―主にロービジョンの支援機器について― 准教授 氏間和仁

24th Annual International Technology & Persons with Disabilities Conference 参加報告

―主にロービジョンの支援機器について―(特別支援教育講座)

福岡教育大学教育学部 准教授 氏間和仁

2009年3月16日から21日にかけてロサンゼルスのLos Angels Airport Marriottホテルを拠点に開催された。この会議はCalifornia State University Northridge(通称CSUN)が毎年開催する支援技術・機器や規格等に関する国際的な会議であり、最新の支援機器やそれにまつわる研究等が一同に会する点で支援技術に携わる者にとっては興味深い場である。その中で特にロービジョンの支援機器に関する内容について概括する。

1.拡大読書器について

据え置き型の拡大読書器は液晶ディスプレイを利用した形式が一般的となり、画面の大型化や高精細化、アームによるディスプレイの位置のフレキシビリティの向上、PCなどの外部入力や遠用の拡大機能の装備などが共通してみられた特徴であった。近用においても画像の高精細化や遠方画像の取り込み、画像の保存などが共通して見られた特徴であった。中でもユニークなものをいくつか取り上げる。

下図はOptelec 社製のClearView+という拡大読書器である。据え置き型で液晶ディスプレイを表示装置にした一般的な拡大読書器の形式である。下図の左の写真はオプションを取り付けて操作系を覆い隠しバーコードリーダー機能を持たせた状態である。ClearView+はこのようなオプションを取り付けることで、左端の写真に示したようなバーコードを刷り込んだコントロールカードを拡大読書器のカメラに写し、それを読み取らせることで操作する形式をとることができる。つまり、40 ポイントというコントロールカードをClearView+に写して、それを本体が認識すると、印刷された文字の大きさによらず画面に映る文字サイズが40 ポイントに調整されるといった具合である。ClearView+は下図の真ん中の写真のようにディスプレイが90 度回転して縦長にできる。ディスプレイを縦長にすると当然画像は反対に90 度回転され普通に読むことができる。また、その右側の写真のように眼前までディスプレイをせり出すことができる。ディスプレイを回転させたりせり出させたりすることができるのは液晶タイプのディスプレイで軽量化されたことのメリットの一つであろう。ClearView+はディスプレイの仰角と水平角の両方を操作することができるのも特徴の一つである。

Optelec 社製のClearView+(据え置き型拡大読書器)の写真:

ClearView+の写真:ディスプレイを90度回転して縦長にした状態

ClearView+の写真:眼前までディスプレイをせり出した状態

下図はELMO 社製のVuHorizon VH-9である。スタンダードな形式の据え置き型拡大読書器の一つである。VH-9は左の写真にあるように、網膜色素変性症の人に対応するために低倍率の画像も鮮明に映すような配慮が施されている。真ん中の写真のようにディスプレイをせり出して仰角を操作することができる。また、操作盤は手前に配置され操作性を向上している。操作盤にはホールド機能が付いており、御操作を防ぐ工夫も施されている。XYテーブルにはX側とY側の台のそれぞれに持ち手がついており、テーブルの操作性の向上を遂げている。

ELMO 社製のVuHorizon VH-9(据え置き型拡大読書器)の写真:

VH-9の写真:ディスプレイをせり出して仰角を操作する。

VH-9の写真:操作盤は手前に配置され操作性を向上している。

下図はsight enhancement systems社製のWatCamという拡大読書器である。写真をみて分かるとおり10cm四方程度の大きさで、650gと小型軽量であり、オプションにキャリングケースが用意されていることからも分かるとおり携帯型拡大読書器の一つである。WatCam は遠方と近方の両方を映し出すことができるタイプの拡大読書器である。写真の左側が近方を映す状態である。真ん中の写真で分かるとおり、出力は、USB、VGA、コンポジットを備えており、映像をPC、コンピュータ用ディスプレイ、一般のテレビに映し出すことができる。このように、今回、拡大読書器で表示装置としてPCを用いたものを多く見かけた。写真の右側が遠方を写す状態である。右側の写真ではWatCam の正面に丸い部品が見えるが、これは近方を写すときに取り付けていた凸レンズである。操作系は全て本体に備わっており、大きく、配色と形の異なったボタンで視認性の向上が施され、快適に操作ができるようになっていた。

sight enhancement systems 社製のWatCam(携帯型拡大読書器)の写真:

WatCamの写真:出力は、USB、VGA、コンポジットを備えている。

WatCamの写真:遠方を映す状態

下図の写真は、APH 社製のMaximEyesという据え置き型拡大読書器の一つである。この拡大読書器にはマウスが取り付けてある。このマウスの役割はカメラの位置を移動させることである。つまりマウスを前後左右に動かすと、本体に取り付けられたカメラがマウスの動きと同調して移動する機能が特徴的である。写真の右側と左側とでは液晶ディスプレイの奥に取り付けられているアームの位置が異なっていることが確認できる。これは、マウスを左から右へ移動したのに同調してカメラが左から右へ移動した結果である。

APH 社製MaximEyes(据え置き型拡大読書器)の写真:この拡大読書器にはマウスが取り付けてある。

MaximEyesの写真:マウスを左から右へ移動したのに同調してカメラが左から右へ移動した結果

下図の写真はOptelec社製のFar Viewという携帯型拡大読書器の一つである。Far Viewは通常の近方の拡大読書器と遠方の拡大読書器の両方の機能を備えている。通常の携帯型拡大読書器としても使えるが、Far ViewのコンセプトとしてPRLの活用が挙げられる。Optelecのセッションで聞いた話であるが、通常の拡大鏡や近方の拡大読書器は読書中機器本体が移動するのに同調して視線を移動する必要があり、中心暗点などがありPRL を活用して読書しなければならない人にとっては苦労があった。そのため、画像を取り込んで、取り込んだ画像を画面内でスクロールして利用する、新たな携帯型拡大読書器の活用法を提案した機器である。確かに、写真右手にあるように取り込んだ画像に対して行の右端と左端を指定することができ、取り込んだ画像を拡大してスクロールさせながら読書すると、行末の右端のラインで自動的に行替えする機能があるなど、視線の移動や、取り込んだ画像の活用法について検討がなされた機能が取り入れられた仕様になっていた。このような近方用の活用のみならず、遠くに示されている時刻表や授業中の板書などを取り込んでおいて後で自分のペースで見直すなどの遠方の読書にも活用できることを提案していた。画像は100枚保存でき、大きさは168mm×81mm×33mm、重量は290gと小型軽量である。日本ではこの春Active Viewという商品名でタイムズコーポレーションから発売が始まったばかりの機種である。

Optelec 社製のFar View(携帯型拡大読書器)

Far View:取り込んだ画像に対して行の右端と左端を指定することができる。

右図の写真はReinecker社製のMANOという携帯型拡大読書器の一つである。最大の特徴は写真からも分かるとおり名刺より一回り大きい程度といったサイズの小ささである。74mm×89mm×21mmの筺体に3.5インチTFTを備え、1から20倍までの拡大、配色の変更、3枚の画像保存が可能である。通常の携帯型拡大読書器のようにも利用できるが、イメージを画像ファイルで保存して、それを利用することができる。保存した画像を拡大表示した際のパンニングは、MANOを机において上下左右に動かすと、それに同調して画像が本体を動かしたのと同じ方向にスクロールされるようになっており、小型画面による視界の狭さを補う工夫が施されていた。

Reinecker 社製のMANO(携帯型拡大読書器)

右図の写真はABISee社製のEye-Pal Soloである。据え置き型拡大読書器のように見えるが、本体の上に原稿を乗せると自動的にスキャニング及びOCRを行い、画面上にテキストを表示し、音声で読み上げ始める。画面を見ると分かるように、発声中の単語がハイライトされるようになっており、ロービジョンや全盲の人々以外にも、発達性読み書き障害のような人々にとっても利用しやすい機器であると思われた。処理系は厚みのある原稿台に組み込まれていた。原稿台のサイズがA4大になっており、ガイドも備わっていて原稿をカメラに対して水平に置くことができるようになっていた。

ABISee 社製のEye-Pal Solo (OCR)

下図の写真はenhanced vision社製のJordyである。携帯型拡大読書器と据え置き型拡大読書器、テレビ出力方とヘッドセット型拡大読書器、あるいは近方と遠方の拡大読書器の機能を兼ね備えた機器である。下図の左側の写真は遠方を見るためにヘッドセットした状態である。筺体の中には液晶ディスプレイが入っており顔を向けた映像がそのディスプレイに映り、ストレスなく遠方を見ることができた。液晶は輝度比も高く鮮明であった。

enhanced vision 社製のJordy (多機能の拡大読書器)の写真:遠方を見るためにヘッドセットした状態

Jordyの写真:近方用として利用している様子

また右側の写真はステーションにJordyを装着して近方用として利用している様子である。

2.拡大鏡

拡大鏡も多種多様のものが出品されていた。全般的にLED光源を使ったものが増えている印象であった。CCTVのようなインパクトのある機器はみられないが、ロービジョンの読書支援機器の基本ともいえる分野であり、各社、質を高めると同時に用途に特化した仕様に挑戦しているようであった。ここでは、特徴的な仕様の拡大鏡を取り上げる。

下図の写真はSCHWEIZER 社製のPowerMag+という拡大鏡である。PowerMag+は本体にベースを組み合わせて利用する形式である。写真の左のようなキットのボックスがありベースと本体を自由に組み合わせて試すことができた。持ち手部分は握りやすい形状に工夫されていた。

SCHWEIZER 社製のPowerMag+(拡大鏡)の写真:キットのボックス

PowerMag+の写真:持ち手部分は握りやすい形状

下図の写真はESCHENBACH OPTIK社製のMAKROLUX というStand Mgnifier に類される拡大鏡である。写真の上側が従来型の2.2倍のモデルで、新登場したのが下側の3.6倍のモデルである。視界全体が均一の照度に保たれ、歪みもなく鮮明な視界といった印象である。日本ではまだ発売されていないとの説明であった。

ESCHENBACH OPTIK 社製のMAKROLUX (拡大鏡):上側が従来型の2.2 倍のモデルで、新登場したのが下側の3.6倍のモデル:暗いところ

MAKROLUX (拡大鏡)の写真:上側が従来型の2.2 倍のモデルで、新登場したのが下側の3.6倍のモデル:明るいところ

右図の写真は、Maxi-Aids社製のATMAX という、Coil社製のレンズを用いた照明つきの手持ち式拡大鏡の一つである。LEDを光源にした照明つきの拡大鏡はめずらしくはないのだが、ATMAX はグリップを手で軽く握るだけで照明が点灯するといったタッチコントロール機能が施されていた。またグリップは手に密着するように素材と形状が工夫されており、握っていて疲れにくい工夫がされていた。写真は3倍の8273というタイプであるが、このシリーズはこのほかに5倍と7倍も用意されていた。

Maxi-Aids 社製のATMAX (Coil社製のレンズを用いた照明つきの手持ち式拡大鏡)の写真

右図の写真はCOIL社製のVisual Tracking Magnifiersというシリーズの拡大鏡である。スタンプ型拡大鏡に類する拡大鏡である。レンズの対物側に半透明のタイポスコープを貼り付けたつくりになっている。したがって、レンズの中心に水平の帯状に明るい部分が見える。このスリット部に文字を入れて読むのである。こうして、一定の行のみを相対的にハイライトすることにより限られた行に注意を向け、ページの中の行を眼で追うことを助け、行替えの際の動きもスムーズになることを狙いとして作られているようである。

COIL 社製のVisual Tracking Magnifiers シリーズ(スタンプ型拡大鏡に類する)の写真

右図の写真はMaxiAids社製のMAGNIFICO PLUSという拡大鏡である。板から伸びた2本の支柱にレンズが取り付けてあるといった見慣れない形状をしている。これはPDAやGPSなどの携帯端末を拡大するために作られた拡大鏡である。支柱の角度と、レンズの角度及び高さをそれぞれ操作でき、ねじで固定することができるため、様々な携帯端末に対応できそうであった。残念なことに会場に携帯端末がなかったためMAGNIFICO PLUSのみの写真を掲載した。

MaxiAids 社製のMAGNIFICO PLUS(拡大鏡)の写真

3.画面拡大ソフト

ロービジョンの人々がPCを使用する際に必要となる場合がある画面拡大ソフトも進化を続ける分野の一つである。共通した特徴として読み上げ機能やマウスのナビゲーション機能といった具合に拡大機能以外の機能を含む傾向にあるようだ。

右図の写真はAi squared社製のZoom Text 9.18の画面の様子である。写真でも分かるとおり、デュアルディスプレイ対応になっての登場である。それ以外の大きな特徴としてはパンニングがスムーズになったこと、Zoom Text Scriptingといわれるスクリプト言語を実装し、ソフトの動きをカスタマイズできるようになったこと、様々な機能の強調が行われること、Windows Vista64bitに対応したことのようである。パンニングは拡大画面でのパンニングが全般的にスムーズになったこと、文字の入力時やアプリケーションソフトの動きに応じてスムーズにパンニングするようになったこと、マウスの動きに応じたパンニングがスムーズになったことなどが挙げられる。Zoom Text Scriptingは、特別に拡大画面に表示したい場合や、アラーとなどのイベントで特に表示したい場所、Zoom Text を停止したい場合などにあらかじめプログラムしておくことで、Zoom Textのオリジナル機能とは異なった機能を追加することができるようである。デュアルディスプレイ対応になり、写真のような表示が可能になった。つまり、セカンダリーディスプレイにオリジナルサイズで表示し、プライマリーディスプレイに拡大で表示するといったことである。この際、オリジナルサイズの画面には現在拡大されている場所を長方形でハイライトで示し、さらにそのハイライトをXYラインの交点で示すといったナビゲーションがついており、画面の全体と部分とを同時に確認しながら作業したいといったニーズに対応できるようになっている。もちろん拡張デスクトップにも対応している。Zoom-Textには、Magnifier とMagnifier / Readerが用意されているが、これまで通り、日本語化され際には読み上げ機能は引き継がれないとのことであった。なお、デュアルディスプレイ対応はver.9 から実装されているようである。

Ai squared 社製のZoom Text 9.18(画面拡大ソフト)の写真

Zoom Text 以外には下図の写真の左側に示した、Vision CUE社製のi Zoomや、下図の写真の右側に示したIBM社製のEVAS、また写真は割愛するがAi squared社製のZoom Wareなどが展示されていた。

Vision CUE 社製のi Zoom(画面拡大ソフト)の写真

IBM 社製のEVAS(画面拡大ソフト)の写真

Zoom Textとi Zoomに共通していたこととしてUSBメモリーを用いたアクティベーション機能がある。つまり、例えばZoom Text USBのUSBメモリーをPCに差し込むことで、USBメモリーが差し込まれているPCでZoom Textが利用できる機能である。この機能により、複数台のPCを利用する必要のあるユーザーは1 ライセンスでソフトウェアを利用することができ、経済的である。

4.その他のロービジョン機器

拡大の文字が刻印されたキーボードがいくつか見られた。下図のの写真の左側は400%の拡大を行っているthe Key Connection社製のKEYS-U-SEEである。同機種にはマウスと併せてワイアレス接続できる機種も発売されていた。下図の写真の右側はAi Squared 社製のZoom Text Large-Print Keyboardである。同機種はZoom Text 9.0 以上に対応した機能キーを搭載した機種である。

400%の拡大を行っているthe Key Connection 社製のKEYS-U-SEE の写真

Ai Squared 社製のZoom Text Large-Print Keyboard の写真

右図の写真はSight enhancement systems社製のSci-Plusという拡大文字の関数電卓である。キートップの文字サイズと画面の文字サイズが大きく表示されるようになっていた。音声の外部出力も可能であり、音声電卓としても利用できるようになっていた。関数は高校で習う程度のものまでを備えているとの説明であった。液晶が電卓程度の仕様であり、式の表示に難があるものの、耐久性・操作性はよい印象であった。

Sight enhancement systems 社製のSci-Plus(拡大文字の関数電卓)

5.おわりに

世界最大級の機器展示会である本会に参加させていただいたわけだが、本会議は視覚障害のみならず、聴覚・肢体など全ての障害が対象の会議である。その中にあって、ここでは紹介しなかったが点字印刷機や点字ディスプレイ、GPSをはじめとしたモビリティ支援機器などを含めた視覚障害を対象にしたブースは会場全体の半数以上を占めており、視覚障害の人々のアクティビティの高さ、そしてニーズの高さを改めて感じた。また、機器の開発を行ううえでの、日本語ならではの困難さも感じた機会となった。つまり、拡大読書器やPCの画面拡大ソフトの英語版、スペイン語版、フランス語版などには標準的に音声読み上げ機能が備わっているものが存在するのだが、これらはアルファベットの特殊性が可能にすることであり、日本語に対応したものは見られなかった。この点で日本語を使うユーザーは世界の最先端の機器の恩恵を受ける機会を大幅に制限されており、残念な印象を受けた。しかし、光学系の拡大機器や拡大読書器、画面拡大ソフトの拡大機能の部分では、関係者の尽力があり、世界をリードしたり、世界の最先端の機器を利用できたりする機会に恵まれることが多く、ロービジョンの読書支援機器という点では世界レベルの機器の恩恵を受けられることが多いように感じた。特に拡大読書器の市場ではFar View のように日本の企業が世界をリードして完成された機器も見られ、日本の関係者の尽力を海外で知ったよい機会であった。しかしながら、光学系、PC画面の拡大ソフト及びその他で紹介したような周辺機器は海外で生産されるものが多く、日本で利用できるまでに余分に時間がかかったり、日本語化されないものや縦書きの日本語に対応できなかったりするものもあり、また海外に比べて高価になってしまうこともあり、海外の輸入に頼るだけでなく日本語の特性や日本の風土に応じた機器を日本において開発する必要性を感じた。

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