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北海道における高齢者の雇用実態調査

NO.4

3 結果

1 企業調査の結果

 回答企業の55%が石狩支庁管内にあり、業種別では57%がサービス業であった。
 また他の支庁および業種のサンプル数は僅少のため統計的整理集計上各質問に対する全回答数の比率(%)を求めて分析することにした。

1) 定年制の現状について(表-5,1~3

 対象企業の90%が一律定年制を実施していて、定年は60歳が75%となっている事業所が多い。また、サービス業と製造業では65~70歳未満を定年としているところが16%を占めているが、これは同種の全国調査(注1)では49%と報告されている。この結果から比較すると道内企業の高齢者対策の貧困さを窺い知ることができよう。
 なお、職種別定年制を実施している企業は、10%と少ないが、これは経験と熟練を要求される業種では、65歳定年が56%、70歳以上が22%と、かなりの定年延長を実施している事を窺わせる。しかし、その他の職種では60歳定年が61%、65歳定年あるいはそれ以上というのは6%で、一律定年制を実施している企業よりも全般的により早く定年到達となる企業が多いことが分かった。

 2) 継続雇用の状況について(表-5,4~11

 全国的には77%の企業が60歳以上の定年制に移行しつつある現在、政府の施策の重点も60歳台前半層全員の継続雇用を推奨している。しかし、道内企業の場合は11%にすぎない。
 本調査対象企業は労働集約型サービス産業が多かったため、常用雇用者数に占める継続雇用者の割合は25%で、高齢者のマンパワー化の進んでいる企業群と言う事ができる。
 しかし60~64歳台止まりで、65歳以上は6%にすぎない(表-5)。全国調査でも65歳以上への期待は5%程度にとどまっている(注2)。
 つぎに、継続雇用の年齢上限を就業規則などで定めているのは34%にすぎず、定めない企業が65%に達している(同,)。
 そのうち今後も定める予定のない企業が87%を占め、(同,)、企業側の高齢者雇用についてのフォーマルな保証は充分とは言えず、働く意志がある全員を再雇用している企業は41%にとどまり、再雇用の選択権を企業が握っている現状である(同,10)。
 また、永年勤続の実績があっても条件に合致しないと再雇用しないという対応のしかたで、表向きとは異なり、積極的な活用を配慮している企業もあり、継続雇用の上限年齢を65歳としている企業が72%、それ以上の年齢という企業が15%あった(同,)。
 両者で87%に達し、従業員の最高齢者が66歳~70歳に達する企業が24%あり、71~75歳の企業が11%と職場環境整備が進むにつれて70歳代までは働くことの可能性を示唆している(表-5)。
 全国調査によれば上限を65~70歳にきめている企業は53%に達し、高齢者雇用を「今後増やしたい」が、ビルメンテナンス49%、製遣業40%になっていて、人手不足に対応しての高齢者雇用が切実と窺われた。
したがって企業がマンパワーとして就労可能と考えているのは60~65歳までが63%、66~70歳まで29%となっていて、その後は急減し(同,)、継続雇用制度導入奨励金等の活用によって当面60歳台後半までのマンパワーの活用推進を国は支援すべきであろう。
 企業が継続雇用制度をとりいれた理由として圧倒的多数は人手不足が54%、つぎは時代の趨勢22%で(同,11)、いわゆる複合不況が進み、大企業の雇用調整が報道され、有効求人倍率が1倍を切る最近においても高齢者をマンパワーとして期待してきた姿は今回の調整結果で窺い知られた。

 3) 継続雇用者の待遇について(表5,12~23

 回答企業の99%は中小企業のため、給与水準は横這いで減額しないが52%、一定率または一定額減額が25%と前者は後者の2倍を超えている。減額幅は30%以内が多く、31%。ついで20%以内、40%以内が多い(同,12)。
 つぎに、継続雇用後の定期昇給は、「なし」と「あり」が相半ばし、夫々48%である(同,13)。昇給幅も定年前と変わらないが53%と首位を占めている(同,14)。
 職能給の観点からは「なし」が普通で、人材確保のための配慮と判断される。また継続雇用者の多くが年金受給資格をもち、在職老齢年金を受けているので、給与額による年金カットが増え、このことが、今後労働市場で60歳代前半の「働かない自由」の固執の強化要因となっている。年金制度は国の政策課題ではあるが、再雇用する企業にとっても無関心ではいられない問題である。今回の調査では69%の企業が、考慮せずとなっていた(表515)。しかし企業の対応策には限界があり、考慮して賞与などで調整するが22%であった。労働時間、賞与、退職金での調整、年金対象外のパートタイマーへ切り替えもあることが窺われた。
 退職金についての問いでは継続雇用者については退職金制度なしが47%、ありが33%、設けていないが支給しているが15%(同,17)で、継続雇用者の処遇改善になんらかの対応を示し始めている。
 定例給与のカット幅については、質問12で確かめたが、年収については16で質問し、結果は60~64歳で、定年時と同額以上支給が36%、90%以上支給10%、80%以上支給8%で、ここまでで過半数を占めていた。
 65歳以上の雇用者の処遇については未確定の企業が多く、無回答が45%を占めていた。これは65歳以上をマンパワーと考えていない企業が7割をこえるということで(表5)、今後漸増する60代後半層の活用のためには給与体系の整備が必須の課題である。
 給与の水準についても80%以上の企業で10~40%の給与カットが実施され、マンパワーとしての期待度が低下している(表512)。また、継続雇用者の職務についての質問(表518~20)は、仕事を変えないが72%、人による20%と、高齢者の活用は慣れた仕事をしてもらうということが多数意見となっていた。
 ポストについては、「はずす」が僅か9%で、変えないが48%、人により異なる38%と、定年前とは、ほとんど変わらないことが特徴的である(同,19)。
 肩書社会日本の現状に対する顧慮と、管理職後継者の不足などがその理由となっているのであろう。
 勤務時間については圧倒的にフルタイムが多く85%を占める。本年5月15日の日経新聞に60~64歳の労働力率{(就業者数+求職者数)÷その人口グループの数=その人口層の働く意欲をもつ人の割合}が1970年頃から以降10%あまり低下し、今は70%台になっていることを図-1のグラフのように示しているが、短時間労働ほど好まれるこの年齢層の就労傾向を考慮するなら、勤務形態を多様なフレッキシビリテイのあるものにしておくことが望ましいことを示唆している。

_男子高齢者(80~84歳)の労働力率  (資料) 庁統計局「労働力  年報」 60歳~64歳年代の労働力率の折れ線グラフ

図-1 60歳~64歳年代の労働力率

     :清家 篤「高齢者雇用を考える」

      日経新聞 1992年5月

 継続雇用者のネックとして第一は身体機能の低下50%、第二は健康、体力面の問題、37%で、企業側の健康管理体制、本人の健康保持努力が継続雇用のスムーズな運用には不可欠であることは周知のとおりである。これについて問題はないが28%となっていて、高齢者の活用の道が拓かれつつあるものと注目してよいと思われる(表521)。
 これらに関する全国調査は「健康・体力」が35%、「身体機能低下」が23%で、本道との順位は逆であるが、「特に問題はない」が首位を占め54%にのぼっているので、北海道の企業の職場環境も整備次第で雇用安定化は可能である。
 継続雇用のメリットとして永年の経験技術が活用できる57%、蓄積技術の活用44%、それらの基礎を持っている21%で、在職中に習得したキャリアには若年層の持っていないものが蓄積されていることが分かる、また職場の自己啓発支援とともに定年到達後に活用できる知識、技術を中年期以降は習得に努力を傾けるべきであろう(同,22)。
 全国調査によれば、仕事振り(76%)信頼感(68%)忍耐力(60%)が高年者の評価をうけるところである。
 高齢者をマンパワーとして活用するうえで経営に及ぼす影響として企業が改善を要すると感じていることは、第一位が健康管理61%。ついで賃金、退職金制度42%(表523)となっていた。
 高齢者が働きながらリフレッシュできる健康管理のシステムづくり、勤務形態と職場の改善など、長寿社会実現のための企業福祉充実の課題は山積みしている。

2.定年到達者調査の結果

 高齢者がそれぞれの能力、適性と、定年到達時までに重ねたキャリアに応じて、その後の継続雇用、延長、あるいは再雇用等々の機会を保障することは人間らしい生き方を保障する社会を築くための基本的条件である。
 そのためには、職場における仕事のすすめ方 Work Style が勤労者としての高齢者にふさわしく改編、再設計される必要がある。また同時に高齢者自身の定年到達後の生活様式 life style が職場の要請に応じ得るものでなけれぱならないことも当然である。
 たとえば健康な心身状態を保持し、社会的役割を果たし得る活力を存続していることが望ましい。こうした視点に立って個人用アンケートを作成し、その回答を分析したが、はじめにフェースシートを中心として調査結果の全般を要約し、ついでライフスタイルの質問項目を因子分析した。

 1)全体の要約について

 回答者の年齢構成表-4の通り、59歳以下39名中54歳40%、55歳30%と両者の合計で約70%を占めていた。また、このなかに60歳定年であるにもかかわらずそれ以前に離職して第二の職場へ就職した人がかなり含まれている。これらの人々の多くは、定年到達直前のポストが技術、事務両分野の部・課長級あるいは工場長、支店長などの管理的職位にあった人々で、これらのポストを占めていたことから会社の斡旋および勧告にしたがって次のポストを保障されて退職したということである。

表-4 調査対象者(完全回答者)

年齢 男性 女性
59以下
39
39
60~64 330 330
65~69 100 100
70以上
51~71
20
20
合計 472
20
492

*返信は585通で、不完全回答を除外した。

 60~64歳までの回答者のなかにもこれと類同の離、転職者がいる。しかしこの年齢層では過半数を超える人々が60歳定年到達時に退職して第二の就職をしていることは、勤続年数と照合して比較した結果から推定できる。
 最近、道内企業を調査した別の報告(平成4年11月2日北海道新聞社説参照)によれば、本道の定年制導入率はほぼ70%に達したというが、本調査結果から考察してもこれは妥当な数値であろう。なお、65歳以上を含む全体を通覧して、定年直前の仕事は、年齢層が高くなるにつれ、第三、第四と別の仕事、事業所に再就職している人たちが増えてくるとともに、その勤続期間がしだいに短くなる傾向が窺い知られる。
 さらに女性の23名については続計的サンプル数としては少なすぎるので因子分析の対象から除外した。また同じ理由で70歳以上の3名も除外し、60~69歳までの430名を対象サンプルとして因子分析をおこなった。

 2)定年到達者のライフスタイルに関する質問事項の因子分析

 この研究の二つめの目的として、高齢者がよりよく生きるため、QOL(Quality of Life)を向上するにはいかなるライフスタイルを希求し、職業生活と社会的役割から何時、どのように引退への節目を迎えようとしているのかを探るための予備的調査資料を求めることに置かれていた。
 したがって表-2の3に掲げた通り「現在勤務している方は、定年到達後の職務について次の問いにお答え下さい」として、20の質間事項を選定し、5点法評価方式のライフスタイル尺度(主として職業生活のスタイル;working life style)で得点化して各尺度ごとの因子得点を主成分分析し、分折後のバリマックス回転により因子抽出した。
 因子の抽出基準は固有値1.0以上とし6個の因子を導かれたけれども、寄与率の低い因子3個を除外して3個の因子を取り上げた。

1)60~64歳の年代層の分析結果について

 表-6に示した通り、第1因子に高い負荷量の尺度項目はアンケート用紙の質問事項8)「今の仕事で働きがいがある」1)「今の仕事はやりがいがある」3)「生きがいを今の仕事に見出したい」6)「別に適切な仕事があっても転職したいと思わない」と並び、現在の職務に充分な満足感を持って仕事をしている様子が窺い知られ、これを職務満足感因子;Job satisfaction factorと呼ぶことにする。
 第2因子は12)「社会福祉と結びつく仕事をしたいと思う」11)「転職しても社会活動をしたい」20)「休日などは社会奉仕に出かける」19)「休日などは社会奉仕をすべきと思う」9)「ボランテイアで職場を休むことがある」10)「今の仕事で社会活動をしていることになる」となっている。
 これを社会福祉志向因子:Social welfare-oriented factorと呼び、このなかには社会活動への関心と社会的役割志向のふたつの意図が含まれていることを示唆している。
 第3因子16)「家族との旅行などより仕事が大切と思う」14)「仕事関係の本や雑誌しか読まない」13)「家族が病気でも、人を頼み出勤する」17)「仕事以外の本や雑誌は役に立たないと思う」とわが国特有のワーカー・ホリック的な考え方があらわれ、これを:Work-centered factorと呼ぶことにする。
 ところでこの年齢層の定年到達者たちは、第1因子と第3因子に示されたとおり現職時代の仕事遂行意欲を保持、継続していることが明瞭に示唆されていると言うことができよう。なお、これら三つの因子によってこの年代の定年到達者のライフスタイルを推定するときの66.5%の寄与率を占めているので、この比率を占めているのは現在なおこの年齢層の高齢者で健康に勤務している人々が引退からは心理的にもかなり遠い距離にあると判断される。

表-6 ライフスタイルの質問についての回答の因子分析(60~64歳)

質問事項 因子 SMC
 8)今の仕事で働きがいがあると- .879 .125 .117 .734
 1)今の仕事は、やりがいが-- .845 .093 .075 .697
 7)生きがいを今の仕事に見出したい .746 .196 .146 .463
 6)別に適切な仕事があれば転職する -.656 .225 -.036 .347
12)社会福祉と結びつく仕事をしたい -.08 .752 -.006 .455
11)転職しても社会活動をしたいと- -.072 .75 .054 .516
20)休日などは社会奉仕に出かける事が .165 .733 .14 .47
19)休日などは社会奉仕をすべきと .2 .689 .177 .433
 9)ボランティアで職場を休む- .019 .669 .008 .34
10)今の仕事で社会活動をしている .284 .489 .058 .367
16)家族との旅行などより仕事が大切と .205 .033 .694 .347
14)仕事関係の本や雑誌しか読まない- .111 .097 .642 .21
13)家族が病気でも、人を頼み出勤する .042 .148 .534 .157
17)仕事以外の本、雑誌は役に立たないと -.172 -.04 .469 .109
 2)小遣いや給料を仕事の事で使う .019 .119 .309 .301
 3)残業はすべきである--- .151 .052 .048 .204
 4)有給休暇は----- .175 -.019 .391 .077
 5)家族が病気なら欠勤する事が- .015 .089 -.108 .085
15)日曜や休日はゴロ寝、テレビで過ごす事が -.117 -.226 -.051 .133
18)家でも仕事の段取りを考えるのは当然と .304 .142 .325 .262
寄与率(%) 24.5 26.1 15.9 66.5

* 共通性の推定値

2)65~69歳の年代層の分析結果について

 表-7に示す通りで、ここでは第1因子としては、さきの年齢層の第2因子に負荷量の高かった質問事項欄の12)、11)、19)、20)の4尺度項目が抽出された。ただし、「今の仕事で社会活動をしていることになる」という10)の尺度項目の負荷量は、小さいので除外し、また15)の「日曜や休日はゴロ寝、テレビですごすことが多い」の項目が付加された。
 もちろんこの項目は負の値であるから「…過ごすことは少ない」ということになるのは説明する迄もない。
 つぎに第2因子として、さきの第1因子に相当する8)、1)、7)、6)に負荷量が高く、これら二つの因子は加齢によって逆転しているが、その差は有意に異ると言い得る程度のものではないけれども、しだいに高齢になるにつれて社会福祉の分野に志向が強まる傾向を示唆している証拠であろう。
 第3因子は両年代層群で同じであるが、ここで注目すべきこととして、「別に適切な仕事があれば転職する」の6)に負荷量が高いのは60~64歳代層よりも現在の仕事中心志向性が弱くなっている傾向を暗示していると言えよう。したがってこの年齢層の中央値67歳頃になってくると、しだいに引退の問題が現実化してくるということが推定される。

表-7 ライフスタイルの質問についての回答の因子分析(65~69歳)

質問事項 因子 SMC
12)社会福祉と結びつく仕事をしたいと .844 -.014 .092 .555
11)転職しても社会活動をしたいと- .773 -.21 .138 .641
19)休日などは社会奉仕をすべきと .769 .028 .228 .581
20)休日などは社会奉仕に出かける事が -.603 .054 -.128 .476
15)日曜や休日はゴロ寝、テレビで過ごす事が -.468 -.036 .303 .227
 8)今の仕事で働きがいがあると- .016 .942 -.04 .858
 1)今の仕事は、やりがいが-- .055 .854 .057 .738
 7)生きがいを今の仕事に見出したい -.086 .818 .081 .7
 6)別に適切な仕事があれば転職する .075 -.546 .266 .412
 4)有給休暇は----- .008 -.016 .742 .287
18)家でも仕事の段取りを考えるのは当然と .309 .084 .652 .452
14)仕事関係の本や雑誌しか読まない- .26 -.166 .495 .344
 2)小遣いや給科を仕事の事で使う -.048 .229 .166 .368
 3)残業はすべきである--- .036 .231 .417 .285
 5)家族が病気なら欠勤する事が- .002 .028 .062 .342
 9)ボランティアで職場を休む- .327 -.073 -.227 .419
10)今の仕事で社会活動をしている .408 .315 .228 .365
13)家族が病気でも、人を頼み出勤する .038 -.066 .008 .234
16)家族との旅行などより仕事が大切と .214 .088 .096 .483
17)仕事以外の本、雑誌は役に立たないと -.006 .04 -.002 .131
寄与率(%) 23.7 23.1 14.4 61.2

(注1) 財団法人高年齢者雇用開発協会1991年3月作成「企業の高齢化諸施策


の実態」

(注2) 日本労働研究機構1992年3月作成「高齢者多数雇用企業における、中高年齢者の職場対応


主題・副題:
北海道における高齢者の雇用実態調査 138~147頁