音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

CBRガイドライン・補足

CBRとハンセン病

はじめに

ハンセン病は古くから存在する慢性感染症である。感染は病原菌によるもので、治療を受けずにいると、皮膚、神経、四肢、目に進行性で恒久的な損傷を起こす(1)。2008年には世界で新たに約249,000人がハンセン病と診断された(1)。ハンセン病には効果的な治療法があるにもかかわらず、ハンセン病に関連した障害のある人は約300万人に及ぶと推計されている(2)

効果的な治療が見つかる前のハンセン病は人々に非常に恐れられ、ハンセン病患者は厳しいスティグマと差別に直面した(3)。多くの人は家族から引き離され、コロニーや定着村での生活を強制された。そして地域社会から隔離されサービスや支援へのアクセスがない状況に置かれた。この隔離がさらなるスティグマを助長した。治療や手術の進歩に伴い、施設ベースのアプローチは時代にそぐわないものとなり(3)、現在ではハンセン病患者の多くは自分の家族のもとやコミュニティにとどまり、ハンセン病事業は一般の保健サービスに統合されつつある(4)

有効な治療や啓発キャンペーン、一般保健サービスへのハンセン病事業の統合にもかかわらず、ハンセン病患者・回復者にとって、スティグマはいまだに非常に大きな問題である(5)。多くの人が今でも社会的排除に直面し、CBRプログラムのような主流のサービスの利用に関し困難を体験している。例えば、何千ものハンセン病患者・回復者がリハビリテーションサービスを必要としているにもかかわらず、ほんの少しの人々しかこのようなサービスを受けられずにいる(5)

CBRはハンセン病患者・回復者に対しても平等に適用する戦略である(4)。以下の推奨される活動は、CBRプログラムやより広いコミュニティへのハンセン病患者・回復者のインクルージョンのための実践的なアイディアを提供している。この章により、ハンセン病サービスで働く人たちが彼らの活動に他の障害のある人を取り込むことの重要性について意識を高めることも期待される。

BOX15 インド

シブラオ

シブラオは、インド南部カルナータカ州マンディヤ県の小さな村に住んでいる。家族の3人がハンセン病にかかり、この病気による障害がある。シブラオは1999年の15歳の時に、顔に赤く円い斑紋ができた。マリア・オリビア・ボナルド(MOB)農村保健プログラムのハンセン病ワーカーであるアムブジャは、シブラオの家を訪問した時にこの斑紋に気がついた。この斑紋をハンセン病によるものと考えたアンブジャは、彼をマンディヤ市民病院(Mandya Civil Hospitalに連れて行き、そこでハンセン病の診断を受けたシブラオは、治療を開始した。しかしシブラオがハンセン病の治療を受けていることが、どこからか学校に伝わり、先生は通学を止めるよう言い渡した。

フォローアップのためにシブラオの家を訪問したとき、何が起こったかを知ったアンブジャは先生たちと話し合うことを決めた。シブラオは治療を受けており、他の子どもたちへの感染の危険はないことを説明し、彼が学校へ通うことを認めてくれるよう頼んだ。しかし、学校側は納得せず、病院からの証明書を求めた。アムブジャはシブラオと市立病院に行き、医師から証明書をもらい、ようやく彼は学校へ戻れることになった。

2001年、MOB農村保健プログラムは、CBRプログラムを開始することを決定し、アムブジャは、最初のCBRワーカーの1人としてトレーニングを受けた。トレーニング後、彼女は障害のある人たちのための自助グループを始めることを決めた。彼女はシブラオの家を訪ね、誰かこの自助グループに参加しないか尋ねた。シブラオの家族は、他の会員から受け入れられないのではないかと考え、参加をためらった。しかし幾度もの話し合いの結果、シブラオの母が自助グループの会合に加わることにし、それぞれの会員が毎週いくらか貯蓄する活動に参加した。

アムブジャはシブラオのフォローアップを継続して行った。ハンセン病の影響で足の感覚がなくなっていることに気がついたアムブジャは、シブラオに十分足に注意することを促し、足を障害から守るため、ハンセン病プログラムのサンダルを渡した。2003年、シブラオは地元のCBRプログラムでCBRワーカーとして働き始めることを決めた。ここでの経験はシブラオに多大な自信を与え、また障害のある人のためのさまざまな機会について学ぶこともできた。通信教育で大学にも通ったシブラオは、現在は学校の先生として働き、結婚をして娘も授かった。また、引き続き村のCBRサポーターとして活発に活動している。

目標

ハンセン病患者・回復者の権利が認識され、生活の質を向上し、平等な一員としての社会参加を確保するために、地元の支援やサービスにアクセスできる。

CBRの役割

CBRの役割は(i) CBRの活動にハンセン病患者・回復者を参加させること、ならびに(ii) ハンセン病プログラムとサービスの中に障害のある人を含むことである。

望ましい成果

  • CBRプログラムや関連する照会サービスを通し、ハンセン病患者・回復者がリハビリテーションに関するニーズを満たすことができる。
  • CBRプログラムに関わっている人を含む他の障害のある人が、ハンセン病専門のリハビリテーションセンターやプログラムによるサービスを受けられる。
  • 地域社会におけるハンセン病患者・回復者ならびにその家族に対するスティグマや差別が軽減される。
  • すべての関係者のハンセン病に関する問題や課題に対処する技術や知識が向上する。

主要概念

ハンセン病の理解

ハンセン病とは?

ハンセン病はらい菌(mycobacterium leprae)という細菌が原因となる病気で、主に皮膚と神経に影響を及ぼし、病名は病原菌を発見したハンセン博士の名前に由来する。老若男女を問わずに感染する可能性があるが、進行は非常に遅いため、気がつくような兆候や症状が出てくるまでに何年もかかることがある。ハンセン病の一般的な症状は、白っぽい、または赤・赤褐色の「皮膚の斑紋」である。斑紋には平らなものと隆起しているものがあり、感覚は麻痺している。身体のどこにでも現れることがあり、痒みはなく、たいていは痛みも伴わない。

ハンセン病の迷信

時がたつにつれ、ハンセン病に関する啓発や知識は深まっているが、現在でも下記をはじめとする迷信が残っている。

ハンセン病は治らない。ハンセン病は、多剤併用療法(MDT :multidrug therapy)により治癒する病気で、過去20年で1,400万人以上が治癒した(1)。WHOは現在もハンセン病を撲滅するための取り組みの一環として、必要な国にMDTを供与している。治療はヘルスセンターで無料で受けることができる(6)

ハンセン病は伝染性が強い。ハンセン病が他の人に伝染することはあっても(鼻または口の飛沫により)、伝染性は弱い病気である。多数のらい菌を体内に保持していなければ、伝染はしないため、ハンセン病にかかっている人の多くからは伝染することはない。また世界の人口の95パーセントは生まれながらハンセン病に対する免疫をもっていると考えられ、伝染はまれである。MDTはらい菌の殺菌に非常に効果的であり、MDTによる治療を始めた人からは感染することはない(7)

らい反応

ハンセン病にかかっている人の中には、「らい反応」を起こす人もいる。これはハンセン病に対する身体の反応で、病気が悪化しているということでも、治療が効いていないということでもない(6)。身体がらい菌の存在に反応をすることにより組織を損なうもので、アレルギー反応に似ている。らい菌は神経を侵すため、らい反応が起こっている間に神経に障害が出ることが多い。神経障害は急速に起こるため、回復することのない障害を防ぐためには、早期治療が非常に重要である。ハンセン病対策活動において、神経障害の早期診断・治療は大きな課題とされている。ハンセン病罹患者のうち30パーセントまでもがらい反応と神経障害の危険にさらされている(8)

ハンセン病による機能障害

ハンセン病による神経障害は、手足の感覚を失うなどの感覚障害を引き起こしたり、手足と目の筋肉が衰弱したり麻痺したりするなどの運動障害を引き起こしたりといった、さらに多様な機能障害につながることもある(9)。また神経障害のために発汗機能が働かなくなり、皮膚が極端に乾燥することもある。多くの人にとってこのような機能障害はさらなる問題や合併症を引き起こす可能性がある。

手足の感覚を失った人は気がつかないうちにけがをしていることが多くある。しかしけがによる痛みを感じないため治療を受けず、傷口が感染し組織や骨が損傷され、手足を失うことにつながることがある。手足の筋力の低下や麻痺は関節硬直や変形につながることが多く、目の筋力の低下は定期的な瞬きや夜間に完全に目を閉じることができないことから目が乾燥し、容易に損傷を受けることにつながり、ひいては失明の原因になり得る。乾燥した皮膚のひび割れによる感染は関節や骨に広がり、手足の指が失われることにもつながる(10)

ハンセン病の影響

機能的影響

ハンセン病による機能障害のある人は日常生活を送ることが非常に困難となる。例えば手に感覚障害や筋力低下があると、針に糸を通すことやスプーンを持つことといった単純な作業も困難なものとなる。また、足を上げることのできない人(下垂足)は歩行が困難となる。20~25パーセントの罹患者はなんらかの障害を抱えていると推測されているが(9)、早期診断と適当な治療と定期的な検診が障害原因予防の鍵となる(11)

社会的影響

多くのハンセン病患者・回復者にとってもっとも切実な問題とは、身体的な機能障害や機能的制限ではなく、スティグマや社会的排除である。ハンセン病による目に見える障害をもつ人は、就職や結婚が困難であることが多く、その場合は経済的な支援やケアを他人に求めなくてはならない。セルフスティグマも頻繁に見られる。病気にかかったことで自分を責め、自らに価値を見いだせず自尊心や希望や目的を失う。病気が治った後でさえ、スティグマや差別の影響を体験し続けることが多い。

このガイドラインでは他のさまざまなコンポーネントにおいて、障害をもった女性はより脆弱で不利な立場に置かれがちであることを強調してきた。ハンセン病患者・回復者の女性も同様である。遺伝するのか、伝染するのか、治癒するのかなど、地域社会におけるハンセン病についての一般的な知識や意識の欠如は、人間関係、結婚、家族などの関係に影響を及ぼす。ハンセン病にかかったために夫に捨てられた女性は少なくなく、結婚歴が短い場合には特にその傾向が顕著である。またハンセン病にかかった未婚の女性は、結婚の可能性が非常に大きく制限されてしまう。

経済的影響

ハンセン病は、患者・回復者やその家族に対し、少なからぬ経済的影響を及ぼす可能性がある。ハンセン病による機能障害のため、仕事をすることが、または仕事を継続することができないことがある。またハンセン病に関するスティグマや差別のために仕事を失うこともある。例えば汚染を恐れ、患者や回復者からは食料品のような商品を購入することに抵抗を感じる人は少なくない。また治療にかかる費用もある。ハンセン病の治療は無料で受けられるものの、低所得国において保健ケアの利用とは、しばしば旅費の負担と賃金の喪失を意味する。また、入院や保護靴、整形器具、義肢など、治療に伴う費用も考えられる。これらの費用のため、サービスを受けることをためらう人も多い。その結果、二次的疾患を発症し、障害度が増すこともある。

ハンセン病コロニー

数十年前までは、ハンセン病には有効な治療法がなく、ハンセン病にかかった人たちはハンセン病コロニーや療養所に隔離されていた。このような隔離はしばしば法によって強制された。有効な治療法が確立してからは、コロニーの多くは閉鎖されたが、まだ存在する国もある。このような定着村で暮らす人の中には、故郷の家族との絆を失った長期居住者もいる。重度の障害をもつ人の中には、物乞いや慈善に依存した生活をしている人もいる(4)

BOX16 インド

ハンセン病コロニー

インドのハンセン病患者・回復者数は世界で最大である。2005年にハンセン病患者・回復者団体が国内のハンセン病コロニーの全国調査を行った。この調査によって同国内には700のコロニーが現存し、これらコロニーに約20万人の患者・回復者とその家族が暮らしていることがわかった。このうち約2万5千人は物乞いで生計を立てていた。コロニーの多くにはトイレ施設、飲料水、進入路、教育施設がなく、近隣地域の人たちはこれらのコロニーに住む人たちを避けているため、公共交通手段や公共施設を使うことが困難であることがわかった。

政府や非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)は、ハンセン病患者・回復者が地域社会に溶け込み、自身の権利を認識し、スティグマや差別をなくすための支援をしていくことが重要であり、CBRはその過程で役割を担うことが可能である。ハンセン病コロニーを離れたくないなどの理由から地域社会への再定住化が選択肢にない場合は、近隣地域との調和の中で暮らし、いずれはコロニーに他の住人も受け入れることができるように、CBRが力を貸すことも可能である。世界各国ではハンセン病コロニーが次第に普通の村へと変貌していった例もある。

BOX17 ブラジル

協力的な政府を通した地域社会の成長

1980年代後半、ブラジル北東部のマナウスのハンセン病療養所が閉鎖され、ハンセン病患者・回復者はラーゴ・ド・アレイショ市周辺に定住した。当時ラーゴ・ド・アレイショには飲料水や学校をはじめ、ほとんど何のインフラもサービスもなかった。地域の教会の支援を受け、ハンセン病患者・回復者はこのような問題に対処するための協同組合を組織した。レンガ工場と配水システムを作り、地域が発展するにつれ、養鶏場、レストラン、学校も作られた。地域は発展し始め、政府が追加のインフラやサービスを供給すると、他の人たちも徐々に住み始めるようになった。今日ではここがハンセン病定着村だったことを知らない人も多い。

ハンセン病とCBR活動の統合

ハンセン病の有病率が引き続き低く維持され、地域によっては発症がまれなところもあるものの、診断、治療、障害予防とケア、リハビリテーションといったハンセン病サービスは、21世紀に入っても維持されなければならない(9)

過去においては、ハンセン病サービスは特化され他のサービスからは分離されていたが、現在では一般保健システムへの統合がもっとも適当なアプローチだと考えられている(9)。これはリハビリテーションサービスの提供の仕方にも影響を与えている。

ハンセン病患者・回復者に対するリハビリテーションの提供は、「主流」のリハビリテーションサービスとは並行線をたどっていた。例えば多くの国際的または国内NGOが、ハンセン病患者・回復者に特化した健康関連や社会経済関連の双方を含むリハビリテーションサービスを行っている中、CBRプログラムをはじめとする主流のリハビリテーションサービスはハンセン病患者・回復者を対象としていなかった。ハンセン病に関するスティグマやハンセン病に特化したプログラムの存在が、CBRプログラムにハンセン病患者・回復者が組み込まれていなかった主な理由であるとされている(12)

ハンセン病患者・回復者に特化したリハビリテーションサービスは、他の障害をもつ人のグループにも有益であろう技術や資源を持っていることから、現在は他の障害をもつ人のグループもそのサービスを受けられるようにすることが奨励されている。例えばCBRプログラムは、これまでハンセン病患者・回復者のための整形外科工房として使われていたものを身体機能障害のある人に照会できるなど、ハンセン病患者・回復者のリハビリテーションサービスはCBRプログラムにとって有効な照会センターともなりうる。同様にハンセン病患者・回復者のグループにもCBR戦略が有効であることから、このグループにもCBRプログラムのサービスを提供することが推奨されている(4)。近年、CBRはハンセン病患者・回復者でリハビリテーションの必要のある人にとって、第1選択肢の1つであるべきと推奨されている(12)

推奨される活動

CBRはすべての障害をもつ人に適用できる戦略であり、このガイドラインで提案される活動の多くはハンセン病患者・回復者にも適用できる。したがってこのセクションは、保健、教育、生計、社会、エンパワメントといったCBRマトリックスの他の主要なコンポーネントと並行して読むことが薦められる。またWHO/ILEP technical guide on community-based rehabilitation and leprosyのような出版物も、CBRプログラムマネージャーやCBRワーカーに詳細な概要を提供していることから、これらも参照されたい(4)

CBRプログラムにハンセン病患者・回復者を取り込む

ハンセン病患者・回復者が体験してきた問題への解決は、開発という視点から考慮されるべきである(2)。したがってCBRプログラムは、ハンセン病患者・回復者が主流の開発プログラムや活動にアクセスができるように、分野を超えた働きかけをしなくてはならない。ハンセン病による障害のある人の中でも、女性は特に疎外と貧困に陥りやすいため、CBRプログラムは、女性がCBRの活動に参加しそこから利益を得る機会をもつようにしなくてはならない。

保健

ハンセン病による身体の機能障害をもつ人は、1)神経機能保持、2)関節可動性保持、3)視力維持、4)自己管理・セルフケア習得、5)保護靴入手、6)支援機器入手、のための保健面での介入が必要となる。CBRプログラムは、下記を通して、適切な保健関連の介入を可能にする。

  • ハンセン病患者・回復者やその家族がそれぞれのコミュニティにおいて利用可能な保健サービスを知りアクセスできるようにする。
  • MDTで治療中の人が終了まで治療を継続するように促し、らい反応が起こった場合にはすぐに治療を受けに行くように、らい反応についての十分な情報をもたせる。
  • ハンセン病患者・回復者が障害の予防と管理のために、自己管理ならびにセルフケア活動について学び、また互いの経験を共有するために定期的に集会を開く自助グループの形成を支援する(保健:原因の予防参照)。
  • 感覚を消失している人には、鍋など熱いものを持つ際にはミトンを使うといった、手、足、目の保護手段に関するアドバイスをする。Training in the community for people with disabilities (13)などのマニュアルには、感覚を消失している人たちが損傷や変形を予防するための詳細な情報が載っている。
  • 特別な靴など必要な補助器具が入手、修理、維持できるようにする(保健:支援機器参照)。

BOX18 エチオピア

自助グループを通して回復した自尊心と尊厳

ALERTはエチオピアの首都アディスアベバの端にあるハンセン病に特化した医療施設である。1995年にALERT職員が、何年にもわたって保健教育を受けているにもかかわらず、足部潰瘍などの創傷管理のためにALERT病院や野外診療所を使い続ける人が増加し続けていることに対する懸念を表した。これはALERTの創傷治療に必要な物品の予算が限られていたため、ALERTに大きな影響を及ぼしていた。この問題に対応するため、ALERTは自分たちで外傷の管理と観察に責任をもたせるためのセルフケアグループを組織した。1999年までには72のグループができあがり、創傷の数が減ったなど数多くの良好な結果が報告された。同時に、グループ員からは、自尊心を取り戻した、社会参加が高まったなどの報告もされた(14)

教育

子どもは、ハンセン病にかかった、または親や親族がハンセン病にかかったために、通学できなくなったり、中退を余儀なくされたり、友達から仲間はずれにされたり、家族によって隠されたり、仕事について収入を得なくてはならなくなることがある(4)。CBRプログラムは、例えばハンセン病にかかった生徒に対する態度を変えるために、CBRワーカーが学校の先生や親と会ってハンセン病の啓発を行うなど、子ども(成人も含め)が自分たちの地域で教育を受ける機会を確保することができる。さらに詳細な活動に関しては、教育コンポーネントを参照のこと。

生計

ハンセン病にかかった人の多くは非常に貧しい。また、スティグマや差別、ハンセン病による障害などが就職の機会を制限しており、さらに貧困を悪化させている。職業訓練やディーセントワーク(働きがいのある仕事)は、社会で暮らすため、そして孤立、依存、貧困など障害と密接な関係のあるサイクルを打ち破るための大きな手掛かりとなる。障害のある人が家族に対して金銭的に貢献することが可能になると、物事の決定など家庭活動への参加の高まることが報告されている(15)。CBRプログラムには人々が生計を立てるために支援をする方法が数多くある。例えばCBRプログラムが仲介者の役割を演じ、ハンセン病患者・回復者の雇用を検討している潜在的な雇用者に情報を提供することが必要な場合もあるだろう。さらに詳細な活動に関しては、生計コンポーネントを参照のこと。

BOX19 エチオピア

スティグマと貧困を撲滅する潜在能力を引き出す

エチオピア全国ハンセン病回復者協会(ENAPAL:Ethiopian National Association of Persons Affected by Leprosy)は、会員が尊厳と誇りを取り戻すための生活環境向上を目的として活動をしている。現在ENAPALは、エチオピア7地域に54の支部を有し、会員数は2万人を超え、国内外のパートナーとともに、啓発、権利擁護、生活環境改善の活動を行っている。生活環境改善プロジェクトでは、ENAPALの会員も、他の人々と同様に生産的になれることを証明する。ENAPALは回転基金で会員に収入創出活動の機会を与えたり、会員の子どもたちに教育の機会を与えたり、スティグマと貧困の連鎖を断ち切るための、家族のエンパワメントも行っている。同様にハンセン病患者・回復者の女性たちによる自助グループも組織しており、これらのアプローチは非常に有効であることが証明されている。

社会

ハンセン病に対するスティグマ、差別、誤解は、患者・回復者が主流のサービスにアクセスしたり、自分たちの地域活動に参加したりするのを阻む原因となることはよくある。CBRスタッフはコミュニティにおける差別的な態度や行動をなくすために、次のような非常に重要な役割を担うことが可能である。

  • 地域のリーダー、教師、宗教上のリーダーなどとともに働き、ハンセン病に関する前向きなメッセージを発信する。
  • 市場、公共集会場、保健所、学校など、さまざまな場所での演劇、展示または冊子の配布などを含む、ハンセン病に関する啓発キャンペーンを企画する、またはキャンペーンに参加する。
  • ハンセン病患者・回復者や他の障害のある人、障害のない人がともに参加することができる共同のスポーツや文化的なプログラムを企画する。そうすることで、障害のある人も、他の地域の人たちと同じく、対等なメンバーとしてこのようなプログラムに参加をすることができること、またその権利をもっていることを周知することができる。

エンパワメント

ハンセン病患者・回復者は既存のサービスやリソースにアクセスするために、自分たちの権利について認識し、主張することが重要である。自らの組織化は非常に有効な手段であり、世界各地でハンセン病患者・回復者が地域グループや協会を作っている。ブラジルのハンセン病回復者社会復帰運動(MORHAN:Movement for Reintegration of People Affected by Hansen’s Disease)、アンゴラのハンセン病回復者社会復帰協会(ARPAL:Association for the Reintegration of People Affected by Leprosy)、インドのナショナルフォーラムなどがその例である。これらの中には、共生・尊厳・経済向上のための国際ネットワーク(IDEA:International Association for Integration, Dignity and Economic Advancement)と連合したものもある。また地域の障害当事者団体に加盟した人もいる。これらの協会は、エンパワメントワークショップや、国際障害者権利条約(16)などなんらかのテーマにそった会合を積極的に企画している。CBRプログラムはハンセン病患者・回復者が、それぞれの地域の自助グループや障害当事者者団体にアクセスするための支援をすることができる(エンパワメント:自助グループ障害当事者団体参照)。

ハンセン病プログラムをインクルーシブなものにするために

CBRプログラムは、ハンセン病リハビリテーションプログラムが、他の障害のある人もそのサービスを受けられるように働きかけなくてはならない。これにより、ハンセン病に対するスティグマが軽減したり、ハンセン病サービスの主流セクターへの統合を促進したり、より多くの人が既存サービスの恩恵を受けられるようになるなどといったさまざまな効果が考えられる。ハンセン病に特化したプログラムやサービスのみが存在する地域では、他の障害のある人にもサービスを提供していくために、CBR戦略が導入されていくべきである(4)。このようなプログラムとネットワークを形成する際は、情報の共有、重複サービスの回避、リハビリテーションに対するニーズに対応する新しい方法を模索することが求められる。

能力開発

CBRプログラムは、インクルーシブなCBRアプローチの方向に向かって前進できるよう、すべての関係当事者の能力強化に特に努めなくてはならない(17)。この関係当事者の中にはCBRスタッフ、ハンセン病プログラムやサービスの職員、ハンセン病患者・回復者、障害のある人、家族、障害当事者団体などが含まれる。推奨される活動には以下が考えられる。

  • CBRプログラムにハンセン病患者・回復者を取り入れるべくCBRスタッフの研修・再研修を行う。これらの研修プログラムにはハンセン病の専門知識のある人が含まれなくてはならない。
  • ハンセン病プログラムやサービスは、その職員に対しCBR戦略の研修を受けるように働きかける。これらの研修にはCBRスタッフが含まれなくてはならない。
  • 現在CBRプログラムに関わっている障害のある人たちの、ハンセン病に関する知識を向上する。彼らが、ハンセン病患者・回復者がCBRプログラムに参加することを受け入れられるようにする。
  • ハンセン病患者・回復者やその家族が、自分たちの病気やそれに伴う障害を、責任をもって管理できるように教育や研修を行う。
  • 地域の障害当事者団体がハンセン病について知識を深め、ハンセン病患者・回復者を平等な権利と機会をもつ会員として受け入れるように働きかける。

BOX20 スーダン

ハンセン病患者・回復者を受け入れる

スーダンのニャラの障害当事者団体は、ハンセン病患者・回復者の会員を受け入れていなかった。英国ハンセン病協会(TLM:The Leprosy Mission)のスタッフが、団体会員に研修を行い、MDTを受けている人たちには感染力はもうないことなど、ハンセン病について説明した。研修後、障害当事者団体は、自分たちのさまざまなサービスに追加する形でMDTの供与を開始し、ハンセン病患者・回復者も会員として認めるようになった。


<参考文献>

1. Leprosy. Geneva, World Health Organization, 2010 (www.who.int/mediacentre/factsheets/fs101/en/index.html, accessed 30 March 2010).

2. Disabilities and rehabilitation. In: WHO Expert Committee on Leprosy, seventh report, Chapter 6 (WHO Technical Report Series, No. 874). Geneva, World Health Organization, 1997 (www.who.int/lep/resources/Expert06.pdf, accessed 30 March 2010).

3. Guidelines for the social and economic rehabilitation of people affected by leprosy. London, ILEP, 1999 (www.ilep.org.uk/fileadmin/uploads/Documents/Technical_Guides/sereng.pdf, accessed 30 March 2010).

4. WHO/ILEP technical guide on community-based rehabilitation and leprosy. Geneva, World Health Organization, 2007 (www.who.int/disabilities/publications/cbr/cbrleng.pdf, accessed 30 March 2010).

5. Van Brakel WH. Disability and leprosy: the way forward. Annals of the Academy of Medicine of Singapore, 2007, 36(1):86-87 (www.annals.edu.sg/pdf/36VolNo1Jan2007/V36N1p86.pdf, accessed 30 March 2010).

6. Guide to eliminate leprosy as a public health problem. Geneva, World Health Organization, 2000 (www.who.int/lep/resources/Guide_Int_E.pdf, accessed 30 March 2010).

7. Frist TF. Don’t treat me like I have leprosy! London, ILEP, 2003 (www.ilep.org.uk/fi leadmin/uploads/Documents/Non-ILEP_Publications/dtml.pdf, accessed 30 March 2010).

8. Consensus statement on prevention of disability. Pan American Health Organization, 2006 (www.paho.org/English/AD/DPC/CD/lep-consensus-stmt-pod.doc, accessed 30 March 2010).

9. ILEP technical guide. Facilitating the integration process: a guide to the integration of leprosy services within the general health system. London, ILEP, 2003 (www.ilep.org.uk/library-resources/ilep-publications/english/, accessed 30 March 2010).

10. Learning Guide 4 - How to prevent disabilities in leprosy. London, International Federation of Anti-Leprosy Associations (ILEP), 2006 (www.ilep.org.uk/fileadmin/uploads/Documents/Learning_Guides/lg4eng1.pdf, accessed 30 March 2010).

11. Meima A et al. Dynamics of impairment during and after treatment: the AMFES cohort. Leprosy Review, 2001, 72(2):158-170.

12. Finkenfl ugel H, Rule S. Integrating community-based rehabilitation and leprosy rehabilitation services into an inclusive development approach. Leprosy Review, 2008, 79(1):83-91 (www.lepra.org.uk/leprosy-review, accessed 12 April 2018). V an Brakel WH. Disability and leprosy: the way forward. Annals of the Academy of Medicine of CBR and leprosy 45

13. Helander E et al. Training in the community for people with disabilities. Geneva, World Health Organization, 1989 (www.who.int/disabilities/publications/cbr/training/en/index.html, accessed 30 March 2010).

14. Benbow C, Tamiru T. The experience of self-care groups with people affected by leprosy: ALERT, Ethiopia. Leprosy Review, 2001, 72(3):311-321 (www.lepra.org.uk/leprosy-review, accessed 12 April 2018).

15. Ebenso B et al. Impact of socio-economic rehabilitation on leprosy stigma in Northern Nigeria: findings of a retrospective study. Asia Pacific Disability Rehabilitation Journal, 2007, 18(2):98-119 (www.aifo.it/english/resources/online/apdrj/apdrj207/leprosy_nigeria.pdf, accessed 30 March 2010).

16. Convention on the Rights of Persons with Disabilities. United Nations, 2006 (www.un.org/development/desa/disabilities/convention-on-the-rights-of-persons-with-disabilities.html, accessed 12 April 2018).

17. Cornielje H et al. Inclusion of persons affected by leprosy in CBR. Leprosy Review, 2008, 79(1):30-35 (www.lepra.org.uk/leprosy-review, accessed 12 April 2018).

<推奨される文献>

Infolep Leprosy Information Services. London, ILEP (undated) (www.infolep.nl, accessed 30 March 2010).

International Federation of Anti-Leprosy Associations (ILEP) (ilepfederation.org/, accessed 12 April 2018).

ILEP Learning Guide 1 - How to diagnose and treat leprosy. London, ILEP, 2001 (www.ilep.org.uk/fileadmin/uploads/Documents/Learning_Guides/lg1eng.pdf, accessed 30 March 2010).

Special issue on CBR and leprosy. Leprosy Review, 2008, 79(1) (www.leprosy-review.org.uk/, accessed 30 March 2010).

WHO Goodwill Ambassador’s newsletter for the elimination of leprosy. Nippon Foundation (undated) (www.nippon-foundation.or.jp/eng/leprosy/2006736/20067361.html, accessed 30 March 2010).