講演「自閉症児のためのソーシャルストーリーDAISY図書」ライラニ・デイビッド

フィリピン自閉症協会

ライラニ・デイビッド

講演を行うライラニ・デイビッド氏の写真

ここ数日間起きていること、いずれも私にとっては非常に感銘深いことです。まず1つ、天気。一部の人には暖かいと感じられますが、一部の人にとっては寒いです。私の出身地で考えますと、これは不思議な国の冬と感じられます。あまりにも寒くて、トイレでもヒーターをつけるような状況です。もう1つは、いろいろな情報、皆さんの経験を共有させていただき、すばらしい経験です。

今日の私のタイトルは、「DAISYという便利な真実-自閉症のフィリピン人のためのソーシャルストーリーをつくる」というものです。私はフィリピン自閉症協会のネットワークにおいて、ボランティアをしていますが、もう1つ、DAISYのトレーナーとして活動しています。私はDAISYの製作に携わるまで、トレーニングのコーディネーターをして地域に根ざした訓練を行っていました。自閉症のためのDAISYの製作は新しいものです。昨年2月、我々は初めてDAISYの製作のトレーニングを受けました。ASPというフィリピン自閉症協会は非営利組織です。全国に38支部があり、会員は6000人です。もっと増えることを期待しています。フィリピンにおいては自閉症のある人たちのほとんどは、何らかの知的障害を伴っています。従って分類上は知的障害の位置づけになっています。

このDAISYの潜在的利用者はフィリピンには数多く存在すると思います。いま現在、国勢調査のもと、自閉症の人がどれぐらいいるのか把握できていません。全体で人口は8900万人ですので、150人に1人が自閉症という比率から考えると、おそらくは50万人くらいと推定されます。病院での統計を見ますと、全体の5%だけが自閉症として診断されています。また、その診断ができる医師が不足している問題もあります。2%のみがきちんとした治療、ないしは管理プログラムを受けているのが現状です。

さて、フィリピンの現状について理解していただきたいと思います。DAISYに関する限り、次のようなことが言えます。これはフィリピンにおけるDAISYネットワークの現状です。2008年4月、DAISYコンソーシアムフィリピンネットワークは正式にNGOとして設立され、DAISYの製作推進に携わることになりました。現在、フィリピン国立図書館がDAISYフォーマットでつくられたすべての文書を持つことになっています。が、今はゼロです。今は図書館にはまったくありません。まだネットワークで図書を作っている段階ですので、まだ現在はありません。

もう1つ、DAISY事務局がつくられました。全国障害者問題評議会、NCDAと略します。関係政府当局、NGO等にDAISYをプロモーションするものです。このNCDAが、DAISYを、印刷物を読むのが困難な人のためのアクセシブルな図書をつくるための規格として採択しました。私たちはフィリピン大学のコンピュータ工学部と一緒にフィリピンの音声エンジン開発を進めてきました。現在、他の政府機関、例えば運輸通信省、保健省、教育省、その他地方自治体などが既に自分たちの文書をDAISYフォーマットに変換することに興味を示しています。

これらがASPにおけるDAISYの製作者5人です。3人のうち一人はASPの会長で、会長自らがDAISYをつくる立場です。もう1人、関係者、映像担当、ボランティアは私、そして、自閉症の1人が製作に加わっています。ジェッド・アロン・デーさん。今、写真に出ている人で、22歳。図書館学で学士を取得しました。彼は、アスぺルガー症候群と診断されました。集団に適応できないものです。発達障害の1つです。社会に溶け込むのが困難です。ジェッドは去年11月、DAISY図書の製作に携わるようになりました。週に3回、1日3時間の仕事をしてくれています。

ASPにおいては、自分たちのDAISYキャンペーンをオンラインニュースレターを通して進めています。これはその記事の1つです。フィリピンの主要新聞に掲載されたものです。ここにはDAISY、自閉症の人々が読む上で、大きな手助けになると書いてあります。マイセンさんが、DAISYがいかに日本人の学生の助けになっているか、それに基づいて書かれたものです。これが私達の協会のEニュースレターの一部です。

これはDAISYの種を植えたフィリピン人第1号。DAISYを花の種に例え、全国にDAISYが花開くようにと期待しています。全国のコミュニケーションセミナーのあとに配られました。言語聴覚士協会が主催したセミナーです。私達はその中でDAISYのオリエンテーションをしました。ほかの団体から要請があった場合、DAISYに関する情報提供を行っています。協会のメンバーは、Eニュースレターを通して、情報を伝え、それを読んだ人が我々を招いてこのようなオリエンテーションを行います。

ASPはフルオーディオの素材をつくっています。テキストはナレーションに合わせて同期、ハイライトします。肉声、合成音声を使っています。映像も入れています。しかしまだ実験中ですが、例えば、動画を入れられるかどうかを考えています。もしそれが沢山ありすぎると、避けたいと思います。自閉症の人たちは物事に集中するのが困難だからです。従って、何か多くの絵が入っているような絵を見るとメッセージがわからなくなってしまいます。色に注意が奪われ、本来のメッセージが伝わらないことがあるので。ここでは3つの種類の素材が出てまいります。

まず一般情報。それから防災。そしてソーシャルストーリーです。一般情報は、もう既にでき上がったものがあります。例えば協会のパンフレットなどをつくっていますし、私のDAISYのトレーニング報告もあります。こうしてDAISYをメインストリーム化できるのではないかと期待しています。他のユーザーにも使っていただけると。特殊なニーズを持っている子供たちだけではなく、一般にも使ってもらえると期待しています。

べてるの家と同様、私たちも防災のための資料をつくっています。公共のもの、例えばポスター、チラシ、マンガなどを使っています。正式・非公式にこういったものを使わせてもらっています。ここでお見せしているのは、フィリピンの科学技術省が管轄している火山学地震学研究所のものです。今現在進めているプロジェクトの1つは、津波のマンガ、これをDAISYフォーマットに変換しようとしています。マンガのレイアウトと同じようなものを使っていますが、できるだけシンプルにつくり変えています。

ソーシャルストーリーは、生活技術に関するものです。これもまたこういった材料を使用する許可が必要です。ソーシャルストーリーブックのフィリピン版はありませんが、キャロル・グレーのソーシャルストーリーブックを訓練目的だけに使用許可がおりています。が、DAISYフォーマットに変換する許可がないので、訓練目的に限定されています。新しいソーシャルストーリーブックと書いてあります。私たちは、特殊教育の専門家、先生にボランティアとして参加していただき、フィリピンの価値や伝統に基づく内容をつくってもらっています。従ってこれに基づいて独自のフィリピン版のソーシャルストーリーをつくっています。

あくまでもフィリピンの文脈に基づく内容となっています。これまで私たちの使用してきたツールはSave as DAISYで、ドルフィンというのは一般に市販されているものです。私たちは今現在、AMIS、これもまたべてるの家で使われていたものですが、タブ(TAB)はタイのものです。ドルフィン・イージー・リーダー、ビクター・リーダーを使っていますが、まだ主流化されていませんが、こういったプレーヤーを使っています。

こういう本をどのように入手するかですが、私たちがこれまでつくってきたDAISY図書は一般に使用できる状況ではありません。今現在プリテストを行うということで、これらの図書は特に知能の高い自閉症の成人を対象にテストをします。その目的は、テキストの見せ方、フォント、イメージ、映像、背景の色、どのような趣向があるか確認するためのものです。私たちとしては、これを一般に自閉症の人たちに提供する際、慎重にと考えています。そもそも自閉症は多感覚の障害です。ですから、「絵」はいろんな感覚を使うものなので、私たちとしては、DAISYが自閉症の人たちにどのように受けとめられるかを確認したいと思います。DAISYによって彼らの状態がより悪くなることは、ぜひ避けたいと思います。したがって、まだ今はすべて研究中です。

ではソーシャルストーリーの仕組みについて。私どもは保護者、専門家などと相談してきました。自閉症の治療にあたる専門家、また管理プログラムの実施者に相談しました。彼らの話では、DAISY図書は役立つツールだが、これは自閉症の中でも知能の高い、ないしはアスペルガー症候群の人に適していると言っています。自閉症の人たちは、えてして誤解されています。というのは、彼らは社会に適応できないと言われますが、私自身だって適応できていないと思うときがあります。ソーシャルスキルを教えることが重要だと思います。こうしたスキルは、仲間に受け入れられること、教職員に受けられること、またインクルージョンにもつながり、学校を卒業後にも役立ちます。成人してからも役立つものです。ソーシャルストーリーは、彼らに日常の生活技能を教えるためのものです。

これまでに私どもはソーシャルストーリーを導入するためのガイドラインを作成しているので、お見せします。DAISYのソーシャルストーリーブック、自閉症対象のものを製作する際のガイドブックです。DAISYフォーマット、ソーシャルストーリーを開発するにあたり、まずは、自閉症の全体像をきちんと捉えて、知識を持つ必要があります。非常に幅広いものです。自閉症は非常に幅広い障害で、いろいろな症状があります。一人一人、人格障害等の現れ方が違っている。これを把握することが必要です。ここで十分に配慮すべきことがあります。皆様理解していただきたいのですが、保護者、専門家の間で、緊密な連携を図り、それを通じてソーシャルストーリーをつくるべきです。家族がプロセスに関わることが重要だと考えます。

さて、こうした連携を通じて、慎重かつ配慮した情報収集ができますし、きちんと情報を持って観察ができます。また、どういった内容がいいのか、状況設定の選択と、適したタスクを選んで、その設定のもとにつくれます。ユーザーにきちんと合ったソーシャルストーリーを作ることができます。ソーシャルストーリーの中には、言葉は数行しかありません。1つの画面に入っています。絵は1つか2つです。ソーシャルストーリーはシンプル、かつ明確でなければいけません。

DAISYの製作者にとって重要なことは次のことです。まず、現実的で、かつ機能する場面設定の中でのソーシャルストーリーを選ぶ。そして、言葉は一般的でわかりやすいもの。必ずしも敬語でなく、丁寧語で十分です。また、複雑なレイアウトは避けるべきです。できるだけシンプルな構造で、一貫性があり、きちんと境界線がはっきりしているものを使うべきです。それによって、利用者がもっと楽しめます。いろいろ複雑なレイアウトを見てしまうと、彼らはわからなくなります。変化を好まないからです。

オバマ政権は「チェンジ」という言葉を使いますが、子どもたちは逆にチェンジを嫌います。オバマ大統領に、例えば私どもからのアドバイザーが派遣されたら、その辺は難しいかもしれません。また、あまりにも芸術的なフォントの工夫などは避けるべきです。非常にシンプルにするべきで、できるだけ背景の色も避けるべきです。ただ、症状の現れ方はいろいろで、1人、1人が違うのも事実です。子どものニーズを踏まえたものにすべきです。

もう1つのアドバイスは、できるだけ文章は短く、分かりやすい区切りで見せるべきです。例えば、一部のDAISYフォーマットは文章を使って、全体をハイライトさせることもありますが、自閉症の人は、文章を区切ることを好みます。ポーズ、間をおくところでは、ハイライトを止めるべきでしょう。もう1つは、必要な絵だけを入れるべきです。ここで3つのデモンストレーションがあり、ジェッドが製作したもので、彼の肉声で吹き込まれています。自分の声で吹き込むのが彼は好きです。私は自分では録音できませんでしたが、私、1つだけ、自分の声でソーシャルストーリーを吹き込みました。

ジェッド/ ガムをかむのを学ぶ。

時々、人はガムをかみます。通常は1つずつかみます。しばしば、ガムは包みに入って提供されます。まず、口の中に入れる前に、包み紙を外します。そして、ガムは口を閉じてかむ方がいいです。そうすることで、静かにガムをかむことができます。かんでいる間は、口の中に残します。味がなくなってしまったら、口の中から取りだし、ゴミ箱へと捨てます。ゴミ箱に入れる前に、小さな紙ないしはティッシュに包んで捨てます。

ジェッド/ 贈り物を贈る。贈り物というのは人にあげるものです。人は他の人に贈り物をします。大きいものもあります。小さいものもあります。人に何か贈り物をする時、「これはあなたのための贈り物です」と言うことがあります。また、私が人から贈り物をもらうことがあります。贈り物をもらう時、私は「ありがとう」と言うようにしています。「ありがとう」と言うことは、ていねいな行為です。人は何か贈り物をしたとき、その人から「ありがとう」と言われるのが好きです。

デビッド/ すみません、テキストがきちんとハイライトしていませんでした。最後のものです。

これはソーシャルストーリーで、フィリピンの文脈に合わせて、我々の価値観を表す内容となっています。フィリピンの人が、「ごきげんいかがですか?」と、タガログ語で話しています。フィリピンの人たちはいつも「カムスタカ」と言います。誰かに出会った時、知っている人に会った時、誰かに紹介されたとき、この言葉を使います。「カムスタカ」という言葉を知り合いに会った時、必ず言います。「カムスタカ」と言うことによって、相手は笑顔になります。そして他の人と出会い、知り合える楽しみを知ります。私も、これからできる限り、「カムスタカ」と言うようにしたいと思います。「カムスタカ」です。

デビッド/ 今お見せしたのはソーシャルストーリーの例です。

非常に短いものです。自閉症の人があたかも自分自身がソーシャルストーリーを書いているかのようになっています。こういう手法をとることによりソーシャルストーリーの価値が何かを考えることができます。

ここで、フィリピンで今後どうするか話したいと思います。DAISYの製作は今始まったところです。従って私達はまだ経験が浅いので、皆さんにお話しすることはほとんどないのですが、今後の話をしたいと思います。「DAISYプラン」という名前がついています。できるだけ、学校や治療センターにDAISYの種を植えたいと思っています。そして保護者、専門家にはDAISYの製作者になってほしいと思っています。彼らこそが自閉児やその他の人たちのニーズを把握していますし、患者の状況を一番よく知っていますので、彼らに製作をしてほしいと思っています。また自閉症のある人達に会って、ソーシャルストーリー、防災や雇用の話を作っていきたいと思います。

彼らに就職の機会を提供したいと思っています。先ほどのジェッドはあくまでもボランティアだったのですが、ほとんど無償です。一日50ペソで、片道の交通費にもなりません。彼らは私どものマニラのオフィスで仕事をしています。彼の住んでいるところから1時間半ぐらいかかります。でも、今は50分ぐらいです。50ペソしかありません。彼らに雇用の機会を提供したいと思っています。就職につなげていきたいと思いますし、もっとジェッドのような子に教育していきたいです。その中には兄弟も含まれます。フィリピンでは家族の支援が大切になります。DAISYの製作者になっていただきたいと思います。この機会を利用して、ここにいる皆さんに、私たちはまだまだこの先、大変エキサイティングな製作を予定しています。このような動きを通じ、私たちはDAISYを広く普及できると思っています。できるだけ早く次のような分野における努力を進めていきます。研究開発、訓練教育、情報、広報、皆さんに認知してもらうということですね。そしてもう1つ、技術がメインストリーム化され、こういった自閉児の生活に役立てることが大切だと思っています。私どもはもっと多くのものをこれからDAISYに変換していきたいと思っていますし、また私どもの協会への支援も増えることを期待しています。様々な連携を今後、はかっていきたいと思います。

講演を行うライラニ・デイビッド氏の写真

最後にいくつかフィリピンの写真をお見せします。自閉症と暮らす家族の写真です。河村さんが昨日おっしゃっていましたが、DAISYは特別な技術です。そして自閉児も特別な存在です。どうか皆さん、自閉症の天使になってください。見えない方は歌詞を聞いて下さい。

/ 子どもたちのためのよりよい世界をつくりたいと思います。そして子ども達にとってもっといい世界である、そして、自分たちでよりよい場所にできると思えるような環境をつくりたいと思います。

デビッド/ 16歳のパトリック、アンジェロ8歳、エイドリアン5歳、デリック7歳、ヘンリー10歳、政府の職員であり、かつ運動選手です。これはメミー40歳。ジオ、14歳です。DAISYによって自閉症の人々にとってよりよい世界が実現することを祈念します。ありがとうございました。

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