講演「フィンランドにおけるDAISY」マーク・レイノ

フィンランド セリア図書館IT開発部部長

マーク・レイノ

講演を行うマーク・レイノ氏の写真

本日はフィンランドにおけるDAISY図書について、図書館による図書製作と貸出サービスについて、「オーディオ・ストリーム」というDAISY図書のオンライン貸出システムと将来的に計画されている電子図書館の話など電子サービスに関する話をします。

1890年に設立されたセリア図書館は1978年から国営となったフィンランド唯一の障害者向け図書館です。録音図書、点字図書や電子図書を貸出および製作をしています。利用者は15,500人程度ですから、フィンランド全人口500万人に対して、8万人の視覚的に障害のある人がいると推定されます。利用者数はもっと増えると予想されます。当図書館では高等教育および就学者向けの教材もそろえています。

DAISY図書に関しては試験的に1995年からDAISY形式での提供を数年続けた結果、次世代の録音図書としてフィンランドではDAISY形式を選択しました。5-6年前まではテープ図書だった録音図書全てが現在ではDAISY形式となり、すでに2万3千冊の蔵書となっています。年に1,000冊のペースで今後も製作していきます。DAISY録音専用のスタジオが図書館にもありますし、外部で製作されたものを図書館が購入したりもしています。今後はDAISY教科書やDAISYのXHTMLテキストファイルをマスターファイルとして配信できるように考えています。その際は、DAISYコンソーシアムが提供するツールを可能な限り活用していきます。

さて今後フィンランドに電子図書館をつくるにあたり、ソフトを充実させないといけません。電子図書の貸出に関してフィンランドにはパラスというシステムがあります。DAISY図書専用のシステムと言ってもいいでしょう。その他にセリアネットがあります。こちらではインターネットサービス(検索サービス?)や図書カタログを配信しています。利用者はwww.celia.fiにアクセスします。英語、フィンランド語およびスウェーデン語があります。

我々がテープ図書を電子化した時は、SAN古文書システムというオンディマンド貸出システムを購入しました。製作部ではここのエンタープライズ・リサーチ・パッケージを活用し、可能な限り効率的に製作しています。製作物はオンラインで販売します。小中学校には製作教材を販売し、高等教育には無償で提供してます。

「人生を豊かにする図書」に関しては必要な時に貸出しますが、基本的に利用者は登録制で、借りたDAISY図書は聞いたらCDを破棄する約束を結んでいます。図書館に返却しなくていいのでかなり合理的です。2008年は80万枚のCDを焼きました。数年後には百万枚となり、15,000人の登録者を考えると、年に一人当たり60-70冊を借りていることになります。図書館としてはいい数字ではないでしょうか。

今年からはDAISY図書オンライン貸出システムを始めました。フィンランド語でAudio virta、英語でオーディオ・ストリームと呼んでいます。これはインターネットを配信媒体としてセリアにある図書全てをオンライン貸出にする計画です。既に2万3千冊のDAISY図書がオンライン化されており、新しい貸出システムを今後も探っていきます。あらゆるITシステムを統合化し、CDに焼いていた録音図書の効率化を図り、かつ他の図書もすべてオンライン貸出となるように考えています。時間はかかるでしょうか。その他のサービスでもネット上でできることを考えます。

Audio stream distribution(DAISY図書オンライン貸出システム)の図

多国間図書館というものも構想にあり、特にスウェーデンとフィンランド間での図書貸し借りには電子システムは欠かせません。スウェーデンでフィンランド語を話す人は相当数にのぼり、スウェーデンのTPBとの連携、ひいては北欧諸国間での連携を視野に入れています。この図書サービスを可能とする原則は、マルチセンター配信です。DAISY図書で示されているように、「アクセシビリティ」と「すべての人へ」という原則はこの手のサービスには外せません。よって、DAISYコンソーシアム仕様を我々も活用しています。

これまでにDAISY図書のオープンソース配信を3度試みました。2000-2001年に行われたものは期が熟していなかった感があります。去年行った二つ目の試みではフィンランド製のNetplexというソフトを使いました。すべてのソフトがオープンになることも想定されてましたが、今後もその方向で速やかに修正を繰り返していく予定です。

利用者の貸出システム(ポータブルサービス)を図式化しますとこうなります。ブッククラブには図書館員がバーチャルな本棚を作っていますし、セリアネットにアクセスしてもらえば、利用者自身が図書を検索できます。借りたい図書が見つかったら、手続きをした後にブラウザを閉じて、図書を聴きます。しばらくログイン画面をスクリーンショットでお見せしましょう。

PratSam(フィンランドの朗読プログラム)の画面

オンラインサービスに登録していない人はCDを借ります。もちろん、登録している人でもCDを借りることはできますよ。全ての登録者にオープンですから。貸出図書の更新もできますし、マックス50冊まで一人が借りられます。

これはフィンランドの朗読プログラム、プラッタムです。ブックマークができ、DAISY図書に対応できます。どのプレイヤーでも使えるようにいずれはしたいですね。

次にご紹介するのは、別のDAISYサービスです。図書館職員がエンターテーメントなどのブッククラブやインフォメーションチャンネル、雑誌チャンネルに別けて、図書を載せていきます。例えば、推理小説のブッククラブに入ると毎月5冊まで個人の本棚に置かれますし、CDに焼くこともできます。とても人気のあるサービスです。今年の12月でこのプロジェクトは区切りをつけますが、その後も続けます。このプロジェクトには3つのモデルが想定されています。一つはPCを持っていて自由にインターネットにアクセスし、自分で図書を検索する人です。2千から3千人の利用者がいると思います。二つ目はプレイヤー使用者で図書館員に本を選んでもらう人です。三つ目はインターネットを使いたくない人や使えない人も多くいますから、例えば、電話をかけて図書館員に本を探してもらうこともできます。見つかった本はバーチャル本棚に載せてもらって、彼らの使用するプレイヤーで聴いてもらいます。

ARENA(ポータブルサービス)プロジェクトの説明図

また、アリーナというポータブルサービスも準備しています。これはセリアとフィンランド国内の公立図書館との間の貸出サービスです。フィンランドでは同じ貸出サービスを利用してます。セリアはDAISY対応もしくは電子対応ですが、他の公立図書館と同じ会社が作成していますので、他の図書館のカタログからも貸出が可能です。将来的にはWeb2.0も取り込んで、利用者がアクセスできる限り、利用内容の幅も拡充していきたいと考えています。

最後に電子図書館について話します。私たちはDAISY図書を単なる図書とは考えていません。DAISYは情報の保管庫になると考えています。今は必要なくてもいずれは必要となる情報の保管庫です。そして配信方法はマルチ・チャンネル化による貸出です。何度も言いますが、私たちは図書貸出のオンライン化によって利用できなくなる人がでてきては困るのです。インターネットを使わない人も利用できるものでなくてはなりません。利用者はDAISY図書を使うにあたり、プレイヤーも違えば、ソフトやデバイスも違います。ですから、私たちの役目は多様なプレイヤーに対応できるコンテンツ制作なのです。また、この手の新しいサービスをフィンランド国内の病院や施設にも配信できるようにするのが私たちの希望です。「全ての人に」が私たちの目的ですし、そのためには国際的な協力を絶やさず、DAISYコンソーシアムのツールを活用していきたいと考えます。

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