講演「スペインにおけるDAISY」フランシスコ・カルボ

オンセ スペイン盲人協会図書館長

フランシスコ・カルボ

講演を行うフランシスコ・カルボ氏の写真

私はオンセに20年、勤めております。今は文化部にいます。1996年のDAISYコンソーシアム設立以来のボードメンバーでもあります。オンセは国立スペイン視覚障害者全国組織で、全盲、弱視の障害をもつスペイン国民に図書を提供していますが、本日はオンセで製作するDAISY図書にしぼってお話しいたします。

オンセでは2004年からDAISY図書を製作しています。いわゆる音声のみのNCCです。これは小さなHTMLファイルがついた録音図書なのでナビゲーションつきです。音声は音読の専門家が声入れをしてます。そのほとんどはオンセのラボで製作しています。1つはマドリッド、もう1つはバルセロナにあります。残りは小さなレコーディング会社に外注しています。2003年、DAISY図書製作を始める1年前からテープの録音図書のデジタル化を始めていました。WAPオーディオファイルに変換しはじめました。当時、1万6000件ほどのアナログ録音図書がありました。まだ終わっていませんが、全蔵書の90%ぐらいは済んでいます。同時に、オリジナルの音声ファイルから、DAISY版図書も製作しています。現在では2万冊のコレクションまでできています。そのうちの60%はDAISYフォーマットです。5年ぐらいDAISY図書を製作していますが、昨年は900の新しいタイトルを作りました。

そして昨年は我々の短いDAISY製作の歴史上非常に重要な年になりました。2008年12月31日をもって、オンセはアナログ録音図書製作をやめました。新しいDAISY図書に関して1800件のリクエストがありましたが、そのうち400件は教科書でした。結局半分ぐらいしか、つくることはできませんでしたが、我々は教材の製作を第一に考えています。教材はたった1人の読者のために非常に長く、複雑な本を製作しなければなりません。全体から言うと、リクエストの半分ぐらいしか応じられませんでしたが、教材は別です。ほとんどすべての要請に応えることができています。

オンセのDAISY図書製作は、その中心が音声のみあるいはNCC付の録音図書です。これは大変喜ばれますが、一方で、いわば行き止まりのようなタイプの図書です。つまり、音声のみの図書をつくると、それから先、そのままでは応用のしようがありません。だからこそ、現在私たちはもっとオープンな図書製作に力を入れています。ほかのDAISYのメンバーたちが非常に大きな成果を報告していますが、ソースファイルベースのDAISYに変えているわけです。フルテキストのXMLファイルないしはHTMLファイルにしてDAISYなどに応用しています。このXML DAISYファイルだと、点字や大活字など様々な応用図書にも使えます。この新しい考え方ではオンセの図書製作体制や方針までも変えなければなりませんでした。

DAISY図書製作を始めてから、うなぎのぼりにリクエストも増えています。2009年以降も右上がり傾向を望みます。2008年は、DAISY図書を使いたくない、あるいはアナログ録音図書がいいと言う人に対してもDAISY図書をどんどん勧めましたし、アナログ録音図書の製作は2008年末に終了しましたし、テープレコーダーの販売も終えました。2009年からは、今あるアナログ素材のコピーは行いませんし、プレーヤーの販売も止めて、あるものを貸し出すだけです。2010年末にはすべてのアナログ素材の配布を終了させます。2008~2009年にはいろいろなことを試み、なるべく利用者がこの技術を使えるようにしました。CDによるDAISY図書を利用者に配布し始め、既に数千枚のCDを発送しました。スペインでは障害者の場合、郵送料が無料なので、そういう形にしました。2006年3月にオンセはDAISY録音図書の提供を始めましたが、その6カ月前から電子図書館が既に創設されてましたので2005年10月から2006年3月までは、この電子図書館から唯一テキストファイルで提供しました。当時からダウンロードでき、パソコンで読むことができました。

DAISYがダウンロードできるようになると、強い反応がユーザーからでました。最初の月は、ダウンロード数が5,000~2万5,000ぐらいでしたが、2年間で10倍に増え、1カ月600が、1カ月6,000にまで増え、それ以来着実に増えてきています。オンセの利用者は現在11,500タイトルのDAISY図書から本が選べます。これまで図書館を利用したことのない人や図書館を利用しなくなった人たちが図書館に戻ってきました。ほとんどの人たちがダウンロード派の若い層や図書予約に待ちくたびれた人たちです。

オンセは図書をCDで発送するサービスを未だにやっていますが、DAISYローンサービスのようなものはないです。オンセではCDを返す必要はなく、ユーザーは1ユーロで自分のものにできます。去年1年でDAISY図書を借りる新しいユーザーが増え、このシステムを多くの人に知ってもらうことができました。今まで1回もDAISY図書を借りたことのない人たちに7500冊以上も配布しました。最寄りの図書館に返すように言ったのですが、一度読むと、夢中になるようで、ダウンロードに夢中になり、コピーを買うようになりました。2008年の間におよそ2,800人のユーザーが6万5,000タイトルを電子図書館からダウンロードしました。

現在私たちは新しく幅広い、効果的、効率的な配布を考えています。オンラインディストリビューションをやってみて、成功していますが、みんなが家にコンピュータがあるわけではなく、それを使えるとも限りません。CDは傷がつきやすいですし、CDの場合には、スペイン国内であっても郵送には数日かかります。今の忙しい時代に、2日も待たなければいけないのは長すぎます。ですので、私たちはメモリーカードによる普及を考えました。また同じ輪だちを踏むかもしれませんが、来館するたびに、メモリーカードに2~3冊の本をローディングするのが1つの求心的なものになると思います。ストリーミングがもう1つの可能性です。ただ、多くのユーザーがコンピュータの前で何時間も座っているとは限りませんよね。

また、新しい可能性としてモバイルフォン技術があります。携帯電話でダウンロードします。、スペインのソフトウェア企業のコードファクトリーは昨年、携帯DAISYプレーヤーを販売し始めました。既にスペインでは有名な存在です。テキストを読み上げますので、メモリカードが入っているノキアという携帯電話で使えます。コードファクトリーは現在、マイクロソフトのポケットPCなどのモバイルデバイスにも手をだしています。

DAISYコンテンツは、テキストオンリーでも音声オンリーでもハイブリッド図書(音声つきのテキスト)でも使えます。DAISYのナビゲーションを使うときは携帯電話のキーパッドが使えます。ブックマークも、音声ガイドも使えます。DAISY2.02とDAISY3の図書をサポートします。十分な残存視力がある人にとっては、恐らくこれは役に立つのではないかと思います。とはいえ、このように携帯電話のメモリカードにダウンロードするためには、本を持っていないといけません。CDないしはデジタル図書館からダウンロードしたコピーでもいいですが。いずれにしても、こういったものをダウンロードする必要があります。しかしテキストオンリーのDAISY図書は容量が小さいので、TTSエンジンのついた携帯であればオンセ電子図書館のウェブサイトにインターネット接続して、ダウンロードできる日も、もうじきでしょう。モバイルスピークを使うことになるかもしれません。携帯電話で本の内容を聞くのは必ずしも快適ではありませんが、いくつか利点もあります。

まず、この時代携帯電話を持っていない人は数少ないと思います。ということは、専用プレーヤーを買う必要はなくなります。携帯電話は途上国でも使われていますので、高い機械を買えない人にとっても朗報です。また、数回電話をかければ、携帯電話の使い方はわかりますし、そこからすぐにDAISY図書プレーヤーとして携帯電話が使えるようになるでしょう。特別な訓練は必要ありません。しかし、それだけでは不十分で、本を携帯電話に提供することを考えなくてはなりません。現在、特に一番安い携帯電話機ではDAISY図書を読むサポートはありません。しかし今や若い層は携帯電話で音楽を聞いていますからDAISYプレーヤーとしても携帯電話は近い将来、使えるのではないかと考えます。

少しここでDAISY図書が昨年作られた数をおさらいします。昨年は1000近いタイトルがオンセでつくられました。一方、それに加えてほかのアクセシブルな図書を加えると、例えば主に点字やEテキストファイルですが、全部合わせても昨年、スペインで発表された新書8万タイトルの4%にも満たない数字です。残念ながら、このパーセンテージはまさに視覚障害者がアクセスできる図書の数そのものをあらわしていると言わざるを得ません。これまでも全体に対して数が少ないという問題にいつも責任を感じていました。これらのユーザーにしか使えないフォーマットですので、限定的な仕様しかできず他の人たちには、まったく関係ないということから、非常に限られた用途であるがために逆に著作権の例外規定もあり、現状維持が進んできました。

しかし、今は状況が大きく変わりました。人々の見方も変わっています。そのきっかけはいくつかあります。第一に2006年、新しい著作権法が決まりました。かつて足かせとなっていた2つの言葉が消えました。「限定的」と「点字」です。今は専用のフォーマットを使う必要はなく、あくまでもユーザーのニーズに適用したフォーマットを使えばいいと制定されました。

もう1つ、DAISYが今はあります。視覚障害者のためにつくられたこのシステムは、もはや国際規格ですし、すべての人達のために使うことができるようになりました。そして、もう1つの点は、最近アクセシビリティに対する関心が高まっているという事実があります。今は法律もあります。公共機関では、アクセシビリティを担保しなければいけないという規定になっています。障害者権利条約もできました。また、私たちは、国際的にも情報をアクセシブルにしなければいけないという要件があります。それがDAISYによって可能になりました。

これらによって、オンセではDAISYへの取り組みが変わってきました。DAISYを自分たちの組織以外のところでも出版のツールとして使ってほしいこと、メインストリームのプレーヤーのメイカーもDAISY規格を採用してほしいことやDAISY図書をもっと広く使ってほしいことを推進したいと思います。例えば公立図書館のサービスに組み込むということで、言うなれば、DAISYをメインストリーム化するのが我々の狙いです。活字印刷図書に比べてDAISY図書の数は非常に限られていますから、もともとのコンテンツをつくっている人たちが最初からDAISYコンテンツを用意すればいいと我々は考えています。アイポットから車のCDプレイヤーなどで使えるようになるといいと思います。すべての公立図書館にDAISY図書が提供されると嬉しいですし、国内の本屋にもおかれるようになりたいものです。

コンテンツの製作者を考えると2つの可能性があります。1つがマイクロソフトのオフィス製品にあるオプションです。Save as DAISYというものです。これは何百万にあたるコンピュータに既に備えられたものです。DAISYは、そういう意味では、何百万もの家庭と企業に導入される可能性があると思いますし、マイクロソフトWordの文章がDAISY図書に変換されることが容易にできます。もう1つは、Adobe インデザインです。これはプロの出版ツールとして広く使われていて、XMLの文書として保存し、DAISY図書をつくることが可能です。したがって、この2つのツールでコンテンツ製作者があっという間にアクセシブルな文章を作り出すことが可能になってきています。

講演を行うフランシスコ・カルボ氏の写真

数ヶ月前に発覚したことですが、今言ったようなことが実現しようとしたイニシアティブがカタロニアでありました。学生に対して様々な電子フォーマットですべての教材を提供するもので、その1つのフォーマットがDAISYでした。オンセは関わっていませんが。スペインの中でも北東部にあるところですが、ここは、何ヶ月もかけて、オープンかつ完全にアクセシブルな規格を探し、すべてのユーザーにアクセス可能なものを提供しようといろいろ調査をしました。そして彼らは、単に数少ない視覚障害の学生だけではなく、キャンパスにいる学生すべてを対象に考えました。このときは私も、DAISYコンソーシアムの一員であることを、大変誇りに思いました。こういった技術者は懸命に、いろいろなフォーマットを試した結果、「DAISYこそがアクセシビリティの問題を解決する上で最もいい解決策である」という結論に達したのです。私に見せてくれたのは、プロトタイプですがフルテキストの音声DAISY図書、彼らはカラオケタイプと言ってましたが、これを見せてくれました。これをきっかけに、スペインのほかの放送大学とも連絡をとりました。

最近、マドリッドで設立された私立の放送大学、ウディマにも連絡をとりました。ここは新入生に、オンラインで教材を配付するためのサーバーをつくっていました。DAISYこそ、すべてのニーズを満たすフォーマットであるといっていました。一方、印刷でも出していますので、印刷物ももちろん扱っています。インデザインの利用者でもあります。作家のほとんどがマイクロソフトユーザーであることも知っているので、クライアントとスタッフに対し、コンテンツを出版社に提出する際にはDAISY図書の要件を満たすようにと言っています。

この本、できたてのほやほやですが、DAISY図書をつくるためのガイドラインであるとオンセは考えています。スペイン語でしか書かれていませんが、オンセ以外で、DAISY図書を使いたい人たちに使ってもらうためのものです。公共の施設ないしは視覚障害者、障害者のための団体など、すべてに使っていただきたいですし、できるだけ中南米で使っていただきたいと考えていて、電子図書の参考にガイドラインとして使っていただければと思います。

もう1つ重要な要素は、公立図書館のセクターです。彼らは蔵書への完全アクセスを目指していて、非常に最近活発になっています。法律が変わって、スペインにおける公立図書館のネットワークはもっとインクルーシブなものになっていくと思います。その点、オンセが提供している図書館サービスは効果は高くても、すべて公立図書館が提供できるものを提供しているということではありません。また、オンセ図書館は閉ざされたサービスで、あくまでも重度の視覚障害を持った人に限定されています。一方、公立図書館は開かれたシステムであり、すべてのコミュニティ、人々を取り込むことができるシステムが整っています。なので、公立図書館とオンセが連携することにより、共同のサービスを提供でき、視覚障害者が、もっと豊かな読書経験を味わうことができると信じています。

最後にまとめます。まず、オンセとしては、もっと多くの、いいものをつくりたいと思っています。が、オンセだけがDAISY製作者であっては困ります。我々はもっと早く、うまく、広く配布したいのですが、我々が唯一のDAISY提供者にはなりたくありません。

会場1/ 大阪枚方市立図書館です。一点、お伺いします。スペインの状況を聞かせていただくと、デジタル化が急激に進んでいるという印象を受けました。日本でも、今現在非常に大きな問題になっているのが、有力な点字図書館がアナログの図書の製作を終えて、どんどんデジタル化を進めています。そんな中で、デジタル化についていけない、特に高齢の方、年配の方の利用者からの反発の声がどうしても出てきています。私はテープレコーダーでしか読書しないという声が上がってきて、それに対する図書館の対応が大きな問題になっています。スペインでは、そういう問題が起きているのかということと、そういう声に対してどのように対応されているか、聞かせていただければと思います。

会場2/ 1ユーロで本がCDにのせられ、それが提供されているとのことですが、販売となると著作権の問題はどうなっていますか。

カルボ/ ありがとうございます。
まず、最初の質問ですが、私自身もユーザーの人たちがDAISYの技術を受けられないのではないかと心配していました。しかし、幸いなことに、いったん、こういう本を試してもらうと「他はいらない」と言われます。唯一問題は、プレーヤーを買うためのお金を獲得する方法だけで、本そのものは全く問題はありません。特に学生は、このDAISYが非常に役立っていることを理解しています。本当に驚くべきことだと思いますが、テープには戻りたくないということを言います。ですので、今のところおっしゃったような問題はありません。

むしろ、他の国に比べ、出遅れたと思います。デジタル化サービスの提供は出遅れました。しかし、それは何かというと、利用者からの反発が怖かったのです。そして、2010年末にはもはやアナログカセットは配付しなくなります。もうカセットなんて存在しないも同然です。したがって慣れるしかありません。オンセは昔のテープレコーダーをあきらめるしかなかったのです。読みたい人は、どんなフォーマットでも読みますから、DAISYというのは、かつてのものに比べて特に難しいことはないと思うので、読み続けると思います。

もう1つの質問ですが、販売ではありません。1冊あたり1ユーロというのはサービスの対価であり、本に対する対価ではありません。本来ならもっとお金がかかることは皆さんもご存じですよね。これはサービスに対する対価です。

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