音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

発表会:「生活機能」向上をめざして-ICFの保健・医療・介護・福祉・行政での活用-

2.ICFの基本と活用 【第一部(2)】

丹羽 それでは、私のほうもスライドを使いながら、お話をさせていただきます。私は先ほど上田先生にご紹介いただいたように、精神科の医療をやっています。精神科の医療において、障害をどう把握するかは、とても重要な問題になってきた歴史があります。

極端な話、精神の障害がそもそも本当にあるのか、というところから問題は出発しているくらい、議論は尽くされてきています。現時点ではやはり精神の障害とは現実にその人が病んでいる状態であり、それに対して適切に障害を克服することで共に努力することが必要になっている、そういう性質の問題だと認識されていると思います。

しかし、議論の中では、それはまさに、社会がその方に貼ったレッテルであるという見方、あるいは、そうではなくて、その当事者の方が自分で選択した生き方の問題である、そういった議論が現実にありました。

今日では、障害を正しく見ることによって当事者と、治療者というか介護者が、共に一緒になって努力することができる、そういう性質の問題なのだと、理解が統一されてきていると思っています。

そういう議論が進んできた中で、このICIDHが大変重要な役割を果たしたという経緯がありました。そこでは、実際に精神の疾患が脳の機能の障害であるという、心身機能の障害から出発して、そして生活・活動のレベルでの問題が生じていて、そのために参加がうまくいかなくなる、そういうハンディキャップを負うのだというとらえ方で当事者の方の困難を理解すると、適切に働きかけることができる、という理解が進んできた歴史がありました。

今回、WHOのモデルがこのICFに新しくなって、私たち精神の疾患に関しての治療に携わっている者としては、今までの、ICIDHを使って当事者の方の障害を理解していたのに比較しますと、新しい見方が付け加えられてきたと実感しています。

それはどういうことかといいますと、率直に言うと、ICIDHの時とは、障害の理解のプリンシプルとしてこれを使って理解していたという側面があったと思います。ですから、実際にその当事者の方の障害をどう評価するかとか、その障害に対してどう働きかけるかについて、具体的にICIDHが使われていたかというと、残念ながらそうではなかったというふうに、率直に言って感じています。

ところが、このICFになりまして、実際に障害の評価を三つのレベルで行う、特に心身機能、活動、この二つに関して行うことが実際に当事者の方の障害を評価する、一つの日常の臨床の中で使うスケールとして、ICFが具体的に使われるように変わってきたことが、かなり大きな変化だろうと思っています。

そしてもう一つ、先ほどから上田先生、それから大川先生が強調されておられるのは、全体としてのプラスの中でマイナスの部分を見る、そういう見方。結局、当事者の方の社会参加を促進していくために何がよくなればよくなるのか、あるいは、今この人が持っている強みとは何なのか、という見方で評価していくように、少しずつ精神の領域においても、このICFを使って障害を理解するというときに、今までのICIDHの時とは変化が出てきていると感じています。

私が上田先生、大川先生のお仕事をお手伝いさせていただいてきた中では、主に、いわゆる統合失調症ですとか、そういう精神疾患の方の障害の理解に一緒に携わらせていただいてきましたが、今回は少し話を高齢者の方のお話のほうに広げて考えてみたいとのことで、そのお話をさせていただいて、そのうえで先ほど上田先生のほうから宿題を頂戴しましたものが二、三ありますので、それについてあらためてお話をさせていただくというつもりです。

前置きが長くなりまして申し訳ありませんでしたが、高齢者の方の生活機能の低下予防についての、心的側面からの検討、先ほど大川先生も言っておられましたが、いわゆる生活不活発病との関わり、特に高齢者の方の場合の精神機能の低下、生活機能の低下というときに一番問題になってくるのはやはり認知症ですので、その認知症との関わりについてお話をしたいと思います。

繰り返しになりますので避けますけれども、生活不活発病は生活が不活発なことによって生じる全身のあらゆる機能の低下で、そこの中には精神や神経の働きに起こるものとして、ここの1~5に書いてあるようなことが挙げられております。

今、前置き的に申しましたけれども、その生活不活発病と認知症との関係を考えたいわけなのですが、この両者の間には、皆さんがたも直感的に考えられるかと思いますが、やはり相互の関係がある。認知症になれば、やはり生活不活発病の形になってくるし、生活不活発病が認知症を増悪させたりするというお互いの間の関係があると思われますので、これらの両者の関係について今調査をしているところで、その一部を今日、お話したいと思っています。けれども、この両者の関係について、現時点ではまだ充分に明らかになっているというわけではありません。

私たちの仮説、疑問としては、今の前のスキーマが成立することであるとすると、言ってみれば認知症の発症を予防するというようなことで生活不活発病を予防する、あるいはその逆も可能であるという、そういったかなり実際的なお話になるのではないか、果たしてそのような形で認知症の発症を予防することができるのだろうか、あるいは特に、認知症と密接に関わっている生活不活発病の状態が何か特異的にあるのかもしれない。それらを探索することができれば、発症予防につなげられるのではないかという考えです。

認知症とはいくつかのファクターが絡み合って出てくるもので、根本的には脳の神経の細胞の問題があり、その結果脳の機能が低下していくことになるのですが、そこにはたとえば、精神的な問題で鬱が関わってくる、ないしは最初の症状として鬱として認知症が現れてくるというような話もなされております。

この矢印でお示ししたところに介入することによって、生活不活発病を予防することもできるのではないか、というのです。認知症そのものは、ここに示しましたように、いくつもの原因がありますけれども、一番有名でどなたもご存じかと思いますけれども、いわゆる変性疾患というふうに言われているものが、現時点では一番多い。それから、脳血管障害。その他、意外と隠れた内分泌の問題などもあることが知られております。

発症予防になるのですが、認知症のタイプといいますか、先ほどのスライドでお示ししたようにいくつかの原因別の分類が可能なのですが、そのタイプによっても異なってくる。進行する、変性疾患と書いてあった代表格としてはアルツハイマー型の認知症なのですが、これについてはなかなか予防的介入とは困難だと考えられていますけれども、一方、血管性の認知症の場合には発症・進行を予防する、あるいは遅らせるという介入が可能ではないかと考えられております。

ここでは、生活不活発病と認知症との関係を明らかにして、認知症に関連した生活不活発病予防への介入方法を明らかにすることで、私たち福島医大病院では、神経精神科の中に「物忘れ外来」を行っておりまして、かなり多数の方が受診してきてくださっているのですが、そこにこられた認知症の患者さん20名、平均76.2歳の方、および、後でもう少し詳しくご説明しますけれども、軽度認知障害、MCIと呼ばれる方がおられますが、その方20名を対象としまして、同伴の介護者、あるいは診療録から得られた情報をICFのモデルに当てはめて、特徴のある傾向についてまとめた。そして、上田先生、大川先生らの不活発病の有無を確認しました。

ICFのほうは、もう既に今日の冊子の中にも入っておりますが、「健康状態」と、それから「心身機能」、「活動」と「参加」、そして「環境因子」と「個人因子」、それと、上田先生がおっしゃっていました「主観的な体験」。たとえば、「主観的な体験」としては心の悩み、現状への不満、「個人因子」としてはライフスタイルや興味、「環境因子」としては物的・人的な環境といったようなことが評価できます。

今のようにして、一方で認知症の方の評価を行い、他方で生活不活発病の評価を行った結果、身体的に問題のない認知症の方の場合でも、活動参加が制限されるという場合が多かった。その時には、いわゆる「個人因子」、「環境因子」の関与が大きかったことが言えました。今「活動参加」の問題がある場合には、この「環境因子」および「個人因子」の関わりが多かったことです。

たとえば、環境因子の中のいわゆる「活動の制限」の因子としましては、独居生活、それから地域のサポート体制の問題、それから介護者、あるいは近親者との死別の問題、そういったことが挙げられましたし、「個人因子」の中での制限因子としては、プライドの高さ、これはたとえばサービスを受け入れない、不安の強さ、それから内向性、あるいは職業の、たとえば退職の年齢制限のあるような職業の場合とそうではない、たとえば農業のような場合で言えば、職業が一つそういう、退職と絡まって制限因子と絡まっているというようなことがありました。

逆に、「促進因子」で、今度はその独居生活が、一方で「自分でやらなければ」という気持ちを強めることがありましたし、「個人因子」の中でやはり職業は、今申しましたように、農業などとはむしろプラスの要因になっていることもありました。

結果の2番として、認知症と診断されている方は、やはり生活不活発病あるいはその状態を来していると言うことができました。生活不活発病と認知症との関係ですと、たとえば認知症の症状としては上のピンクの部分に書いてありますが、記憶の障害ですとか、いろいろな神経・心理学的な障害、それから、わりと高次の精神機能の障害があるのですが、その方たちはたとえばチェックリストで「遠くまで一人で歩けない」、「あまり歩かない」、「身の回りの行為ができない」、「家事が全部できない」、「あまり外出しない」、「日中動いていることが少ない」、そういったことに当てはまることが言えました。

結果の3番ですが、アルツハイマー型の認知症の方の場合には、対人交流が少なかったり、活動性の乏しい人が多く認められました。

そして、脳血管性の認知症の方では、身体疾患の合併が多く認められるという特徴がありました。これは、ある意味では原因的に分類されていることですので、当然の結果といえばそうかもしれません。

予防的な介入で考えた場合に言われておりますのは、アルツハイマー病の場合では、たとえば運動習慣がないとか、人づきあいがないとか、そういったことがアルツハイマー型認知症の発症の危険因子として知られていますので、先ほどのこういう、対人交流が少なかったりすることがここでも認められたのですが、やはりそういう危険因子の一つになっていると言えるかと思います。

それから、脳血管性の認知症の危険因子としてこれまでたとえば高血圧や糖尿病や心臓病ということが言われておりますが、これは先ほどの身体疾患の合併というのが多く認められたことの再確認だと思います。

実は、最初の、どういう方を対象として今回調査をしたかという中で、軽度認知障害という言葉をお話しました。この軽度認知障害についてこれからご説明をしますけれども、軽度認知障害の方とは、認知症とは言えない。認知症とは言えないけれども、いわゆる正常とも言えないという方のことになります。軽度認知障害の患者さんで既に生活不活発病を来しているという人が多く認められた。その人たちは、特に外出に関わる項目での不活発状態が多く認められたことがありました。

この軽度認知障害が注目されている理由とは、認知症にいたる前に発見して、予防的な介入というのができないかという観点で、早期に認知症を発見するための一つの前段階として、軽度認知障害でとらえることができないことから、この軽度認知障害というのが注目されてきておりますので、こういう不活発状態を来しているという人が多かったことが、実際に予防的な介入をやはり行うことが必要であることに関連がある、と言えるのかもしれません。

いわゆる認知症の経過を少し復習してみますと、ここにあるように縦軸が知的レベルで横軸が時間経過になりますと、右に行くほど年齢が進んでいきます。上のほうにある白い線が年齢とともに少しずつ機能が低下するという意味での正常加齢の経過を示しています。それに対して、橙色で示してありますのは、たとえば脳卒中を起こされた方が知的なレベルが低下していくときに、いわゆる階段状に低下していくと言われている様子を示しています。階段状というふうになっている、縦に直線的に低下しているところとは、何かそこで、脳梗塞が起きたとか、そういうことを示していることになります。

一方、緑の線はいわゆるアルツハイマー型の認知症のような、変性疾患と言われている場合の低下の仕方で、これは階段状ではなくて、ゆっくりと低下していくことになっております。

今、早期発見で注目されているのが軽度認知障害で、このMCIと略されているのですが、MCIのMは軽度の「マイルド」のMでございまして、Cは認知ということで「コグニション」、「コグニティブ」という意味でCです。それからIは「障害」でインペアメント。Mild Cognitive Impairmentを略してMCIと呼んでいますが、その方々は薄い青の線で示してありまして、認知症レベルに低下しているわけではないけれども、徐々に低下しているという人たちがおられるということです。そういう方々をとりあえずMCI、軽度の認知障害と呼んでいるのですが、ここに二人の代表例を示しましたが、上の例にあるのがMCIの68歳の女性でして、MCIであることを評価するのに私たちは、少し負荷のかかる短期記憶テストを行っておりまして、たとえば長谷川式のときなどに、猫とか電車とかいう単語があって、三つ覚えるというのがありますけれども、それに「赤い猫」とか「黄色い電車」とか、そういったような少し負荷をかけたような短期記憶の検査をさせていただいて、その成績によって一応分けているのですが、上の列の68歳の女性の方は、赤で示してあるのが長谷川式の検査の結果でして、長谷川式は簡単な、いわゆる認知症の発見に使われている知的なテストですが、それはずうっとだいたい横這い状態。ところが、この方々も、緑で「エイダス・ジェイコブ」と書いてありますが、これは少し項目数が多くてやや時間を使って評価しなければなりませんが、エイダスという名前の認知機能の検査があります。認知症の評価のときに非常にスタンダードに使われているスケールなのですが、上に行くほど悪いと示しています。この方は、エイダス・ジェイコブがこのように最初は横這い状態で推移していたのですが、始めてから2年後くらいになってくると上のほうに上がって、ちょっと成績が悪くなってくるという変化をきたしています。

この方の長谷川式の得点は、先ほどの赤で見ていただくとわかるように25点くらいのところになっていまして、30点満点で20点以下というのがいちおうボーダーラインになっていますが、そこで行くと、認知症というふうには言えないのです。ところが、少し複雑な検査をやりますとその問題が出てくることがわかる。こういったような方が、いわゆるMCIと私たちが言っている人たちでして、たとえば長谷川式の検査はよくても、少し負荷のかかる検査をすると問題があるというような方、その方々を時間経過で追跡していきますと、中にこういう形で問題が出てくる方がおられる。

下の方は、長谷川式が28点くらいで推移していますが、エイダス・ジェイコブというのも、緑の線ですがずっと横這い状態で、この方は一応変化がないので、MCIの方の場合には追跡して行きますとそういう認知症の評価スケールでは点数が悪くなってくる場合があることが指摘されております。

もともとMCIとはピーターソンというような人たちが言い出したことで、このときには記憶障害の訴えが本人または家族からある、ただ、日常生活は正常である。しかし、いわゆる知能テスト、難しい形の知能テストなどを行いますと、平均から1.5標準偏差以上低下している。しかし、MMSEとは長谷川式と同じように認知症の評価で使われる簡易なスケールなのですが、そういう簡易なスケールの場合では成績は正常である。だから一般的に認知症とは言えない方が、MCIと言われてきました。

このMCIは、実はいろいろな人が研究して、たとえばこの1番に書いてあるピーターソンたちは、MCIと診断された人を4年間追跡調査しますと、1年の間に10%くらいが、そして最終的には約半数がアルツハイマー型の認知症に進行していったことを言っている人もいます。

しかし、たとえば3番の場合のように、必ずしも早期のアルツハイマー型の認知症ではなくて、MCIのまま比較的安定して推移している人たちもいるという指摘をしている人たちもいまして、MCIというのが必ずしも、たとえばアルツハイマー型の認知症の早期の状態にあると必ずしも言えない。

そういったことで、混在した意見になっていましたが、5番にありますように、最近ではMCIといわれる人がアルツハイマー型の認知症に進行していくのはだいたい半分くらいだというのが現時点でのだいたいの一致と言えるところです。

結局、現時点では、MCIの定義とは、正常ではない、かつ認知症でもないというようなことになっておりまして、診断基準としては、以前に比べて認知機能の低下があることが本人または身近な人によって確認される、しかし基本的なADLは保たれているというようなことになっています。

そのようなMCIの方20例について不活発病のチェックリストを用いて状態をチェックしてみましたが、そうするとたとえば屋外歩行に関しては、近くなら一人で歩いているという人が半数ちょっとという形で、問題が少し出ている。それから、自宅内を歩くことについては85%の人がOK。それから、身の回りの行為になると、やはり自宅内ではいいという人が55%。一部たすけてもらっているという人は5%で、比較的これはいい。それから、家事についても一部している、外出は週1回以上、ちょっと制限されているという人が65%。日中どのくらい身体を動かしているかで言うと、座っていることが多いという人が30%で、先に結果をまとめる形で示しましたけれども、屋外の歩行の問題、あるいは外出の問題、こういったところでMCIの方とはやや問題が出ています。

今回の認知症の方、あるいはその認知症予防の観点から早期発見という意味で注目されているMCIの方を対象として不活発病を見ていった場合、活動参加の制限因子となっている環境因子、個人因子がかなり関係しているようだという話だったのですが、それを調節することによって不活発病を予防できる可能性があるのではないか。それから、アルツハイマー型の認知症の前段階で多いと言われているのですが、鬱の状態、あるいは軽度の認知障害の状態への介入が、不活発病の状態を予防することにもつながる可能性があるのではないか。それから、脳血管性の認知症のリスクとなる身体疾患を予防することによって、不活発病を予防することも可能になるのではないかと言えると思います。

まとめますが、認知症との関係で言いますと、ICFを活用して、その活動、参加の問題に関わってくる要因として、環境あるいは個人要因があることが気づかれたというお話をしましたし、それから、50%くらいの人がアルツハイマー型の認知症になるのではないかと言われているMCIの方についても、その不活発病との関係で、特に屋外歩行とか外出といったところで問題が早期から現れてくる可能性に気づかれたことをお話しました。

いずれにせよ認知症の理解で、ICFのモデルを活用していくと、その人のどこを強化してあげることによってその生活を改善することができるかというヒントを得られやすいことではないかと思いますので、ICFは働きかけを個別化していくときに使うことができるツールであると感じています。

それは、いわゆる統合失調症の方のような精神疾患の場合にも、最初にもお話しましたけれども、ICFが使いやすいツールになっている。その点が、ICIDHの時との大きな違いだと感じています。

先ほど、上田先生のほうから宿題を二ついただきました。

一つは、障害のモデルの中における主観的な障害の位置づけの精神の疾患の方の場合ですが、当事者の方がやはり、自分がそういう病気になってしまったことについて、やはり他の人からどうみられるかという意味での、自信をなくすという度合いは、他の身体疾患の場合に比べるとずっと強いと言えると思います。精神の疾患の場合、一歩前に踏み出すことをなさらないという方が非常に多いのです。社会的な引きこもりになりやすい。その点で特に精神疾患の場合に働きかけに三つのレベル、アプローチが必要だと言われています。一つはリハビリテーション、一つはいわゆるノーマライゼーションと言われているもの、もう一つがエンパワーメントと言われているものです。このリハビリテーションとノーマライゼーションとエンパワーメント、このアプローチが当事者の方の社会参加を促進していく上で重要だと、精神疾患について現在強調されていると思います。

リハビリテーションとは心身の機能、活動の制限といったことに働きかけることで行われていますが、例えば作業療法とか社会生活の技能訓練とか、いろいろな方法があります。場としては作業所があったりデイケアがあったりします。

一方、ノーマライゼーションとは当事者の方が社会参加しやすいような社会的な条件を整える、条件が整えば社会参加が促進されるという側面を出していると思います。

最後のエンパワーメントとは、まさに当事者の方の主観的な障害を克服するための働きかけだと言えると思います。パワーを与えることになるのですが、それは必ずしも治療者あるいは介護者が行うものではありません。そうではなくて当事者にとって一番受け入れやすいエンパワーメントとは、前に同じような病気で悩んでいた方でいま社会参加をしている人たちが、その経験を話して、勇気を与える。そういった形のことが一番効果的なエンパワーメントになっていると思います。

よくピアカウンセリング、仲間のカウンセリングという言葉がありまして、当事者の皆さん方の中ではピアカウンセリングを略してピアカンと言っていますけれども。ピアカウンセリングとはそういう意味でエンパワーメントの代表的な働きかけの一つだと思います。

もう一つ、いわゆる相対的な三つのファクターの中で、相対的な独立性と相互依存性というのがある。その相対的な独立性を活用した障害への働きかけが、精神の場合どういうことになっているかというお話しでした。

精神の疾患といっても種類はたくさんありますが、先ほども申していますように、障害の強さで統合失調症という病気は代表格だと思いますのでそれを例にとりながらお話しします。

統合失調症とは現在のところ、脳の働きが一時的に失調した状態だと考えられています。問題は脳の働きにあると考えられています。しかしそれが個人の活動のレベルでいきますと、精神の機能の要素的な機能もいろいろ障害されてきて、その結果一般的に言う精神機能が障害されるという状態になる。そのために例えば意欲がわかないとか、判断がうまくいかないというような問題が生じてくるというふうになっています。そうなりますと例えば労働の場あるいは学習の場において、仲間に入って適切に行動することができなくなってくるという、いわゆる活動の制限が生まれてきます。

それに対して精神疾患の治療に携わっている人たちは、例えば生活技能訓練、ソーシャル・スキル・トレーニング=SSTと言われているような方法で、当事者の方の自立した日常生活を促進することができるような働きかけをします。

頭では、統合失調症という病気が脳の働きが一時的に失調した状態であると理解はしているのですが、その人たちの自立生活で考えた場合には、相対的な独立した活動レベルの活動の制限というところにSSTという形で働きかけることによって、その人の社会的な自立、参加を促すことで再発を防ぐというよい結果を得ることになっています。

そのときには、今も言いましたように、頭では脳の疾患であることはあるのですが、その人の社会生活の予後、自立生活の促進を考えますと、相対的に独立した活動レベルでの働きかけを行っているといます。

では心身機能の障害に対して働きかけることはできないのか。そうではありません。薬物療法とはその代表例になっています。結局、薬物療法と心理・社会的な働きかけを組み合わせながら、総合的に治療している、働きかけているというのが精神疾患の場合についても身体の場合と同様であると言えるのではないかと考えています。

とりあえず私の話はそこまでにしておきます。

上田 丹羽先生、どうもありがとうございました。最初にも言いましたけれども、このICFは介護保険、特に介護予防に関連して今注目されているのですが、介護予防の中で認知症は非常に大きなテーマです。今日はMCIという概念で、それに関してはもちろんこれから研究するのですが、介護予防が生活不活発病の予防と絡めて可能ではないかというようなお話、非常に興味深くうかがった次第です。

では次の第二部に移りたいと思います。