地域におけるインクルーシブ電子データ

家庭と通級における、学習障害児に対する「読み」の指導:
豊かな音読文化の再生にむけて

浜松市立神久呂中学校教諭 矢田勝

講演を行う矢田勝氏の写真

1.家庭におけるDAISYを使った「読み」の効果的な指導の提案 ―中学生の事例から―

  • 1)なぜ、毎日、続けられるのか。それは、それまで分からなかった授業が分かるようになるため。
  • 2)授業が分かるようになると、授業の中でも意欲的に発表できるようになる。
  • 3)授業が分かるようになると、ノート記入もはかどり、ポイントもつかめる。
  • 4)3段階視聴方法(後述の「感想文」参照)に加えて、ポーズを利用した「連れ読み」を試みたい。
  • 5)DAISYの「音読」に「表現読み」のお手本となるような読みを入れる。
  • 6)基本は、予習で活用。復習では、2倍速でも可能か。・・「速聴」機能の活用。
  • 7)国語のDAISY教科書のみであっても、他の教科、読書への汎化につながる。
  • 8)係活動や部活動などに、熱心に取り組む中で、授業中に困ったときに助けてくれる友だちができてきた。授業での意欲的な発表を支える自信が生まれた。教師も周りの生徒も、がんばりを認め合う学級文化の中で、自尊感情が育まれていった。
  • 9)DAISYのハイライト部分の手本音読は、視覚・聴覚の短期記憶の弱さを持つ生徒にとって、読みの場所を目と耳から示してくれる。
  • 10)WISCⅢの言語性検査の内、聴覚短期記憶を示す部分以外の、下位検査「知識」「類似」「単語」「理解」のすべての項目の粗点が向上している。動作性検査の内、「完成」以外の下位検査では、粗点が、すべての項目で向上、もしくは高得点をとっている。これはDAISY機能の活用による音読の成果と考えられる。(後述の「数値変動の抜粋」参照)

2.通級におけるDAISYを使った「読み」の効果的な指導の提案

  • 1)小さい声でしか、音読できない生徒に、スクリーンを使った拡大文字を、通級教室の後ろに立って小音量のDAISY音声とともに、大きな声で音読させる。教師はスクリーンの横に立ち、聞こえるか判定し、励ます。
  • 2)意味内容の理解は、音読から。すべての教科の教科書の音読に挑戦させる。読みの正確さと流暢さは、読み障害の2大ポイント。これらをクリアさせるのが音読。音読を担保する補助輪の役割をDAISYが果たしている。音読を十二分にやらせないで、要点や心情の理解を求めるのは本末転倒ではないか。
  • 3)文字音読と文章音読   文字音読は漢字カードで。文章音読はDAISYで助走。
  • 4)音読は、学校では、教師と生徒の連れ読みから。 家庭では親と子どもの連れ読みから。
    • 読みの区切りは、分かち読み→句読点読み→句点読み→段落読みで。
    • 正確で流暢な読みへの接近は、同時処理能力を鍛える。
    • 逐語読みでは、目で見ている文字を声に出して読む。
    • 流暢な読みでは、声に出している文字よりも、その先の文字を目で確認し、瞬時にひとまとまりの文章として読む。統語力である。これが育っていって、文章理解力が備わってくる。
  • 5)1回1ページだけ。10分。毎日の習慣にする。音読を宿題に出し、音読カード(「大きな声でゆっくりと」「句読点に気をつけて」「様子や気持ちが分かるように」という3つのレベルで点検)で褒めて確認。
  • 6)小学校で音読する習慣をつけていき、中学校につなげる。中学校の教師は音読の宿題をほとんど出さないようだ。そこで、中学になるととたんに分からなくなる。音読でつかえたところが、分からないところ。そこを、教師や親がサポートする。
  • 7)正確な読みは、理科、社会、数学の教科書の読みで。論理的な思考力を養う。
  • 8)正確な読みができたら、表現読みへ。ゆっくりと、声を変えて、登場人物になりきって。
  • 9)1段落の読みの中でも、キーワードを探して、短期記憶の小テストをする。内容理解ができているかが確認できる。通級している多くの生徒が分担してパソコンに向かい、テキスト作りをしている。各教科で試みたい。
  • 10)統語力が弱い生徒には、文節・句点・段落等の境に筋を記入させる。または、まるで囲ませる。
  • 11)音読が繰り返される内に、次第に暗唱ができあがってくる。

3.まとめ音読文化の再生に向けて

  • 1)音読の軽視は、教科書の軽視。教科書をじっくり読むことで、内容理解が深まる。
  • 2)テレビゲームを消して、教科書音読。DAISY教科書音読。
  • 3)読み障害とDAISY教科書は、視力障害と眼鏡のようなもの。
  • 4)読みの改善と書字の改善の関連についても考察を進めていきたい。中学生になって、興味のある歴史の授業のノート取りがうまくなっていった。
  • 5)通級生徒の課題軽減と自尊感情の高まりの実例を増やしていき、通常の学級での音読文化を再生させる。通常の学級でもDAISY教科書を活用した試行をやっていきたい。

「本人の2年半のDAISY活用についての感想文」

平成21年2月4日聞き取り。平成21年3月27日補充。いずれも本人と母親から聞き取る。

<DAISYを使っての、本人の感想文>

① <使用期間> 小5の1学期から開始。 国語の小5,小6の教科書の全てと、算数の一部(概数部分のみ)。中1国語の教科書も1学期分は使用。慣れてきたら、他教科を予定していたが、実施せず。

② <DAISY作成者> H大学のS先生に作成していただく。

③ <視聴時期> 家で、夕食後に、毎日15~20分は聞く。主に予習として。なお、その単元での授業が実施されている間は、予習・復習を兼ねて使用。単元テストの前には、復習(テスト勉強)として実施。休日は、3~4時間、聞いていることがある。

④ <視聴方法> 毎回の視聴方法としては、3段階で行う。最初は、2~3回聞く。次に一緒に読み、最後は、音をだんだん小さくして読む。

⑤ <視聴速度> いつも自分が読むスピード(ゆっくり目)。*遊びで、「ナイチンゲール」のところを、2倍速で聞いてみたが、何回も聞いた後だったので、内容がよくわかった。

⑥ <黄色帯(ハイライト部分)の長さ> 最初は短かったが、次第に、長くしてもらう。

⑦ <DAISY活用の結果>

<1> 学習内容理解の変化について

■分からなかった学習内容が、何回もDAISYを視聴することによって、だんだん分かるようになっていった。■10数回視聴し、音読していると、次第に暗唱できてしまっていた。
そこで、■学習内容を理解し覚えることができた。■学校で、指名されて、個人で音読する時、すらすら読めた。読む場所が不確定なときは、周りの級友がそっと教えてくれた。■テストでは、漢字を覚えることが良くできた。■テストの中での質問にも、正しく答えることができた(ただし、単元テストの時には、先生が問題文を読んでくださった)。テストの点数も上がってきた。

<2> 学習態度の変化について

■小3のころ、授業内容が分からないことや、他地域からの子も多くいたので、友達との関係が思わしくなく、10回以上教室を抜け出した。授業中の発表は1回もしなかった。T小のことばの教室に通級開始。■小4のころ、他地域の子は新設校に移り、近所の子だけの少人数の学級となった。新設されたK小のことばの教室に通級開始。学級も落ち着きを取り戻し、教室抜け出しは1回に減る。授業中に挙手し発表をはじめる。3学期に通級にてWISCⅢの検査をする。■小5、6で、S先生による国語のDAISY教科書の供給を受けることになり、授業内容が次第に分かるようになり、授業中の発表数が多くなる。DAISYを使うようになってからは、音読の時間は、少しも嫌ではないようになった。色々と助けてくれる友だちができてきた。

<3> 本を読むことが好きになる。

■DAISY使用以前は、本は好きではなかった。ところが、DAISYを使うようになって、本を読むことが好きになった。■始めは、マンガの本だったが、徐々に、小説を読むようになった。たとえば、ディズニーアニメの小説版や、少女向けの青い鳥文庫の「若おかみは小学生」など。「本が読めるようになったね」と友だちからも言われて、うれしかった。また「なぜ、うまくなったの」とも聞かれた。教科書を読んでくれる機械を使うようになってからだと答えた。家に遊びにきた友だちに機械を見せたら、私も使いたいと言っていた。

講演を行う矢田勝氏の写真

⑧ <DAISY中断とその影響>

中学1年生になっても、国語の教科書のDAISYを作っていただいていたが、夏休み明けからS先生のご都合もあって、中断となった。その結果、国語の時間に、どこを読んでいるのか、分からなくなってしまった。また、漢字が読めなくなり、音読の時、つっかかってしまうことが多くなった。定期テストでも、漢字が読めないので困った。問題は先生が読んでくださるのだが。

<本人の、新しいDAISYについてのお願い>

⑨ 漢字のふりがなは、あるものと、ないものと2通りがあるといいです。(なお、先日、頂いた自動ルビ機能は、とてもありがたいのですが、黄色の帯の幅が広くなり、他の行の文章が一部見えなくなるところがでてきました。直して頂きたいと思います。)

⑩ スピードは、特に英語が速いのでゆっくりできるものをお願いします。

⑪ 英語は、英文の日本語訳も付けてください。また、1文と1文の読みの間隔を開けていただき、DAISYの発音の真似ができる時間の確保ができる部分も作ってくださるとありがたいです。(これも、作っていただきました。ありがとうございます。でも、本人としては、どうしても一緒に読むやりかたが馴染んでいるので、つい、一緒に読んでしまいます。)

⑫ 数学は、問題の解き方もわかるような説明文もDAISYでお願いします。ただし、算数の基礎が出来ていないので、小学校の九九のところからの教科書が欲しいと思います。

「本人が京都の2月7日の会議に参加したときの感想文」

京都では、とても お世話になりました。 ありがとうございました。

(1)Rさんのお話をうかがって思ったことは、私の感じていたことと、よく似ていると思いました。たとえば、

  • ① デイジーがないと本読みをしたくなかったこと。
  • ② デイジーを使っていたら、国語の学習内容がよくわかるようになったこと。
  • ③ 授業で、先生や友達が読んでいる所がわかるようになったこと。
  • ④ 本が読めるようになり、本が好きになりました。

(2)マイ・リンちゃんのお話をうかがって思ったことは、

  • ① 教科書を、パソコンの横に置いてデイジーをやっているのを見て、驚いたことです。というのは、私には、同時に2つのことはできないからです。また、マイ・リンちゃんからのメッセージを聞いて私も頑張ろうと思いました。

(3)その日の夜、懇親会で楽しかったことは、

  • ① 子どもたち、みんなで集ってお話しをしたことです。好きな音楽のことや、曲当てクイズをやりました。

最後に、京都で、いろいろな方にお目にかかって、楽しかったことだけでなく、同じように頑張っている仲間を見て私も頑張りたいと思いました。また、来年も会いたいと思いました。

平成21年3月4日

「本人の心理検査WISCⅢ下位検査から見えるDAISY使用期間前後における数値変動の抜粋」

下位検査の数値[テスト相当年齢]の推移(DAISY使用直前の小4と、2年間使用した後の中1で実施。)

■ 言語性検査

  • 「知識」(2年分上昇)。・・・・・・基礎知識の充実。教科学習内容を長期記憶として確保。
  • 「類似」(2年4月分上昇)。・・共通点を言葉で述べる力の向上。
  • 「単語」(4年8月分上昇)。・・・別の言葉で言い換える力の向上。
  • 「理解」(4年分上昇)。・・・・・社会常識を言葉で述べる力の向上。

@「算数」「数唱」は、共に伸び悩んでいる。・・・・いずれも聴覚短期記憶が伸び悩んでいる。人の話を聞いても覚えておく力が弱い。

■ 動作性検査

  • 「符号」(4年分上昇)。・・・・・視覚短期記憶能力は弱いが、かなり伸びている。
  • 「配列」(同一)。・・・・・・・咄嗟の判断力は高2水準を確保。
  • 「積木」(2年分上昇)。・・・・・手本をみて図を学ぶ力は弱いが伸びている。
  • 「組合せ」(3年8月分上昇)。・・手本なしでも絵を組み立てる力は強くなっている。
  • 「記号」(8月分上昇)。・・・・・・視覚短期記憶能力は弱いが、伸びている。
  • 「迷路」(3年分上昇)。・・・・・・図で先を見通す力は弱いが伸びている。

@「完成」は、伸び悩んでいる。・・・・・・・・・・注意深く見みる力は伸び悩んでいる。

menu