究が実施され、様々な交流の蓄積が具体的な形で現れてきたといえる。例えば、我が国の当事者団体と現地の団体が、問題を共有しながら主体的に共同事業を展開したり、具体的なテーマの講習会や事業の実施等が多くなった。さらに、協力アプローチにCBR(Community Based Rehabilitation)が取り入れられ始め、政府の補助金を利用した現地でのプロジェクト実施等、より活発な活動が行われている。障害者福祉における国際協力において、企業・NGO等民間セクターの果たす役割は非常に重要であり、JICAとしても、今後、民間セクターとのパートナーシップの強化に努める方針である。