「自分たちの津波避難マニュアルで安心を手に入れた経験の報告」

北海道浦河べてるの家 秋山里子、吉田公子、池松麻穂

池松/ ただいま紹介いただきました、「浦河べてるの家」から参りました。私はソーシャルワーカーといいまして、精神障害をかかえる皆さんの相談にのったり、いろいろと将来を一緒に考えている池松麻穂です。よろしくお願いいたします。

秋山/ こんにちは。秋山里子です。私は、4年前に浦河に来ました。その前は精神科に半年入院していました。当時は、うつ状態がひどかったのですが、浦河に来てからは、薬を2週間だけ飲み、今は薬は飲んでいません。仲間に支えてもらいながら毎日、生活しています。よろしくお願いします。

吉田/ こんにちは、統合失調症の吉田公子です。浦河には3年前に来ました。今は薬を少し飲んでいますが、仕事は、ニューべてるでグッズ部門の仕事をしたり、お店でも店番などもしています。よろしくお願いいたします。

講演を行う秋山里子氏、吉田公子氏、池松麻穂氏の写真

池松/ 限られた時間なのですが、もりだくさんのネタを用意しているので、60分で収まるか心配です、駆け足でやっていきます。浦河町は、北海道の襟裳岬の近くにあります。私たちは昨日の昼1時に浦河を出発し、京都のホテルに着いたのは9時、8時間かけてやってまいりました。浦河町の概要は、人口は1万5000人を切りまして、産業としては牧場、馬(サラブレッド)の生産と、海があるので、コンブやイカをとって産業が成り立っています。しかし課題としては過疎化が進んで、産業が衰退し、北海道でアイヌ民族の方がいらっしゃる地域でもあるので、歴史的差別が昔から続いている地域でもありました。今、写真に出ているのは浦河の様子です。イカがとれたり、牧場で馬がのびのびしていたり、桜がきれいだったり、海がきれいだったり、非常に田舎な感じです。こんないろいろな課題のある浦河町で生活している中で、昔から一番みじめだと言われていたのは精神病で病院に入院することでした。現在は日本人の35人に1人が精神科を受診していて、日高管内でも30人に1人が通院中ということで、決して珍しい病気ではないのですが、例えば統合失調症。吉田さんは当事者ですが、その病気になると幻聴といって、周りの人には聞こえない、その人にしか聞こえない声が聞こえたりして思うような行動ができないことがあります。周りの一般の町民から見ると、何が起こっているかよくわからないので「変な人」となり、精神科病棟に入れられてお先真っ暗な状況が続いていました。この写真が現在の浦河赤十字病院です。私たちべてるの活動はこの病院を退院した統合失調症の当事者である、べてるの家の理事長、佐々木実さんが退院したときから始まり、病気があっても浦河という地域で暮らしていく上で、地域で役割をもって、地域に貢献してやっていくためにはどうしたらいいかを考えるところから始まりました。そこで考えたのが、地域の特産品である日高昆布を全国に売ること、商売をすることを始めました。商売をすることはなかなか難しいことでした。健常者と言われる人ですら苦労する取り組みです。病気になったからといって保護されるだけではなく、人として生活する上で当たり前の苦労をしようということで、作業ではなく商売をすることにしました。浦河町内にある小さな教会から数人で始まったべてるの家の活動ですが、現在は統合失調症、うつ病、依存症、いろんな障害をお持ちの方が100人以上参加して成り立っています。べてるの組織としては、最初に佐々木実さんが始めた当事者組織から派生して、有限会社ができたり、社会福祉法人、NPO法人ができたりといろんな活動になっています。役割としては、働く場と生活する場。グループホームとか共同住居を持っています。あとはSSTといって、自分たちの苦労をみんなに情報公開をして練習するという、ケアする場にもなっています。町内のメインストリートに沿って浦河べてるの家の活動拠点がたくさんあります。地図が映像で映っています。赤い丸のところがすべてべてるの共同住居や活動拠点であります。この写真は、現在私たちが活動しているべてるの昆布作業をしている場所です。みんなで漁組から直接仕入れた昆布を袋詰めして全国に発送しています。今日も持ってきました。廊下で販売していますので、手にとっていただくだけでも結構ですので、ぜひのぞいてください。そろそろ本題に入ります。私たちが活動していく中で一番大切にしているのが、「三度の飯よりミーティング」という理念です。ミーティングをすることで自分たちの苦労をみんなに公開する方法で自分を助けています。ミーティングの基本の構成は気分・体調、よかったこと、苦労していること、さらによくする点を報告するという流れでやっていますが、口で説明しても、どんな感じなのか理解しにくい部分があると思いますので、今、この場で私たちが毎日やっている朝ミーティングの様子をやりたいと思います。朝ミーティングというのは、その日一日、朝の気分と体調を報告するものです。仕事の前に行うことが多くて、それをすることによって、自分は病気で、昨日幻聴さんがひどくて眠れなかったから、今日は働けないかもしれないとか。ぐっすり眠れたから私がその分、働くよという、お互い助けるということにつながっていきます。吉田さんから今朝の気分と体調、もうちょっと詳しい苦労の情報公開もお願いします。

吉田/ おはようございます。今日の体調は夜遅かったので眠れないので寝不足気味です。気分はいいです。ちょっと躁鬱なところがあって、躁状態になると人のことを顧みず、お騒がせで先走った方向にいくことがあります。今日は度数からいえば、ちょっと高いです。でも皆さん、よろしくお願いします。(拍手)

講演を行う秋山里子氏、吉田公子氏、池松麻穂氏の写真

池松/ 私たち、活動の中でも、誰かがしゃべったら、常に拍手をするのが癖になっています。よかったらみなさんも拍手してください。

秋山/ おはようございます。今日の体調気分は、昨日8時間かけて京都にきたので、充実感があって、いいです。気分は、こういうステージの上でミーティングしたことがないので緊張しています。苦労の情報公開は、私の場合は、頭の中に「マイナスのお客さん」といって、マイナス思考がよくあって、それによって自分の行動が制限されたり、輪の中にいれなくなったり、感情をどのように出していいかわからなく、気持ちをため込みやすいです。それがたまると急に感情が爆発して、ゴムで言うと、ゴムが伸びちゃったような状態になって、キャラクターがバラバラになりやすいというのがあります。

池松/ ありがとうございます。(拍手)私、池松の気分、体調ですが、体調が昨日夜スライドをつくっていて遅くなってちょっと眠たいのですが、気分はとってもいいです。苦労は毎日、夜遅くまで仕事をしているんですけれども、自分の苦労として、自分は仕事があまりできないんじゃないかというそういうマイナス思考があります。それを打開するためには忙しくすることなんです。自分を忙しく働かせていれば、「自分はよくやっているぞ」とほめたくなって、こんな私でもそれなりに頑張っているからまあいいかと、自分を納得させる癖があるんです。でもその副作用としては、人とのつながりが薄れてしまうんです。忙しくしていたら、なかなかコミュニケーションがとれなかったりとか、お友達とコミュニケーションとれなかったりして、大切な人とのつながりが薄れてしまうという苦労があります。こんな感じで…ありがとうございます。(拍手)メンバーが苦労の情報公開をするのはもちろん、私たちスタッフも、メンバーに苦労の情報公開もしますし、スタッフ同士もして、お互いが働きやすい、生活しやすい環境を整えています。べてる用語がありまして、日本語でもなかなか伝えづらい部分がありますが、例えば、幻聴という普通にはない声がその人には聞こえるということ、その人の中で起こっていることは、現実で起こっていることなので、「幻聴さん」と「さん」をつけて呼んだり、これから紹介します認知行動療法に出てくるマイナス思考の認知、頭に浮かぶマイナス思考の考えを「お客さん」と呼んだり、自分たちの今話してくれたような苦労を、自分たちで研究というアプローチから深めていくという、ちょっとわかりにくい活動をしています。もしかしたらこれからの話の中で、そういった分かりづらい表現があるかもしれませんが、そういうときはぜひ「どういう意味?」とおっしゃってください。その都度説明したほうが、流れが分かると思います。遠慮なくどうぞ。そのように、幻聴に「さん」をつけて、私たちは自分たちの苦労を情報公開しています。毎年、この活動を見に、全国から2000人を越えるお客様が過疎の町、浦河に来て、見て行ってくれます。また、幻覚妄想大会として、自分たちの幻覚や妄想の体験で、そのとき一番その年でユニークなものを表彰したりしています。海外からも少しずつ注目が集まりつつありまして、アメリカのイェール大学の中村かれん先生が研究に来てくださったり、韓国のソーシャルワーカーの方もたくさん遊びに来てくれたりしています。私たちの活動を支えている、3度の飯よりミーティングですが、そのなかで認知行動療法をしています。認知行動療法は、自らの認知と行動を観察しそれを上手に工夫することで、ストレスに上手に対処できるようになるための考え方と方法、と書かれていますが、難しいので簡単に説明します。認知というのは、ある物事に対して、自然に浮かぶ考えのことです。認知とは、例えば、学校で先生が「おまえって本当にバカだよな」と言ったとします。すると、1人の学生は、

/ 「先生に嫌われた、もうダメだ」

池松/ というように落ち込んでしまうかもしれません。また、別の学生は、

/ 「俺につっこみいれるなんて、先生も俺のこと相当気に入ってるんだな」

池松/ と、逆に自尊心が向上する場合もあります。同じ1つの言葉でも、このように、考え方、頭に浮かぶ思いは、違ってきます。認知行動療法の中では、1つのできごとに対して、どんな気持ちになるか、どんな体の反応が起こるか、どんなことが頭をよぎるか、どんな行動に出たかの4つに分けます。具体例を挙げると・・色がみづらいですが、どんなできごとがあったか彼女からのメールが来ないという1つの出来事がありました。それに対して、まず頭をよぎったこと。

/ 「浮気してるんじゃないか、もし友達と、と言ってても、俺は後回しか」

池松/ すると、気持ちは怒り、傷つきます。体の反応として、頭に血が上る。どんな行動に出るか。

吉田/ 怒り、傷つき、その後、怒りのメールを連発。1時間おきにメールをするよう強要します。

池松/ 結果として、いつもイライラ、口論が絶えない恋人関係になってしまいます。実は、何か1つのできごとに対して、体の反応と気持ちというのはなかなか変えるのは難しい。ドキドキする動悸を止めることは難しいし、落ち込んだ気分を上げようとすると、逆にストレスです。でも、頭で考える認知とどういう行動を取るかという、認知行動の部分は修正が可能です。先ほどの例で具体的に。彼女からのメールが来ないことに対し、浮気してるんじゃないかと思っていたものを…。

SSTの実演の写真

吉田/ 入浴中かな?

池松/ というふうに認知を変える。怒りで1時間おきにメールする行動をしていたのが・・

吉田/ 返事が来るまで読書してよう。

池松/ すると、いつも口論が絶えない関係だったのが、お互いのペースで順調に交際が続くようになります。この認知と行動を変えるのが、認知行動療法のやり方です。この理論を使って、私たちはSST、という活動をしています。

吉田/ SSTとは、ソーシャル・スキルズ・トレーニングといって、自分の困ったことを練習して、まずメンバーから相手役を選び、その苦労や問題を対処して、練習して、まず褒めることをして、さらによくする点を出し合って、また練習する場面です。

池松/ グループワークなんです。ホワイトボードを目の前にして、みんなで輪になって、苦労を持ち寄り、仲間に相談して、具体的にどうしたらいいか対策をたて、実際にその場で練習して、その後、実際の場面で応用するという取り組みです。SSTは構造化といって、どのように進めるかがちゃんと決まっています。今、スライドに出ているのが、SSTのポスターの文面です。練習の順序、参加のルール、よいコミュニケーションが貼ってありまして、これに基づいて行います。ここでも、やはり口で説明しても、どんなものか分かりづらいので、実際、私たちのやっているSSTをこの場で再現したいと思います。準備をしますのでちょっとお時間をください。

SSTでは、毎週べてるでは週に2回、病院で2回、合計4回行っていて、毎週どこかでSSTをやっているんじゃないかというぐらいたくさんあります。みんなで輪になって、グループになって行います。私はリーダーとして、グループセッションを進めます。参加者たちが苦労を持ってきて、それについて話し合います。では、やってみます。では、今日のSST、バラバラの会を始めます。よろしくお願いいたします。(拍手)今日の課題、自分の苦労を持ってきた方、いらっしゃいますか?秋山さんですね、では苦労の報告をお願いします。

秋山/ いつも朝ミーティングをしていますが、その輪の中に入るのが、すごく緊張して、頭の中にお客さんが来て、それによってなかなか輪に入れないです。

池松/ はい。朝ミーティングの輪に入るのがなかなか難しい。人がたくさんいますしね。秋山さんは特に、マイナス思考のお客様が来やすいタイプなので。本当は秋山さんはどのようになりたいと?

秋山/ 本当はみんなと輪に入って一緒にミーティングに参加したり、お話したい。

池松/ 本当はみんなの中に入りたい。なるほど。自分の行動がお客さんによって邪魔されちゃってる感じですね。ちなみにマイナス思考のお客さんは何と言って来るんですか?

秋山/ お客さんは、お前が入ると空気が悪くなるとか。あとは、「その場にいるな」というような感じ。

池松/ その場にいてはいけないと。

秋山/ というのがきて、なかなか入れないです。

池松/ それで体が固まってしまう。秋山さんの苦労をわかりやすくするために、実際にこの場面を再現してみましょう。秋山さん、お客さんの役と、みんなの中に入りたいということで、仲間の役を選んでもらえますか?

秋山/ お客さん役、幻聴さん役をお願いしてもいいですか? 仲間役をハムちゃんにお願いしたいです。

池松/ 場面はニューべてるです。朝ミーティングのときに仲間が待ってるんですけど、秋山さん、この場に入りたくてもお客さんが来てなかなか輪に入れない。再現してみましょう。

/ お前がこの場にいてはいけないぞ。

/ お前が仲間に入ると空気が悪くなるぞ。

秋山/ そうだよね、やっぱりやめとこ。ごめんなさい。

池松/ ありがとうございます。
というような形で、秋山さんはうちひしがれて、仲間のところに来られないということですね。それはちょっと深刻ですね。じゃ、こういうお客さんが来たときの対策として、自分の認知、お客さんに働きかけて、みんなの輪の中に入るという方法がいいんじゃないかなと思うんですが、ここでいいアイデア、何かないですか?

SSTの実演の写真

吉田/ お客さんに一緒にミーティングに行こうと誘ったらどうでしょうか? 

池松/ マイナス思考のお客さんもミーティングに連れてくる。いいアイデアですね。お客さんをなくそうと思っても、なかなかすぐにはなくせませんから、お客さんを連れて仲間の輪に入る。ほかに何か秋山さんの方でお客さんに伝えたいことはありますか?

秋山/ 私も一緒にみんなの中に入りたいという気持ちを伝えていきたいです。

池松/ 私もみんなの中に入りたいんだ、だからお客さんも一緒に行こうというふうに伝えるということですね。いい考えですね。それをちょっと練習してみて、仲間のところに行って、気分、体調を報告する、そういう練習をしてみましょうか。秋山さんの練習。もう一度、お客さん、幻聴さん役をお願いします。

/ こっちへ行ってはいけないぞ。

秋山/ お客さん、私もミーティングに入りたいなと思ってるんだ。

/ お前がみんなの中に入ると空気が悪くなるぞ。

秋山/ ありがとう。幻聴さんもお客さんも一緒に輪の中に行こう。朝ミーティング行ってみよう。ハムちゃんおはよう、今日マイナス思考一緒だけど、お客さんも一緒につれてきた。

吉田/ 一緒に頑張ろうね。

池松/ 秋山さん、ありがとうございました。今のよかったところをお願いします。

吉田/ お客さんとか幻聴さんがいても、みんなの中に入りたいんだ、ありがとうねと言って、幻聴さんにお礼を言ってから一緒に行こうと言ったのがよかったと思います。

池松/ ほかによかったところは?実際にお客さん役をやってみて、どうでしたか?

/ ありがとうと言って、自分の弱い部分を受け入れているところがよかったと思います。

池松/ ありがとうございます。秋山さん、今日の練習、すごくよかったので、実際に明日の朝ミーティングから挑戦してみてください。宿題報告を楽しみにしていますので。

秋山/ はい、どうもありがとうございました。

池松/ こういった感じで、私たちはSSTのセッションを進めています。この後は実際に練習したことを次の日の朝ミーティングの場面で実践してみる。そしてどうだったかを次回のSSTの場面で宿題報告をするというふうにやっています。そして、認知と行動を変えた秋山さんは朝ミーティングで仲間の輪の中に参加ができる、この結果として快適に仕事ができるという流れになっていくわけです。今みたいな苦労を私たちは「当事者研究」という方法で深めることをもやっています。これは、生活上で起こっている苦労をみんなに相談して、研究というアプローチから深めていって、そこでどのように対策を立てたらいいかなというユニークな対処方法を生むものです。実際の研究例を報告します。具体的に。

吉田/ お騒がせ先走り症というか、人より目立てという幻聴さんが来て、何か人よりも先走ってやってしまうことがあるんですね。

池松/ 幻聴さんが来ることによって、一度躁状態になるけれど、いったん上がるんだけど、それでつかれちゃったりして、幻聴さんのボリュームが強くなって、引きこもっちゃうことがありますね。こういう実際の苦労に対して研究をします。幻聴さんがきやすいときは、どんなときですか? 

吉田/ 疲れて眠れないときです。つかれているけど、神経が過敏になると眠れなくなり、お客さんとかマイナス思考とか被害妄想が、幻聴さんみたいな感じで来ちゃいますね。

池松/ 疲れているときですね。あと悩んでいるときも幻聴さんはきませんか?

吉田/ そうですね。

池松/ これで幻聴さんが来やすいパターンがわかりました。これに対して、どんな対策を練りますか?

吉田/ 今やったみたいな問題で、SSTとか仲間に相談したり、スタッフに相談したり、または当事者研究でどんなときにお客さんが来るのかを図式化して、パターンを自分で認識して仲間のところに行きますね。

池松/ 対策としては、仲間のところに行ったり相談をするんですね。で、実際にさっきのSSTのように仲間に相談する練習をして、実際にやってみる。これが一連の「研究」という形で行われています。そして、地域で、私たちみんな、入院しているわけではなく、グループホームや共同住居、一般のアパートなど、精神障害をかかえながら、一般の地域で生活しています。そうすると病気の苦労だけではなくて、浦河という町は非常に地震が多く、いつ津波が来てもおかしくないと言われています。地震が来たときに津波から自分の身を守ることも、自分を助けるうえでは非常に重要です。防災活動というと堅苦しいイメージで、どうとっつけばいいのか分からないと、最初はそういうイメージですがべてるでは、これも楽しくやっています。それを表現するために、「防災の歌」を作りました。紹介します。

吉田/ 今日は来ていない替え歌名人がつくった歌です。水前寺清子の「365歩のマーチ」の替え歌です。

災害は歩いてこない。  だから逃げて行くんだよ
一日一歩、三日で三歩、三歩逃げてもまだ足りない
災害はワンツーパンチ。  汗かきべそかきするんだよ
あなたのつけた足跡も。  きれいになくなる、津波で
腕をあげて、足をあげてワンツーワンツー。 休まないで逃げよ
それ、ワンツーワンツーワンツーワンツー
災害の被害は怖い。  だから歌っているんだよ
一年365日、何かある日も、ない日も
災害はワンツーパンチ。  風あり波ありあるんだよ
千里の道も一歩から。  始まることを信じよう
腕をあげて、足をあげてワンツーワンツー。 休まないで逃げよ
それ、ワンツーワンツーワンツーワンツー

池松/ ありがとうございました。津波も地震も、実際に起こってしまうことですから、幻聴さんの対策と同じように、それを嫌だと言って拒否してしまうのではなく、せっかくやるなら楽しく防災活動をしようじゃないかというところから、このような歌を歌いながらやっています。実際に私たちは平成15年に、浦河町で震度6弱の地震を体験し、とても怖い思いをしました。そのとき、幸いに津波は30センチだったか、50センチだったか、被害は少なくて、べてるのメンバーは全員無事でしたが、ものは倒れてくるし、こんなに揺れたら津波が来るかも、どうしようと、本当に苦労しました。先ほどの認知行動療法の例で言うと、地震が起き、津波がくる危険性があるとなったとき、頭をよぎる認知は「逃げた方がいいのか、逃げない方がいいのか。どうしたらいいのかわからない」という不安な気持ち。体の反応は、涙が出たり、動悸が激しくなる。でも、行動はどうしたらいいかわかりませんので、テレビで確認したり周りを見たりして、行動が遅れます。すると、逃げ遅れる命の危機が、可能性として非常に考えられます。その時の状況を、アクションを交えて表現します。よろしくお願いします。地震が起きるとき。吉田さん、地震が来てもどうしていいかわかりません、1人で共同住居の部屋にいました。よーい、スタート!地震発生。地震発生。

吉田/ オー、マイガッド!怖いよ、どうしよう。どうしたらいいかわかんないな。

池松/ そういう感じで、地震さんと津波ちゃんに対して、どう行動をとっていいかわからず、固まってしまう。そういう状況です。そこで私たちは、平成15年に、とても恐ろしい思いをしてから、日本障害者リハビリテーション協会やATDOのみなさんに協力いただきながら、防災研究を始めました。ここから防災の話、具体的にどのように活動していったか。苦労を具体的にまず挙げました。先ほど、吉田さんが表現したように、地震や津波が来そうだとなっても、どうしていいか分からなかったので、まず地震や津波の特徴を知ることにしました。

吉田/ 地震後、4分で10メートルまで行けば、津波から守れるとわかりました。

アセスメントシートの写真

池松/ 浦河に来る可能性のある地震、大きさは震度6~7の可能性があり、それが来たとき、最短で4分で10メートルまで津波が来ると勉強したんですね。どうしようかと。具体的にミーティングをして対策をみんなで考えました。4分で10メートルまで上ればいいので、そこに逃げられれば安全だと確認し、みんなで大きな地図を見て、自分の住居、仕事場からどこに逃げたらいいのか、具体的に選びました。ここで、避難マニュアルとして、DAISYを使いました。DAISYを使うことによって、その場所から具体的にどのように避難したらよいか、写真と字と音で表現され、メンバーたちも非常にわかりやすかったと好評でした。秋山さん、DAISYを使った避難マニュアルを見てよかったことは?

秋山/ 文字だけじゃなくて映像があるので、実際の避難経路が目で分かって、「ここを行けばいいんだな」ということで、すごく分かりやすかったです。

池松/ ありがとうございます。実際にDAISYマニュアルを見て、練習するという、次に避難訓練という活動に入ります。その時にもみんなが分かりやすいと好評でした。特に知的障害のあるメンバーや、幻聴さんとの付き合いに忙しいメンバーにも、わかりやすいと好評でした。練習の場面が映像でありますので、紹介します。

(上映中)

/ 暗い中で安全に避難するために夜間の避難訓練も実施しました。

池松/ DAISYでまず、避難経路を確認しています。

/ レインボーハウス、避難マニュアル。4丁目ぶらぶら座からの津波の時の避難場所はファミリースポーツセンターです。ストーブが入っているときはスイッチを切ります。リュックを持って部屋を出ます。駐車場入り口から、右に上がる道に入ります。ここまで行けば10メートル、あとはゆっくりで大丈夫です。

池松/ 避難経路を確認したあと、実際に避難訓練をスタートします。

/ 行くよ、まいちゃん、なっちゃんも行きますよ。

池松/ この日はとても寒く、地面も凍ってつるつるでした。

/ 冬の夜を想定し、防寒対策にも重点を置きました。

/ 10メーター。

池松/ みんなで10メートルがどこかを確認しました。

/ 危ない。すべる。着いた。着いた。

池松/ 10メートルを超えて、実際の避難場所の前で、記念撮影。帰ってきてから、避難訓練の振り返りをしています。

/ あれは、役立つ。雪が積もったところを歩いたほうがいいと分かりました。

池松/ イナホリさんという統合失調症を抱えるメンバーですが、いつもDAISYをつくってもらっています。避難訓練後の今やっていたミーティングも、普段やっているのと同じようによかった点、苦労した点などを報告して、次回以降に生かすことをしていました。このような形で、私達は様々な場所からの避難訓練を行いました。自分たちの住む共同住居、グループホームもすべて、働いている場もです。スタッフが中心でやるのではなく、住んでいるメンバーたちがどこに避難したらよいかを真剣に考え、避難訓練をしました。先ほども紹介したように、ある出来事に対して認知と行動は修正が可能です。防災活動においてもこれは同じだと私たちは考えています。先ほど地震が起きて、津波が来る危険性があるときに、吉田さんは震えて何をすることもできませんでした。そして逃げ遅れる可能性がある、という状況でした。ですが防災活動を進めたことにより、地震が起きたときに4分で10m、そうすれば大丈夫、という認知が頭に浮かびます。そして行動として、仲間ととにかく逃げる、共同住居で同じ仲間がいますから、仲間と声をかけあってとにかく逃げる。その時、先ほどお客さんもミーティングに連れて行ったみたいに、幻聴さんも連れて行くことをポイントにしました。これを行うことで、命の安全を確保できます。安心を手に入れた吉田さんをアクションを交えて表現したいと思います。防災活動を進めていった吉田さん、よろしくお願いします。

吉田/ 地震だ、そうだ、この前みたいに4分で10m行けばいいんだ、防災グッズを持って、仲間と一緒に行こう!

池松/ 地震が起こっても、津波が来そうでも、吉田さんは仲間と一緒に声をかけ合って、うまく命の安全を確保できるようになりました。もう1つ、映像があります。こういう活動を続けていて、実際に避難を去年の9月にしました。2008年の9月に震度3の地震が発生し、津波注意報がすぐに町の防災無線で流れました。その時も映像を撮ってあるので、それを紹介します。

/ 只今津波警報が発令されました。海岸線や河川付近では…

池松/ 私達の活動拠点のべてるも、ニューべてるも海のすぐ近くにあります。ちょうど朝ミーティングをやっているときだったので、みんなで避難をすることにしました。

/ だめ。だめ。まっすぐ、まっすぐ。

池松/ 今うつっているのは岡本さんといって、べてるで古いメンバーの1人ですが、精神病だけでなく、高齢化によって足も悪くなってしまいました。みんなで岡本さんのフォローもしながら逃げています。今ちょうど岡本さんがいる辺りが10mの地点です。10mまで来たら安心なので、ちょっとゆっくり歩いています。安全な場所でみんなで待っていたのですが、もちろんここでも記念撮影をしました。避難するときも楽しく避難しました。幸い、このときも津波は10cm程度ですぐに避難注意報が解除されましたので、私達は山を下りることができました。しかし私達の活動「4分で10m、とにかく逃げる、そして命の安全を確保しよう!」という、今までの練習を実践できた、非常にいい体験をすることができました。そして、私達のこの活動は精神障害という立場で障害があるから守ってあげなくてはいけない、保護してあげなきゃいけないという保護される立場ではなく、私達の取り組み、自主防災の活動を今では地域に還元しています。では、消防の方、自治会の方々と協力して自治会の方で高齢者の方がいれば、その人たちも一緒に安全に逃げるにはどうしたらいいか、私たちの避難マニュアルを提供して、「一緒にここに逃げましょう」という話し合いもすすめています。主に認知行動療法、当事者研究と防災活動、DAISYという、大きく分けて二本立てでお話しましたが、新たな地域の広がりとして、地域の方も当事者研究がはじまっています。どんな活動かというと、地域でも商売をされている人が沢山いますよね。べてるとその方たちは商売仲間です。その方達と一緒に、パン屋さんの研究をしました。それをDAISYで作ったので、紹介したいと思います。

パン屋の研究に関するDAISYの写真

(ハイライトされた部分を読んでいます)

/ 私は、境町で「パンパカパン」というパン屋を開いています。パン屋は朝早くから仕事があります。パン生地は待ってくれませんし、お客さんも、もちろん待ってくれません。パン屋の宿命と言えるかもしれませんね。お店を始めてからはとても忙しく、猛ダッシュの連続でした。そのなかで、目指していたものは「スロー」だったことに気付きました。今日は、浦河の町で今までやってきたことの実験結果を踏まえて、気づいたことを報告します。第一期 パン屋さんをやっていけるだろうかという、不安の時期。私は、保健所で栄養士として働いていました。というのも、一日中パンを焼いていたら、楽しいだろうなあ、と思ったからです。本当にパンが好きで、ずっと作っては、友人や職場の人に配っていました。やはり、おいしいよ、と言われたりすると自信が持てます。そのうち、子供のころからパン屋をやりたいと思っていたので、仕事を辞めて、パン屋を開きました。平成6年のことです。とたんに、不安な気持ちがわいてくるようになりました。失敗するかも。売り場に出せるパンを焼けなかったらどうしよう。それでも、やるって決めたので、とにかく頑張ろうと思って、続けました。本当は、ぼちぼちパンを作ろうと思っていたのに、お客様が来ると、お客様に合わせようと大変でした。わたしがパン屋をやっていけるのだろうかと、思っていましたが、やってみると、スムーズの事業が展開しました。第二期 食材の見直しの時期 平成11年頃から、地元の食材を使おうと意識するようになりました。もともと私は、栄養士として働いていましたが、その時は、話が中心でした。パン屋になってから、「栄養」という言葉で伝えるのでなく、パンという食品のなかで、栄養を取るということをあらわすことを大事に思うようになりました。野菜がたっぷりで、栄養があるよ、ということを形にしたかったのです。卵、野菜類を地元の農家や牧場から仕入れるようにしました。

池松/ このようにパン屋さんの研究を一緒にしまして、パン屋をやっての苦労や、それまでやってきた流れをまとめて報告し合いました。ここでは病気か病気でないかという関わりでパン屋さんと接したわけではなく、1人の町民として、同じ商売をする仲間として、研究をして発表しました。私たちの当事者研究は病気の研究だけでなく、地域、そして日本中に広がりつつあります。ちょっとした苦労でも、苦労があれば何でも研究できますので、ぜひ皆さんも何か苦労があれば、仲間と相談して対策を練って研究する方法を一度試してみると、何かいいアイデアが出てくるかもしれませんね。では、そろそろ時間になりますので、最後、締めたいと思います。吉田さん、もう一曲歌を持ってきてくれたので、最後は歌でしめます。

吉田/ 岡本真夜の「トゥモロー」の替え歌で、「ようこそべてるへ」というのをアカペラで歌います。

病気の数だけ苦労はあるよ
幻聴と付き合う人のように
聞くものすべてにおびえないで
友達できるよ べてるで
突然爆発したり べてるで何があっても
あわててジョークにしても
その笑顔がたくましい
べてるの中ではさぼったり
抱きしめてるおかしとか
べてるに働きに来たら いいことあるから
病気の数だけ苦労はあるよ
妄想と付き合う人のように
かなえるものすべてにおびえないで
友達できるよ べてるで

自主防災活動に関するスライドの写真

吉田/ ありがとうございました。

池松/ ありがとうございました。べてるでは、このように歌ったり、踊ったり、ロールプレイしながら楽しくやっています。べてるねっとというホームページがあります。ひらがなで検索していただければ出てきます。たくさんのべてるの情報が載っています。興味のある方はご覧いただけたらと思います。最後に一言ずつ感想を。吉田さん、秋山さん。

吉田/ 寝不足気味でテンションが下がっているので、みなさんをあまり楽しませられなかったと思いますが、自分は十分に楽しませていただきました。京都に来られてよかったと思います。ありがとうございました。

秋山/ べてるとつながって、いろんな交流する機会とか、いろいろな人に会う機会に恵まれて幸せだなと思いました。今日皆さんに会えたのもよかったし、京都に来られて、べてるの発表ができて、うれしかったです。どうもありがとうございました。

池松/ 私からも。言葉足らずな部分、説明不足な部分など、わかりにくい表現もあったかと思いますが、聞いていただいてありがとうございました。こうやって京都に来たりとか、防災の活動で世界の人とつながれているのがすごくうれしいと思います。これからもDAISYとか、防災活動を続けていきますので、皆さん、防災仲間、DAISY仲間としてつながっていけたらいいなと思っています。ご清聴ありがとうございました。

河村/ まだいてください。どうもありがとうございました。大変楽しませていただきましたし、かみしめればかみしめるほど、中身がにじみ出てくる内容だったと思います。ここで質問を受けます。ご質問のある方は、手を挙げてください。千葉さん。

会場/ 非常に楽しい、興味深いプレゼンテーションでした。いろいろな工夫、方法の中で、そうやって解決するすべがあると勉強させいただき、本当に為になりました。疑問に思ったのは、こうしたユニークな方法、やり方をどうやって発見してきたのか、自分たちで作ってきたのか、という部分に興味がありました。あと、池松さんでしたか、おそらく、こうした取り組みは珍しい取り組みなのかなと思うんですけど、私は知的、精神とかはよくわかっていないのですが、もし、他の施設などからスタッフとしてきた場合、こうした方法が斬新なものだとすると、受け入れることが難しいことがあるかもしれないと思いました。そういったものが、ご自身の経験であったかどうか。それから、日本でこういった活動が広がっているとおっしゃいましたが、具体的にどのように芽が出ているのかをお聞きしたい。

池松/ 4つの質問いただきました。どのように楽しくやっているのか。吉田さん、防災だけではなく、べてるで楽しく活動をやるコツを教えてください。

吉田/ 普通ならみんなで苦労を聞くと下がるのですが、苦労言ったことに苦労しているんだなと笑いが起きるんです。不思議なところで。共感性があるので、そういったところだと思います。

池松/ 幻覚、妄想の苦労も、津波・防災の苦労もそうですが、みんなが苦労を語り合うことで共有して、苦労をただ辛いだけでなく、どのように研究したらいいのか、ワクワクするようなものに変えているんですね。その中では、たくさんの人の協力も必要ですし、防災活動に関しては河村先生はじめいろいろな方に協力をいただき、そのほかの当事者活動でも、町内外を問わず、専門家の方々の応援やアドバイスをいただきながら、みんなでミーティングしながらわいわい楽しくやっています。2つ目の、べてるでの取り組みについて、私自身の経験ですね。

私自身の経験を話すと、私は浦河町の隣にある様似町の出身です。高校も浦河高校で、浦河赤十字病院の隣にあるところですが、そこを卒業し、大学で福祉を勉強して帰ってきて、ソーシャルワーカーとして働いています。私自身としては、子どもの頃からべてるを知っていましたし、大学時代にも、べてるに興味をもともと持っていて、浦河で実習をしたりしていました。私個人としては自分自身も楽しんでやっています。ただ、いろんな考えを持っている方がいるので、べてるの取り組みがもちろんすべてではないことも分かっていますし、いろんな意見を取り入れながら今後もべてるが運営できたらいいなと思っています。もう1つ、日本での活動がどのように広がっているか、べてるでは毎年6月中頃にべてるまつりありますが、秋山さん、べてるまつりと当事者研究大会のことを紹介お願いします。

秋山/ 当事者研究全国交流集会があります。そこでは、全国から障害を抱えた人、そうでない方、いろんな見学者の方が全国から集まってくれて、そこでもいろいろな交流を持ちます。当事者研究全国交流集会は、全国の研究している仲間が集まって自分の研究を発表します。べてるまつりでは、べてるの1年の報告や、「幻覚妄想大会」として、こんなおもしろい幻覚や妄想があったということを発表して、いろいろな賞をもらったりして、みんなで楽しんでいます。

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