第3回アジア太平洋CBR会議
ラオス・サバナケート県セポン郡における障害のある人にとっての農業技能訓練サービスへの障壁に関する調査
第3回アジア太平洋CBR会議
第4分科会:コミュニティにおける自助グループと障害当事者団体
ハンディキャップ・インターナショナル
はじめに
サービスへのアクセス改善に焦点を当てて地域の支持を高めていくためには、根拠のベースがなくてはならない。ラオスでは、自助グループや障害当事者団体が会員の状況に関するデータを収集するに当たり、支援を必要としている。データ収集に当たり、障害当事者団体及びサービス提供者双方にとって重要な事項は、障害のある人々にとっての既存サービスに関する情報入手のしやすさ、サービス提供におけるギャップ、既存サービスを利用するに当たっての障壁、既存サービスの利用しやすさを改善するためのファシリテータや「好事例」である。
2014年から2015年にかけて、ハンディキャップ・インターナショナルとラオス障害者協会(LDPA)は、県レベルの障害当事者団体がサワンナケート県の農村で会員の状況に関する情報を収集するに当たり、とれを支援する取り組みを試行した。障壁調査ワークショップを開催したが、その4つの目標は、①既存のサービスに関するコミュニティの会員の理解を増進すること、②地域において既存のサービスによっては対応できていない優先的なニーズを特定すること、③コミュニティの会員にとって既存のサービスを利用するに当たっての障壁を特定すること、そして、④コミュニティの会員に対するサービスを改善するためのファシリテータや好事例を特定すること、であった。
地域の生計訓練サービスの調査をするに当たっての基準:6つのA
人々がサービスに対する権利を行使することができるかどうか、その基準又は要素を考える際、国連の「経済的、社会的及び文化的権利委員会」によって定義されている「6つのA」が、広範な枠組みとして利用できる。6つの鍵となる基準(6つのA)は、実施レベルにおけるインクルーシブなサービス提供への障壁及びファシリテータを特定するのに使うことができる。
- 利用が可能なこと(Availability):「利用が可能なこと」に関する好事例があることは、障害のある人々が特定のサービスを利用できる可能性を高めるインパクトとなる。一つの例は、障害のある子ともたちのインクルーシブな学校の数である。
- 利用しやすいこと(Accessibility):「利用しやすいこと」に関する好事例があることは、障害のある人々が特定のサービスを利用しやすくするインパクトとなる。一つの例は、身体障害がある人々にとってより利用しやすくするための建物の改修である。
- 無理なく負担できること(Affordability):「無理なく負担できること」に関する好事例があることは、利用者又はサービス提供者がより低いコストで特定のサービスを利用/提供できるようになるインパクトとなる。
- 応用しやすいこと(Adaptability):「応用しやすいこと」に関する好事例があることは、様々な障害のある多くの人々が特定のサービスを利用できるようになるインパクトとなる。
- 受け入れられること(Acceptability):「受け入れられること」に関する好事例があることは、障害のある人々が既存のサービスを利用するに当たって、満足度をより高めるインパクトとなる。
- 説明責任があること(Accountability):「説明責任があること」に関する好事例には、障害のある人々が企画、モニタリング、評価に参加できるようにするいかなる活動も含まれる。
障壁調査のアプローチと方法
マルチ・ステークホルダー・アプローチ
コミュニティレベルで障害のある人々が利用できるサービスをつくる過程には、複数の関係者(マルチ・ステークホルダー)が関わる。サービス三角形へのアクセスは、利用できるサービスをつくるに当たってカギとなる関係者の役割を理解するための枠組みとなる。障壁調査の過程は、障害のある人々にとってどのようなサービスが重要なのか、障害のある人々にとって既存のサービスの利用が妨げられている障壁は何なのか、地元のサービスを障害のある人に利用できるようにするファシリテータは誰なのか、に関する情報を得る機会となる。
方法としてのフォーカス・グループ・ディスカッション
障壁調査では、参加者の議論とフィードバックを促すため、参加型データ収集活動を含むフォーカス・グループ・ディスカッションという方法を用いた。障壁調査は2つのグループをターゲット・グループとして実施した。一つは障害のある人々とその家族のグループ、もう一つは村や郡レベルのサービス提供者のグループである。
障害のある人々とその家族をフォーカス・グループとして行った障壁調査フォーカス・グループ・ディスカッションでは、まず村及び郡レベルの既存サービスを特定し、それらの重要性をランク付けした。その後、最も重要性が高いとされた2つのサービスについて、「6つのA」の枠組みを使って、サービス提供に関する障壁の状況を調査した。グループ・ディスカッションとフィードバックを促すため、「6つのA」の各基準について、5つの意見を用意し、参加者には5つの意見それぞれについて、そう思う、そう思わない、のレベルを1から5までの選択肢(1-全くそう思わない、2-そう思わない、3-わからない、4-そう思う、5-非常にそう思う)で答えてもらった。
サービス提供者をフォーカス・グループとして行った障壁調査フォーカス・グループ・ディスカッションでは、障壁調査の質問票を用いたデータ収集のみを行った。
主な結果
障害のある人々の多くが特定したのは、彼らが必要とする生計訓練サービスが村にはないということであった。郡レベルではサービスは存在しているが、障害のある人々の多くはそれがあることを知らなかった。サービスが存在するということは知っていた人も、その多くは、具体的な訓練の内容、訓練センターの場所、訓練の費用などを知らなかった。
サービス提供者は、サービスのほとんどは郡レベルの施設を拠点としている、と答えた。村レベルで訓練を行う予算は彼らにはなかった。
- フォーカス・グループの障害のある人々の9割は、サービスに関する情報は文書で提供され、彼らは提供された情報を利用することができない、と答えた。彼らの答えは、「私たちはサービスをどこで利用できるのか、どんなサービスが提供されるのか知らず、一度も利用したことがありません。」というものであった。
- サービス提供者の8割は、情報やコミュニケーションについて、どのようにすれば障害のある人たちが利用できるようになるのかわからない、と答えた。彼らの答えは、「サービスについての情報やコミュニケーションの資料は、画一的な提供にとどまっています。私たちは、様々な種類の障害のある人々にそれらを利用できるようにするためにはどうしたらよいのか、わからないのです。」というものであった。
- フォーカス・グループのサービス提供者の100%が、プロジェクトがお金を出してくれなければ村でサービスを提供することはできない、と答えた。彼らは、「プロジェクトが障害のある人々を対象にし、彼らが我々の提供するやり方でサービスを利用できるのであれば、喜んで障害のある人々にサービスを提供します。もしそうでなければ、家族が助けるべきです。」と答えた。
フォーカス・グループの障害のある人々のほとんどは、自分たちは昔からある仲間同士の訓練を通じて家畜の飼育や農業技術を学んでいるに過ぎない、と答えた。
障壁調査のインパクト
障壁調査が明らかにしたのは、プロジェクト作りにおいてしばしば見過ごされている二つの重要な障壁であった。まず、障害のある人々がコミュニティレベルでサービスを利用できるようになるためには、利用できるサービスに関する情報へのアクセスが不可欠、ということである。次に、郡レベルで提供されているサービスについては、農村コミュニティで利用できる交通手段がないことや、時間やお金を使ってまで郡のサービスセンターに行こうとは思われていないことにより、ほとんどの障害のある人々には利用できない、ということである。
障壁調査の結果として、ハンディキャップ・インターナショナルは、郡レベルで利用可能なサービスについて村レベルで情報が利用できるよう、地元のサービスと密接に協働している。さらに、ハンディキャップ・インターナショナルは、郡センターでの施設ベースの訓練よりも、コミュニティでの仲間同士の学びにもっと焦点を当てるよう支援している。最後に、ハンディキャップ・インターナショナルは、農村において障害のある人々に対する農業技術訓練の機会を増やすためには移動訓練キャンプが有効であることを示すため、一連のモデル出張キャンプの実施を支援することとしている。