音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

世界情報社会サミットと障害

Disability Advocacy in the World Summit on the Information Society

野村美佐子(財)日本障害者リハビリテーション協会
河村宏 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所

項目 内容
転載元 日本生活支援工学会誌(ISSN 1347-1724),Vol.5, No.1, p.14-18

1.はじめに

2001年の12月21日の国連総会決議(A/RES/56/183)において世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society: 略称WSIS)を2つのフェーズに分けて開催することが承認された。第1フェーズは2003年、12月10日から12日までスイスのジュネーブにおいてスイス政府のホストにより開催された。第2フェーズのサミットは、2005年の11月16日から18日までチュニス政府がホスト国となって開催される。その目的は、情報社会に関連する諸問題に対処するために、共通ビジョンの確立および理解の促進を図り、政府、国際機関および市民社会の連携による情報社会の実現に向けて、基本宣言と行動計画を採択することである。ここでは、サミット開催の背景、第1フェーズのサミットの準備過程およびサミット、情報とコミュニケーションに問題がある障害者のデジタル・ディバイドの解決に焦点を当てながら概説する。また今後のチュニスに向けての障害者のコミュニティの動きについても言及する。

2.サミットの背景

サミットは、1998年のITU(国際電気通信連合)全権委員会議において、情報通信が政治的、社会的、文化的にますます重要な役割を果たすようになる一方で、情報を「持つもの」と「持たざるもの」との格差が拡大しつつあるという認識から、同会議のイニシアチブとして始まった。2001年にITU総会はサミットを2つのフェーズで開催するための場所と日程を決定した。これを受けて国連は前述の総会において、国連の千年紀宣言(UN Millennium Declaration)の最終目的に向けて、開発のためにICTを育成する様々な国家事業や国際イニシアチブの間に協力体制を作る必要性を認め、ITUにサミット開催の主導的役割を委託する決議を採択した。

この中でサミットの準備を自由な国家間の準備会議(Preparatory Committee: PrepCom)を通じて行なうことを勧告している。具体的には、サミットの議題を明確にする、基本宣言と行動計画をまとめる、サミットにおけるあらゆる関係者(all stakeholders)の参加方法を策定することである。

3.サミット開催事務局

サミット開催事務はITUが行なうことになり、サミットの準備全てに関してアドバイスを行なうこと、サミットの準備の進行状況のレポートを国連に対して行なうこと、そのためのサミットの準備に関して運営上の企画および日程をたてること、スポンサー捜しと資金調達を行なう役割を担った。

4.サミット組織委員会

サミットの準備、組織づくり、および開催作業にあたっては、国連システムのためのハイ・レベルサミット組織委員会(HLSOC)が設立された。HLSOCは国連事務総長の代表とFAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)、ICAO(国際民間航空機関)、ILO(国際労働機関)、IMO(国際海事機関)、ITU(国際電気通信連合)、UNCTAD(国連貿易開発会議)、UNDP(国連開発計画)、UNEP(国連環境計画)、UNESCO(国連教育科学文化機関)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、UNIDO(国連工業開発機関)、UPU(万国郵便連合)、WHO(世界保健機関)、WIPO(世界知的所有権機関)、WMO(世界気象機関)で構成される。また、WTO(世界貿易機関)事務局長、UNITAR(国連訓練調査研究所)事務局長、各地域の経済委員会の事務局長、および世界銀行総裁もメンバーとなっており、ITU事務局長がHLSOC議長を務める。

5.対象参加者

サミットが対象とする参加者は、各国政府代表、国連諸機関、民間部門、市民社会である。

6.準備プロセス

WSISは、事前の会議、関連する多くのパートナーからでてきた行動計画書、および3回にわけて行なわれた準備会議(PrepCom)からの提言等の成果となった。これらの準備会議の間にインターセッショナル会議も開催された。そのほかに地域会議、テーマ別会議、専門家会議などもこのプロセスに重要な役割を果している。地域における準備会議はそれぞれの地域特有の問題、ニーズ、優先課題などを検討するために開催された。

6.1 アジア・太平地域会議(バンコク)

アジア太平洋地域における情報および放送に関わる閣僚の第1回の会議が2002年5月27日~28日までタイのバンコクで開催された。この会議はタイ政府がホスト国となり、アジア太平洋放送開発研究所(Asia-Pacific Institute for Broadcasting Development )によって開催された。この会議の結果、同年6月にバンコクでTWGDC(ESCAP Thematic Working Group on Disability Concerns)、DAISYコンソーシアム、W3C、タイ政府、タイDAISYコンソーシアムの共同主催で開催された「ICTアクセシビリティ・セミナー」に、ITUのアジア代表が招待された。このセミナーで参加者はサミットについて初めて学ぶと共に、一般の人や政府がICTアクセシビリティへの関心をICT開発の早い段階で持つべきで、このような認識は、開発途上国におけるインフラ整備が行われるうえで重要であるということが確認できた。セミナー参加者によって作成・採択され、TWGDCによって承認された宣言は「びわこミレニアムフレイムワーク」の行動計画の中に組みこまれ、2003年1月に日本で行なわた世界情報社会サミット・アジア・太平洋地域会議に報告された。

6.2 サミットにおける市民社会障害問題グループの設立

最初のサミット準備会議(PrepCom1)は2002年に開催され、第2回準備委員会(PrepCom2)は2003年の2月にジュネーブで開催された。PrepComの参加者は、政府代表者グループによって認証される(accreditation)必要があり、ITUのセクターDのメンバーであるDAISYコンソーシアムを代表して、当時財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター長の河村宏が出席した。

国連は市民社会の役割がサミットのフレームワークの中で正しく認識されるべきであるとの決定を行い、市民社会グループはこれを受けて、テーマ別にいわゆるファミリーグループを単位に代表者を選び、政府代表団とプロセスを協議するためのビューローを構成した。ファミリーグループの構成の当初の提案には、障害関係のグループを立ち上げるという提案はでていなかった。そこで市民社会グループの全体会議において、DAISYコンソーシアムが障害問題のファミリーグループ(Family on Disability)を設置する提案を行い、参加者の賛同により承認された。PrepCom2の最中に開かれた最初の障害問題ファミリーの会議でファミリーグループの設立を提案した河村が代表者(Focal Point)に選任され、以後引き続きFocal Pointとして今日に至っている。

6.3 障害問題ファミリーグループの活動ERSE SSIONAL

2003年の7月に、ユネスコのホストでサミットのインターセッショナル会議がパリで開催された。その中で、国際障害者同盟(IDA)の会長(当時)としてキキ・ノルドストローム女史が世界の障害者運動を代表しスピーチを行った。彼女の発言の実現に合わせて、ロビー活動、交渉が繰り返し行われ、ついにタイ政府代表が原則宣言(Declaration of Principles)の適切な文脈の中で、アクセシビリティの問題を取り上げることになった。これが、準備プロセスにおいて障害問題の認識向上をめざす障害問題ファミリーグループの活動の初めての成果である。

しかし2003年の9月のPrepCom3においては、障害に特に言及する文言が完全にテキストから抹消され、障害者のデジタル・ディバイド問題が、社会的に不利な人々一般の問題に解消されてしまっていた。障害者(persons with disabilities)という言葉がどうして削除されたのか明確な説明もなかった。一方で若者や女性といった特別なグループは、特別の注意を促すために文脈の中にそのまま残されていた。障害者の問題が重要であるという一般的な合意はあったが、障害者に関する文言をどのようにして盛り込むかに意見の一致が見られなかった。

6.4 サミットと障害者

サミットの全体を見ると、第1フェーズまでには2つの大きな問題、すなわちインターネットの管理と、北と南のデジタル・デバイド、特に連帯基金問題に関して明確な合意を見ることができなかった。これらの問題が立ちふさがり、サミットが開催されないかもしれないということまでが懸念された。もし主たる問題で合意がないのであれば、サミットを開催する意味がないわけで、その結果、多くの難しい外交プロセスと交渉があった。この交渉の期間、障害問題グループは、障害問題の重要性を会議のすべての参加者および代表団に認識してもらうための資料を何度か配布した。

PrepCom3に追加された一週間の会議がジュネーブで開催され、この間、すべての障害に関する文言を取り戻すさまざまな活動が展開された。各国政府の代表団に説明をし、会議場内に設置された無線LANを活用して進行状況を伝え、世界中の障害に関わる人々とメールを通じて意見交換をした中で、ピッツバーク大学保健・リハビリテーション学部副学部長であるシールマン教授他の「主要な文書のなかでユニバーサルデザインと支援技術について触れていない」というコメントが寄せられた。かくして、適切な文脈の中でユニバーサルデザインと支援技術という障害者が直面するデジタル・ディバイド問題の核心をつく解決方法のエッセンスを盛り込む活動が始まった。結局、ICTの文脈の中で、ユニバーサルデザインと支援技術は障害者にとって有効であると結論づけられた。タイ、ニュージーランド、メキシコ、南アフリカや日本などの政府代表の支援を得て、基本宣言の中にこの文言が盛り込まれた。特にメキシコの代表団は、明確に障害問題グループが提案した修正を支持する発言を行った。このプロセスの中で、多くの政府代表と障害問題グループとの間に良い関係が築かれ、

障害者のデジタル・ディバイドの解決に、ユニバーサルデザインと支援技術の開発と普及をもって対応する戦略がある程度反映された基本宣言と行動計画の最終テキストが承認された。

7.サミット第1フェーズの開催

2003年12月にジュネーブで開催された世界情報社会サミットには54カ国の政府首脳、83人の情報通信大臣等、176カ国、約2万人が参加した。サミットで基本宣言と行動計画が採択されたが、いくつか次のフェーズに持ち越された問題があった。

前述の基本宣言のデジタル・デバイド解消のためのプロジェクトの実施において、世界銀行、国連開発計画(UNDP)、二国間協力など、既存のスキームを有効活用すべきとの立場と政府間の国際協力等、既存のスキームを有効に活用すべきとの立場と新たにデジタル連帯基金を設立すべきとの立場が対立した。そのため、国連事務総長のもとに設置されるタスクフォースが既存の資金援助メカニズムの検討を2004年12月までに行い、この結論に基づき、「自主的なデジタル連帯基金」の創設を含めて検討することとなった。

またインターネット管理のあり方について、ICANN(米国籍非営利民間団体)中心に現行組織のままでよいとする立場と政府間の国際組織が対応すべきとの立場が対立したため、2005年までに開発途上国および先進国の各国政府、民間部門および市民社会が参加して、インターネット管理(Internet Governance)に関する作業部会を設置し、その結果を2005年のWSIS第2フェーズのチュニス・サミットに提出することとなっている。

ジュネーブ・サミットには野村・河村両名も参加したが、そこでのいくつかの障害者のデジタル・ディバイド問題に関わる活動について述べる。

7.1 サミットのオープニングセレモニー

ジュネーブ・サミットの開会式は12月10日午後2時から3時まで開催された。開催国の大統領及び各政府の代表、国連事務総長、ITU(国際電気通信連合)事務総局長、準備委員会議長、市民社会の代表、民間企業の代表がサミットの事務局長に招かれ、発言を行なった。その中で国際障害者同盟の会長であるキキ・ノードストローム女史が市民社会を代表してスピーチを行ない、サミットの第2フェーズにおいても市民社会が重要な役割を担うであろうと述べた。またサミットが貧富の差をなくすこと、国連の新千年紀宣言が、貧しく社会的に不利益を被っている人々や災害弱者などが発展の権利を保持するという文脈で理解されるべきこと、先住民、難民、女性などは開発において特別な配慮がなされるべきであり、情報技術は視覚障害者を含めて印刷物を読めない全ての人に適用されるべきであると述べた。

7.2 基本宣言と行動計画と障害者

障害グループの努力の結果として、基本宣言のパラグラフ25では以下のように述べられている。

「開発に関する全体的な知識の共有と強化は、ユニバーサル・デザインや支援機器の利用に加え、経済、社会、政治、健康、文化、教育及び科学的な活動のための情報への公平なアクセスに対する障壁を取り除くことによって、また、パブリックドメインの情報へのアクセスを容易にすることによって促進される」

また行動計画において障害者に関わる文言はパラグラフ9aで、次のように述べられている。

「高齢者、障害者、子ども、特に、社会の進歩から取り残された子ども、その他の恵まれない弱い立場の人々を含む誰もが簡単に手ごろな値段で利用できるようICT設備およびサービスの設計および生産を奨励し、彼らの必要に合った、ユニバーサルデザイン原則に沿った、支援技術でさらに高められた技術、アプリケーション、コンテンツの開発を促進する。」

7.3 サミット障害者グローバルフォーラム

このサミット・イベントには世界から様々な障害を持つ当事者を含め250人の参加があった。他のサミット準備プロセスとは違ってこのフォーラムは障害者自身の参加に力をいれ、ICTアクセシビリティのモデル事例とすべての人にとってのICTデザインに焦点をあてた発表を主な内容とした。バーナード・ハインザーを会長とするスイス中心の組織委員会は、開発途上国から障害者を招待する資金調達とこのフォーラムの企画を行った。そのほか、準備プロセスに関わる障害者のグループが積極的に関わっていった。出席者には、サミットに参加して情報を共有しょうとする意識が強く、このことがイベントを成功に導いたといえる。

スイス盲人図書館は、国連公用語である6カ国語の主要なサミットのドキュメントを、DAISYフォーマットで作成した9000枚のCD-ROMを配布した。このCD-ROMには、日本障害者リハビリテーション協会がテクノエイド協会の助成を得て開発した多機能DAISY再生ソフトであるAMISのプログラムも収録されていて、ディスプレイに表示するフォントサイズやカラーコントラストが調節できるテキスト、可変速のナレーション、肢体不自由な読者にはスイッチやゲームコントローラーでの操作ができ、更に、英語についてはピンディスプレイで点字表示も可能という多様なニーズに応えるDAISYによる読書支援の見本をサミットに集まる世界中の政府やその他の代表団に提供した。

このフォーラムのなかで「アクセシブルな情報社会に関するジュネーブ宣言」が発表され,以下の12項目が宣言された。注)

  1. 障害者はいかなる障壁、偏見、差別からも解放され、情報社会のあらゆる側面において完全参加の権利を持つ
  2. 各政府の法律及び政策は、障害者のニーズと権利を満たすフォーマットで情報、コミュニケーション及びICTへアクセスできるという基本的人権を保障しなければならない
  3. 情報、コミュニケーション及びICTの内容は情報社会の形成に重大な役割を果たすので、政府、企業、市民社会はユニバーサルデザイン、支援技術及び拡大技術を利用し、あらゆるタイプの障害を持つ人にアクセシブルにしなければならない
  4. ICTを通して得られる情報や知識は、障害を持たない人と同時に、また追加の費用を負担することなく、障害者に提供されなければならない
  5. 知的所有権保護、著作権法及びデジタル権利管理(DRM)システムを含む、いかなる社会的な基準、規則、法律/政策も障害者の情報及びコミュニケーションへのアクセスを危うくするものであってはならない
  6. 情報社会は、障害者にとってユニバーサルで、オープンで、独占的ではなく、アクセシビリティが証明された実績をもつ、すなわちプラットフォームに依存しない、情報、コミュニケーション及びICTスタンダードを採用し、それに従うべきである
  7. 21世紀の目標である貧困の緩和に一致し、情報社会において財源が不足している人々のインクルージョンに帰するイニシアチブを開始しなくてはならない
  8. 支援技術、文書、トレーニング、技術的支援が、地域の言語で分かりやすい形で、提供されなくてはならない
  9. 年齢、性別、先住民、地理的孤立、経済的障壁、教育が受けられないこと、障害に対する偏見などによる多くの障壁に配慮しなくてはならない
  10. チュニスで開催される第2回WSIS開催の準備として、主催者は障害者とその団体を参加させなくてはならない
  11. プログラムと内容は、世界中の6億人以上の障害者のニーズを反映させるべきで、手話、点字及び代替フォーマットなど障害者のコミュニケーションのニーズを考慮し、提供しなければならない
  12. ジュネーブからチュニスまで全てのWSISのプロセスにおいて、障害者の完全参加のために、あらゆるコミュニケーションの障壁に取り組み、また取り除くべきサービス、すなわち代替フォーマットの資料が得られるリソース・センター、アクセシブルなインプット及びアウトプットができるコンピューター、合成音声、アクセシブルなキーボード、点字プリンター、手話通訳者、その他のリソースなどが得られるようにする必要がある

8.サミット第2フェーズに向けて(まとめ)

従来の国連サミットは政府間会議であり、NGOは警戒厳重な会場の外でデモをし、別の会場で独自の集まりを持つというパターンが一般的だった。しかしWSISは政府代表団で構成する政府ビューローと市民社会グループを代表する市民社会ビューローとが、プロセスについて協議を積み重ねるという国連サミットとしては異例な手続きを取っている。

ちょうど並行して国連総会で審議が進んでいる障害者権利条約においても障害者本人の参加が当たり前になってきているように、WSISにおいては単に消費者ではないパートナーとしてのマルチ・ステークホルダーによる共同作業が理想とされ、障害者本人の参加も徐々にではあるが増えつつある。

2005年11月にチュニスで開催されるサミットにおいては、ジュネーブに続く第二回の「情報社会における障害者の直面する問題に関するグローバル・フォーラム」の開催が予定されており、チュニスで採択される予定の10年間の行動計画について、実施、観察、評価、計画の見直し等のすべての局面で障害者本人とその協力者が積極的なパートナーとして参加・参画するための提言を採択する予定である。

参照文献

  • 1) WSIS (国連世界情報社会サミット) ウェブサイト:http://www.itu.int/
  • 2) 野村美佐子:世界情報社会サミットにおけるアドボカシー・プロセスとその成果:ノーマライゼーション2004年2月号、日本障害者リハビリテーション協会出版 40-43
    引用文献1) DINF (障害保健福祉研究情報システム) ウェブサイト:WSIS(国連世界情報社会サミット) 、http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prompt/wsisindex.html