講演「アメリカにおける図書館サービスとDAISY規格について」ジョージ・カーシャー

DAISYコンソーシアム事務局長、RFB&D(Recording for the Blind & Dyslexic)、IDPF理事、NIMAC

ジョージ・カーシャー

講演を行うジョージ・カーシャー氏の写真

アメリカにおける図書館サービスネットワークとDAISY規格について話をします。アメリカには3つの図書館があり、1つは議会図書館です。これは視覚・身体障害者のための国立図書館です。もう1つがRFB&D(盲人録音図書館)で、もう一つがブックシェアです。

まず視覚障害者のための図書館から話しましょう。これは議会図書館に内設されています。視覚障害者、ないしは身体に障害があり問題を抱えていることが証明される人は無償で使えます。そのためには医師の診断が必要です。ここは50万人近いユーザーがいます。無償でプレイヤーが提供されます。すべての人に対して無償です。今現在はまだ古いカセットプレイヤーが使われていますが、来月からDAISYプレーヤーが配布されます。毎月2万台が提供されます。日本のプレックスターという会社が提供しています。出荷が既にはじまっていますが、今後が楽しみです。

議会図書館は、専門の音読者を使っています。有償でナレーションをやっていて、非常に質の高いすばらしい声の録音図書になっています。毎年2000タイトルほど新たにつくられています。いま現在、1万3千タイトルが蔵書として存在します。いま現在は主に高齢者が多いです。若い視覚障害者の数は非常に限られています。しかし、ほとんどの人たちは年を取るにつれ、目の問題を抱え失明するケースが出てきます。そういう人たちがサービスを利用しておりますから50~80代、90代や100歳以上の人もいます。素晴らしい図書です。DAISYですし、見出しのナビゲーションもあります。ページ数はでませんが、学生対象の教材ではなく、あくまでも人生を豊かにするための図書です。また専門誌、雑誌も含まれています。

次に、視覚障害者そしてディスレクシアの人のための録音をしている、Recording for the Blind & Dyslexic(RFB&D)、ここは民間の慈善団体です。多少は助成金がありますが、ほとんどは寄附金です。教材を中心に製作しています。ここは60年以上の歴史を持つ組織です。5年前、ここからDAISY図書をCD-ROMで製作し始めました。現在は4万3000タイトルが存在します。毎年7000タイトルほど作っています。これらを約10万人の学生に配布しています。利用するにあたり、登録制です。配布に際しては、先ほどの議会図書館やブックシェアと同じような形で配布をしています。従って著作権法の例外規定が適用されています。今のところ、音声つきDAISYがフルナビゲーションで提供されています。ページ数も含まれています。もちろん学生は本を沢山読むため速く検索しなければなりませんので、DAISYのこのような機能が備わっているということは非常に役立ちますし、評判も高いです。

教科書は非常にグラフィックが多い上に、情報がかなり豊かです。単なるテキストではなく、グラフィックも非常に多いので、ボランティアを使ってグラフィックスの記述を行っています。そのためには記述ボランティアが必ず中身が分かっている人であるという確認のためにテストを行います。そして専門分野の学位を持っていることが確認されれば、その内容に関して録音をしてもらいます。例えば物理学に関する本であれば、理科、科学の先生が起用されます。数学ならば、数学に通じた人がナレーションをしますので、そのような専門知識がなければ、朗読を行えません。これがRFB&Dという組織のやり方です。毎年7000タイトルほどがつくられています。アメリカでは新刊が毎年30万冊ほど出てきています。が、例えば、議会図書館では、毎年2000冊、またRFB&Dが年間7000冊の新しいタイトルを出していても、まだまだ数が足りません。

RFB&Dはこういった教材を幼稚園から高校3年生18歳まで提供しています。けっこういい仕事をしていますが、その6割は大学レベルの教材です。それでもなおかつ、数は足りません。高校3年生まではある程度の本が用意されていますが、大学に行きますと、必要な本の数が圧倒的に増えます。したがって、大学レベルでは、自分たちに必要な本がなかなか手に入らない現状があります。先ほど、ジムと美香から、毎年、数百タイトルをつくっているという話がありましたが、RFB&Dやブックシェアの仕事では図書が足りないためです。

さて次にブックシェアですが、ここは障害者対象の最も新しい組織です。それほど年数はたっていません。定かではありませんが、7~8年前にできたと思います。ジム・フラクトマンが創立者です。彼はアーカン・ストーンという会社の創始者です。アーカン・ストーンを売って、幾つかのサービスを提供する組織をつくりました。そのうちの1つが、ブックシェアです。アーカン・ストーンでは相当数のスキャナーを売っていたという実績がありましたので、例えば1人で5000冊、スキャニングをしたという視覚障害者の話を聞いています。そのスキャンしたテキストを他の人達に提供をしていいかという問い合わせがあったとき、勝手に提供すると違法行為になります。そこでブックシェアではジムが個人的に知っていた視覚障害者に連絡を入れ、彼らから本を譲ってもらい、ブックシェアを介して本の配布を始めました。当初は草の根サービスからスタートしました。

例えば、小説などは、かなりスキャニングはうまくいきます。一方、教科書は非常にグラフィックが多いだけに、ないしは、科学的な内容のものはスキャニングには向いていません。したがって、ほとんどジムがブックシェアで手にした本は「人生を豊かにする図書」など、簡単にスキャニングできるものばかりでした。一方、教科書は非常にスキャニングが難しいという問題がありました。ブックシェアは、テキストオンリーです。録音音声はありません。RFB&DはオーディオとDAISYナビゲーションですが、ブックシェアはテキストだけで音声はありません。ブックシェアでは支援技術を活用しています。つまり、障害者は読むための支援技術を活用しています。CD-ROMは使わず、最初からダウンロードですがテキストオンリーの小さいものですので、録音図書と比べてダウンロードは比較的速くできます。よって、様々なテーマを扱った内容になっています。教育だけではなく、人生を豊かにする図書などもあります。昨日、質対量の話を少ししました。ブックシェアは、お金をかけて質の高い本とそうでない本との弁別を始めています。図書コンテンツの質の格付けをしているところです。もう1つ、ブックシェアとRFB&Dはいずれも、議会に働きかけ法律を可決させるなど、我々は直接出版社からいろいろな材料がもらえるよう働きかけをしているところです。

講演を行うジョージ・カーシャー氏と盲導犬・マイキーの写真

アメリカにおいて議会図書館は、視覚障害者、身体障害者を対象にサービスを提供しています。が、これは高齢者が中心です。RFB&Dは教育関連が中心です。RFB&Dとブックシェアは学生の審査において、同じ基準を使っています。それは、議会図書館よりも簡単な基準です。いずれの組織も資格のある人というのは、自分は障害があり、標準的な印刷物を読めないということを書いた紙にサインしてもらうだけです。議会図書館は医師の診断書が必要です。ディスレクシアないしは学習障害の人たち、例えば精神科医に、身体に問題がある場合、身体検査を受けるのは非常にお金がかかります。学校側でお金は出せませんので、RFB&Dやブックシェアは医師でない人が検査をし、障害を確認する方法をとっていますが、それに対しては賛否両論があります。

ブックシェアは元々、NIMASフォーマット、全国指導教材アクセシビリティ標準規格にもとづいて教材を提供していますので、法案が通ったので、幼稚園から高校3年生にいたるものまでをDAISYフォーマットで作るようになりました。これはXMLテキストです。ナビゲーション録音ではなく、テキストだけなのですが、これを受けてブックシェアはDAISY版をつくっていますが、人の音声はありません。170ぐらいの本が既に変換されています。全部で1万3000あるうちの170が終わっています。そしてRFB&Dはこれに応じて音声をつけます。TTSないしは肉声のナレーションによって加えます。RFB&Dは10歳までの対象図書はTTSでなく、肉声をつけたほうがいいと決定しました。生徒が十分に内容をわかるためには合成音声ではダメで、小学校3年生のものまではすべて肉声になります。

RFB&Dや議会図書館は非常に古い組織です。一方で、ブックシェアは新しい組織ですので、もっと進歩的な取り組みをしています。例えば議会図書館は、暗号化によって、本を保護しています。従って本を手にした場合、それに合ったプレーヤーがないと聞くことができません。この認証を受けているプレイヤーは少ないのですが、来月からは無償で提供されるようになります。その他、ヒューマンウェアのストリームが1つですが。プレクスターのポケット版も数週間以内に承認されると思います。あと1つ2つ、プレイヤーが使われていると思います。

RFB&D、ここも暗号化技術を使っています。DAISYタルライツマネジメント、この中には特定の本、PDTBがあり、これを使っています。もっとも近代的な考え方を持つブックシェアは暗号技術を使っていません。これを使うと正当な利用者が排除される可能性があるという考えのもとに使っていません。が、一方で出版社はブックシェアを危惧しています。「やめろ」とまでは言っていませんが、出版社側としては、この点を多少懸念しています。暗号技術を使わないために、障害のない人たちの手に渡ってしまうのではないかと心配しているのです。ブックシェアは代わりに、ウォーターマークを使っています。電子透かしです。障害のある人だけが利用しています。ブックシェア配信であると確認するためです。もう1つ、フィンガープリントがありますが、その人の身元の確認をします。その本がその人を対象に、ダウンロードされていると。その人の名前が本についていますので、万が一ほかの人に渡した場合、わかってしまうというのがフィンガープリントです。

パネルディスカッションの登壇者の写真

将来的に出版社の協力を得て、今現在は議会図書館、RFB&D、ブックシェアと出版社の関係は決して良好ではないのですが、法律ができて出版社と協力できることを期待しています。ブックシェアは出版社に働きかけをし、協力も呼びかけています。今現在、出版社からNIMASだけではなく、この個々の契約に基づいて本を提供してもらい、ブックシェアから提供できるようにしようとしています。海外のものにも興味を持っていますので、他の国々とその種の契約を結ぶこともしています。コレクションの一部はパブリックドメインなので、世界のどなたでもダウンロードしてもらえることもできますね。

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