地域におけるインクルーシブ電子データ

「マルチメディアデイジー版教科書の活用」

兵庫県LD親の会「たつの子」副代表 山中香奈

講演を行う山中香奈氏の写真

私の子どもは5年生の長男と、2年生の次男の二人ですが、二人ともディスレクシアで文章を読むことが困難です。今回は特に長男についてお話ししてまいります。

発達障害児です。視覚認知にも困難があります。簡単に言うと、視力があって見えているはずなのに見えていない、認識できていないという状況です。長男の発達に疑問をもったのは5歳のころでした。子供たちが走るように上り下りする、保育所の子供用の小さな階段をゆっくりと一歩ずつしか降りれないのがどうしてなのか、絵が描けないのはなぜなのか不思議がいっぱいありました。その後、検査を受けることになりました。視覚的に苦手なこととして具体的にあげると、教科書の中で先生が指摘する部分を探して読む。絵の間違いを探す。人ごみの中で知り合いを見つける。探し物を見つける。文字や漢字、図形などを「まとまり」として把握すること、などがあげられます。また、WISC-Ⅲ検査を受けると年齢と比較すると知識や語彙がやや少なく、ことばの意味で混乱している。文字の読み書きの困難さがあり時間もかかる。線の傾きを正確に捉える事が難しく、そのために、文字の形を正確に再現する事が難しい。短期記憶、特に作業記憶が弱いために、その場で理解し作業を正確にすることが苦手。考えを切り替える事が上手くできず、同じ所で混乱している事がある。など、視覚的なこと以外にも学習する上での困難さがわかってきました。

この絵は長男が療育で使った教材です。言葉のかたまりや線の傾きなどを訓練してきました。小学校の低学年のときは自分の名前も書けない状態でした。書いても鏡文字だったり、さらに回転していたり、どうやったらこんな風に書けるのだろうと思うような字を書いていました。文章を読むときも拾い読みで文節をどこで切るのかも分からず、当然文章内容も分からない状態でした。高学年になっても漢字は2学年下の漢字でも読み書きは不十分で、国語の教科書には常にルビを書き込んでいました。

DAISYとの出会い

2007年11月横浜でのLD学会で、長男が低学年の時期に西宮YMCAでお世話になった西岡有香先生との再会がありました。これをきっかけにDAISYコンソーシアムの河村先生をご紹介いただき、2007年の年末よりDAISYの使用を始めました。もともと自宅にデスクトップパソコンがあったのですが、息子のDAISY用にと新品の黒いノートパソコンが届いたこともあって、息子のテンションはすごく高くなっていました。息子に使い方を教え息子の学習机に置いて、いつでも使える状態にしておきました。2007年の年末のころです。いただいたサンプルに収録されていた「ごんぎつね」は3学期に授業でやることがわかっていましたので積極的に使うように勧めました。年明けになると、奈良DAISYさんが息子にあわせてもっと読みやすいように改良してくださったCDが届き、教科書と同じ挿絵と自分のオーダー通りになっているDAISYに喜び、今まで以上にDAISYで「ごんぎつね」を読んでいました。他の物語も読んだりしましたが、この時1ヶ月くらい「ごんぎつね」を読んでいたように思います。それまでの本読みはひらがなだけであっても、すべて拾い読みだったのですが、DAISYで学習した文章はすらすらと読むようになり、文章の理解も進みました。そして、大嫌いだった「国語」が嫌いではなくなったと言うのです。これには驚きました。「ママ、学校で先生が読んでいる所が分るようになったよ」と嬉しそうに報告もしてくれました。目線がちょっと外れたら、もうどこを読んでいるのか分らなくなる。一度分らなくなるともう元に戻れない。しかも、内容の理解も乏しく、先生の説明も質問もあまり分からない。そんな状態での国語の授業は理解できなかったと思います。国語嫌いになるのも当然だったと思います。

ところがDAISYでの学習を始めてから目線を外しても、またどこを読んでいるのか探し出せるようになっていきました。このことは私以上に息子が驚いていたようでした。DAISYでの学習で特に思うことは、息子が自分で学習する事ができるようになった…ということです。息子は学年相当の漢字が読めないし書けません。小5ですが小3の漢字でもあやふやです。今までは、教科書が新しい単元に入ると漢字に振り仮名を振る作業をしないといけませんでした。それは、必ず親が指導しないといけない作業です。振り仮名を振りながら、本を読ませて読み間違いを指摘して一緒に読み進めていく…。とても時間のかかるものでした。ところが、DAISYを始めたらその作業がいらなくなったのです。これには本当に驚きました。

ディスレクシアの息子が、どうしてDAISYを使うとよく分かるのでしょう。息子の様子を観察してみました。先にお話ししたように息子には視覚の問題も大きいのですが、どこを読んでいるのか分からなくなるという困難があります。文意を理解しながら読んでいるわけではなく、目の前にある文字を読んで音声にしているだけの本読みですから、行がずれても文字を飛ばしても気がつかない状態です。だから、DAISYは今読んでいるところをハイライト表示してくれるから、常にどこを読んでいるのか分かる。DAISYは自分で読む労力から開放されることで内容理解が容易になる。息子は文字を見て、それを音声化することが特に苦手なので「読む」という作業に労力を使いすぎてしまいます。読み終わっても文章内容はまったく分かっていません。覚えていないという方が適切かもしれません。しかし、マルチメディアDAISYは常にハイライト表示の箇所を読んでくれています。どこを読んでいるのか分からなくなるということはありません。

「国語学習での様子について」 小学校4年生当時担任教諭より

これまで「教科書」を使って「文」を「読む」という活動に不安があり、例えばその都度ふりがながないことや、目の当たりにした文章の多さに戸惑う事も多かったように思われる。4年生2学期の「一つの花」の学習では、家庭学習で事前のふりがな打ちや予習読みを行って授業にのぞんでいた。国語の学習に参加する事についてはそのようなサポートもあったが、読み取りや感想の記入は、ノートやワークシートに2行程度のことが多く、内容も、「○○が~~していたね」という具合に、話し言葉の文体での記入が多かった。

家庭でDAISYによる学習(予習)を導入後、「ごんぎつね」の授業を開始した。開始前から「いつから始まるの?」と、授業のスタートを気にする姿があった。これまでの国語学習ではなかった事である。本教材では、主人公「ごん」の気持ちに寄り添い、「ごん」になりきって場面ごとに気持ちを読み深めていくことをねらいとしていた。授業ではワークシートの「ごん」の挿絵に「ふきだし」をつける形で、「ごん」の気持ちを出し合っていった。これまでより明らかに意欲的だったのは、その書き込み量と発表回数である。事前の家庭学習で、自信をもって教材にあたれたことによって、周りの児童が参考に出来るような深い読み取りをいくつも発表できた。また、何度も発表することで、自分の意見が周りの児童の意見とつながったり、周りへ広まったりする「発表や意見交換の楽しさ」にも気付くことができたようだ。

個別の学習で自信を得て、それが認められるフィールド(学級)があることで、さらに効果的な歩みになったのではないかと推察される。さらに、ワークシートに書き込んでいった内容も、例えば、「~したときのお父さんの気持ちを、お父さんになりきって書きましょう」と言う発問に対して、「お父さんはかわいそうだったんだね」というように、問いと答えが不一致な事が多かったが、「ごんぎつね」の学習では、「ごん」のことばを想像し、書くことができるようになってきた。作品に触れる(読み返す・聞き返す)回数が増えたことが、作品や主人公に感情移入できることにつながったのではないかと考えられる。

講演を行う山中香奈氏の写真

この写真は担任の先生が驚いたごんぎつねのワークシートです。見えにくいかもしれませんが、主人公ごんに多くの噴出しが書き込まれています。「ごんぎつね」に関しては予習期間が長かった事と、お話しの内容を気に入った事など、プラスの要素がたくさんあったせいかもしれませんが、物語のあらすじも、主人公の心情理解までもしっかりと理解していたように思います。このようなことは今まではありませんでした。しかも、それは音読にもあらわれており、セリフには抑揚までつくようになっていました。

ここにあげた以外にも色々あるのですが、ある日、息子に「DAISY使ってどう思った?」と聞いたとき、「僕、DAISYがあったら何でも読めるのにな。な~んでもっと色んなDAISYがないの?」と言われました。私は息子が読みたいと言っていたハリーポッターが借りたくて、点字図書館へ電話をしてDAISYが借りれないか聞いてみましたが、そこでは借りる事が出来ませんでした。またある日、「DAISYやってなんか感じることあった?」と聞いたとき、「僕は国語大嫌いやったけどDAISYあったらな、先生の言っていることがわかるようになったんやで。先生が質問している事がわかるねん。ほんで、答えられるねんで。僕はみんなみたいにはできひんけど、DAISYあったらできるんやなって思ったわ」私はこのことばを聞いたとき、例え学習障害でもディスレクシアでも勉強が嫌いなのではなく、「わかりたい」という気持ちをもっていて、わかるためのツールさえ見つければ、学習意欲や自己肯定感の向上を促すことができると思いました。

DAISYの学習を始めてしばらくすると、読める漢字が増えてきていることにも気が付きました。漢字に興味をもち、ドライブ中でも看板の文字を読むようになってきている息子を見て、DAISYの効果を感じました。さらに、去年秋ごろサンプルでいただいた「走れメロス」のDAISYをものすごく気に入り、毎日枕元にパソコンを持ち込んで、寝るまで「走れメロス」を流していました。ある日、学校の図書館から本を借りてきていました。よく見ると「走れメロス」でした。後日、息子に本屋に連れて行かれた主人は、「走れメロス」を買わされていました。息子が本をねだったのはこれが初めてのことでした。息子は本当は本が好きだと実感した一件です。

これは息子を見ていて感じたことですので、一例だと思ってください。DAISY教科書での学習は物語から始めるのがとても効果的だと思います。教科書には説明文も数多くありますが、そこを飛ばしてでも、子どもが興味を持って文章に惹かれるような教材を優先させ、最初は特にたっぷりと時間をかけて予習として使うほうがいいと思います。まだ学習していない漢字が盛りだくさんな状態であっても、まず聞くことから始めるので漢字が読めなくても構わないのです。この時はまだ音読をするのは早いと思います。音声のスピードに無理に合わせて音読しようとすると、うまく読めないことに気がいってしまって、やっぱりうまくできないと思ってしまうことがあるからです。聞くことをメインに何回か学習していくと、そのうちハイライト表示されている箇所を音声にあわせて目で追えるようになります。DAISYの音声での読みが先に頭に入っているので、未学習の漢字を知らないうちに読んでいることに気がつきます。

息子を見ていると、漢字が読めるようになってくると音声を消して、画面をみながらハイライト表示を追いかけて自分だけの声で読んでいました。逆に本を開いて音声で教科書を目で追うこともします。DAISYを使う事で自分なりの学習が、親の手を借りなくてもできるようになってきていたのです。この変化には驚きました。今までの姿からは想像もできないことでした。高学年の子どもにはありがたいことで、これはすごいことだと思っています。人それぞれ使用方法はあると思いますが、息子の場合はかなり有効な使用方法だったと思います。ぜひご参考にしていただけたらと思っています。

私の所属している「たつの子」でも二十数名の子に使ってもらいました。DAISYの教科書を提供してくださいました日本障害者リハビリテーション協会さまにアンケートにいっていると思いますが、数点、ご紹介させていただきます。

高汎性発達障害でADHD傾向の小学校1年生男児のお母様からです。もともと本は好きであったが、DAISYを通して声を出して読む楽しさを知ったようで音読が大好きになった。宿題の中でも一番に音読に取り組むようになった。ハイライトが入っていることで集中力が増え、読み飛ばしが少なくなった。視覚と音声で入ってくるので集中して聞くようになり内容の把握も進み、内容の質問に対する回答もスムーズになった。読みがスムーズになり、はっきりと抑揚のある声で読めるようになった。読むことに自信を感じているようだ。読み間違えた個所を再度音声で確認することで、次から読み間違えが少なくなった。文章をあっという間に覚えてしまうようになった。

講演を行う山中香奈氏の写真

アスペルガー障害でLDの小学校5年生の男児のお母様からです。本読みの宿題が出たときの使用で週3日程度。今までは、テストで文章を読まずにとんちんかんな答えを書いたり、説明に手をつけず空白のままだった。少しずつ変化が現れたのが2-3か月前。ほとんど空白のないテストを持って帰ることが多くなった。文章を読んで書いているのがわかるようになった。ここ1か月は算数、国語、社会のテストで80点以上を採ってくる回数が増えた。DAISYを使用することが文章の内容を理解することを手助けしていることは間違いないと感じている。最近、自信がもてるようになったのか宿題をすることをあまりいやがらなくなった。学校の授業も以前よりも集中して聞けているとのことです。

小学校2年生男児のお母様からですが、これはお子さんの声をそのまま書き取っているので、うまく表現できるかわからないのですが、去年の9月24日に使った感想です。

「黄色いところがあるやんか、しゃべるし、読むところがわかるやんか。違うとこ飛ばしちゃう、読むとことばしちゃう、途中でぼっとしてわからなくなっちゃうやんか。だからDAISYのほうがいい」と言っているんですね。方言なのでわかりにくいかもしれませんが、本人は感動して、驚いているような雰囲気でしゃべっています。1月28日には、「初めての時はわからないから、一緒に読んでくれるのがいい。先にDAISYが進み、ストップをかけて自分が読むという方法で使用しているということです。

以上です。ありがとうございました。

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