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国際シンポジウム「国際協力と障害の問題に人権の枠組みを」

障害分野における日本の国際協力―NGOサイドの取り組みを中心に―

北星学園大学社会福祉学部教授、JANNET広報・啓発委員長  松井 亮輔

 わが国の公的機関および民間団体(NGO)によるアジアの途上国に対する障害分野での国際協力が、本格的に展開されるようになったのは、1980年前後からである。とくに、1981年の国際障害者年以降、障害分野で何らかの国際協力事業に携わるNGOの数は、次第に増えてきている。こうした動きは、カンボジア難民救援をきっかけに1980年代以降わが国で国際協力事業に関わるNGOが急増したのと軌を一にしている。

1.わが国のNGO活動の全般的状況

 国際協力活動を行うわが国NGO間の相互協力を促進し、これらの団体の活動の質的向上を図り、その活動の社会的意義のより一層の確立を図ることを目的として、「NGO活動推進センター」(JANIC)が1987年に設立された。同センターが1998年に発行した「NGOダイレクトリー’98」によれば、現在わが国で何らかの国際協力事業にたずさわっているNGOは約370団体にのぼる。
 このうち、実際に具体的な協力活動を行う、いわゆる開発協力NGOは217団体で、その協力分野別内訳を見ると、最も多いのは教育と保健医療、次いで農村開発(農業開発を含む。)、環境保全、難民救援の順となっている。
 この217団体の年間収入(1996年度)を見ると、全体の44%は2,000万円以下の規模で活動している。その収入の内訳を全体としてみると、寄付金、会費、事業収入などの自己財源68.0%、「国際ボランティア貯金」を含む、政府の補助金・委託金14.2%、民間財団の助成金3.8%、その他14.0%となっている。(なお、「国際ボランティア貯金」の配分を受けた団体は、この217団体のほぼ50%にあたる107団体である。)
 また、わが国開発協力NGOの人的体制を見ると、217団体のうち120団体で1、239人が有給スタッフとして活動している。そのうち海外で活動しているスタッフは228人で、国内で活動しているのは、1、011人である。つまり、平均すれば120団体の有給スタッフは約10人で、そのうち、約2人が海外で、約8人が国内で活動していることになる。

2.障害分野でのNGO活動の状況

 1995年12月から翌年2月にかけて国際協力総合研修所が、国内の障害分野関係団体・施設等354団体を対象に実施した、アンケート調査に回答を寄せた185団体(そのうち障害分野NGO155団体)について見ると次のとおりである。

-障害分野NGOの人的体制:
 専従職員  0人 31団体(20.0%) 1―5人 76団体(49.0%)

-国際協力・交流事業の状況:
 「現在行っている」団体 83(44.9%)
 「過去に行ったことはあるが、現在は行っていない」団体 19(10.3%)
 「これまで行ったことはないが、関心があるのでこれからおこなってみたい」団体 33(17.8%)

-国際協力・交流事業の種類(複数回答):

  •  国際会議/大会への参加   115団体(62.2%)
  •  国内への研修員や講師の受入れ 84団体(45.4%)
  •  海外への人材派遣       70団体(37.8%)
  •  資金や物品の援助       65団体(35.1%)

-今後途上国の障害者に対して国際協力を実施したいと考えている団体:
 106(全体の57.3%)

  •  現在国際協力を実施中  71団体(67.0%)
  •  過去に行ったことがある 11団体(10.4%)
  •  今後行ってみたい    20団体(18.9%)

-実施したい国際協力事業の内容

  •  国際会議/大会への参加  71団体(67.0%)
  •  国内への研修員等の受入れ 66団体(62.3%)
  •  海外への人事派遣     53団体(50.0%)
  •  資金や物品の援助・協力  52団体(49.1%)

-わが国の障害者による途上国の障害者への協力活動について
 「今後より促進すべき」と回答した団体 129(全体の約7割)

  •  そのうち、現在協力活動を実施中    70(54.3%)
  •  129団体の団体種別: 当事者団体  63(48.8%) 障害関係団体 47(36.4%)

 以上の調査結果からも明らかなように、わが国の障害分野NGOの多くが、現在実施したり、将来の実施を考えているのは、主として国際会議等への参加や海外からの講師等をわが国に招く交流事業である。それはこれらの団体が、組織・人的資源および資金力とも弱く、途上国に対してこの分野で開発協力を行うだけの余裕がない、というのが実態と思われる。

3.障害分野NGO連絡会(JANNET)会員の活動状況

 JANNETは、アジア地域を中心に障害分野の国際協力・交流事業を推進するための民間関係団体の情報交換および協力・連携の強化、推進等を図るとともに、海外の関係団体等との情報交換および経験交流の推進を図ることを目的に、1993年12月に設立された。これは、きわめてゆるやかな組織であるが、次のようなことをめざしている。

  1. 途上国における障害分野でのニーズの的確な把握。
  2. ニーズにそった協力を無駄なく、効果的・効率的に実施するため、関連地域・分野で国際協力活動を行っている国内外の関係団体間での情報交換や連携を強化するためのネットワークづくりの推進。
  3. 途上国が自力で維持・拡充することが可能なリハビリテーション技術の確立など、息のながい協力ができる仕組みや人づくり等。

 JANNETの会員は、1999年10月現在、29団体(賛助会員2団体を含む。)で、会員の大半にとっての中心的な協力活動は、途上国の関係者を日本に招いての研修である。これらの団体の多くは、必要に応じて関係職員等の途上国への派遣も行っているが、ほとんどは年間数名程度の職員等の短期派遣にとどまっている。

4.障害分野における国際協力の課題と展望

 わが国でもようやく1989年度より「NGOの対途上国の開発協力を一層拡充し、わが国のNGOの財政基盤強化」支援を目的に、ODAを活用したNGO事業補助金制度が設けられ、障害者のリハビリテーション対策費もその補助対象事業とされている。
 また、1991年1月から国民の郵便貯金の利子の20%を寄付金としてスタートした郵政省の「国際ボランティア貯金」が、NGOが実施する国際協力事業等に配分されることになった。1998年度には、204団体が実施する234事業に対して、総額約12億4、200万円が配分されたが、その中には障害分野での協力事業にかかわる16のNGOが実施する17事業が含まれる。なお、この16団体中、JANNETの会員は、6団体である。
 NGOへの公的助成制度等が導入されたのは、わが国政府自体も「NGOによる開発活動は、(1)途上国国民の自立を促し、草の根レベルでの開発協力事業を直接実施できる、(2)小規模の事業にきめの細かい援助が可能、(3)新しい開発アプローチに参加し、試験的な援助に対応が可能である等、の利点を有しており、また国民参加による開発協力を推進する見地からも重要な役割を果たしている」とその活動を評価するようになったことの現れであろう。
 このように、近年わが国NGOのODA資金活用への道が、徐々に開かれてきているとはいえ、ODA全体としてみるとNGOに割り当てられる金額は、微々たるものにとどまっている。このことは、前述した開発協力NGOの年間収入に占める政府資金が、10数パーセントにすぎないことからも明かである。
 民間関係団体の多くが、国際協力事業をさらに積極的にすすめる上での課題として共通にあげているのは、(1)(国際協力事業の推進に)必要な人材および資金の確保、(2)関係団体間の協力・連携の強化、ならびに(3)途上国のニーズに対応した技術開発―適正技術の開発および移転等である。
 これらの課題のうちでも、とくに国際協力事業展開のベースとなる人材と資金確保の困難さが、障害分野での国際協力事業に関心を持つNGOが相当数ありながらも、実際に開発協力に着手する団体が、きわめて限られている主な理由であろう。
 したがって、障害当事者団体も含め、今後わが国のNGOが障害分野での開発協力に参加していくためには、人材および資金確保が不可欠と思われる。そのためには、この分野での開発協力に一般市民のより深い理解と支援が得られるよう、幅広い市民を対象とした「開発教育」が様々な機会を利用して積極的に展開される必要がある。また、NGOサイドによる国際協力事業により多くのODA資金が充当され得るよう、その仕組みの見直しがすすめられなければならない。
 現在、アジア太平洋障害者の十年の最終年である2002年実現を目標に、「アジア地域障害者総合福祉センター」(仮称)構想が、日本政府(外務省およびJICA)サイドで検討されている。これは、アジア太平洋地域における障害分野の情報交換、人的交流および人材養成等のための拠点づくりをめざしたものであり、障害当事者の国際協力事業への参加をどこまで実現し得るかの試金石にもなると思われる。その意味でも、この構想の実現に向けて、障害当事者団体関係者も含め、できるだけ多くの知恵が結集し得るような協力体制づくりを期待したい。