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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

霞が関BOX

バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性について

国土交通省総合政策局安心生活政策課 加藤直子

はじめに

わが国では、平成18年に制定・施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)に基づき、「公共交通施設や建築物等のバリアフリー化の推進」、「地域における重点的・一体的なバリアフリー化の推進」、「心のバリアフリーの推進」の3つを柱に据えて、バリアフリー施策が推進されてきました(図1参照)。

図1
図1拡大図・テキスト

しかし、超高齢社会の進展、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催の中で、障害の有無にかかわらず誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現に向け、バリアフリーへの関心が高まっています。こうした動きを受け、国土交通省では本年6月27日に「バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性について」をとりまとめ、今後は施策の具体化に向けて検討を進めていきます。

本稿では、バリアフリーを取り巻くさまざまな環境変化と東京オリンピック・パラリンピック及びその後を見据えた、バリアフリー施策の見直しの内容についてご紹介します。

1 検討の背景

(1)バリアフリーを巡る環境変化

バリアフリー法の施行から10年が経過し、バリアフリーを取り巻く環境は、以下のとおり大きく変化しています。まず、1.高齢者、障害者数は大きく増加し、2060年には高齢化率は4割に達する見込みとなっています。また、2.障害者権利条約締結に伴い、障害の社会モデル1)等同条約の理念を踏まえ、すべての人に対する差別の撤廃や社会的障壁の除去に向けた環境整備を推進することが求められています。さらに、3.平成32年(2020年)の東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機に、共生社会の実現を目指すべきとされ、4.一億総活躍社会の実現に向けて、バリアフリー施策を進めるべきとされています。加えて、5.昨年の視覚障害者のホーム転落事故の発生を受けた「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」中間とりまとめ(平成28年12月)において、引き続きハード・ソフトの両面からの転落防止対策を講じることとされたように、ハード・ソフト一体となった取組が必要とされています。

(2)ユニバーサルデザイン2020行動計画について

本年2月にユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議において決定された「ユニバーサルデザイン2020行動計画」2)を踏まえ、国土交通省では、ユニバーサルデザインの街づくりとして、東京大会に向けた重点的なバリアフリー化と、全国各地における高い水準のバリアフリー化を推進するとともに、心のバリアフリーを一層推進することとしています(全体像は図2のとおり)。さらに、本行動計画においては、「バリアフリー法を含む関係施策について、共生社会の推進や一億総活躍社会の実現の視点も入れつつ、平成29年度中に検討を行う等により、そのスパイラルアップを図る。」とされているところです。

図2
図2拡大図・テキスト

2 バリアフリー法及び関連施策の見直しについて

(1)バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性について

1を踏まえ、バリアフリー法及び関連施策について、見直しも視野に入れ幅広く検討するため、本年2月末より、国土交通省内に設置したバリアフリーワーキンググループにおいて見直しを開始しました。そして、本年3月に設置した障害当事者、事業者、有識者等からなる「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」の議論も踏まえ、本年6月末に「バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性について」をとりまとめました3)

(2)見直しの方向性の概要

見直しの方向性の全体像として、まず、以下の基本となる3つの視点に沿って、施策の具体的な検討を進めていくこととしています。

1.高齢者、障害者等の社会参画の拡大の推進

2020年東京大会のレガシーとしての共生社会の実現、一億総活躍社会の実現に向け、高齢者、障害者等が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加し、活躍する機会を確保していくことが重要であり、施策の拡大・充実の実現する。

2.バリアフリーのまちづくりに向けた地域連携の強化

施設間の乗り継ぎにおいて不便を感じるケースなど、連携が必ずしも十分でない。地域の関係者の連携を促進し、バリアフリーのまちづくりを推進する。

3.ハード・ソフト一体となった取組の推進

現行バリアフリー法は施設整備に重点。ハード面の整備はもとより、これと一体となったソフト面の取組を推進する。

前記3つの視点に沿って、施策の方向性として以下の4つを掲げています。

1.バリアフリー施策の基本的考え方

「障害の社会モデル」の理念等をバリアフリー法体系における反映や観光地のバリアフリー化の取組、バリアフリー法の適用対象事業者の拡大や、バリアフリー情報の見える化等を検討します。

2.施設設置管理者等の取組促進

公共交通事業者等が、ハード、ソフト両面の取組状況を対外的に明らかにする制度(統括管理者の設置、推進計画策定、定期報告、公表制度、情報提供等)の導入等を検討します。

3.地域のさらなる面的バリアフリー化

市町村による基本構想作成を促進するため、基本構想の作成要件の緩和、都道府県の関与の強化、基本構想の評価・見直し制度、交通結節点における施設設置管理者間の連携促進の仕組み等を検討します。

4.心のバリアフリー

公共交通事業者等がハード、ソフト両面の取組を計画的に取り組む中で、さらなる職員研修の実施を促進するための仕組み等を検討します。

3 今後の展望

1、2で述べたように、高齢者、障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むことができる社会を構築し、社会参加をより一層促進するため、交通施策やまちづくり施策と連携しつつ、障害者団体や施設設置管理者等の当事者の主体的な参画の下、さらなるバリアフリーの促進に向けた取組の実施が求められています。

国土交通省としては、今後は見直しの方向性のとりまとめに沿って、事業の実情等に即した実行ある制度設計等を行うため、関係事業者と十分調整を図りつつ、早期の具体化に向け検討を進めて参ります。今後もバリアフリー施策を推進すべく積極的に取り組んで参りますので、関係者の皆様のご理解、ご支援を賜るようお願いして、本稿の結びとさせていただきます。

(かとうなおこ)


【注】

1)障害者が受ける制限は機能障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるとする考え方

2)行動計画本文は以下HPにおいて公表されています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/ud2020kkkaigi/pdf/2020_keikaku.pdf

3)詳細は以下HPにおいて公表されています。
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000157.html