①個別支援計画のセカンドオピニオンのあり方に関する研究
②就職前の支援者によるジョブマッチを前提としない就職支援メソッドに関する研究
本『利用者本位の公平で公正な就労移行支援サービスのあり方に関する研究』では、利用者の権利や無限の可能性に対する阻害要因を明確にし、利用者本位の就職支援のあるべき姿を追求することにより、利用者の権利擁護が確実となるサービス提供体制を確立させることを目指す。またこの研究を通じ、利用者と支援者がともに歩み協働する個別支援計画を創造し、その企画・設計段階における質の向上を図るとともに、先駆的でかつ効果的な就職支援メソッドを明確にすることにより障害者の就業率の向上を図ることを目的とした。
就業率が向上しない原因として、利用者にとって支援の効果が判定しにくい(不透明な)サービス提供体制のため就労移行支援サービスの利用が進まないこと、就労移行支援の道標である個別支援計画の質そのものが低いことにあるのではないかと考えた。サービス提供体制の透明性を図り、利用者本位の就労移行支援サービスの提供体制を個別支援計画の改善を通じて整えることが必要であると考えた。
利用者や家族が就職支援の支援方法を納得して選ぶことは、基本的かつ絶対的な権利である。とくに就労移行では、施設生活や在宅生活から地域での社会生活へと生活の拠点が移る大きなターニングポイントである。その大切な段階における支援のあり方については、利用者、家族と支援者が相互理解のもと協働で多面的な支援が行われるべき重要性は言うまでもない。しかし、実際の就職支援の現場ではどうであろうか。就労移行支援事業所によって利用者への就職支援に対する考え方は異なる。
また、就職支援は属人的な無形のサービスであり就労支援員の力量によるところが大きく、就労支援員によっては就職支援の技術や質に差がある。そこで、利用者にとって最善と考えられる就職支援を、利用者と家族が判断するため利用施設以外の専門家の意見を聞く「しくみ」が重要ではないかと考え、「個別支援計画のセカンドオピニオンのあり方」について研究を行うものである。
とくにこの研究では、本研究事業提案者である小澤啓洋がISO9001 審査員としての経験を活かし、ISO9001(品質マネジメントシステムの国際規格)の設計・開発の手法を援用し、個別支援計画の作成プロセスのモデル(セカンドオピニオンが行なわれないと個別支援計画が完成しないしくみ)を作り上げた。このことは、利用者の権利を守ると同時に支援者としても誤った支援に気づくことで回避できるなどの多くのメリットがある。
障害者自立支援法で採用されているサービス利用計画作成(ケアマネジメント)や日割り制は、利用者の障害福祉サービス選択の幅を広げるという理念の具現であろう。一人の障害者に複数の事業者が関わるしくみは、チェックアンドバランスの機能を持つ。もちろん責任の所在のなさという危険もまた包含するが、本研究事業で提案するセカンドオピニオンを求めるしくみは、このチェックアンドバランスの一形態であるともいえる。
障害者の就職支援におけるジョブマッチとは利用者の作業能力と企業の作業内容とを合わせる手法であり、支援者主導システムといえる。このジョブマッチには「○○ができないと就職は無理」という発想を支援者がもってしまう、言い換えれば就職したいというニーズを支援者が雇用先の企業の意向も聞かずに、かってにニーズを棄却し権利を剥奪するおそれがある。しかし現在は多くの就労支援機関においてこのジョブマッチの手法が用いられている。利用者本位の就職支援とは何かと考えたときに「就職したいというニーズに対し、平等な機会を提供する」ことを優先させるべきではないか。就職をしていない状態のときに見せている作業能力などに惑わされることなく、もちろん「○○ができないと就労できない」などという条件提示の発想はもってはならない。利用者や支援者が実際に企業へ出向き、双方の出会いの場を作り出し、判断(イメージ)することがまずは重要であり、企業側にとっても、そこで初めて働きたいのか(働けそうなのか)、そうでないのかを決断(イメージ)することができ、利用者と企業の雇用関係成立の可能性を広げることになる。もちろんジョブマッチの手法は、企業に入社した後には有効な手立てである。ジョブマッチとは障害者が実習や採用後、働きやすい作業環境を調整するためにこそ必要な手法である。
このような方針のもと当法人の障害者支援施設「就職するなら明朗塾」では独自の手法で一般企業への就職者数は19 年度36 名、20 年度40 名を達成した(20 年度は障害者就業・生活支援センターでの支援を含む)。しかしまだこの手法を体系的でかつ再利用可能なマニュアル化や雇用先の企業への効果確認は行えていない。今後、障害者の就業率の向上に資するために「就職支援メソッド」の効果を障害者就業・生活支援センターや複数の就労移行支援事業者等とともに検証し、特に企業のための障害者雇用マニュアル整備を通じての普遍化に関する研究を行うものである。
就労移行支援サービスにおける個別支援計画とは、就労移行支援サービス事業所が、障害者の一人ひとりの就業ニーズを正確に把握し、福祉、教育、医療、労働の視点から適切に対応していくため、求職(失業状態)から就職(雇用状態)を目指して、一貫して的確な就職支援を行なうための計画書をいう。厚生労働省令(後掲)には、「施設生涯福祉サービス計画」としてサービス管理責任者にその作成を求めている。また本研究において就労(=就職)とは、労働時間を問わず企業と労働契約を締結し、仕事に就くことをいう。
【個別支援計画に関する法令】
障害者自立支援法に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(抜粋) (平成18 年9月29 日厚生労働省令第172 号) 最終改正年月日:平成21 年3月30 日厚生労働省令第57 号 (施設障害福祉サービスの取扱方針) 第22 条 |
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指定障害者支援施設等の管理者は、サービス管理責任者に施設障害福祉サービスに係る個別支援計画(以下「施設障害福祉サービス計画」という。)の作成に関する業務を担当させるものとする。 | |
2 | サービス管理責任者は、施設障害福祉サービス計画の作成に当たっては、適切な方法により、利用者について、その有する能力、その置かれている環境及び日常生活全般の状況等の評価を通じて利用者の希望する生活及び課題等の把握(以下「アセスメント」という。)を行い、利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援する上での適切な支援内容の検討をしなければならない。 |
3 | アセスメントに当たっては、利用者に面接して行わなければならない。この場合において、サービス管理責任者は、面接の趣旨を利用者に対して十分に説明し、理解を得なければならない。 |
4 | サービス管理責任者は、アセスメント及び支援内容の検討結果に基づき、利用者及びその家族の生活に対する意向、総合的な支援の方針、生活全般の質を向上させるための課題、施設障害福祉サービスごとの目標及びその達成時期、施設障害福祉サービスを提供する上での留意事項等を記載した施設障害福祉サービス計画の原案を作成しなければならない。この場合において、当該指定障害者支援施設等が提供する施設障害福祉サービス以外の保健医療サービス又はその他の福祉サービス等との連携も含めて施設障害福祉サービス計画の原案に位置付けるように努めなければならない。 |
5 | サービス管理責任者は、施設障害福祉サービス計画の作成に係る会議(利用者に対する施設障害福祉サービス等の提供に当たる担当者等を招集して行う会議をいう。)を開催し、前項に規定する施設障害福祉サービス計画の原案の内容について意見を求めるものとする。 |
6 | サービス管理責任者は、第四項に規定する施設障害福祉サービス計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得なければならない。 |
7 | サービス管理責任者は、施設障害福祉サービス計画を作成した際には、当該施設障害福祉サービス計画を利用者に交付しなければならない。 |
8 | サービス管理責任者は、施設障害福祉サービス計画の作成後、施設障害福祉サービス計画の実施状況の把握(利用者についての継続的なアセスメントを含む。以下「モニタリング」という。)を行うとともに、少なくとも六月に一回以上(自立訓練(機能訓練)、自立訓練(生活訓練)又は就労移行支援を提供する場合にあっては、少なくとも三月に一回以上)、施設障害福祉サービス計画の見直しを行い、必要に応じて、施設障害福祉サービス計画の変更を行うものとする。 |
9 | サービス管理責任者は、モニタリングに当たっては、利用者及びその家族等との連絡を継続的に行うこととし、特段の事情のない限り、次に定めるところにより行わなければならない。 一定期的に利用者に面接すること。 二定期的にモニタリングの結果を記録すること。 |
10 | 第二項から第七項までの規定は、第八項に規定する施設障害福祉サービス計画の変更について準用する。 |
(サービス管理責任者の責務) 第24 条 サービス管理責任者は、前条に規定する業務のほか、次に掲げる業務を行うものとする。 |
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一 | 利用申込者の利用に際し、その者に係る指定障害福祉サービス事業者等に対する照会等により、その者の心身の状況、当該指定障害者支援施設等以外における指定障害福祉サービス等の利用状況等を把握すること。 |
二 | 利用者の心身の状況、その置かれている環境等に照らし、利用者が自立した日常生活を営むことができるよう定期的に検討するとともに、自立した日常生活を営むことができると認められる利用者に対し、必要な援助を行うこと。 |
三 | 他の従業者に対する技術指導及び助言を行うこと。 |
前提:「利用者本位の就職支援のあるべき姿」によって「権利擁護・サービス体制が確立」する | |
↓ 「就労移行支援サービスの向上」 =「障害者の就職率の向上」 ↑ |
・・・障害者自立支援法による「就労移行支援事業」サービスの質を評価する指標はいくつかあろうが本研究では、その指標として「就職率の向上」に着目する。 |
個別支援計画のあり方の改善 | ← 利用者と支援者の協働 ← 企画・設計段階の質の向上 |
就労移行支援事業には就労実績を上げるのに有効な「支援」の方法は数多くあるが、本研究では、支援方法の中の一つである「個別支援計画のあり方の改善」に焦点をあてる。
個別支援計画の改善に関し、そもそも障害者支援に目標「=ゴール」設定ができるか?という疑問もまた一方ではある。障害者(に限らず人の)ニーズには常に変化があるからである。
もちろん個別状況により変わらないニーズがあるものの、支援には終わりはなく、形を変えながらも繰り返していくものなので、ここでは究極のゴールの設定ではなく「現在のニーズに基づくゴール」を想定する。
個別支援計画改善の着眼点としては、利用者と支援者を対立する立場に置くのではなく協働すべき立場であると認識する。そして「セカンドオピニオン」という第三者の目を活用すること、個別支援計画作成プロセスにISO9001(品質マネジメントシステムの国際規格)の「設計・開発」に関する規格を適用すること、で個別支援計画の作成プロセス(セカンドオピニオンが行なわれないと個別支援計画が完成しないしくみ)を整備する。またそのプロセスを実施するために必要な手立ても提言する。
障害を持つ労働者の意識調査及び障害者雇用企業の意識調査を通じて、障害者の就業率の向上に資するために当法人で採用してきた「就職支援メソッド」の効果を検証し、調査結果をもとに特に企業向けの障害者雇用マニュアルを作成・発行する。