音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

障害者相談支援事業の制度的側面

遅塚昭彦

1 はじめに

平成24年4月に施行された障害者総合支援法等関係法令の改正により、平成27年4月1日以降は、市区町村は、障害福祉サービスなどの支給申請をしたすべての障害者等に対してサービス等利用計画案の提出を求めることになった。そのために、それまでに市町村は都道府県と協力して、必要な体制整備を進めなければならない。

すべての利用者について計画相談支援が行われるとした趣旨を、ここで改めて確認すると以下のとおりである。

(1)障害児者の自立した生活を支えるためには、その抱える課題の解決や適切なサービス利用に向けたきめ細かく継続的な支援が必要であり、そのためには定期的なケアマネジメントを行う体制が求められること

(2)障害児者にとって、専門的な知見を持った担当者からのアドバイスを活用してサービスを幅広く組み合わせて利用することが、選択肢の拡大につながること

(3)可能な限り中立的な者が、専門的な観点から一貫してケアマネジメントを行うことにより、市区町村の支給決定の裏付け又は個別のサービス・支援の内容の評価を第三者的な観点から行うことが可能となること

このように、すべての利用者に適切な支援が行われることが目的であり、サービス等利用計画を作成することそのものが目的ではない。従前は、主に支援困難事例として市区町村に把握された者が相談支援の対象となっていたが、今回の改正により、障害福祉サービスを受ける者全員が事前に課題等の整理を行なった上でサービスを受ける仕組みになったことは大きな転換であったと思われる。

2 計画相談支援の根拠法令

サービス等利用計画をすべての申請者に求める根拠は、以下のとおりである。

まず、障害者総合支援法の第22条第4項に「市町村は、支給要否決定を行うに当たって必要と認められる場合として厚生労働省令で定める場合には、(略)申請に係る障害者又は障害児の保護者に対し、(略)指定特定相談支援事業者が作成するサービス等利用計画案の提出を求めるものとする。」と定められている。

この「必要と認められる場合」として、省令第12条の2で「障害者又は障害児の保護者が法第20条第1項の申請をした場合」と定められている。そのため、障害福祉サービス等の申請があった場合には、市町村はすべての申請者に対してサービス等利用計画の提出を求める必要がある。

これらの規定は平成24年4月1日から施行されているが、すべての申請者に計画相談を提供するための体制を整備する準備期間を設けるために、省令の附則として、「平成27年3月31日までの間は、(略)これらの規定中『申請をした場合』とあるのは、『申請をした場合であって市町村が必要と認めるとき』とする。」とされている。

この経過措置を設けた趣旨は、平成27年度に向けて体制整備を進めるためのものであり、3年間何もしなくても良いという猶予期間ではない。

3 計画相談支援の進捗状況

全面施行まで1年を切ったわけであるが、全体としては障害福祉計画における見込みと比べて実施数は非常に低い水準にとどまっている。毎月の国民健康保険団体連合会(以下「国保連」という)の統計と、実際の作成済み者数の調査結果からは、以下のような状況である。

(1)毎月の実績からみた状況

第3期障害福祉計画(平成24年度~平成26年度)における各市区町村の見込値に基づくと、平成26年度には支給決定の更新およびモニタリングを合わせて全国で毎月18.9万件になっていなければならないが、平成25年12月分の国保連の実績では、47,681件となっている。

一方、都道府県ごとの進捗状況も非常に大きな格差があり、最も進んでいるところではサービス利用者1万人あたり月1,600件近い実績があるが、最も進んでいないところでは400件に満たない状況である(図1)。

図1 計画相談支援の利用者数 (都道府県別:実績)
図1 計画相談支援の利用者数 (都道府県別:実績)拡大図・テキスト

(2)実際の作成済み者数の状況

平成25年12月時点での全国のサービス等利用計画等の作成済み者数は、全利用者の23.9%であった。これについても、都道府県・市区町村ごとに非常に大きな格差があり、最も進んでいるところではすでに全利用者の半数以上が作成済みとなっているが、最も進んでいないところではその約6分の1にとどまっている(図2)。

図2 計画相談支援都道府県別進捗率 (H25年12月末現在)
図2 計画相談支援都道府県別進捗率 (H25年12月末現在)拡大図・テキスト

平成26年3月時点の結果は10ポイント近く上昇し全国で31.4%となり、格差も4.9倍に縮小している。また、47都道府県のうち20県が40%を超えており、その中で5県は50%を超えている。反面、5都府県が10%台にとどまっており、これらの利用促進を図ることが今後の重要な課題である。

4 計画相談支援の体制整備を進めるために

計画相談支援の利用を促進するためには、各市区町村、都道府県、国がそれぞれの役割を果たす必要があるが、具体的な内容は以下のとおりである。

(1)市区町村の役割

市区町村は、支給決定を行う立場であり、計画相談支援の体制整備に関して一義的な責任を果たすことが求められる。障害福祉サービスの利用見込みに応じてサービス等利用計画やモニタリング等の件数を適切に見込み、管内の相談支援事業所やサービス事業所に対してそれを提供して、職員の増員や相談支援事業所の開設の働きかけを行うことが必要である。

さらに、相談支援等のバックアップとして、基幹相談支援センターの設置等を通じて、研修の実施による人材育成や困難事例等に関する相談・地域の関係機関へのフィードバック等の体制を作ることが望まれる。また、(自立支援)協議会を活用し、サービス事業者等とのサービス等利用計画の作成の必要性の共有、計画的なサービス等利用計画の対象者の選定等の取り組みを進める。

(2)都道府県の役割

都道府県の役割は、管内市区町村の支援である。また、相談支援専門員の養成により、各相談支援事業所が業務を行う体制を作ることが求められる。

さらに、管内市区町村における計画相談支援の進捗率を定期的に把握して還元するとともに、進捗率の低い市区町村の課題の把握や適切な支援を行う。都道府県が計画相談支援の体制整備に主体的・積極的に取り組んでいるかどうかという点が、当該都道府県における体制整備の進捗を決める大きな要素の一つである。

(3)国の支援策等

厚生労働省は、市区町村・都道府県の取組を支援するために、次のような支援を実施している。

1.雇用創出基金事業として、相談支援事業所が、無業者(新卒者等を含む。)を雇用し、サービス等利用計画の作成補助などを行わせる場合、その費用について助成する。

2.基幹相談支援センター(委託相談支援事業所)が、障害児者の卒業の時期等に、学校等の現場に赴き、各種情報の収集・提供や事前相談・助言を行うための人員を配置する場合に、その費用について助成する。

3.国保連から市区町村に提供される給付実績データに、利用者単位での集計・分析を行う機能を付加するためのシステム改修等を行う市区町村に対して助成する。

4.国の補助により計画相談について日本相談支援専門員協会等で各種研究を行い、それらの内容を公開している。

5 計画相談支援の完全実施に向けた体制整備の加速化策

今まで述べた各種方策を実施するとともに、計画相談支援が効率的に進められるように、実施プロセスを精査し、合理化を図る必要がある。

(1)計画相談支援のプロセスの効率化・省力化

1.市区町村に求められる配慮の例としては、以下のものが考えられる。

(a)特定の相談支援事業所に業務が集中しないように配慮する。

(b)支給決定・受給者証発行に当たって、次のように配慮する。

・受給者証等について、市区町村から相談支援事業所にも写しを送付する。

・あらかじめ把握できる利用者については、なるべく早期に相談支援事業所に情報を提供し、余裕を持って業務を進められるようにする。

・業務量を分散させるため、支給決定期間を次の誕生月等までとする。

(c)計画相談支援における補助業務(例:スケジュール調整、記録作成、書類整理等)については、各業務に対する習熟度等も勘案した上で、補助職員に行わせる。

2.相談支援事業所における柔軟な対応の工夫としては、以下の例が考えられる。

(a)アセスメントについては、居宅等への訪問が必須であるが、訪問の結果、再度利用者等へ確認する事項が生じた場合等には、軽微であれば、電話や郵送、電子メール等による確認とする。

(b)サービス等利用計画案およびサービス等利用計画の作成時に利用者の同意を得るに当たって、利用者の意向が正確に確認できることを条件に、郵送や補助職員の代行等により同意を得る。

(c)サービス担当者会議の開催は、全員参加が原則であるが、担当者が業務の都合等で欠席となる場合には、出席できなかった担当者からは別途意見を求める。

(d)モニタリングの一環として行うアセスメントについては、前記(a)と同様に、内容が軽微であれば訪問せず、電話や郵送、電子メール等により確認する。

(e)モニタリングの結果としてサービス等利用計画に変更がある場合、電話や郵送等により確認する。

(f)サービス提供日時の変更等軽微な変更または変更がない場合は、利用者等への同意及びサービス担当者会議の開催は行わない。

6 いわゆる「セルフプラン」についての留意事項

障害者総合支援法では、市区町村からサービス等利用計画案の提出を求められた障害者は、相談支援事業者以外の者が作成したサービス等利用計画案(セルフプラン)を提出することができるものとされている。

セルフプラン自体は、障害者本人のエンパワメントの観点からは望ましいものである。一方、一部の市区町村では、計画相談支援の体制整備に十分に力を入れないまま安易に「セルフプラン」を提出させているとの指摘もある。

セルフプランを提出できるのは、身近な地域に相談支援事業者がない場合または申請者が希望する場合である。このうち「申請者が希望する場合」については、申請者の自由な意思決定が担保されていることが前提である。一般的には、相談支援事業所が計画相談支援を実施していく中で、申請者自らがプランニングやサービス提供事業所との調整をできるように支援を行なった結果として、セルフプランに移行していく方法が適切であると考える。

また、「身近な地域に相談支援事業者等がない場合」については、本来は、あってはならないことであり、このような場合には、申請者が適切な支援を受けられるように、相談支援事業者の充足を図り、次回の更新時には、相談支援事業者においてサービス等利用計画が作成されるべきである。また、当該市区町村は利用者に対し、管内の障害福祉サービス事業所の状況に関する情報提供や記載方法に関する説明等の支援を行うとともに、モニタリングに代わるものとして、本人の状況を定期的に把握すべきである。

7 おわりに

「はじめに」で述べたように、今回の法改正で目指しているのは、障害福祉サービスを受けることを希望する者に、事前に相談支援事業者が関わることで本人が希望する生活が送れるよう支援する仕組みである。しかし、3年間の経過期間中は、先に障害福祉サービスを受けている者に事後に相談支援が関わるという場合が多く、そのことから誤解や混乱が生じている面があると思われる。単にサービス等利用計画を作ればよいのであれば、現に受けているサービスを紙に落とし込めば良いということになってしまう。しっかりと本人の希望を受け止めて、現在のサービスを見直し、将来どういう暮らしを目指すのかを考えなければ、手間が増えるだけとなり本人の利益にならない。

もちろん、限られた時間の中で、将来を見越したサービスの組み立てがなされたサービス等利用計画を作成することは困難である。最初のサービス等利用計画の段階では、いわば将来への布石として、本人の希望する生活への課題が盛り込まれれば良い。文書化されることで、サービス提供事業所や相談支援事業所などの支援者が、課題を忘れることなく長期的な支援が可能となる。そのためにモニタリングが制度化されたのであり、支援そのものを計画的に行うことが大切である。

相談支援事業所などの関係者は、現在、大変に苦しい状況にある。その中で、新しい仕組みの実現に向けて相談支援事業所が頑張っていくためには、国、都道府県、市区町村による支援体制が不可欠である。皆様のご協力を切にお願いする。

(ちづかあきひこ 元厚生労働省障害福祉課相談支援専門官)