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平成20年度 国際セミナー報告書
障害者の一般就労を成功に導くパートナーシップ

Report on International Seminar
Success through partnership to promote open employment of persons with disabilities

2部パネルディスカッション 話題提供3:「多様な働く場と機会の創出」~ソーシャルファームをめざして~

上野 容子 東京家政大学文学部心理教育学科 教授

上野容子氏の写真

要旨

  1. 自己紹介
  2. 働くことの意味とキャリア発達
  3. 多様な就労形態で働く障がい者
  4. 働くことに対する価値観の転換
  5. 我が国における障がい者の就労支援は就労訓練的要素が強い
  6. 福祉的就労の賃金
  7. 障害者自立支援法における就労支援プロセス
    • *障害者自立支援法(2005年10月成立)
  8. 働く場と機会を創出する・・・主体的に働く
  9. (福)豊芯会の事業紹介
  10. (福)豊芯会において、ソーシャルファームを目指した働く場と機会づくり紹介
    都会の地域性を生かした「食事サービス事業」と「カフェ」の経営
  11. (福)八尾福祉会の紹介
  12. ソーシャルファームの課題と展望
    • ソーシャルファーム発展のための視点・・・ストレングスモデル
    • バリアーの除去
    • 相互補完と互助の関係
    • コミュニテイづくりの担い手としての意識
    • 雇用関係から役割関係へ(全員が経営に参画。仕事は訓練の道具ではない)

講演

ご紹介いただきました上野容子と申します。今日はこのような機会を提供していただきまして、本当にありがとうございます。

スライド1

(スライド1の内容)

私の話は、今寺島先生から総合的なお話をいただきまして、私は長い間、社会福祉施設の地域で支援するお仕事をしてきたものですから、その現場での仕事を通してのお話を、ソーシャルファームを目指してということでお話させていただきたいと思います。

資料は、時間の関係でちょっと飛ばさせていただくところがあることをご了承ください。それから一昨日、キャシー・ベイカーさんには私たちの現場にいらしていただきまして、お仕事をしている活動の様子をご覧いただきながら、イギリスの事情をお聞きしたり、それからソーシャルファームを目指しているところでは、こういうところはどうなのかというご指摘などもいただきまして、非常に刺激を受けた一日でした。それから今日はゲロルド・シュワルツさんにはドイツのお話をいただきまして、国の文化の違いや制度、構造ができてきた仕組みの違いは感じつつも、やはりかなりヒントがいただけたのではないかと思っております。

スライド2

(スライド2の内容)

スライド3

(スライド3の内容)

私の紹介はレジュメにありますので省略させていただいて、今日本は障害者自立支援法という法律ができまして、障害者関係の方たちがこれからどのような仕事をしていこうか、それから就労に参加していくかというところで、試行錯誤の時期でございます。

スライド4

(スライド4の内容)

スライド5

(スライド5の内容)

スライド6

(スライド6の内容)

そういうときに、身体・知的障害者の就業実態調査が平成13年にあり、精神障害者の社会復帰サービスニーズ調査が平成15年にありまして、こちらから推定いたしますと、常用労働をしている在宅の障害者の方で何らかの形で働いている方は126万人いらっしゃって、そのうち常用労働をしている方が39万人。パーセントは間違っていまして、無視してください、すみません。それから、自営、会社役員、家族従事者の方たちが36万5,000人、授産施設や作業所に通っている方が24万人、その他が27万人いらっしゃいます。こう見ますと、常用労働者の方たちよりもそれ以外の形態で働いている人たちの数が倍以上ということがわかっていただけるかと思います。いろいろな多様な働き方をしているということでございます。

スライド7

(スライド7の内容)

私たちの生き方や仕事観というものは、大きな企業に就職するのが安心と思っていた方たちがたくさんいらっしゃるかと思うのですが、この経済状況でその神話が崩壊したと思っております。それから、福祉的就労というのは一般就労には含まれないという考え方がありますが、私は福祉的就労も就労の一つだろうと思います。多様な働き方を尊重し合うという考え方にならないものだろうかと常々思っている者でございます。

ソーシャルファームは、他の2点がとても重要なポイントかと思いますが、雇用とか労働者とか、雇う側、働く側という立場を超えて、そこで行う仕事をみんなで成功させていく、事業を発展させていくという意味でも、経営に参画していくというコンセプトと、それから事業体としては他の事業体と競争して事業を発展させていくというのはもちろんのことなのですが、その事業体の中におきましては、一人一人、そこで働いている人たちが競争し合うという関係よりも、お互いに自分の持っていない力を相手の方から借りたりしながら助け合って補完しあって事業を発展させていくという考え方がとても大事だと思っております。

スライド8

(スライド8の内容)

そう言いましても、福祉的労働と一般の就業の方たちとの現実的なギャップはございまして、賃金の格差、それから作業意欲になかなかつながらない、お仕事がなかなか仕事を通して作業意欲につながらないということであったり、仕事が安定しないとか、いつまでたっても時給が同じだという声をよく聞きますし、私たちも長い間作業所や授産施設の活動をしてきておりますので、こういう課題はあるかな、と思っております。

スライド9

(スライド9の内容)

これをグラフで見ますところ、これは障害者白書に出ていますので見ていただきたいと思うのですが、このように就業に差があるということが現実でございます。

スライド10

(スライド10の内容)

障害者自立支援法における就労支援プロセスなのですが、ここに示したようなプロセスがあります。

スライド11

(スライド11の内容)

ご本人に就労の意思を確認して、ご本人がどれだけ就労に対してどんな能力を持っているかというものを評価して、そして就労支援計画を立てて、いろいろな就労の形態の支援をしていくということになっているかと思いますが、私は自立支援法における就労支援の問題点というのはいくつかあるかと思っております。

スライド12

(スライド12の内容)

まず一般企業に就職するための支援ということに非常に重点が置かれている。これは移行支援です。それから就労形態を階層化、差別化しているかなと思っておりまして、一般企業に就職できない方が就労継続支援のA型とかB型の支援を受けてくださいというような、非常にパターン化された硬直的なものになっているかなと思っております。それから本人に対する職業リハビリテーションが重視されていて、ご本人の能力を高めていくことはとても大事ですが、それをやはり、そこにやり甲斐のある仕事があったり、生き甲斐のあるものを見つけたりして初めて仕事のモチベーションが高まっていくのであって、本人の問題だけではないのかな、と思います。多様な働き方というものがどうも求められていないな、という感じを私は受けております。

このような中にありまして、私たちも先ほどベイカーさんからも、シュワルツさんからもお話がありまして、やはりそれだけの年数、時間がかかっているのだな、ということを改めて感じさせられておりますが、私たちも1978年から精神障害者の方たちが地域に出てみんなで集まって仲間を作り、そしてエンパワーメントされる場を作ろうということで活動が始まりまして、約30年が経過しております。その中で、働く、社会的な役割を持ちたいと思う方たちが何人も出てきてまいりまして、そういう方たちとともに働く場を作っていこうというところが一つ、私たちの活動の一つの中心になりまして、これまで進めてまいりまして、今現在は障害者自立支援法の移行の真っ最中ということでございます。

スライド13

(スライド13の内容)

スライド14

(スライド14の内容)

ソーシャルファームの理念を踏襲しながら今行っておりますのが、円の一番上になりますフードサービス事業所、配食センター「カフェふれあい」という事業でございます。これについて、これから説明をさせていただきます。

スライド15

(スライド15の内容)

スライド16

(スライド16の内容)

スライド17

(スライド17の内容)

私たちは東京都豊島区で、池袋に比較的近い、いわゆる都心型の活動と言われているものになるかと思いますが、この二つの事業をA型として行っており、近隣の高齢者や障害をお持ちの方でお食事がなかなか作れない方々に家庭料理を作って、お昼ご飯と夕飯を配達するというお仕事、それから池袋の豊島区の建物の中をお借りしているのですが、カフェふれあいを池袋の駅の近くで開業しています。配食事業への遠隔は、平成5年の「ハートランドひだまり」という精神障害者の作業所の活動がスタートしたときから始まりました。何をしようか、通ってきている当事者の方々とお話し合いをしながら、調理の好きな方たちもおりまして、先ほどご説明したようなお弁当の配達をしようということになりました。最初は私もそこで働いていたのですが、30食のお弁当を作るのが精一杯で本当に毎日あたふたしていたのですけれど、現在では150食から多いときは200食くらいのお弁当が作れるようになりました。でもそこにくるまでにはそれなりの年月がかかっています。

平成13年から豊島区の委託事業としてプロポーザルに参加させていただきまして、入札を受けて配食サービス事業を開始いたしました。平成17年度からは今の就労支援制度の一つであります委託訓練事業所にもなっております。

カフェふれあいは、豊島区のご協力を得て平成7年の6月から始めました。どういうお店にしようかということで、区役所が近いし、繁華街でもございますので美味しいコーヒーを淹れて提供するお店をということで、コーヒーがお好きな方はよくご存知かと思いますけれども、南千住にありますバッハというところの豆を仕入れさせていただきまして、そこのお店の方に技術提供もいただきまして、今バッハの豆のコーヒーが飲めるお店として頑張っているところです。1月から、ここは区内の3か所の精神障害関係の事業体が共同で運営していたのですけれども、さまざまな事情がありまして今年1月から私ども社会福祉法人豊芯会の事業として行われるようになりました。

スライド18

(スライド18の内容)

スライド19

(スライド19の内容)

障害者自立支援法時代に突入しまして、A型を活用しながら今事業を伸ばしていこうということで去年の1月から開始したのですけれども、事業を発展させるために福祉ベンチャーパートナーズさんというところで市場調査や事業計画までを立てていただくための応援をいただいたりして、開始いたしました。

スライド20

(スライド20の内容)

お写真を見ていただきたいと思うのですが、A型を始めるときには国のほうで移行支援ということで建物の修繕費や厨房設備を整えるための助成金が出まして、それを活用させていただいております。今まではハートランドひだまりの作業所時代は8畳くらいの広さのところでお弁当を作っていたのですが、助成金を受けられることによって厨房を大きく広げ、設備を充実させることができました。

スライド21

(スライド21の内容)

これはお弁当を作っているところの風景でして、下のお弁当は豊島区から委託を受けているお弁当です。こんなふうなお弁当を作っております。

スライド22

(スライド22の内容)

それから、カフェふれあいのお店の風景はこんなふうになっております。

スライド23

(スライド23の内容)

ここで、先ほどのところでお弁当を作ってこちらに運んで、お昼、ランチにお出ししたりということも始めております。

スライド24

(スライド24の内容)

当初は事業計画をこのように立てまして、予算規模としましてはカフェふれあいのほうが1,106万6千円、それから配食の5,539万2千円ということで予算組みをしました。

今日資料を皆様にお渡しするのが間に合わなかったのですが、実績として12月までの収支を見てみますと、全体の事業収入の中で私たちがお弁当を作ったり、パーティ食なども作るようになっているのですが、そういうことで売上が全体の59%、3,282万円ほど売り上げることができました。A型のほうから助成金が26%、1,443万円くらいですね。それからその他の就労支援関係の補助金が15%で846万円ということで、だいたいソーシャルファームUKが基準を作っております、全体の売上の半分は自分たちの事業の中で売上をあげていくということは達成できてきているかなと思っております。

スライド25

(スライド25の内容)

雇用状況としましては、圧倒的に今精神障害者の方が多くて、以上のようになっております。

スライド26

(スライド26の内容)

賃金は作業所時代は210円からスタートして、だいたい皆さんの平均の収入が17,450円だったのですが、現在は平均してひと月52,580円くらいになります。

スライド28

(スライド27の内容)

まとめですが、A型事業もいろいろと問題がありまして、使いづらいところもございます。というのは、やはり雇用とそれから福祉的な支援というのが一緒に混同しておりますので、雇用と支援のバランスというのですか、そのあたりが日常的には難しいところがございます。

ソーシャルファームというのは、ソーシャル・インクルージョンの理念に基づいて炭谷先生がいつもおっしゃっているような理念を大事にしながら発展させていくことがやはり重要かと思っておりますけれども、これを発展させていくためにやはりストレングスでいろいろものを捉えていきたいと思っております。私たちが事業を展開している豊島区という地域の強みであったり、東京都の強みであったり、それから私たち豊芯会の強みはなんだろうということを考えてみると、今現在スタッフがフルタイムが20人弱、それから非常勤の方が40人くらいいらっしゃいます。そういう人たちが一つの作業所に張りついているということではなくて、お互いに大変だと助け合いに行ったり、例えば午前中違う作業所にいた方が、お昼の宅配は今度はA型のほうに来てお仕事をするというようなことを、日常的に行っております。そういうところがとてもいいなと思っております。

それから行政のストレングスをどう活用できるか、これもこれから大事な視点かな、ということは先ほどお二人の話を聞いていても改めて思いました。

それから制度は、これをうまく活用していくということももちろん大事なことで、これは皆様方もいま模索しているところではないかと思います。

それから、従事している私たちのストレングスをいかにお互いに評価し合って高めていくかということもとても大事かと思います。

スライド29

(スライド28の内容)

ソーシャルファーム発展の課題としましては、今私たちが実際に考えているのは、精神障害者の方たちを長い間対象にしてきましたけれども、A型を活用しつつも先ほどの炭谷先生のご説明にあったような、さまざまな事情でお仕事をしたくても仕事ができない人たちにも入ってきていただけるような、そういう事業体にしていきたいということで、バリアの除去ということを今考えております。それから先ほど説明した相互補完と互助の関係、それからやはりコミュニティを作っていくという発想がやはり大事で、グローバルに活動していくということもとても大事なことなのですが、やはりその事業を通して地域をどう作っていくかということを大事にしていきたいと思っています。

それから、私たちスタッフが経営者で、そこで働いている当事者の人たちが労働者というような構図を作らないように、みんなが何らかのその事業を発展させていくために役割を持っているのだ、そこでは役割は違ってもみんな対等の関係なのだという価値観を築いていこうと思います。スタートの今の時期が一番大事かな、と。1年経ちましたけれども、やはり障害をお持ちの方たちはご自分でなかなか判断しにくくて私たちに何か判断を仰いだりすることもあるのですが、皆さんいろいろな力をお持ちです。そういうときに私たち支援者が経営者のような気持ちにだんだんなっていってしまうと、ソーシャルファームとしてはやはりうまく発展していかないだろうと思っております。

時間がなくて、本当に急ぎで雑駁なお話で申し訳ないのですけれども、今試行錯誤しているというところをぜひわかっていただきたいのと、それからやはりそれなりの時間がかかるということ。だから諦めるということではなくて、今B型支援をしていらっしゃる方、今日の名簿を見ますとたくさんいらしているようなのですが、ぜひ足を一歩出して、いろいろな事業に挑戦して商品として通用する商品を作ったり、それからビジネス展開をしていける仲間にぜひ入ってきていただきたいと思います。

昨年12月にソーシャル・ファーム・ジャパンが炭谷先生を代表として立ち上がりました。これは私たちにとって待ちに待ったものでして、その中でこれからロビー活動や、それからお互いにこういうことを目指している人たちの情報交換の場として非常に有効に働いていくのではないかと期待しておりますし、私もその中でできることはやっていきたいと思っております。今日はどうも、ありがとうございました。