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CBRガイドライン・教育コンポーネント

小学校教育

はじめに

小学校教育は、通常6歳、あるいは7歳から10代初めまで続く。小学校教育はさらに上の教育に至る入口であり、開発という文脈において優先順位が高い。

普遍的小学校教育を達成することは、ミレニアム開発目標の第2番目の目標である。2015年までに、世界中の子どもが、男女に関わりなく、小学校教育の全課程を修了することができるというのが目標である(7)。この目標を達成するために、教員のトレーニングや学校建設、教育の質の改善、費用や交通手段の不足といった通学への障壁を取り除くこと、子どもの安全に関する親の懸念に対処することは、学校制度にとって必要である(20)

この目標は、障害のある子どものインクルージョンなしには達成することが不可能であるということは、見落とされがちである。ユネスコは、最近、低所得国において障害のある子どもの90パーセント以上は学校に通っていないと推定した(6)。通っている中でも小学校教育を修了せずに途中で多くが退学し、あるいは全く学んでいないか参加していないという状況である。

小学校教育はすべての人にインクルーシブであり、利用可能でなければならない。公教育の提供者は、性差、民族、言語、宗教、信条、障害、社会や経済状態を理由に差別することはできない(5)。小学校教育は、基本的な権利であり、障害者権利条約の第24条には、「…障害のある児童…が無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から除外されない…」と述べられている(4)。小学校教育はインクルーシブで質の高い教育を提供し、等しく利用可能で、障害のある子どもの地域の中にあるべきである。

BOX19 マリ共和国

すべての子どものための小学校教育

世界の最貧地域の1つであるマリのドウェンツァ地区では、あるコミュニティが子どもの教育を優先事項にした。地域は、子どもが将来、村の中で仕事に就き生活を営む準備段階として、村の生活に関連したカリキュラムのある学校を必要としていた。

関わった寄付組織は、トレーニングと支援を申し出たが、障害のある子どもと女子児童の入学に責任をもつ女性を学校委員会に含めるべきだと取り決めた。コミュニティは、当事者意識と責任を促すために、親からの資金支援を受けて学校を建設した。障害者専門の非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)は、障害者問題に関する啓発活動を実施し、入学可能な子でもたちを把握するために協力した。一部の子どもたちは三輪車を必要としたが、これはNGOによって提供された。地域の劇団や音楽家のグループも同時に、少女や障害のある子どもが教育を受ける権利に関する意識の向上に貢献した。

地域のリーダーは、村に障害のある子どもがかなりいること、そして、子どもの発達とインクルージョンのために、コミュニティが家族と協力体制を築けるということに驚きを見せた。以前は、解決法はないとみなされていたので、地域では障害は問題とは考えられていなかった。

当初、地域の人々や教員は、障害のある子どもを含めることに懐疑的であった。「始めに、私たちは障害のある子どもを含めることを約束したが、彼らが学校にいられるとは本当は信じていなかった。しかし実際に私たちは自分の目で確かめることができ、今や約束は信念に変わった!」 家族、コミュニティ、障害当事者団体、国際開発機関の協働により、極度の貧困地域であっても、インクルージョンは実現する。地域のプログラム管理者は、インクルージョンを促すためには、時間をかけて強い決意を維持していかなければならないと語った。

目標

地域の学校を教育活動の中心とした友好的でインクルーシブな小学校教育制度が、地域の中に存在する。

CBRの役割

CBRの役割は、インクルーシブな地域社会の学校をつくり、地域の小学校教育が利用できるように障害のある子どもとその家族を支援し、家庭、コミュニティ、学校間の連携を発展させ持続させるために、小学校教育制度と協力体制を構築することである。

望ましい成果

  • 地域全体がインクルーシブな小学校教育を開発するために動員される。
  • 家族は積極的、協力的であり、インクルーシブな小学校教育に関与している。
  • 障害のある子どもがみんな、質の高い小学校教育を修了すること。
  • 適切な支援機器、治療、その他必要な支援は、インクルージョンを支援するよう利用しやすく、入手しやすい。
  • 学校環境の中で利用に関する問題が把握され、対処されている。
  • 教員は、支援されていると実感し、障害のある子どもへの教育に自信をもっている。
  • カリキュラム、試験および評価制度、教育のアプローチと課外活動(例えば、スポーツ、音楽、クラブ)が、子ども中心でインクルーシブである。
  • 教育のための地域および専門家のリソースは、十分に、適切に活用されている。
  • 貧困家庭出身の障害のある子どもが小学校に通う。
  • 国家政策がインクルーシブ小学校教育を推進するように、すべてのレベルで主張が行われるべく、適切な関係者と、協力関係を構築する。

主要概念

地域全体のアプローチ

インクルージョンを推進し支援するのは地域全体の責任であり、地域の小学校は、これを実証するための重要な機会と環境を提供する。CBRスタッフは、多くの責任をもつが、教育の専門家ではないので、権利やインクルージョン、社会モデルの啓発とこれらに関わるすべての人を動員し支援することに焦点を当て、地域(学校、家庭、障害のある人々、地域のリーダー)と協働する必要がある。親は、自分の子どものことを知っているので、教員たちに非常に役立つ情報を提供することができる。教員は、家での学習に関して親を支援することができる。地区の教育委員会は、インクルージョンを持続可能なものにするためには、協力的でなければならない。保健部門と社会部門も関与し、相互に意思疎通を図る必要がある。巡回する(訪問)教師は、多くのさまざまな役割を担い、つながりを作り、いろいろな種類の支援を提供できる。これらの教師は、点字や手話を教えられるなどの特定の技術をもっており、障害がある生徒、彼らの教師や親にアドバイスやリソース、支援を提供するために学校を訪問する。

BOX20 ペルー

ユーリの教育への新たなる道

ユーリは、ペルーのアンデス山脈で母と姉妹と暮らしている。ユーリは、脳性麻痺で歩くことができない。彼は、姉妹と同じように小学校に行きたいと思ったが、いくつもの障壁に直面していた。家から幹線道路につながる道がなく、利用できる移動手段がなく、地域の学校の教員は障害に関する知識がなくトレーニングも受けていなかった。CBRスタッフは、ユーリの母親のエンパワメントに焦点を当てた。その結果、母親は、家から幹線道路への道を建設するために地域住民を動員することができた。CBRプログラムは、手漕ぎの三輪車を提供し、教員をトレーニングした。ユーリは、他の児童生徒からの歓迎パーティーで迎えられ、小学校に出席できるようになった。

学校全体のアプローチ

学校全体のアプローチとは、経営者、校長、クラス担任、管理者、用務員、親と障害のある子どもやない子ども、そして、学校と関係があるすべての人々が、障害啓発と地域の学校における障害のある子どものインクルージョンを推進するべく障壁を把握し取り除くために協働に努める方法である。

BOX21 シリア

インクルーシブ教育を推進するために変わること

シリアのダマスカス郊外の国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)のCBRスタッフは、障害のある子どもが小学校に出席できるように、地域の小学校をインクルーシブでアクセシブルにするために、学校当局、地域の指導者や行政、教員と児童生徒と協働した。彼らは、黒板、座席表、教室の入り口、トイレと遊び場を作り変えた。地域のボランティアや教員は、ダマスカスで手話の訓練を受けた。子ども、親、教員、および行政はみな、障害のある子どもが地域の学校で教育を受ける必要性とその恩恵を理解している。

社会的インクルージョン

他の人と一緒に暮らすことを学ぶこと、自分とは違う人と共感することを学ぶこと、人に対して心を開き、親切にし、敬うことを学ぶことは、学力を身につけること同様に重要である。学力を身につけることに困難を経験する子どもたちでも、地域の教育環境において社会的にインクルージョンされることで恩恵を受けるだろう。これは、すべての子どもたちがインクルーシブな社会の一員になるための準備にもなる。

多様性への対応

子どもたちは、みな違い、さまざまな方法で学ぶ。学校はカリキュラム、教授法、学習環境が柔軟ですべての子どもに適合するようにすることでこの多様性に対応する必要がある。柔軟性のあるシステムは、特定のグループにだけではなく、全員にとって柔軟性があることが求められる。周縁化された他のグループと連携すると、インクルージョンのための提言はより強いものとなる。障害のある子どもにとっての良い学校とは、すべての子どもたちにとって良い学校であり、他の周縁化されたグループの子どもたちもインクルージョンされるだろう。

多様性に対応することとは、障害のある子どもは、たとえ似たような機能障害があるとしても、互いにまったく異なるということを認識することも意味する。例えば、視覚障害のある人は、さまざまな方法でカリキュラムを受けることがある。ある人には録音装置が役立ち、別の人には、点字の方がもっと役に立つ。聴覚障害のある子どもが、読唇術を介して学ぶかもしれない一方、他の子は手話の支援を必要とするかもしれない。

快適でアクセシブルな環境

調査研究によると、利用のしやすさはインクルージョン全体のコストを削減することを示唆している(21)。教育環境は、すべての子どもに物理的にアクセシブルである必要がある。トイレは、障害のある子どもが利用できるように、具体的な配慮がなければならない。学校の外観と雰囲気への配慮は、教育環境がすべての人を歓迎していることを保証する。学校が清潔であること(例えば、適切な衛生設備と清潔な水の設備)、教室の壁を色彩豊かに展示すること、子ども、教員、他のスタッフの態度や振る舞いが前向きであることなどは、友好的な環境に貢献する。

学習者中心のアプローチ

学校で行われることの質は、利用のしやすさと同様に重要である。学習者中心、つまり子ども中心のアプローチとは、学校内のすべての過程と構造が、子ども1人1人の学習と参加を支援することに基づいていることを意味する。子どもが実際に学んでいるかどうかに関わらず、教員や厳格なカリキュラム、あるいは、固定した時間割ばかりに注目が集まることはあまりにも多い。学習者中心というのは、「年齢に相応な」という意味でもある。障害のある子どもは時に事前に把握されず、仲間と同時に基礎教育を始められないことがある。知的障害のある子どもは、実際の年齢よりも精神年齢が幼いことがある。子どもの実年齢を尊重することは重要である。

柔軟性のある小学校教育

小学校教育は通常、指定された建物内で行われるが、これは必須ではない。学校の役割についての固定観念をもたないことは重要である。重度または重複障害のある子どもなど、子どもによっては自宅で教育を受けながら、小学校教育にもインクルージョンされている子どももいる(教育:ノンフォーマル教育参照)。インクルーシブ教育は、文字どおり、学校の建物に障害のあるすべての子どもを入れることを意味しているのではない。しかし、これを、学校が変わらないでいいという理由にしてはならない。学校がインクルーシブになる方向に向けて努力することは重要である。学校はいかなる子どもも障害を理由として排除する権利をもたない(4)

BOX22 インド

インクルーシブ教育を推進することに、地域が敏感になる

Sarva Shiksha Abhiyanは、国家の普遍的な小学校教育(UEE:Universal Elementary Education)を達成するべく策定された、包括的かつ統合されたインド政府の代表的なプログラムである。小地区レベルでは、親、教員、コミュニティがインクルーシブ教育に対して敏感になるよういくつかのキャンプが組織されている。また、リハビリテーションと支援機器提供のために地域のNGOや病院とネットワーク構築する組織的な取り組みも行われた。このプログラムでは、すべての校舎にスロープを設置することが、不可欠な特徴となっている。その他の活動として、教室での行動管理に関するワークショップ、特別な教材・学習教材の活用、インクルーシブ教育に関するハンドブックの開発がある。

当局は、重複障害や重度障害のある子どもが、家庭教師を通じて自宅で教育を受けられるようプログラム内に特例を定めた。通常学校に通うことのできない重度の障害のある子ども3人から5人に対し、家庭教師を1人用意する。家庭教師は、勉強を教えるばかりではなく、必要に応じて子どもとその親に基本的な治療法と日常生活技能のトレーニングを行う。

リソースと専門家のサポート

インクルージョンを傷つけることに頻繁に用いられる誤った意見が2つある。1)高価な専門家が利用可能でなければうまくいかない、2)その他のリソースは必要ない。これはどちらも真実ではない。インクルーシブな小学校教育は費用対効果が高い。しかし、障害のある人とその家族は、政府がインクルージョンを特別支援学校に代わる安い選択肢として、追加の支援やリソースなしに障害のある子どもを通わせるのではないかと考えてしまうのは当然である。リソースと支援に関する2つの重要な概念は以下の通りである。

  • 地域のリソースを活用:子どもたちが学ぶのを手助けするのに必要なリソースと支援の多くは、「特別」ではない。地域のリソース(材料、資金、人材)が使われるべきである。
  • 専門家の支援が利用できる準備:一部の障害のある子どもにとって、専門家は、彼らのインクルージョンを推進するために必要になる。専門家の技能、支援、あるいは機器は、点字を学習したり、拡大および代替形式の意思伝達(AAC)を学習するときに必要になるだろう。例:掲示板、チャート、ジェスチャー、電子機器、絵(保健:支援機器参照)。

BOX23

柔軟性のある態度を促す

「…インクルージョンについて固定観念をもっていると、それはリソースに関する固定観念を植えつける。しかしインクルージョンに対して柔軟性のある考えをもっていれば、リソースに対してもっと柔軟性のある態度がとれるはずだ」

参加者リソース取得の障壁克服および教育支援ネットワーク(EENET: Overcoming Resources Barriers, Enabling Education Network)シンポジウム、2000(22)

推奨される活動

地域住民を結集する

小学校教育に関する状況は、地域毎に違いがある。地域の小学校の中には、インクルーシブ教育を支援するところもあればそうでないところもある。時にはまったく小学校がないところもある。地域の中には、障害のある子どもを特別支援学校や特殊学級に行かせる伝統があるところもある。どのような状況であれ、重要な出発点は、地域の中でインクルーシブ教育への意識を高め、支援を得ることである。推奨される活動は以下である。

  • ラジオ、市民集会、ポスター、街頭演劇、テレビ、インターネットや国際障害者デーなど特別なイベントを活用して、インクルージョンの重要性とすべての人の教育を受ける権利について啓発する。
  • 障害のある子どもを学校から遠ざける障壁に関する話し合いに、障害当事者団体や親の会を関与させる。
  • 子ども間の啓発のため学校において「子どもから子どもへ」の活動を活用する。
  • インクルーシブ小学校教育への取り組みを支援することができる現存する政策とリソースについて調べる。

BOX24 スワジランド

子どもを巻き込むことによる啓発

スワジランドでは、子どもから子どもへの活動が、子どもをエンパワーし障害問題について教育するために、保健省のCBRプログラムの中で奨励されている。子どもたちは、歌を作り、演劇を披露して学校と地域で啓発活動を行う。扱うテーマは道路の安全性やHIV/エイズ、そして障害問題にも及ぶ。またスロープを建設したり、トイレをアクセシブルにしたり、遊具の設計の手助けをする。

家族を支援し、巻き込む

CBRスタッフは地域の学校がインクルーシブになる過程において、家族を支援し、巻き込むことに大きな役割を担うことができる。教員は、親が教育上のパートナーであることを学ぶ必要がある。

BOX25 モロッコ

子どものために協働する

「以前は、私たちは、親は敵だと思っていた。今では、彼らは同じ立場にいるということがわかった。私たちはみんな、子どもにとって一番良いことを望んでいる」

モロッコ、教員、インクルージョンプロジェクト(23)

推奨される活動の例を以下に示す。

  • 家族の話を聞き、家族と話す。家族が障害のある子どもについて知っている事柄を見つけ出す。例えば子どもの長所と課題は何か。家族に必要な支援を見つける。
  • 家庭と学校をつなぐ。教員と家族が相互に話し合えるように支援する。
  • 家にいる障害のある子どもを観察する。学校で学んだことを家でも継続し、支援する方法を探る。
  • 決定事項のすべてが子どもの利益を最優先し、その権利が守られ実現することを支援する。例えば、時に親は過保護であったり、子どもの能力を過小評価していたり、あるいは、他の兄弟姉妹のニーズを優先することを望む場合がある。
  • 親からの支援を受けつつ、インクルージョンを推進する。親は、主要な役割を担うことができる。子どものインクルージョンに関して、親が団結し、地域の学校の態度や慣習を変えた例はたくさんある。
  • 障害のない子どもの親と協働し、インクルージョンに関する彼らの支援を促す。障害のない子どもの親は、インクルーシブ教育に関して異なる見解をもっているだろう。子どもの社会的責任を養うために、教室に障害のある子どものインクルージョンを進める決定を支持する親もいれば、自分の子どもが不利になると感じる親もいるだろう。

BOX26 レソト

教育における対等なパートナー

レソトでは、親がインクルーシブ教育を推進するため密接に連携した。親は教員と「対等なパートナー」であることに気づき、子どもをどのように管理するか教員を支援し助言を与えたり、現職研修において講演し、経験を共有したりなどの貢献をした。親のトレーナーや親のリソースパーソンは、学校や全国障害者連盟(National Federation of People with Disabilities)などの主要団体と協働する。親はまた、プログラムから得たものがあると感じ、子どものニーズをより意識するようになり、自信が増し、より一層エンパワーされる。

障害のある子どもを支援する

障害のある子どもの多くは、健康状態に問題があり、学校が家から遠いこと、公共の交通機関を利用することができないなどの環境面での障壁があるために、小学校教育を受けることができないでいる。健康と物理的な環境のアクセスの改善は、適切な医療、リハビリテーション、支援機器によって達成することができる(保健コンポーネント参照)。CBRスタッフは、子どもがこういったサービスを利用できることを保証する必要がある。これは、障害のある子どもが、家から出て、学校に到着し、小学校教育を受けるための最初の一歩である。

BOX27 ケニア

ブレーズは必要な支援を受けている

ブレーズはケニアのナイロビにあるスラムに住んでいる。彼は、生まれながらに二分脊椎であった。その結果、両足が麻痺し、膀胱や腸のコントロールを喪失した。ブレーズは、ケニア身体障害者協会のCBRプログラムが彼に接触するまで自宅にいた。CBRは、待望の手術を受ける支援をし、リハビリテーションを提供し、1,000名以上の児童の通う地域の小学校に彼を入学させた。

最初、ブレーズの遊び友達は、毎朝毎夕ブレーズを背負って、学校と家の送り迎えをしていた。また学校にいる間、彼のおむつ交換もしていた。このような環境条件も、ブレーズが学校に行く阻害要因とはならなかった。隣人は、彼の障害が感染性はなく害もないことを知ると、協力的になった。今では、ブレーズはクラス7にいて、CBRプログラムによって提供された三輪車に乗って通学している。また、彼は自己導尿の訓練も受けた。必要な時に彼に救いの手を差し伸べる友人は常に周りにいる。彼は学校の成績が良く、大きくなったら医者になるのが夢である。

学校が快く受け入れ、また学校をアクセシブルにするための手助け

CBRスタッフは、学校環境のアクセシビリティに関する問題を認識しそれに取り組むために、教員、児童生徒、家族を巻き込むことができる。アクセシブルな環境というのは、車いすを使用する子どものためにスロープを作ることだけではないということを知っておくことは重要である。以下について検討する必要がある。

  • 学校環境はどの程度アクセシブルで快適か。運動機能障害のあるすべての子どもにとってアクセシブルか。視覚障害のある子どもは自由に動き回れるか。
  • 親や訪問者は歓迎されているか。
  • 建物や設備の状態は全体的にどうか。学校は衛生的でまめに整備されているか。修理は必要ないか。
  • 衛生設備はどのようか。トイレは、障害のある子どもや若い女性を含めあらゆるニーズに対応して、個室で、衛生的で利用しやすいか。
  • 手を洗ったり、飲んだりする衛生的な水はあるか。
  • 教室は照明が適切であるか。学校の周囲には、掲示板があり、わかりやすい表示があるか。

さまざまな背景や民族からなる障害のある生徒や障害のない生徒の好印象の絵画やポスターを貼ることによって、学校に歓迎する雰囲気を作り出すことができる。寛容さを推進し、いじめをとがめる政策を策定することはできる。いじめや中傷の問題がある場合は、CBRプログラムが話し合いの場を設け、その問題に対処する方法を見つける手助けをすることができる。

学習環境を作る手助けをする

これは、子どもが最大限の能力を達成するための機会と支援が受けられるようにするために、整えておくべきすべての活動やアプローチを指す。学習環境の作成に関する実用的なマニュアルやより詳細なガイドラインは、このコンポーネントの末尾の推奨される文献に記載されている。

学校から始める

教員、学校職員、親、地域のリーダー、児童生徒のためのワークショップを組織することによって、地域の小学校教育の現状について知る。話し合うべき課題の例を以下に挙げる。

  • 障害のある子どもに対する、校長、担任の教員、他の子どもたちの態度はどうか。
  • 障害のある子どもはすでに学校にいるか。
  • 学校における女子児童の割合はどんなか。
  • 退学率、留年率、修了率はどうか。
  • 教え方と学び方の質はどうか。
  • 障害のある教員はいるか。

学校制度のすべてに注意を向けることによって、CBRプログラムは、教員が社会モデルのアプローチの実際の意味を理解するのを促すことができる。

BOX28 エジプト

視点を変える

「以前、私たちはいつも『この子は行儀が悪い子だ』と言って、問題が起こるのをすべて子どものせいにしていた。私たちは、問題が大人である私たちや活動にあるということに気づいていなかった」エジプトの教員(23)

質に焦点を当てる

障害のある子どもにとって平等な利用を確保するための取り組みは、インクルージョンの過程の一部でしかない。教室の中で起こる事柄(教育の質)は非常に重要である。授業の質が低いのはよくあることで、しばしば多くの子どもたちが学習や参加ができていない。障害のある子どもが学ぶのを支援するために協働することは、すべての子どもの教育環境と学習環境を改善することになる。CBRプログラムは、教員が創造的で、問題をともに解決し、既存のリソースを弾力的に使用し、起こっている事柄を観察し、子どもの意見に耳を傾け、児童生徒の長所を伸ばすよう促すことができる(24)。学校全体のアプローチは、ある特定の教員に焦点を当てるより、より効果的である。また校長の支援は不可欠である。

教員に対するトレーニングと支援を提供する

教員は、障害のある子どもに関する知識が限られていることがある。教員をトレーニングする方法として、学校の環境における継続的なトレーニングの方が、実際の現場から離れてトレーニングセンターや大学でトレーニングするよりも、極めて効果的である。CBRプログラムは、以下の項目に関連したトレーニングとリソースを開発し提供することができる。

  • さまざまな機能障害と学習することとの関連性。
  • コミュニケーションのためのさまざまな方法、手段、形態。
  • 日常生活技能、適応と移動のための技能。
  • 支援機器、教材と機器。
  • 子どもの活発な関わりのあるインクルーシブな小学校教育のモニタリングと評価。

BOX29 エルサルバドル

例を用いて教える

エルサルバドルでは、あるCBRプログラムが、退学者、留年者、そして、「素行の悪い」としてレッテルの貼られた子どもの問題を優先させてきた。CBRスタッフと中等教育のボランティアの児童生徒たちは、午後の時間にこういった子どもたちとゲームなどを使った学習者中心の学習を始めた。1年後、教員はその成果に気づき始め、教え方が適切であれば、インクルージョンはうまくいくことを確信した。CBRプログラムは、教員にトレーニングを申し出、巡回教員に給料を出して支援した。この学校は国内で最初のインクルーシブ教育制度を設立し、これに関する出版物を通じて、教育省の注目を集めた。教育省は最終的に、地区のすべての小学校のインクルーシブ教育を支援するために3名の巡回教員の給料を支払うようになった。

カリキュラムや教授法の変化を促す

CBRプログラムは、教員がカリキュラムを柔軟性のあるものにし、教授法を学習者中心に据えるために地域の小学校、コミュニティ、NGO、地区の教育部門と連携することができる。これは、すべての子どもにとって役に立つだろう。

BOX30 レソト

テキストを超えて答えを見つける

レソトでは、インクルーシブ教育を推進しようとしている教員が、自らが「シラバスの奴隷」になっていると感じていた。シラバスは厳格で実際は適切ではなく、学習者中心ではなかった。教員はそのシラバスから誰も恩恵を被らないことに気づいた。「誰のためのシラバスなのか? 私たちは、シラバスと呼ばれるこの本を終わらせるだけの目的で、子どもたちを軽視することはできない!」教員はインタビューでこう語った(25)

通常、地域の小学校とCBRプログラムは、自由にカリキュラムと教授法を改良することはできないだろう。多くの国では、厳格な政府の管理下に置かれているからだ。しかし、小さく、簡単な変更は、地域レベルで可能であり、県および全国レベルでの変化は、ロビー活動で可能な場合もある。カリキュラムと教授法をより柔軟性のあるものにするにはどうすれば良いか、以下に例を挙げる。

  • 子どもたちが小さなグループで活動するようにする。
  • 「バディ」システムを始める。お互いを助け合うようペアの関係を作る。例えば、学習に困難のある子どもと、学習が容易である子どもをペアにする。
  • チームで教える。学習障害のある子どもを支援するために教室にもう1人、大人を投入する。
  • 地元の材料で学習教材をつくる。例えば、枝木、石、ボトルキャップ、種子。これは学習障害のある児童生徒の助けとなる。
  • 生徒、特に障害のある子ども、女児、関わりの薄いと思われる生徒の積極的な参加を求める。
  • 生徒の長所を伸ばし、たとえ小さなことでも、成功をほめて褒美を与える。
  • カリキュラムの内容を研究する際に、家族、生徒や地域のリーダーとともに、それが児童生徒の生活に関連するものであるかどうかを見きわめ、彼らの実生活に関連するよう、変更や追加をする。
  • 学習を強化するために、歌、演劇、ゲームや絵を使う。
  • わかりやすい言葉と母国語の使用を奨励する。
  • 話す時は、教員の顔に光が当たっており、黒板ではなく、子どもの方に向いているようにする。

柔軟性のある試験と評価を奨励する

これは、インクルージョンを推進する上でもっとも困難な課題の1つである。学校は、学校の平均点をさげることになる可能性があるため、学習障害のある子どもに試験を受けさせたくない場合がある。試験と評価制度は、時に非常に厳格でわかりにくい。しかし、障害のある子どもや学習障害のある子どもが試験や評価制度に参加できたという例は多くある。アプローチの例を挙げる。

  • 「代筆者」、テープや他のオーディオ設備を使用する。
  • 時間を多く与える。
  • 長所を評価する。
  • 情報通信技術(ICT:information and communication technology)を活用する。
  • 手話通訳、点字や大活字を活用する。

障害のある賢い子どもが評価や試験から除外されることはしばしばある。CBRプログラムは、教育制度のさまざまな段階の教員やスタッフに影響を及ぼすために、障害のある子どもが差別されることなく参加できる権利を強調しつつ、ロビー活動や支持団体を作る手助けができる。最終目標は、柔軟性があり適切でアクセシブルな評価と試験の方法を開発することである。これもまた、すべての子どものために役立つだろう。

協働と支援を推進する

CBRプログラムは、インクルーシブ教育を開発または遂行している学校や教員を結びつけることによって仲間による協働と支援を促すことができる。その他の推奨される活動は以下である。

  • ボランティア(例えば退職した教員や親族)の募集を促し、インクルーシブな小学校教育を促進するために柔軟性のあるカリキュラムや指導・学習教材を作る手助けをしてもらう。
  • 経験を共有し、インクルージョンを支援してもらうよう、校長や教員組合を促す。
  • ピアサポートを提供し障害に対する意識を高めるための活動を開発する課外活動やクラブを作ることを推奨する。
  • 児童生徒と関わってもらえるロールモデルとなる人を障害当事者団体から見出だす。

利用可能なリソースを使用して支援を開発する

これは、(1)地域で利用可能なリソースを活用してすべての子どもに効果的な学習環境を作り出すことと、(2)障害のある子どもが、参加と学習のために必要とする専門家の利用を確保することを含む。

地域のリソースと支援を利用する

  • 子ども、教員、障害のある人、家族、コミュニティの構成員の知識、技術、経験を洗い出し、活用する。
  • 上に提案したように地域の資源から補助教材・道具を作ることを奨励する。
  • 巡回指導のできる教員の採用を奨励する。退職した教員によるボランティアでも良いし、あるいはCBRプログラムや教育省からその資金を提供してもらう可能性もある。彼らは教育の質の向上(例えば、チームティーチング)など、特定の側面に焦点を当て、家族、学校、コミュニティ間の連携を提供する上で非常に有用な役割を果たすことができるだろう。また、障害のある個々の子どもではなく、すべての子どもにとって学ぶ上での手助けをすることができる。
  • 地域のアーティスト、ミュージシャン、語り部が、子どもの学習環境がより生き生きして興味深いものになるよう関与することを促す。

専門家の支援の利用を容易にする

CBRプログラムは、必要に応じて、障害のある子どもたちが専門家の支援を利用できることを保証する必要がある。子どもの中には以下の支援が必要な場合がある。

  • 教室活動において機能的な姿勢を維持するために座席を改良する。
  • 視力が弱ければ、拡大文字、拡大鏡、柔軟な座席の配置、照明を明るくする。
  • 意思疎通の補助器具となるもの、例えば絵、シンボル、ボード。
  • 移動機器、例えば、車いす、下肢装具、義肢、白杖。
  • 治療、例えば理学療法、言語療法。

CBRプログラムは以下によって支援することができる。

  • リソースを特定すること―地域の障害当事者団体や特別支援学校のスタッフや障害のある子どもと協働することによって、容易に把握できる。
  • 支援機器を使っている子どもたちを支援するために家庭と学校間を連携する。支援機器が、きちんとメンテナンスがされ、改良され、適切なものであり、使用されているようにする。
  • 家庭、学校、地域で使用されている意思伝達方法が一貫していることを保証する。例えば手話や点字が使用されている場合、親、兄弟姉妹、他の児童、教員や近所の人が、基本的な手話や点字を習得する必要が場合もある。
  • 障害のある子どもが、他の人と技能を共有することができるように、ピアサポートグループの形成を奨励すること。例えば、耳の聞こえない子どもは、手話技能を身につけるに、他の耳の聞こえない子どもや大人と交わる必要があるだろう。

小学級の最適な利用を奨励する

小学級とは(リソースルームとも呼ばれる)、通常、主流の小学校に付属している特設または障害のある子どもの統合を推進するために割り当てられた場所である。残念なことに、一般のクラスから障害のある子どもや学習障害のある子どもを分離させることによって、隔離を促すこともしばしば起こる。

小学級は、それが正しい方法で使われれば、貴重なリソースとなる。小学級は、子ども中心の教材と機器を保管するために使用したり、支援の必要な小グループや個々人の一時的な支援のためや、どうすればカリキュラムを利用しやすいものにできるかというトレーニングのため、親への支援のため、そしてインクルージョンを推進するありとあらゆる活動のために使用することができる。しかし、隔離の形態の1つとなりうるので、障害のある子どもや学習障害のある子どもの恒久的かつ独立した教室としては使用されるべきではない。

BOX31 ザンビア

すべての子どもと教員のためのリソース

ザンビアの小学級は、分離された環境を作り出し、小学級の教員は、「バカ者たちの先生」と呼ばれていた。しかい、学校が退学率と留年率、子どもの権利、教室での民主主義、インクルージョンに本気で対処するようになると、小学級は、すべての子どもと教員のためのリソースルームに変わった(26)

インクルージョンの方向へ特別支援学校を導く手助け

特別支援学校が存在する場合は、CBRプログラムは、インクルージョンのリソースとしてそれらを活用することを推奨する。例えば、特別支援学校のスタッフが、主流の学校のカリキュラムをより弾力的にする手助けができる。特別支援学校は幅広い層の子どもたちが恩恵を被ることができるような、知識、技能、教材や機器をもっている。

障害のある子どもが特別支援学校に通う場合、CBRプログラムの役割は、家族や地域とのつながりが維持されていることを確認し、子どもの権利が尊重され、同時に、地域の学校がよりインクルーシブになるように継続して支援することである。巡回指導をする教員や地域のボランティアは主流の学校と特別支援学校間に、また、家庭と地域に重要な連携を提供することができる。障害のない子どもも特別支援学校にインクルージョンされることもあり得る。

貧困に取り組む

極度の貧困家庭の子どもたちは、小学校教育からもっとも除外されている。そして、障害のある子どもは、通常、こういった家族の一員である。しかし、貧困が小学校教育に対する深刻な障壁である一方で、否定的な態度はインクルージョンに対して貧困よりもはるかに大きな障壁となっていることは、経験により明らかである。時には、インクルージョンは、貧困地域でより成功している。なぜなら人々は、困難を克服することや協働し、互いに世話をすることに慣れているからである。

CBRプログラムは、以下のように、貧困の問題に取り組むことができる。

  • 家族が、子どもを養育する支援を受けるようにする。あるいは、学校や地域が全体として、学童に1日1食の食事を提供するようにする。
  • 食品、制服、教材の寄付を促すため、地方当局、慈善団体、企業、NGOと接触を図る。
  • 実際の懸念が何であるか見つけだすために家族と密接に関わり、地域住民からの支援を要請する。
  • 家族の所得創出活動を推進し、子どもが、生計を立てるために家族を助けるのではなく、教育が自由に受けられるように手助けする(生計コンポーネント参照)。
  • リソースが制限されている場合でも、インクルージョンの重要性を強調する。例えば、校舎がなく、生徒が木の下で勉強していても、障害のある子どもが参加できるようにする。
  • 1人で通学することができない障害のある子ども、障害のある子どもを学校に連れて行く時間がない親のために移動の解決策を作り出す手助けをする。他の生徒(ピアサポート)、祖父母、近所の人や他の地域メンバーが、学校と家の間を送迎したり、地域の企業やNGOが、移動手段を提供したりすることによって支援できる可能性がある。

BOX32 インド

社会的な問題の理解

インドのCBRワーカーは、聴覚障害をもつ8歳の子どもの母親に尋ねた。「お子さんを、セルフヘルプセンターにある小学校に行かせてみませんか? 家からとても近いですよ」これに対し母親は、「息子は、やることが山ほどあるの。ヤギの放牧の仕事があるし。家ですることが何もなかったら、学校に行かせることができるわ」と答えた(27)

ネットワーク、支持、情報共有

インクルーシブ教育を推進するために、教育部門は、地域、地方および国家レベルで変わる必要がある。インクルージョンは、政策、予算、構造および管理者の支持がなければ、持続可能ではない。CBRプログラムは、同盟やロビー活動団体、校長会、障害当事者団体、親の会、周縁化されたグループ(女性グループ、少数民族のグループ)、特別支援教育の職員、宗教団体、地域の企業、メディア、保健師、セラピスト、地域のあるいは国際的なNGOのネットワークを作ることによって支援することができる。

ロビー活動の対象となる団体は、数多くある。というのも、教育は資金援助団体、政府、そして、開発機関の中心的な問題であるからである。ロビー活動の対象となる団体には資金援助団体の現地事務所、例えば、世界銀行やEU、教育に関する国際的なNGO、自治体や政府と教育省が含まれる。

情報の重要性は強調しすぎるということはない。CBRプログラムは、インクルーシブ教育に関する情報とリソースの普及において重要な役割を果たす。

BOX33 ザンビア

一般クラスでうまく対処する

ザンビアのある教員はEENETのニュースレターを読み、特別学級の子どもたちは、不当な状況に置かれていることを悟った。「一般クラスに子どもたちを入れたところ、彼らは極めて良くできた。このニュースレターは、私の心を開いた。私たちは、これまで、このような児童生徒をうまく対処できない子とみなしていたのだ」この教員は、障害のある子どもは、対処不能だという他の教師を納得させるために、このニュースレターを活用した(28)