はじめに

自閉症問題を他者に伝えようとする時、必ずぶつかる反論がある。「自閉症だけが大変なのではない」「大変だと言われてもよくわからない。自閉症に接したことがない人でもわかるように説明すべきだ」。これらは、行政や政治の関係者から常に返ってくる言葉である。

昨年度の報告書の中で、外部評価委員の黒川氏はこの点について次のように的確に表現されている。「生来性の心身の発達障害の中で、・・・最も手厚い支援が必要な障害は、重症心身障害と自閉症である。・・・ただし、重症心身障害のハンディキャップの重さと支援の必要度は、専門外の一般の人であっても目に映る。これに対して、自閉症のハンディキャップの重さと支援の必要度は見えにくい。そのため、自閉症児(者)の家族と支援者は、自閉症のハンディキャップの重さを認知してもらえず、そのために、手厚い支援を可能にする人的・経済的な裏付けを得られないことに苦しんでいる」。一方で、発達障害(いわゆる軽度発達障害)の支援施策や啓発を進めるために、近年、一部の医師や研究者は、その難しさのためか禁じ手を多用してきたように思われる。「早期の療育をやれば税金を払える障害者になる」「早期からの対応をきちんとやることで犯罪防止ができ、税金の無駄遣いをなくせる」など。また、近年の傾向として、支援費制度や障害者自立支援法の相次ぐ改廃や修正に絡んで、○○サービスや○○事業として施策化(計量化)できなければ制度・施策の改善要望や提案は検討に値しないという風潮を感じさせられる。制度施策の本質論議なしに、拙速な制度環境の変更が進められてきたためであろうか。

平成19年度の調査研究では、強度行動障害を呈する自閉症の人たちの支援の特徴を時間や距離、頻度などで数量化する試みを行なったが、不十分な結果に終わった。今回はそれを踏まえて、支援の質的な把握をめざして個別事例を中心に検討を行ない、その支援の質的な特徴と支援の展開過程の整理を試みた。いずれにしても、数量化が困難な内容であることは明らかとなった。

しかし、自閉症者施設はこの30年近くの実践の積み上げの中で、支援困難な自閉症の人たちに対する療育体系をほぼ完成させてきている。自閉症療育の体系は、単なる事業の寄せ集めではなく、蓄積された療育的知見と専門技量、それを実行するスタッフチーム、療育的支援を支える組織と理念、それらを有機的に統合することに尽きる。つまり、専門的力量を有するスタッフが質的・量的に配置され、自閉症児(者)が直面する諸問題を避けないで今まで積み上げてきた知見に基づいて丁寧に取り組みを進める。このことを可能にする条件さえ整えば、自閉症や強度行動障害の人たちへの生涯支援は可能になると考えられる。

これまで私たちは、そのための条件整備を法人や施設独自の努力で行ない、「自閉症者施設サービス評価基準」の作成や「自閉症総合援助センター」という概念に整理してきたわけであるが、それらを制度的な後押しなしに今後も継続していくのは困難な状況が生まれてきている。また、自閉症や強度行動障害の問題は自閉症者施設を越えて、広範化しつつある。この2年間にわたる調査研究の成果が有効に活用され、展望が開かれていくことを願う。

平成21年3月31日

全国自閉症者施設協議会
会長 奥野 宏二(あさけ学園)

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